シュークリームはフランス発祥?イタリア?
-歴史やシュークリームの仲間も紹介

シュークリームはフランス発祥?イタリア?<br> -歴史やシュークリームの仲間も紹介

シュークリームはケーキ屋さんにも、コンビニのスイーツコーナーにも高確率でおかれているお菓子。小さいお子さんからお年寄りまで知っている、定番中の定番と言える洋菓子の一つです。フランス発祥のお菓子だとご存じの方も多いと思いますが、そのルーツにイタリアがあることはあまり知られていないのではないでしょうか?

今回はシュークリームが誕生するまでの歴史と、英語やフランス語で使われている「プロフィトロール」というお菓子の名称について、エクレア・パリブレストなどシュークリームの仲間について紹介します。知っているようで意外と知らない雑学満載でお届けします。

シュークリーム基礎情報

シュークリームとは

シュークリームは中が空洞になるように生地を焼き、空洞部分にカスタードクリームや生クリームなどのクリームを充填した洋菓子です。私達が使っているシュークリームという言葉はフランス語での菓子の呼び名「chou à la crème(シュー ア ラ クレーム)」が語源。使用する生地のことをシュー生地(シュー皮)と呼ぶので、生地のタイプ・空洞に何を詰めたとかをそのまま表現した呼び名ですね。

ちなみに、アメリカ英語では一般的に「cream puff」、イギリス英語では「profiterole」と呼びます。シュー生地・シュー皮は英語だと“Choux pastry”、フランス語だと“pâte à choux”と表現します。pastryやpâteは生地を意味する言葉なので、日本のようにクリームを覆っている生地を「皮」という見方はしないんですね。

シュークリームで欠かせないシュー生地は、小麦粉・バター・卵・水という4つの原料のみで作られています(塩を入れる場合もあり)。クッキーシューの場合もメロンパンを作るときの要領で、絞り出したシュー生地の上にクッキー生地を被せて焼きます。パイシューもシュー皮部分全てをパイで作るわけではなく、パイ生地の上にシュー生地を絞り出して包むようにして焼きますね。

中に空洞を作るということもあってシュー生地の作り方は共通していますが、シュークリームの「クリーム」部分はかなり自由度が高いです。オーソドックスなのは生クリーム、カスタードクリーム、カスタードクリームと生クリームをミックスしたものの3つです。加えて、チョコレートクリームやナッツ・フルーツ味のクリーム、アイスクリームなどを詰めることもありますね。日本では抹茶クリーム+小豆など和風のクリームもあります。シンプルですがバリエーションの広いお菓子の一つと言えるでしょう。

シュークリームは和製英語

私達が普通に使っているシュークリームというお菓子の呼び名は、フランス語の“chou à la crème(シュー ア ラ クレーム)”を日本人の発音しやすい形でカタカナにしたもの。なので通じそうにも思えますが、実は日本以外の国ではお菓子の呼称としては通じません。英語系や雑学系の記事やクイズ番組などでも「シュークリームは和製英語」と紹介されることが多いので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

元々、フランス語の「chou」はキャベツを意味する単語。
丸く焼いた生地をキャベツに見立てたことで、生地や菓子の名称として使われるようになりました。「chou à la crème」キャベツのような生地にクリームが入っているよ、というニュアンスです。

しかし、日本語のシュークリームはà laが省略されていますし、crèmeではなく英語のcream(クリーム)に近い発音が採用されています。このため日本語訛りのフランス語ではなく、日本語訛りの英語と認識されるわけですね。英語でシューといえば「shoe(靴)」なので、シュークリーム=shoe cream、靴墨など靴用のクリームであると認識されているのです。元がフランス語なので和製英語というよりも和製フランス語・和製外来語という方が正しいですが…とにかく、どこの国に行っても基本的に通じません。

プロフィトロール(profiterole)とは

シュークリームはイギリス英語だとプロフィトロール(profiterole)と呼ばれることが多いとご紹介しました。英語版Wikipediaも“cream puff”と検索するとprofiteroleのページにリダイレクトされます。説明文にもアメリカでは同じものをCream puff、日本ではシュークリームなど各国での呼び方が紹介されています。

しかし、本場フランスでは話が別。
フランス語版のWikipediaでは下記のように「profiteroleと混同しないで下さい」と書かれています。

Il ne faut pas les confondre avec les profiteroles,

引用元:Chou_à_la_crème — Wikipédia(fr)

フランスでChou à la crèmeとprofiteroleは違う意味の言葉、と考えられる説明文ですよね。

フランスではどのようにシュークリームとプロフィトロールが区分されているのかというと、サイズ。プロフィトロールは日本で言う「プチ・シュー」のように小さめのサイズで作られます。プロフィトロール(profiterole)は“心付け”で、メイドに小さな甘いパンのようなものを渡していたこともあるのだとか[2]。ここから小さめのシュークリーム=プロフィトロールと呼ばれるようになったという説もあります。

また、近年はチョコレートソースをかけたり、中にアイスクリームを充填したプロフィトロールが主流です。チョコレートソースをかけたものは“プロフィトロール・オ・ショコラ(Profiterole au chocolat)”と呼びますが、このタイプが一般的なのでプロフィトロールという言葉だけでチョコレートがけを意味することもあります[1]。


