カボチャはアメリカ大陸原産野菜
-種類や歴史、呼び名の由来とは?
- 野菜 食品類のルーツと歴史
- 語源, 野菜
和食レシピでも、洋食レシピでも使われるカボチャ。冬至南瓜といえば和食、パンプキンパイと言われればアメリカを連想するのではないでしょうか。ヨーロッパっぽい世界観の童話“シンデレラ”にも登場し、原産地のイメージがはっきりしない野菜でもあります。
結論から言うとカボチャの原産はアメリカ。
ですが、和名が“ニホンカボチャ”なんて種もありますし、カボチャの語源はカンボジアとも言われています。色々と紛らわしい野菜カボチャについて、種類・語源や原産地説と歴史を紹介します。
目次
カボチャとは? 概要と語源
カボチャの定義
カボチャとは、ウリ科カボチャ属(Cucurbita)に属する植物、その果実の総称です。
カボチャ属はウリ科の中で最も低温に強く、特にセイヨウカボチャ系の品種は冷涼な土地での栽培に適しています[1]。カボチャの種によって高温多湿に強い、暑さに強いなどそれぞれに特徴があり、土壌も選ばないことから広い地域で栽培されています。日本国内でも北海道から沖縄県まで、カボチャが栽培されています。
日本国内でみるとカボチャは北海道が生産量トップ。世界的に見ても。ロシアやウクライナなど冬が厳しい地域でも比較的多く生産されています。日本では冬場のビタミン源として“冬至カボチャ”を食べる風習があるように、カボチャは保存性が高いことも特徴。カボチャの種(パンプキンシード)はさらに日持ちがしますので、今よりも保存技術がなかった時代には重宝されていたことがうかがえます。
カボチャの種類と品種
カボチャ属の中には多くの種があり、分類方法によって認められている品種数にも違いがあります。とは言え、栽培種は以下の5種に絞られています[1]。
- セイヨウカボチャ:Cucurbita Maxima
- ニホンカボチャ:Cucurbita Moschata
- ペポカボチャ:Cucurbita pepo
- ミキスタカボチャ:Cucurbita argyrosperma(Cucurbita mixtaとも)
- クロダネカボチャ:Cucurbita Ficifolia
セイヨウカボチャ
セイヨウカボチャ(Cucurbita Maxima)は、現在日本で最も多く流通している“カボチャ”です。「栗かぼちゃ」や「えびすかぼちゃ」と呼ばれているものは、セイヨウカボチャ系品種。果皮の色は黒・緑・白・オレンジと様々で、形状も小ぶりな球状から大型、バナナスカッシュなど縦長系までバリエーションが豊富。5種のカボチャ類の中でも甘みが強く、でんぷん質の割合が高くホクホクとした食感のものが多いです。
ニホンカボチャ
ニホンカボチャ(Cucurbita Moschata)は、日本で室町時代頃から栽培されてきた種です。明治から栽培が広がった西洋かぼちゃと比較するような形で、和名では“ニホン”と付いていますが、原産は日本ではなくメソアメリカ。
黒皮かぼちゃ(ちりめんかぼちゃ)や沖縄の島カボチャ、京都の鹿ケ谷かぼちゃなどがあります。外皮の溝が深くゴツゴツとした見た目の品種が多いことが特徴。ただし、バターナッツや韓国カボチャ(カボッキー)のように、つるりと縦長の品種もニホンカボチャの一種です。
ペポカボチャ
ペポカボチャ(Cucurbita pepo)は個性的な外見・風味を持つ果実が多く、園芸用品種が多いことが特徴。ペポカボチャの代表と言えるのが、今や日本でもお馴染みのズッキーニ(Cucurbita pepo var. cylindrica)。見た目も、種の感じもキュウリに似ていますが、ズッキーニはカボチャの一種です。そのほかに金糸瓜(そうめんかぼちゃ)や、ハロウィンの飾りとして販売されているミニカボチャ・おもちゃカボチャ類も、ほぼほぼペポカボチャ。
ミキスタカボチャ
ミキスタカボチャはCucurbita argyrosperma(シノニムCucurbita mixtaとも)という種。果肉が薄くて種が多い・食感が水っぽいなどの理由から、日本で流通していません。日本だけではなく、アメリカ大陸以外ではほとんど栽培・流通されていない種。
クロダネカボチャ
