フレンチトーストはローマ発祥?!
フレンチトーストの歴史・呼び名と由来は?

フレンチトーストはローマ発祥?!<br/ >フレンチトーストの歴史・呼び名と由来は?

ふんわり食感と、卵の風味が美味しいフレンチトースト。日本でもお子様から大人まで、好む方が多い料理の1つです。トーストを出されるのではなく、フレンチトーストを作ってもらうと嬉しい…なんて子ども時代の思い出がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

フレンチトーストはパンありきのレシピで、洋食のイメージが強いですよね。しかし「フレンチ」料理なのか、フランス発祥かは分かっていません。フレンチトーストに似た料理はローマ帝国時代から存在しており、中世ではヨーロッパの様々な地域で食べられていました。古い時代のフレンチトーストから現代までの歴史、呼び名の由来を紹介します。

フレンチトースト(French toast)の基本情報

フレンチトーストとは

フレンチトーストは溶き卵と牛乳などを混ぜた作った液を、スライスしたパンに染み込ませ、バターや植物油で焼いた料理。地域によりバリエーションはありますが、世界中で食べられているパン料理の1つです。

『デジタル大辞林』では“食パンを鶏卵と牛乳をまぜ合わせたものに浸し、表面をバターで焼いたもの。”と説明されています[1]し、日本では多くのご家庭で食べられているフレンチトーストにこの定義があてはまるでしょう。

付け加えるなら、卵・牛乳だけではなく、砂糖を混ぜて甘くするタイプが日本ではオーソドックス。シナモンやナツメグ、ラム酒、バニラエッセンスを加えるなど、スイーツに近いレシピのフレンチトーストも珍しくありません。焼き上げた後にメープルシロップやはちみつ・アイスクリームをトッピングすることもありますね。

しかし、フランスパンなど食パン以外のパンをカットして作ったフレンチトーストも、砂糖を入れずに塩コショウで味付けした食事系フレンチトーストもあります。バターではなくオリーブオイルやサラダ油で焼き上げる方もいらっしゃいます。

このため、フレンチトーストと呼ばれる料理の特徴は

  • 溶き卵と牛乳ベースの液をパンに染み込ませる
  • バターもしくはオイル(植物油)で焼く

の2点が挙げられるでしょう。食品アレルギーの方向けに卵・牛乳未使用のフレンチトーストというレシピもあれば、レシピ考案者によっては「フレンチトースト風」と題されていることもあります。あまりか、かっちりした決まりはありませんね。

フランス発祥ではない?

フレンチトースト=フランス式のトースト。
なんだか和製英語のような料理名ですが、実はれっきとした英語です。

ただし、フランス式のトースト・フランス発祥で間違いないのかと言うと、そこは微妙。フランス発祥だという方もいれば、アメリカ発祥だという方も、いやいやローマ帝国から受け継がれてきた料理だろうという方もいらっしゃいます。研究者の間でも意見が割れていて、どこ発祥の料理という断定はされていません。

各国のフレンチトーストの呼び名は?

日本やアメリカではフレンチトーストと呼ばれているパン料理。フレンチ、つまりフランスでも自国の名を冠した名称で呼ばれているのか…というと、実は全く別の呼び方をされています。呼び名に国名がつく料理って、大体そうですよね。

フランスでフレンチトーストは“Pain perdu(パンペルデュ)”
直訳すると「失われたパン」という意味になります。

失われたパンは、行方不明になったわけではなく「古くなり、固くなってしまったパン」を意味しています。元々のフレンチトーストはこのパンペルデュ(カチカチになってしまったパン)に、水分を加えて加熱することで、ふんわり柔らかく美味しい状態にする[1]料理というわけです。元々は節約レシピ・人々の生活の知恵だったのですね。

中世~近世のイギリスではフレンチトーストを“poor knights”もしくは“poor knights of Windsor”と呼んでいました。直訳すると「(ウィンザーの)貧しい騎士」。スウェーデンの”Fattiga riddare”、デンマーク・ノルウェーの”Arme Riddere”やドイツの”Arme Ritter”などの呼び名も、全て直訳すると同じく「貧しい騎士」という意味です。

