オレンジの語源はインドの言葉?
-果物としてのオレンジの起源と歴史

オレンジの語源はインドの言葉?<br />-果物としてのオレンジの起源と歴史

今や私達日本人にとっても、親しみのある果物となっているオレンジ。果物としてだけではなく、ジュース・キャンディ・グミなどで口にする機会も、芳香剤の香りとして鼻にする機会も、結構ありますよね。

みかんの欧米版、という印象もあるオレンジですが、そのルーツはインドなど南アジアあたりにあるとご存知でしたか。オレンジという呼び名の語源も、辿っていくとインドに行き着くのだとか。そんな、ちょっと意外なオレンジのルーツや語源、欧米で愛されるまでの歴史を調べました。

オレンジとは? 概要と語源

オレンジとは

オレンジは、大まかに言えばミカン科ミカン属の植物。
私達が果物やオレンジジュースとして口にしているものは、スイートオレンジ(学名:Citrus sinensis)系の品種がほとんどとなっています。ネーブルオレンジやブラッドオレンジも、スイートオレンジの品種です。

オレンジの和訳=みかん、みかんの英訳=オレンジ、という形で使われることもあります。しかし、食品として見た場合、日本人にとってオレンジとみかんは別物。多くの方が風味の少し違う果物を連想されるでしょう。植物の分類としてみた場合でも、一般的に“みかん”と呼ばれている温州みかんは学名Citrus unshiuと、オレンジとは別の種として扱われています。

ビターオレンジもある

スイートオレンジとは別に、ビターオレンジと呼ばれる植物もあります。ビターオレンジは学名 Citrus aurantiumと別種で、用途としても果物としてそのまま食べることはほぼありません。呼び名の通り苦味が強く、そのまま食べても美味しく無いのです。ビターオレンジはマーマレードや酢の原料、料理での利用が主。フレンチで使われているビガラードソースが代表的で、他の国でもサラダやドレッシングに利用されています。乾燥したオレンジピールも香辛料感覚で使われています。

そのほかに、ビターオレンジは芳香のための精油を抽出する目的でも使われています。香料としては、果皮だけではなく樹木全体が利用可能。香水や化粧品に「ネロリの香り」がありますが、このネロリというのもビターオレンジの花のことです。精油が好きな方であれば、枝葉から抽出されたプチグレンもご存知かもしれません。

より多くの日本人に馴染みのあるビターオレンジ系統の果物は、お正月の鏡餅に乗せる“橙(ダイダイ)”。橙もビターオレンジ系統の品種です。甘酸っぱく美味しいオレンジが伝わる前から日本には橙があったので、スイートオレンジは甘橙(甘代々)という和名が付けられました。

実は複雑?! オレンジの種類

同じオレンジでもビターオレンジとスイートオレンジは区分された存在。私達がオレンジと呼んで生で食べている果物の多くはスイートオレンジ系の品種ではありますが、マンダリンオレンジは学名Citrus reticulataとまた別の種と分類されています。

実は柑橘類は交雑しやすく、自然にも交雑種が出来やすいため、ミカン属の中での分類は非常に困難なのだとか。スイートオレンジ自体もザボンとマンダリンの交配種とみられていますし、さらにスイートオレンジとマンダリンを交配した柑橘類もあったりと、多くの雑種や栽培品種があり複雑怪奇[1]。近年はゲノム解析によってルーツが明かされつつありますが、分類や学名は未だに専門家の中でも共通されていないようです。

オレンジのバリエーションイメージ

オレンジの語源と由来

オレンジという果物の名前は、サンスクリット語でオレンジの木を表す“nāraṅga”が語源との説が有力。更に遡ると、ドラヴィダ語族の方々が使っていた“香り(naru)”という言葉に行き着くと考えられています。

ともあれ、オレンジの木もしくは果実はペルシアを経由してアラビアに、そしてヨーロッパへと伝わっていきます。その際に呼び名である“nāraṅga”も伝わっていきますが、それぞれの国を経由するたびに少しづつ変化していきます。スペインではオレンジのことを“naranja”と呼ぶようになっていました。