シュークリームのルーツと歴史

シュークリーム誕生のきっかけはメディチ家

シュークリームやシュー生地がいつ、誰によって考案されたのかは断定されていません。
有力視されているのは、フランス王室へと輿入れしたイタリアのカトリーヌ・ド・メディシスに付き従ったPantanelli/Penterelliというイタリアのシェフが考案したという説です[3]。

シュー生地もしくはその原型と言われるものが登場するのは1540年。カトリーヌ・ド・メディシスがフランス王室に輿入れしたのは1530年代初頭ですから、5年以上も経ってのことです。このためイタリアに存在していた生地の焼き方を再現して伝えたのか、フランス王室の厨房で働きながらPanterelli氏が独自に考案したものなのかは分かりません。ともあれ、Panterelli氏はシュー生地の発明者というのが定説となっています。

ただし、この16世紀に作られた生地は、生地を火で乾燥させてたもの。温かいバターに浸して食べたり[4]、肉やキノコを煮込んだシチューのようなものと一緒に食されていた[1]と考えられています。スイーツというよりもパンの一種のような感じですね。また、当時シュー生地の原型はPanterelli氏の名前をとって「ポプラン(popelin)」と命名され、時代と共に「ププラン(poupelain)」に変化しました。

フランス菓子の母はカトリーヌ・ド・メディシスかも

悪女として語られる多いカトリーヌ・ド・メディシスですが、彼女はイタリアの名門メディチ家のお嬢様。フランスの王太子妃となった彼女は、フィレンツェの様々な文化や食材・料理法を伝えています。イタリア屈指の料理人達もフランスへと連れて行ったのです。

フランス菓子とされるシャーベット(ソルベ)やフロランタン、マカロン、サバイヨンなども、元はカトリーヌ・ド・メディシスによってイタリアからフランスに伝えられたものです。後に美食の国として世界に名を轟かすフランスの発展に大きく貢献した方でもあるのですね。

19世紀、アントナン・カレームによって完成

現在のようなシュー生地は18世紀、1798年にパティシェとして活躍していたジャン・アヴィス(Jean Avice)氏によって完成されたと伝えられています。ジャン・アヴィスはヴィヴィエンヌ通りにあったシルヴァン・バイイ(Sylvain Bailly)の店でパティシエとして働いており、新しい形のお菓子を作り出すパティシェとして名の売れた方だったようです。余談ですが、彼がスピック型(ゼリーの型)で焼いた小さなケーキがマドレーヌの発祥、という説もあります。

マドレーヌについてはこちら>>

完成した生地はpoupelainではなく、ふんわりと丸い形がキャベツに似ているということで「pâte à choux」と呼ばれるようになります。そして、シュークリームの中にクリームが入るのは18世紀終盤から19世紀初頭。ジャン・アヴィスの弟子で“シェフの帝王”とも称されるアントナン・カレームが、シュー生地の中にクリームを入れた“chou à la crème(シュー ア ラ クレーム)”を完成させます。ジャン・アヴィス&アントナン・カレーム師弟によってシュークリームという菓子が成立したのですね。

日本には幕末に到来

1800年頃にフランスで現在のようなレシピが確立したとされるシュークリーム。
日本にシュークリームが伝わったのは誕生から50年以上経った、幕末の頃とされています。

幕末に横浜で横浜八十五番館という洋菓子店を営んでいたサミュエル・ピエールというフランス人によって日本に紹介されました[5]。明治に入ると横浜八十五番館で働いていた日本人パティシェが別の企業に就職したり、自分の店を構えてシュークリームの販売も行われるようになります。このことから、日本におけるシュークリーム発祥地は横浜とされています。

シュー生地を使ったシュークリームの仲間

シュークリーム/プロフィトロール以外にも、世界にはシュー生地を使って作られた様々な食べ物が存在しています。今回はその中でもフランス発祥とされているシュー菓子をいくつか紹介します。

エクレア

シュークリームの仲間で、日本で最も認知度が高そうなシュー菓子がエクレア。バケッドを連想させるような細長い形に焼き上げた生地の中にクリームを入れ、上からチョコレートなどのアイシングをかけたお菓子です。

代表的なものはチョコレートをかけたエクレール・オ・ショコラ(éclair au chocolat)。
ですが、エクレアは中に挟むクリーム、アイシング共にバリエーションが豊富なお菓子です。カスタードクリーム×キャラメル、生クリーム×ストロベリー、チョコレート×チョコレート、あんこ生クリーム×抹茶などバリエーションは無限と言っても良いほど。アイシングをかけないことが多いシュークリームと比べると、見た目にも差異が大きく華やかな印象もあります。

フランスではエクレアではなく“エクレール(éclair)”と発音されます。エクレール(éclair)という言葉は稲妻を表す言葉でもあるので、稲妻が語源とされています。稲妻がお菓子の名前として使われるようになった由来は、中からクリームがはみ出さないように稲妻のようなスピードで食べる・割れ目が稲妻に似ているなど諸説あります。

アントナン・カレームはエクレアも作った?!