こちらは昔、貧しい騎士がデザートとして食べていたことが由来。
貴族と一般人の区別が明確だった時代、夕食時にデザートを食べることが貴族の象徴の1つでした。騎士は貴族階級に含まれていましたが、高い階級ではなく、生活が厳しい方もいました。貧しい騎士たちは体面を保つために、古くなったパンを再利用してデザートにしていた、というわけです[3]。ウィンザーと付けられている由来は諸説ありますが、ウィンザー城に貧しい騎士が多く身を寄せていたという当時の背景が影響しているのでしょう。

ちなみに、現在のイギリスではお砂糖が入ったスイーツ・デザート感覚で食べるものは“French toast”、甘みが少なく食事として食べられるものを“eggy bread(タマゴパン)”と呼ぶことが多いようです。そのほか“Gypsy toast(ジプシートースト)”という呼び方も使われているようですが、Gypsyは差別用語として捉えられる傾向があるためか、イギリスのフードメディア『BBC Good Food』ではレシピ名は使われていませんでした。

フレンチトーストの仲間はキリスト教の行事にも

トリハス(Torrijas)

スペインではフレンチトーストのような“トリハス(Torrijas)”というパン料理があります。トリハスは聖週間から復活祭(イースター)の時期に食べる伝統菓子でもあるようです。

トリハスの材料・作り方はフレンチトーストと似ています。しかし、「フレンチトーストをスペイン語にした」と言うには、調理法や食感が違います。

  • 卵を絡めてオリーブオイルで揚げる
  • シナモンを使うのが定番

という部分が私たちが親しんでいるフレンチトーストと、トリハスの大きな違い。
溶き卵はパンに浸すのではなく、衣のように絡めて揚げるんですね。

ラバナダ(Rabanada)

ポルトガルにもフレンチトーストとよく似たお菓子“ラバナダ(Rabanada)”があります。ポルトガルと、ポルトガルに植民地化されていたブラジルでも、ラバナダは伝統的なクリスマスデザートとして親しまれている存在です。ブラジルではクリスマスシーズンになると、ラバナダを作るためのパン「pão pra Rabanada」も販売されるほど[4]。

ところで、大まかに言えばフレンチトーストのポルトガル語=ラバナダですが、ラバナダは日本で食べられているような柔らかいパンではなく、皮が厚くて堅いパンで作るのが定番。また、スペインではオリーブオイルを使う・ブラジルでは練乳を使用するなど、副材料にも違いがあります[C]。このため「Brazilian French Toast」など、オーソドックスなフレンチトーストとはちょっと違うという呼び方をされることもあります。

フレンチトーストの起源と歴史

フレンチトーストのルーツはローマ帝国!?

現在のフレンチトーストとは似て非なる料理ではありますが、フレンチトーストのような料理方法は5世紀以前のローマ帝国で既に行われていました。4世紀末~5世紀初頭に編纂された、古代ローマからローマ帝国時代の料理をまとめた料理書『アピシウス(Apicius)』にはフレンチトーストに近いレシピが掲載されていることが分かっています。このため、フレンチトーストはローマ帝国発祥の料理と表現する方もいらっしゃいます。

フレンチトーストのルーツとされる料理の記述を『アピシウス』英訳サイトで発見しました。

[296] ANOTHER SWEET DISH

BREAK [slice] FINE WHITE BREAD, CRUST REMOVED, INTO RATHER LARGE PIECES WHICH SOAK IN MILK [and beaten eggs] FRY IN OIL, COVER WITH HONEY AND SERVE [1].

引用元:Project Gutenberg’s Cooking and Dining in Imperial Rome, by Apicius

このうち、[and beaten eggs]など[]の部分は原文にありません。
補足された部分を抜かして、簡単に訳すと「クラスト(パンの表面の皮)を取り除いて細かくし、ミルクに浸してから油で揚げ、はちみつで覆う」という内容です。

私達にとって、フレンチトーストは卵と牛乳を混ぜた液にパンを浸すのが定番。ですが、素直に読めば1500年以上前のローマで食べられていたフレンチトーストは牛乳に浸したパンを揚げる、もしくは揚げ焼きにしたものだったと考えられます。