クロダネカボチャ(Cucurbita Ficifolia)は英名でも“black seed squash ”と言うように、種が黒いことが特徴。また、種小名のficifoliaはイチジクのような葉を意味しており、他のカボチャの葉より切れ込みが大きいイチジクに似た葉をつけることも特徴。英語では“ figleaf gourd(いちじくの葉の瓢箪)”とも呼ばれています。こちらも日本では食材としては流通していませんが、抵抗力の弱い他のウリ類の接木用台木として使われているようです。
カボチャの語源と由来
和名かぼちゃ(南瓜/南京/唐茄子)の語源と由来
日本で一般的に使われている呼び名「かぼちゃ」は、ポルトガル語由来の言葉であるというのが通説になっています。と言ってもポルトガルでかぼちゃを“カボチャ”に近い言葉で呼んでいるというわけではなく、最初にポルトガル人が豊後国の大友宗麟にかぼちゃを献上した際に「カンボジア産の瓜」と紹介した[2]ことが、野菜の呼び名として認識されてしまったのがはじまり。
ポルトガル語ではカンボジアの事をCamboja(カンボジャ)と言います。これが日本人の耳にはカボチャと聞こえたか、言いやすいようカボチャに転訛したのでしょう。伝来当初はポルトガル人の紹介に忠実に「かぼちゃ瓜」と呼んでいましたが、日本で定着するに従って“瓜”が省略され「かぼちゃ」のみで呼ばれるようになりました。
かぼちゃの漢字表記は南瓜・南京・唐茄子
かぼちゃの漢字表記として、最もよく使われているのは「南瓜」。これは中国語をそのまま取り入れたものという見解と、日本で“(中国の)南京にある港から持ち込まれた瓜”という意味で付けられた[2]という説があります。南京と書いたり、そのままナンキンと呼ぶ人がいるのも、こちらの理由からでしょう。
かぼちゃの別名唐茄子(とうなす)も、由来は“唐(中国)から伝わった茄子”とほぼ同じ。
ナスとカボチャは同じウリ科ではあるものの、あまり似ていない野菜。ですが、江戸時代に編纂された『和漢三才図会』では形や色が熟したナスに似ていることが由来である、と紹介されています。カボチャの中には沖縄県の島カボチャのように、表面がつるりとしていて縦長のものもありますから、そちらからの命名なのかもしれません。
英名スクワシュ(squash)とパンプキン(pumpkin)の違いと語源
パンプキン(pumpkin)とスクワシュ(squash)の違い
日本で暮らしていると、カボチャの英語としてパンプキン(pumpkin)をよく使います。かぼちゃのスープはパンプキンスープ、パンプキンシチューやパンプキンパイなど料理名でも“パンプキン”をよく使います。期間限定フレーバーのお菓子などでは“パンプキン味”の表記もよく見かけますね。
ですが、私達が日本でよく食べている緑色の皮のカボチャはpumpkinではなく、squash(スクワシュ)と呼ばれるほうが多い存在。
学問上の定義ではありませんが、アメリカやイギリスでは果皮の色が濃い黄色~オレンジ色をしていて丸に近い形状のカボチャのみをパンプキン(pumpkin)と呼ぶのが一般的。それ以外の、果皮が白~緑色だったり、縦長・ひょうたん型をしているカボチャはsquash(スクワシュ)と呼んで区別しています。
- squash=ウリ科カボチャ属全般に使う
- pumpkin=果皮がオレンジ系・球に近い形状の果実
スクワシュ(squash)の語源・由来
カボチャ属の植物・果実全般を指すのに使われているsquash(スクワシュ)は、アメリカ大陸でアルゴンキン語族の人々が使っていた“askutasquash”という言葉が語源とされています。この言葉は生・未調理を意味する“askut”と、食べられるを意味する“asquash”を組み合わせた=生で食べられるものの意味だったようです[3]。これが英語に取り入れられ、短縮されたことでsquashになりました。
パンプキン(pumpkin)の語源・由来
パンプキン(pumpkin)の語源については、2つの説があります[4]。
1つは、古代ギリシアで熟していることを意味する“pepōn”、そこから派生してメロンやウリ科の果実を指すのに使われたラテン語の“pepo”または“pepon”が語源という説。これがフランス語でpomponに変化し、形の似ているカボチャを指す言葉として使われるようになったと考えられています。