スペインあたりまでは「na(ナ)」から始まっていた呼び名を、オレンジに近い形に変えたのはフランス。フランスでもオレンジが伝わってしばらくは“narange(ナランジェ)”と読んでいましたが、最初の「n」はフランスの不定冠詞(unaもしくはune)の一部と混同され、いつしか無くなっていきました[2]。14世紀ころの古フランス語ではオレンジをpomme d’orengeと記述しているため、フランス語圏でオレンジという呼び方へ大きく変化したと考えられますね。

色名に「オレンジ」を使うようになったのは15世紀以降

植物や果実としてのオレンジはもっと古い時代にヨーロッパに伝わっていましたが、赤色と黄色の中間色を表現する言葉として「オレンジ」が使われるようになったのは15世紀ころから。英語でorangeが色の表現として定着したのは17世紀頃と、長い歴史で見れば比較的最近のことです。

これは、ヨーロッパの人々がオレンジという果物に馴染みがなかったため。オレンジやナランジェという呼称ではなく「黄金の林檎(golden apples)」と呼んでいた人もいたようですし、そもそも15世紀~16世紀にかけての時期オレンジは富裕層が食べられる高級品。周知されているものでないと色の表現として分かりにくいので、オレンジの普及と合わせて「オレンジ(色)」という表現も広がっていったようです。

オレンジのルーツと歴史

オレンジの起源

断定はされていませんが、オレンジの起源は中国南西部からインド北東部あたりの地域にあると考えられています[3]。スイートオレンジについてもDNA解析によってマンダリンとサボン(ブンタン)が交配したものが作物化された可能性が高いことが報告されています[1][4]。

インドでは7000年前からオレンジもしくはその原種である柑橘類を何種類か栽培していた、という話もありますが、この時に甘みの強いスイートオレンジが栽培されていたかは定かではありません。中国では紀元前314年に“甘いオレンジ”について記述されている文献がある[4]ことから、古代中国で異なる植物を組み合わせてスイートオレンジを作ったという見解もあります。

このため、オレンジの起源にはインド説、中国説があります。オレンジという言葉の語源が古代インドでつかわれていたサンスクリット語、同じくインドなど南アジアで使われていたドラヴィダ語にあることから、ヨーロッパではインドがルーツの果物という認識も強いようです。

オレンジのイメージ画像

ヨーロッパへの伝播

オレンジがアジアからヨーロッパへと伝わった時期についても、はっきりと分かっていません。7世紀頃にイスラム圏を通じてヨーロッパへと持ち込まれた、11世紀頃からイスラム世界との交易品としてやり取りされるようになった、15世紀頃にポルトガル人が持ち帰って広めた、など諸説あります。

最も古い伝播説では“紀元前1世紀頃にローマ帝国に伝わり、ローマによって北アフリカに果樹園が作られた”という説もあります。ローマ帝国が衰退するとヨーロッパでのオレンジ栽培は衰退し、北アフリカに対して強い権力をもったイスラム圏の方がオレンジ先進国になった、という主張です[3]。その後、10~11世紀頃になるとヨーロッパへの交易品としてイスラム世界からオレンジが逆輸入されています。余談ですが、ヨーロッパでレモンの存在や利用法が知られるようになったのも、同じくらいの時期です。

ただし、10世紀頃にヨーロッパへと伝わって栽培されるようになったのは、スペインのセビリアオレンジ。これはビターオレンジ(Citrus aurantium)系に分類される品種で、生で食べる甘いオレンジではありません。このため10世紀ころまでのヨーロッパで知られていたオレンジはスイートオレンジではない、という見方もあります。

スイートオレンジが本格的に知られるのは16世紀以降

スイートオレンジがヨーロッパに確実に伝わったと言えるのは、15世紀後半~16世紀頃のことです。ポルトガルの商人たちがインドからスイートオレンジを持ち帰り、地中海沿岸地域へと広めていきました[2]。みずみずしく甘いオレンジは、そのまま食べるのに適した、しかも珍しいフルーツとして、人気を博します。