[and beaten eggs]と補足が入れられたり、卵が入っていないと断言されていたりしたいのは、ローマ帝国には卵を使った料理・菓子も多くあったためでしょう。『アピシウス』にもフレンチトーストのレシピの近くには、カスタードオムレツのようなレシピがあります。このため、当時からミルクに卵を混ぜていたのではないかと推測する方もいるわけです。

中世では固くなったパンを再利用する調理法

卵を使った、現在でオーソドックスなフレンチトーストの発祥地は断定されていません。これは中世頃にはヨーロッパ各地で「パンを液体に浸して、揚げる・焼く」という調理法が行われていたためです。

中世は、現在のように食品の調理技術も保存技術も発達していませんでした。パンは固くなりやすかったでしょうし、料理人を雇っているような富裕層でもない限り食事のたびにパンを焼くほど時間もなかったでしょう。焼き上げてから時間が経って固くなったパンを、柔らかい状態にして食べるという方法は、パンを主食とする地域中で考えられていたんですね。

14世紀~15世紀になると、フレンチトーストによく似たレシピが掲載されている料理本も多く登場しています。ドイツやフランスでも14世紀には、パンに水分を吸わせた料理について記述されたレシピがあるようです。また、15世紀のイタリアでは、料理の名匠マンティーノ・ダ・コモ(Martino da Como)が著書『Libro de arte coquinaria』で“suppe dorate(スッペ・ドラーテ)”という名称でフレンチトーストのようなレシピを書き残しています[2]。

ただし、この頃のレシピはパンを牛乳に浸すだけのもの、ミルクではなく赤ワインやオレンジジュースを使うものなど様々。『アピシウス』と同じく現代訳では“溶き卵”が入っていても、原文では卵という言葉が含まれていない意訳的なものもあります。フレンチトーストのレシピであるとも、フレンチトーストに似た料理法であるとも捉えられるのです。こうした背景も現代版フレンチトーストの直接的な発祥地が断定できない理由かもしれません。

ちなみに、マンティーノ・ダ・コモのレシピにある“suppe dorate”は直訳すると「黄金のスープ」。ここでのスープは汁物ではなく、液体に浸して食べるパンを意味するSopという言葉が由来です。Sopという言葉があったほど、パンに水分を吸わせて柔らかくするという料理法はよく使われていたのですね。

徐々にフレンチトーストに高級感が加わる

15世紀、イタリアの有名料理人マンティーノ・ダ・コモがレシピを書いた時期あたりから、古いパンの再利用としてではなく嗜好品に近い美味しさを求めたレシピが多く登場しています。使われる材料もリッチなものになり、調理方法にも工夫が凝らされます。“suppe dorate”のレシピでも、ローズウォーターやサフランなど、ちょっと値の張りそうな材料が登場しています[2]。

1615年にイギリスで発刊された『The English Huswife』という本には “To make the best Pamperdy”というタイトルで、フレンチトーストに似たレシピが掲載されています。当時のイギリスではフレンチトースト系のパン料理をフランス語の“pain perdu”から変化した“Pamperdy”と読んでいましたので「最高のパンペルデュの作り方」とでも訳したいタイトルです。

この『The English Huswife』に載っているレシピは、溶き卵とクローブ、メイス、シナモン、ナツメグ、砂糖、塩を混ぜた液にパンを浸します。しかも使用するパンはManchet=高品質の酵母パン、と指定されている徹底っぷり[3]。当時はまだスパイスも砂糖も、今ほど手軽な価格ではなかったと考えられます。高品質のパンに砂糖とスパイスをふんだんに染み込ませた料理は、古くなったパンを食べる使い切る方法からかなり離れています。このことから中世後期には、裕福な方向けの料理としてアレンジが進んでいたと考えられます。

フレンチトーストという呼び名の起源は?

“Pain perdu(パンペルデュ)”や“suppe dorate(スッペ・ドラーテ)”など、パンに水分を吸わせてから焼き直す・揚げる調理は、場所と時代によって様々な呼ばれ方をしてきました。では、今現在私達が使っているフレンチトーストという呼び方は、いつから使われるようになったのでしょうか?