もう1つは、アメリカ大陸・マサチューセッツ州南東部に暮らしていたワンパノアグ族の人々が使っていた“pôhpukun”という言葉が語源という説。“pôhpukun”は「丸く成長する」ことを意味する言葉で、転じてカボチャを指す言葉としても使われました。ただし、1990年代に始まったウォパナアク語を復活させる取り組み以前には“pôhpukun”という言葉が登場しないことから、英語のpumpkinから作られた言葉ではないか[4]という見解もあります。
カボチャのルーツと歴史
カボチャの原産地はアメリカ
カボチャの原産地はアメリカ大陸。
南北アメリカ大陸のどこが原産地かについては断定されていませんが、2006年に発表された遺伝学的および考古学的研究では、ペポカボチャが北米東部でトウモロコシやヒマワリよりも古くから栽培されていた可能性が示唆されています。また、ペポカボチャの祖先とみられる野生種が10,000年前にメキシコに存在していたという報告もあり[5]、現在はメソアメリカがカボチャの原産地という説が有力視されています。
発掘されているカボチャの種子や皮の断片から、古い時代のカボチャは現在よりも種が多く、果肉部分が薄く“瓜っぽい”果実だったようです。このため、当時のカボチャの主な可食部は、果皮や果肉ではなく種子。種を炒ったものを食べるほうがメインだったと推測されています。ベジタブル(野菜)ではなく、シード類だったのですね。余談ですが、現在でも欧米や中国などスナック感覚でかぼちゃの種を食べる国もあります。
5,000年以上も前に、既にカボチャ(ペポカボチャ)の栽培化・品種改良が行われていたこともわかっています。6,000年~5,000年前頃には、大きな大きな種子と大きな果実を持つペポカボチャ・果実は小ぶりで種の少ないペポカボチャと種類も分けられていたようです[5]。
セイヨウカボチャ・ニホンカボチャの原産は?
現在日本で最も一般的に食べられているセイヨウカボチャ(Cucurbita Maxima)は南アメリカのボリビアからアルゼンチンにかけての地域、ニホンカボチャ(Cucurbita Moschata)は中南米の熱帯地域原産とされています[6]。
ネイティブアメリカの3姉妹(Three Sisters)
ヨーロッパ人がアメリカ大陸へ到達するよりもずっと前、紀元前からカボチャはアメリカ大陸で暮らす人々によって栽培されていました。特に北アメリカのさまざまな先住民族にとって、カボチャは“3姉妹(Three Sisters)”と称される、重要な作物の一つ。もちろん北アメリカの農業で3つの作物しか栽培されていなかったわけではありませんが、この“3姉妹”が注目されているのはコンパニオンプランツとして組合せた共生栽培にあります。
地域によって“3姉妹”と数えられている植物には違いもありますが、オーソドックスな“3姉妹”はトウモロコシ・カボチャ・豆の3種類。この3種を合わせて植えることで、とうもろこしの茎は豆のツルの支柱になり、トウモロコシに絡んだ豆のツルは強風でトウモロコシを安定させる。豆は土壌中の窒素を固定し、カボチャの広い葉が地面を覆うことで土の水分保持・雑草の発生を防ぐ働きがある。と、互いに良い影響を与え合いながら成長してくと考えられています、
この“3姉妹”栽培方法は近年、理想的な農業法として注目されています。2009年に発行されたネイティブ・アメリカン硬貨(1ドルコイン)にも、この3姉妹の種を女性が蒔いている図案が採用されています。
ヨーロッパへの普及は16世紀末以降
南北アメリカ大陸で栽培・食用されていたカボチャは、ヨーロッパ人がアメリカ大陸へ到達したことをきっかけに世界へと普及していきました。と言っても、コロンブスによる“アメリカ大陸の発見”は1492年ですが、ヨーロッパでカボチャについての記述が見られるのは16世紀末以降[6]とほぼ100年後。これはヨーロッパから北米への移住が活発した1600年代初めと重なります。