当時オレンジを食べていたのは庶民ではなく、王侯貴族や富裕層が主。16世紀のうちには“オランジェリー(Orangery)”と呼ばれる、オレンジを栽培する施設も登場します。最初は冬越しさせるための囲いでしたが、17世紀ころにはガラスをはめた温室になっています。このオランジェリーを作り、オレンジを栽培することが富裕層のステータスでした。フランスのルイ14世もオレンジが好きで、ヴェルサイユ宮殿に豪華絢爛なオランジェリーを建設した逸話があります。

アメリカ大陸へ持ち込まれたオレンジ

大航海時代にヨーロッパに持ち込まれ、広まっていったスイートオレンジ。ほぼ同時期の16世紀頃、オレンジはスペイン人によってアメリカ大陸へも持ち込まれました。ヨーロッパでは一部地域でしか栽培できませんでしたが、アメリカ大陸ならオレンジの栽培に適した土地がたくさんあったのでしょうね。

16世紀よりも少し前、1493年の2回目の航海でクリストファー・コロンブスが“イスパニョーラ島にオレンジの木を植えた”という逸話もあります[5]。1500年代=16世紀になると、フロリダにオレンジが植えられた、ブラジルのカナネイアでオレンジの栽培がスタートしたなど、各地でオレンジの栽培が行われるようになっていきます[3]。現在もブラジルはオレンジの主要生産国、フロリダもオレンジの名産地ですね。

オレンジ雑学

オレンジとみかん比較イメージ画像

みかんとオレンジの違いは?

オレンジ(スイートオレンジ)は学名 Citrus sinensis、ザボン(ブンタン)とマンダリンオレンジの交配によって生まれた種類との見解が有力です。

対して、私達が“みかん”と呼んでいるのは
温州みかん(学名:Citrus unshiu
紀州みかん(学名:Citrus kinokun
など。学名が違うことからも分かるように、別種という扱いです。

温州みかんは、紀州みかんとクネンボの交配によって出来た品種。記述した学名は“田中長三郎によるかんきつ類の分類”で使われているものですが、こうしたミカン類は日本以外の国だとマンダリンオレンジ(Citrus reticulata)の品種として分類されています[1]。
どちらにせよ、種が違うんですね。

オレンジは果皮と薄皮(じょうのう)が厚く、マンダリンやみかんは薄く剥きやすいなど風味にも違いはあります。オレンジは風味がハッキリとしているのに対して、みかんはマイルド・このためジャムやジュースなどの加工品にはオレンジが使われることが多いです。

オレンジが普及した背景には壊血病も?

オレンジが世界中で栽培されるようになったのには、大航海時代に200万人の船員の死因になったと言われる壊血病が関係しているという見解もあります。壊血病の原因はビタミンC欠乏、長旅によって野菜や果物の摂取が不足することで当時多くの人が苦しんだ病気です。

壊血病対策として、ポルトガルでは航海の中継地に野菜や果物を植えるという方法を採用しました。オレンジは比較的日持ちがよく、ビタミンCも豊富。このためポルトガル、スペイン、オランダなどが交易路に沿うような形でオレンジを植えていったのだとか。壊血病対策に使われた食材というとライムがよく登場しますが、オレンジも高級フルーツとしてではなく健康維持にも使われていたのですね。

【参考サイト】

  1. Citrus taxonomy – Wikipedia
  2. Color or Fruit? On the Unlikely Etymology of “Orange”
  3. History of Orange | Fruitly
  4. The draft genome of sweet orange (Citrus sinensis)
  5. History of Orange Fruit | Real Fruit Beverage
地中海やアメリカのイメージがあるオレンジ。インドあたり原産なのは少し意外ではないでしょうか?あまり詳しくないので恐縮ですが、インド料理でオレンジが使われているイメージはありません(笑)。ちなみに、西洋の方が朝にオレンジジュースを飲んでいたりするのは、かつて貴族やブルジョワジーがやっていたことが庶民にまで伝わって定着した、なんて話も。今で言うスムージーですかね。