フィナンシェの形は金塊がモデル?!
-マドレーヌとの違い、発祥説やルーツも紹介

フィナンシェの形は金塊がモデル?!<br> -マドレーヌとの違い、発祥説やルーツも紹介

サクサクした外側と、しっとりとして濃厚な内側の生地のハーモニーが楽しい焼き菓子。バターっぽさが強くリッチな味わいですし、小さいけれど結構食べごたえのあるスイーツでもあります。今回は前回マドレーヌと似ているお菓子として、簡単に取り上げたフィナンシェについてご紹介します。

フィナンシェが歴史に登場したのは比較的最近のことなのですが、発祥は諸説あり分かっていません。〇〇王室が愛したレシピというような類でもなく、最初から一般市民に愛され定番菓子になった存在なんですよ。

フィナンシェについて

フィナンシェとは

フィナンシェはフランス発祥とされる焼き菓子の一つ。
フィナンシェという呼び名もフランス語の“financier”がそのまま使われています。

人によってバターケーキと表現することも、アーモンドケーキであると表現されることもあります。ケーキと聞いてパッと思いつくスポンジケーキと比べると、ブラウニーなどのと同じく厚みがなく、表面はパリッとクッキーに近いような食感・中はしっとり系の食感で濃厚な味わいも特徴的ですね。

最もオーソドックスなフィナンシェの形状は“フィナンシエ型”と呼ばれる浅い台形型。あまり大きなサイズで焼き上げることはなく、女性の手のひらに収まるくらいの小ぶりなサイズで作られます。ちなみに、フィナンシェ=台形(長方形)という決まりがあるわけではなく、円盤型や楕円形の方で焼かれたフィナンシェも存在しています[1]。

フィナンシェ=金融家?

financierという言葉を辞書やWEB翻訳で調べると、お菓子の名前ではなく、金融家や投資家という言葉が先に出てきます。全く無関係なように思えますが、実はフィナンシェという焼き菓子の名前はこの金融家ないし投資家に由来しているというのが定説です。

フィナンシェの発祥・語源説として有力視されているのは下記の2つです。

語源説①

パリの証券取引所周辺にある金融街で、投資家たちに手を汚さず手軽に食べられるお菓子として人気を博したため。

語源説②

金の延べ棒(インゴット)を模した型で焼いたため。

投資家をターゲットにインゴットのような方で焼き上げたところ、手を汚さずに食べられることもあって人気のお菓子になった…という2つをミックスしたような発祥説もあります。

フィナンシェとマドレーヌは別物?

フィナンシェとよく似たお菓子にマドレーヌがあります。特に日本ではどちらも同じような材料・食味の商品もあり、焼き上げるときに使用する型が違うだけでは?という商品もありますが、伝統的なプレーンのレシピではフィナンシェとマドレーヌにはいくつか異なる点があります。

呼び名の由来・見た目

マドレーヌは貝殻を模したマドレーヌ型を使って焼きあげられたものがオーソドックス。発祥説には諸説ありますが、いくつかの説には“ホタテ”が登場することもあり、ホタテの形をしているということが重要なポイントと言えます。呼び名のマドレーヌ(Madeleine)は考案者とされる女性の名前が由来。

対してフィナンシェは“金の延べ棒”に似た姿、もしくはパリの金融街で人気となり広まったお菓子であることが名前の由来とされています。フィナンシェの見た目も、由来説にもあるようにインゴットに似た、平ための台形もしくは長方形となっています。

材料と食味

フィナンシェもマドレーヌも小麦粉・砂糖・バター・卵が原料として使われていることは同じです。ただし、伝統的なプレーンタイプのレシピを比較するとフィナンシェは“アーモンドケーキ”と称されるようにアーモンド粉もしくは挽いたアーモンドを大量に使用します。その量は小麦粉とほぼ同量、レシピによっては小麦粉よりもアーモンドのほうが多いものもあります[1]。マドレーヌにも風味付けとしてアーモンド粉が加えられることがありますが、使用する量はここまで多くありませんし、入れないというレシピもあります。

そのほかに、

  • マドレーヌは全卵・溶かしバターを使用する
  • フィナンシェは卵白と焦がしバターを使用する

という違いもあります。
フィナンシェは焦がしバター(ブール・ノワゼット)を使用することでバターの風味が強く、アーモンドの風味にも深みが出ます。このため濃厚でパンチの効いた味になるのですね。対して、マドレーヌは全卵をつかうので黄身のマイルドな風味が強く、ふんわりと優しい味わいに仕上がります。