当時のカボチャは温暖な気候を好み、ヨーロッパでは栽培に適さない地域が多かったことも普及が遅れた原因ではあります。また、カボチャの普及と同じ頃に北米へ移住した人々は、経済移民と呼ばれるあまり裕福でなかった人々が大半。カボチャはこうした移民の人々に、安価で入手できる、もしくは移住先で育てやすい作物として親しまれました。王侯貴族が目の色を変えた高級品ではなく、庶民の栄養源として親しまれ広がった食材と言えるかもしれません。
ハロウィンの代名詞になったカボチャ
カボチャが象徴になっている季節イベントとして、ハロウィンを思い浮かべる方も多いと思います。カボチャをくり抜いて作った“ジャック・オー・ランタン”は、日本でも秋マスコットキャラクターと言って良いくらいに定着していますよね。
ハロウィンは元々ケルトの文化・お祭りであることも認知されています。さぞ古くから…と思いがちですが、現在のようなハロウィンのお祭りや、ジャック・オー・ランタンを飾るという風習が広まったのは16世紀以降と考えられています。16~17世頃から、アイルランドを中心に「ハロウィンに、顔のように彫ったランタンを作って飾る」という事は行われていました。しかし、当時はカブを使ってジャック・オー・ランタンを作っていたことが分かっています。
ハロウィンにカボチャが使われるようになったのは、19世紀頃から。アメリカに渡ったアイルランド人が、大きいけれど価格が安いカボチャを使うようになったという説が有力視されています。私達の知る、あのジャック・オー・ランタンはアメリカ生まれと言えるのかもしれません。
日本へのカボチャ伝来
カボチャが最初に日本へ伝わったのは16世紀、1540年頃に九州の豊後(大分県)に漂着したポルトガルの難破船によるという説が有力視されています。1548年には交易の許可を願うため藩主だった大友宗麟にカボチャが献上され、Camboja(カンボジャ)の瓜であると紹介されたことでカボチャと呼ばれるようになります[2]。
ちなみに、この時伝わったカボチャはニホンカボチャ(Cucurbita Moschata)系の品種。大友宗麟に献上されたと伝えられるカボチャは“宗麟かぼちゃ”と呼ばれ、現在も栽培されています。18世紀頃までには九州だけではなく全国的にカボチャは普及し、栽培されていました。
現在、日本で多く流通しているセイヨウカボチャ(Cucurbita Maxima)は、江戸時代末期に一度アメリカから伝えられています。しかし、そのときは普及しませんでした。明治になり、冷涼な土地でも栽培でき保存が効く点が注目され、北海道を中心に北海道や東北・長野などの寒冷地で栽培されるようになります。大正に入る頃には全国に栽培が広がり、米や小麦の不足した戦時中~戦後には貴重な作物・炭水化物源としても重宝されました。
【参考サイト】
- 野菜なんでも百科 カボチャ | タキイの野菜 【タキイ種苗】
- かぼちゃの語源・日本伝来の歴史とは?カンボジアが名前の由来なの?
- squash | Etymology, origin and meaning of squash by etymonline
- pumpkin — Wordorigins.org
- Eastern North America as an independent center of plant domestication
- The Pumpkin and the Squash – A Little History and Some Growing Instructions
- The History of Squash: University of Illinois Extension
日持ちがして、βカロテンやビタミンなど冬場に不足する栄養素がとれるカボチャ。冬至かぼちゃも栄養補給による健康増進の役割があったと考えられていますし、今よりも栽培や保存技術が低かった時代、特に雪国圏ではありがたい作物の一つだったんでしょうね。
マッシュしたじゃがいもを使った“いもだんご”は北海道の隠れ名物として時々取り上げられていますが、実は“かぼちゃだんご”もあります。カボチャの皮を入れるか、抜くかが家庭によって違うくらいで、作り方はほぼ一緒(笑)油多めで表面をカリっと焼くと美味しいです。
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