トマトは世界中で避けられていた?!
-トマトの歴史と由来、普及の歴史を紹介

トマトは世界中で避けられていた?! <br/ >-トマトの歴史と由来、普及の歴史を紹介

サラダ野菜としても、トマトソースやケチャップとしても、私達の生活に定着しているトマト。居酒屋などでは“冷やしトマト”が定番になっていたりもしますが、日本古来の野菜ではないな~という印象も強いのではないでしょうか。イタリアンに多く使われているので、トマトはヨーロッパの野菜と思われている方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、トマトはヨーロッパでも北米でも、そして日本でも、観賞用植物とされていた歴史がある植物。今や世界中で食べられてる野菜ですが、食材として広まったのは長い歴史の中では比較的最近。トマトが世界に広まったのはいつ頃か、なぜ食用とされなかったのかを紹介します。

トマトとは? 概要と語源

トマトの定義

トマトは学名Solanum lycopersicumというナス科ナス属の植物、もしくはその果実のことを指します。トマトをプランターなどで栽培する時には1年限りということも多いですが、自然に生えているトマトは2年以上生きられる多年生植物(多年草)です。

普段私達が食材として食べているトマトは、植物学的には果実。より厳密に言うと漿果(液果)、つまりベリーの一種として扱われています。植物学上のベリーの定義は、簡単に言えば“子房壁が果皮となり、多肉化して成熟後も水分を多くもっている”ことなのでキュウリなども該当します。

キュウリよりは、トマトのほうが果物・ベリーの一種というイメージにあっている存在と言えるかもしれません。ただし、食材としてトマトを利用する場合、果物としてデザート感覚で食べることは稀。このためトマトは、草本植物の果実をおもに食用とする野菜=果菜類に分類されています。

ちなみに、トマトが含まれているナス科ナス属。
名前から、そのものすばりナス(茄子)を連想しますよね。ナスももちろんナス科ナス属に含まれていますが、ナス属(Solanum)は約1,500〜2,000もの種を含む大きなグループ。ナスとトマトだけではなく、ジャガイモもナス属ですし、メロンのような風味のある“ペピーノメロン”もナス属。芋から野菜・フルーツまで幅広いですね。

トマト自体の品種も豊富

ナス属にはジャガイモ、ナス、トマトなど多くの種が含まれています。
さらに、トマト(Solanum lycopersicum)もまた、数多くの品種がある植物。

現在進行系でトマトの品種数は増え続けているため、厳密な品種数はわかりませんが、世界には10,000種以上トマトの品種が存在しています。日本国内で品種登録されている240種類[1]と、トマトはとんでもなく品種数が多い野菜の一つです。品種によって果皮の色も赤、ピンク、オレンジ、黄色、白~緑、褐色~紫と様々。ゼブラトマトと呼ばれる、スイカに似た縞模様のトマトもありますよ。

ピンク色のトマトと言われてもまったくピンときませんが、実は日本で食べられている中玉~大玉トマトはピンク系トマトが主流とされています。大きめのトマトは、ミニトマトと比べると赤みが薄く、オレンジかかった色をしていると思います。割るとタネ周りが緑っぽい、もしくは白っぽいタイプ。あれがピンク系(桃色系)と言われるトマトです。

プチトマト/ミニトマトは日本にしか無い?!

日本ではスーパーなどで必ず販売されているミニトマト(プチトマト)。
そのままサラダに入っていたり、料理やお弁当の付け合せに使われていたりと、ミニトマトの方が口にする・買う機会が多いという方も珍しくないくらいですよね。

そんな馴染み深いミニトマトですが、時々「海外にはプチトマト/ミニトマトはない」なんていうネタもあります。これは欧米には大きいトマトしかない、という意味ではなく、プチトマトもしくはミニトマトは和製英語であるというお話。

各国で、一口大の小ぶりなトマトは食べられています。
私達がミニトマトと呼んでいるようなトマトは、英語では“cherry tomatoes(チェリートマト)”と呼ぶことが多いようです。ただし、チェリートマトはミニトマト系の品種名でもあり、同じく小型トマトにはグレープトマトなんてものもあります。このため、不特定の小粒トマトを表現したい場合には、Small TomatoesやTiny Tomatoesという表現も使われています。

トマト(tomato)の語源と由来

もはや日本語としても使われている英名tomato(トマト)の語源は、アステカ・ナワトル語の“tomatl(トマトゥル)”という言葉。“tomatl”は元々「ふくらんだ果実」を意味し、食用ホオズキを指す言葉として元々使われていたようです[1]。これがスペインに伝わりtomateになり、英語ではtomatoと言いやすい形に変化していきました。