また、食感もマドレーヌとフィナンシェには少し違いがあります。マドレーヌはカステラやパウンドケーキに近い、ふんわりと柔らかい食感。フィナンシェはアーモンドが多く入っているのでマドレーヌよりも生地がみっしりと重めで、表面がパリッと少し硬めに焼きあがります。表面が固く崩れにくいことから、金融街の人々がポケットに入れておけることを喜んだという逸話もありますよ。

とは言え、本場フランスでは分かりませんが、日本やアメリカではマドレーヌやフィナンシェの材料・作り方は結構バラバラ。焦がしたバターを入れたマドレーヌも、全卵が使われたフィナンシェもあります。どちらもチョコレートやフルーツ、アーモンド以外のナッツを使って様々なバリエーションも作られています。

日本ではアーモンド粉を少量しか使わず、ふんわりとした食感に仕上げるためにペーキングパウダーを入れたフィナンシェのレシピも多く公開されています。焼き型も丸形・キャラクター型など幅広く使われていますから、明確に区別化されているとは言い難いです。マドレーヌと呼ぶかフィナンシェと呼ぶかは作る方のイメージや感覚による部分もありますね。

マドレーヌについてはこちら>>

フィナンシェのルーツと歴史

フィナンシェ発祥は19世紀のパリ

フィナンシェ(financier)というお菓子が登場したのは19世紀のフランス。
Pierre Lacamというフランスのパティシエが1890年に出版した“Le Mémorial historique et géographique de la pâtisserie”には、フィナンシェがパリのサン・ドニ通り(Rue St-Denis)でベーカリーを開いていたラスン(Lasne)という職人が考案したと紹介されています[1]。このことから19世紀後半には、フィナンシェはすでに存在していたことがうかがえますね。

フィナンシェのイメージ画像

サン=ドニ通りというのは、当時のパリの証券取引所の近く。
このためベーカリーをやっていたラスン氏は、自分の店の周囲にいる投資家達にウケる商品を作ろうと、金に見立てた“フィナンシェ”というお菓子を考案したという話に繋がるわけです。そこまで考えてレシピを考案したのかは定かではありませんが、表面がかっちりとしていて持ち運びやすく、小腹が減ったときに手軽に食べられるフィナンシェが投資家達の間で人気となり定着したという説も納得できますね。

オーストラリアやニュージーランドにはフリアンドも

オーストラリアやニュージーランドではフィナンシェとよく似た名前のフリアンド(Friand)という焼き菓子/ケーキが食べられています。このフリアンドはフィナンシェよりも厚みのある楕円形、葉っぱに似たバルケット型、もしくはマフィンに近いてっぺんが膨らんだ円柱型が主流。一見フィナンシェとは何の関係もなさそうに見えるフリアンドですが、こちらもアーモンド粉と卵白を多く使用する、小ぶりなアーモンドケーキの一種です。

オーストラリアで働くフランス人シェフがアスピック型でフィナンシェを焼いたことがフリアンドの始まりとの説があり[3]、フィナンシェから独自に進化したお菓子という見方がなされていますよ。フリアンドはブルーベリーなどのフルーツ、ココナッツ、チョコレート、ナッツ類が加えられることが多く、オーストラリアやニュージーランドではティータイムのお供として親しまれているようです。

フィナンシェの原型は17世紀から存在していた

フィナンシェと呼ばれるインゴット型のお菓子が登場したのは19世紀ですが、フィナンシェの原型となるお菓子は17世紀頃にすでに存在していたことが指摘されています。フィナンシェの原型となったと考えられているのが、ナッツ、卵白、焦がしバターを使って作られていたという“Visitandines(ヴィジタンディーヌ)”という焼き菓子[1]。

この“Visitandines”は17世紀にフランス東部・ロレーヌ地方にあるカトリック教会の女子修道会“聖母訪問会(L’ordre des Visitandines)”で修道女たちが作っていました。原料として卵白が多く使われていたのは、当時はテンペラと呼ばれる卵黄を混ぜた顔料を使用した絵画があったので、余った卵白を無駄にしないためだったと考えられています[4]。それ以外に、四旬節など肉を食べては行けない時期のタンパク源として考案されたという説もありますよ。

高タンパク、そして高カロリーでもある“Visitandines”は貧しい人々への施しとしても利用されていました。聖母訪問会(L’ordre des Visitandines)”で食べられている・振る舞われていたため、ヴィジタンディーヌがそのままケーキの呼称としても使われるようになったのでしょう。ヴィジタンディーヌはフィナンシェとは、異なり円形に焼かれていました。フィナンシェの考案者とされるラスン氏はこのレシピを(当時の)現代風に洗練された材料配分にし、形と名前を変えて売り出したのではないかという見解もあります[1]。

アーモンドのイメージ画像

雑学:昔アーモンドは毒だと思われていた?!