実はフレンチトーストはその明確な発祥地だけではなく、どこからフレンチトーストと呼べれるようになったのかも断定はされていません。とは言え、オックスフォード英語辞典では1660年にイギリスの料理人によって発刊された『The Accomplisht Cook』が、フレンチトーストという言葉が最初に登場した年としています[5]。

しかし、残念ながら『The Accomplisht Cook』に書かれているレシピは下記の内容。

French Toasts. Cut French bread, and toast it in pretty thick toasts on a clean gridiron, and serve them steeped in claret, sack, or any wine, with sugar and juyce of orange.

引用元:Foods of England – French Toast

卵(egg)という言葉は登場せず、「カットしたパンをワイン、砂糖、オレンジジュースを混ぜた液体に浸す」という内容になっています。現在でも牛乳ではなくオレンジジュースを使うフレンチトーストのレシピはありますが、オーソドックスなレシピであれば卵は使います。このレシピで作ったものは、私達からするとフレンチトーストとは別の料理になりそうですよね。

「フレンチトーストはアメリカ生まれ」説も

フレンチトーストはアメリカ人が作った料理だという伝承もあります。

アメリカでフレンチトーストが誕生したのは1724年、ニューヨーク州アルバニーで宿屋を営んでいたジョセフ・フレンチ(Joseph French)が考案したと伝えられています。彼は自分の名前にちなんで“French’s toast”にしたかったのですが、 所有核を表す「アポストロフィS(-‘s)」の使い方を知りませんでした。そのため“French toast”と命名してしまった[3][5]という伝承です。

Frenchは名字で「フレンチさんのトースト」になるはずだったのに、フランスのトーストになってしまった。このエピソードが事実である信憑性は低い、とされていますが、話のネタとしては面白いですね。

伝承はさておき、アメリカで「フレンチトースト」という呼び名が定着した背景には、フランス料理人気が高かったことも考えられます。フレンチフライやフレンチディップなど「フランスの」と付いた料理を、当時のアメリカの人々はありがたがったわけです。

馴染みのあるフレンチトーストはいつから?

1999年に発行された『The Encyclopedia of American Food and Drink』という料理辞典では、印刷された最も古い“卵ベースのフレンチトースト”のレシピは1870年代に初めて登場したと紹介されています[5]。

しかし、フレンチトーストという言葉は使われていないものの、1747年にイギリスの料理作家によって記された『Art of Cookery Made Plain and Easy』など、卵を使ったフレンチトーストとほぼ同じ料理法のレシピもあります。アメリカ人がフレンチトーストを作ったという伝承も1700年代の話ですから、もっと前から現在のレシピに近い調理方法があった可能性は高いでしょう。

起源も発祥地も諸説ある通り、古い時代から西洋ではフレンチトーストに類した料理が食べられていました。レシピのバリエーションも時代や地域によって様々ですね。現代のように、多くの人がフレンチトースト=卵・牛乳に浸したパンを油で焼く、と共通したレシピのイメージを持つようになったのは、印刷されたレシピが出回るようになった19世紀以降なのかもしれません。

【参考サイト】

  1. フレンチトースト – コトバンク
  2. Pain perdu | The Real French Foods
  3. The History of French Toast
  4. Rabanada (Brazilian French Toast) 
  5. Is French toast really French? – Slate Magazine 

起源が分からない料理、記録に残らないような時代から庶民が食べ、歴史とともに洗練されていったタイプの料理って結構ありますよね。フレンチトーストもその一つ。なので、どこが発祥・どこで今のレシピが完成したか断定できないのでしょう。昔の人は今みたいにSNSで「私が考えたアレンジ」とか発信できませんし、そもそも識字率も微妙でしたしね。

記事を書く際に参考にさせていただいたSlate Magazineでもフレンチトーストの起源について“パン、卵、牛乳の単純な調合な中世にまで遡る可能性がある”と表現されていました。卵を使ったフレンチトーストのレシピが普及・定番化したのが1800年代半ば頃からなのではないかな、と個人的には思います。日本で言う「冷ご飯に水をかける」ような料理から、スパイスをふんだんに使ったセレブなものに、そして再び気軽な朝食・デザートへとポジションを変えたフレンチトースト。そのうち、また、リッチなフレンチトーストが流行るかも…?