シュー生地の中にクリームを詰め、シュークリームのレシピを確立したアントナン・カレーム。彼はエクレアの考案者としても名前が挙がる存在です。エクレアはアントナン・カレームが作った”pain à la Duchesse”という、シュー生地を細長い形に焼いてフォンダンアイシングをかけたお菓子から進化していったものだという説があるのです。ただし、カレームではない方を考案者とする説もあり、断定はされていません。

パリブレスト

パリブレストはリング状にシュー生地を絞り、それを横に割って間にクリームを挟んだタイプのお菓子。シュークリームやエクレアのようにクリームが生地に包まれていないため、バタークリームなど少し固めのクリームが主に使用されています。ちなみに、生地をフラットなリング状にするのではなく、捻って整形したものはフレンチクルーラーと呼ばれます

パリブレストは語源はフランスの地名“パリ”と“ブレスト”。
1891年にパリ市とブレスト市を結ぶ自転車レースを記念して、自転車の車輪を模って作られたお菓子であることが名前の由来です。

その他

クロカンブッシュ

クロカンブッシュ(croquembouche)な小さめのサイズで作ったシュークリームを、飴などを使った円錐形に積み上げたお菓子のことを指します。フランスでは結婚式、洗礼(バプテスマ)など重要な日に食べられるお菓子の一つ。

ウエディングケーキの定番として親しまれており、最近では日本でも披露宴で使われるようになりました。シューの語源がキャベツという事もあって、子孫繁栄を願う意味もあるのだとか。ケーキ入刀の代わりに、新郎新婦が二人で木槌などを使ってクロケットを固めている飴を割り、参列者に配ります。

サントノーレ

サントノーレ(saint-honoré)はパイ生地の上に、小さいシュークリームをフチを作るように並べ、中央にたっぷりのクリームを絞り出したもの。シュークリームの中にもクリームが詰められており、土台の生地と固定するためにカラメルをかけて固められています。フランスでは特別な日のごちそう(お菓子)として食べられているようです。ちなみに、呼び名はパリのサントノーレ通りにある店で考案されたお菓子だから。

シューケット

シューケット(Chouquette)は小さく絞り出したシュー生地に、パールシュガー(あられ糖)をまぶして焼いたお菓子です。中にクリームを入れずにそのまま食べるプレーンタイプの他、中にクリームを詰める、上からチョコレートソースやキャラメルソースなどをかけるレシピもあります。ピンクや白のアイシングをかけてカラフルな見た目にすることもあります。あられ糖の代わりにチョコチップをまぶしたり、砕いたナッツを加えたりと、たくさんのアレンジを楽しめますよ。

ペ・ド・ノンヌ

個人的に一番気になったのが、ペ・ド・ノンヌという菓子です。こちらはシュー生地に似た生地を一口大にのサイズにして揚げたもの。現代のレシピでは卵黄と牛乳・砂糖が加えるタイプがオーソドックスなのでシュー生地とは少し違いますが、昔はシュー生地で作られていました。今は中にクリームの入っている、ボールドーナッツという印象です。

フランス語のペ・ド・ノンヌ(Pet de nonne)を直訳すると「修道女のおなら」。食べ物なのにとんでもないネーミングですよね。名前の由来には諸説ありますが、よく語られるのは“シュー生地を作っていた修道女が調理中におならをしてしまい、そのときに手元が来るってシュー生地を油に落とした”という逸話。ただしオーブンが一般家庭に普及するまではシュー生地を揚げる調理法も一般的に行われていた、という説もあり真偽の程は謎です。

ともあれ、とんでもないネーミングセンスのこのお菓子。流石に品がないということで「soupir de nonne(修道女のため息)」や「風のため息(beignet de vent)」のような当たり障りない名前で呼ばれることもあります。反対にネットで検索すると「pet de putain(娼婦のおなら)」という呼称も出てきたり…名前の由来が非常に気になるペイストリーの一つです。

【参考サイト】

  1. Profiteroles – The Nosey Chef
  2. Profiterole — Wikipédia
  3. HISTORY OF THE PROFITEROLE
  4. 目白大学図書館所蔵のフランス菓子製法に関する稀覯本について(目白大学 人文学研究第10号/2014年)
  5. 【連載】洋菓子の本 第3回「シュークリームの由来について」

代表的なと言いながら。最後のペ・ド・ノンヌは日本ではマイナーですよね。個人的にネーミングと言い換えが面白すぎて気になったのでつい入れてしまいました(笑)この記事を書くまでは一口大の揚げドーナツだと思っていたのですが、シュー生地菓子に含まれることがあるというのも驚きでした。

シュークリーム、エクレアなどシュー生地を使ったお菓子は世界中で食べられているポピュラーな存在。シュー生地が作られるようになったもの歴史的に見ると最近のことなのでルーツや発祥はすんなり分かると思いきや「諸説あり」という部分が多く難儀しました。ジャン・アヴィスがシュー皮を作ったというのはどの料理本・Webサイトにも書かれているのですが、ジャン・アヴィス氏についてはアントナン・クレームによる紹介くらいでほとんど情報がなかったり。。