美味しくてビタミンEが豊富なナッツとして親しまれているアーモンド。私達にとっては親しみのあるナッツの一つですし、フィナンシェやクッキーなど製菓原料としても多く使われていますよね。

アーモンドは古代から人々によって栽培され食されてきた歴史のあるナッツの一つで、最も初期の作物化された果樹の一つと称されることもある存在です。ギリシア神話にも恋人を待ち続けた王女様が流した涙から生えてきた樹木、としてアーモンドが登場しています。涙から生まれたから涙型をしていると考えられていたのですね。

そんなユーラシア大陸では紀元前から食べられてきたアーモンド。……なのですが、フィナンシェの歴史やルーツについて調べていると“ルネッサンス期には毒物である青酸化合物を含むビターアーモンドと同じ匂いがするので、アーモンドベースのペストリーは避けられていた”という記述[2]を度々目にします。

アーモンドの品種は大きくスイートアーモンド・ビターアーモンドの2系統に分けられます。このうち呼び名からも想像がつくように、私達が普段食べているほんのり甘くて香ばしいアーモンドはスイートアーモンド系の品種です。ビターアーモンドは苦味が強く、より野生種に近い品種と考えられています[5]。

また、ビターアーモンドの苦味成分にはビワの種子や青梅にも含まれる「アミグダリン」という青酸配糖体が含まれているという問題があります。アミグダリンは腸内細菌によって分解されることで毒物(青酸)を発生させます。この青酸配糖体はスイートアーモンドにはほとんど含まれていないのですが、ビターアーモンドとスイートアーモンドは見た目がよく似ており、素人目には判別がつかないことも。2012年にもアメリカ食品医薬品局(FDA)が“輸入されたスイートアーモンドの一部にビターアーモンドが紛れている”ことを報じています。

ルネサンス期にアーモンドが避けられていたという話は資料が不明なので真実かはわかりませんが、今よりも更にビターアーモンドとの判別が曖昧だったと考えられます。ビターアーモンドを毒として使う・食べて中毒を起こした人がいて、アーモンド=危険な食べものと認識され避けられていた可能性はありそうですね。フィナンシェの原型とされる“Visitandines(ヴィジタンディーヌ)”が登場するのも17世紀とルネサンスが終わった後のことです。

ちなみに、現在も食べられているアーモンドベースの焼き菓子/ペイストリーの多くが登場・普及しはじめたのは19世紀前後。フィナンシェも19世紀末に登場したお菓子ですし、フリアンドも19世紀末~20世紀に食べられるようになったと考えられます。製菓技術が劇的に進歩した時期ですし、アーモンド=危ないという認識を持っていた世代も居なくなっていたでしょうから、素直にアーモンドの風味の良さが再評価され使われるようになったのかもしれません。

【参考サイト】

  1. [1]The Pastry Chef’s Rich Little Secret – The New York Times
  2. Almond friands
  3. Raspberry Friands
  4. Recette du Mesnil-Marie : la Visitandine.
  5. アーモンドの種類と違いをまとめてみた!品種ごとの特徴とおすすめ商品は?

マドレーヌよりもフィナンシェ派です(笑)お安い袋菓子系のフィナンシェを買うと時々「マドレーヌ?カステラ?んんん??」という商品があるので、好きな歴史を調べるのと合わせてフィナンシェの定義や特徴についても調べてみました。そんな大量にアーモンドを使うとは…今まで食べていたフィナンシエにはトラディショナルレシピタイプは無かったかもしれないと思う次第です。

日本だとペーキングパウダーを入れて、ふんわりと口触りよく仕上げるレシピがオーソドックス。ですが記事を書くにあたって英語やフランス語のサイトを調べていると、ビックリするくらいペッタンコなフィナンシェの写真もありました。ケーキではなく「ソフトクッキー」と表現している方もいましたし、ポケットに入れて携帯できるという逸話もあるので、平たく硬いタイプの方が初期の金融街で愛されたフィナンシエに近いのかも。なんかちょっと金運アップしそうな(笑)