ナワトル語tomatl系統の呼び名が定着する以前、ヨーロッパではトマトを別の呼び方で表現していました。以下のように、ヨーロッパで馴染み深かったリンゴになぞらえた呼び方が採用されています[2]。

  • イギリス:love-apple(愛のリンゴ)
  • フランス:pomme d’amour(愛のリンゴ)
  • スペイン:pomi dei mori(ムーア人のリンゴ)
  • イタリア:pomi d’oro(黄金のリンゴ)

イタリアのpomi d’oro(黄金のリンゴ)は、果皮が黄色いタイプのトマトが最初に伝わったためと考えられています。フランス語や英語で“愛の”リンゴと呼ばれてたのは、トマトに媚薬効果があると信じされていた説・イタリアの d’oro を誤訳したという説があります[2]。

ちなみに、英語だけではなくフランスやスペインでも“tomate”とナワトル語系の呼び方が採用されていますが、イタリアでは今でもトマトはポモドーロ(pomodoro)。黄金のリンゴという呼び方が残っています。

トマトの和名は蕃茄? 唐柿?

突然ですが、トマトの和名(別名)をご存知でしょうか?
胡瓜南瓜のように「トマト」という音をそのまま読み仮名にする漢字こそありませんが、トマトには漢字表記の別名もいくつかあります。時々クイズ番組の問題として出題されていることもありますね。

トマトの別名として使われているのは、主に下記の3つ。

  • 赤茄子(あかなす)
  • 唐柿(とうし)
  • 蕃茄(ばんか)

そのほか、マイナーなトマトの呼び名としては、小金瓜、珊瑚樹茄子なんてものもあります。

赤茄子は、ナス系統の野菜で赤い果実を実られせるものの意味。
唐柿は「唐(中国もしくは外国)から伝わった柿(のような果物)」が由来です。この2つの呼び名は日本で命名されました。

最後の蕃茄の“蕃”も外国や異民族を示す漢字です。
“茄”はナスを意味する漢字なので「外国のナス」という意味で命名されたのでしょう。呼び名の由来としては、唐柿とほぼ同じです。ただし、蕃茄は、トマトが日本に伝わった時に中国で使われていた表記[3]。中国語の表記をそのまま導入して、読み方だけ日本人の言いやすい形に変えたものです。

トマトのルーツと歴史

トマトは南米原産

トマトのルーツは南アメリカ西部、アンデス山脈(ペルー、エクアドル)周辺地域と考えられています。南アメリカには現在私達が食べているトマト(Solanum lycopersicum)の野生種であるマイクロトマト(学名:Solanum pimpinellifolium)が自生しており、これが南アメリカで栽培されるようになりました。

完全なトマトの野生種はブルーベリーサイズ、人の手によって栽培されたトマトはチェリータイプトマトと呼ばれるミニトマトサイズに…と、その果実も大きくなっていきました。さらに、メソアメリカに伝わり栽培されたことで、私達の知るトマトの大きさへと変化していきます[4]。

メソアメリカでトマトがいつから栽培・利用されていたのかは分かっていませんが、紀元前500年までにはメキシコあたりでの栽培も行われていたと推測されています[5」。16世紀にスペインによって滅亡させられたアステカ帝国でも、数種類のトマトを栽培し、食用していました。

ヨーロッパに伝わったのは16世紀

トマトがヨーロッパに伝わったのは16世紀。スペイン人征服者で、アステカ帝国を滅亡させたエルナン・コルテスがヨーロッパへと持ち帰ったと伝えられています[5]。

このときのトマトは温暖な地域で栽培されてきた植物。ヨーロッパで栽培が可能だった地域は限られていました。気候が温暖であり、トマトの栽培が可能だったスペイン政府は自国・植民地の両方でトマトの栽培を推奨しましたが、他のヨーロッパ諸国ではトマトは“珍しい観賞用植物”という扱いでした。

ヨーロッパでトマトが避けられた背景には、トマトの独特な風味だけではなく、ビジュアルの問題もありました。当時ヨーロッパで毒薬として恐れられていたベラドンナと、トマトの外見がよく似ていたため「トマトは毒がある」と考えられたのです。

ちなみに、トマトの学名に使われているlycopersicumも、ギリシャ語“lycos(狼)”と“persicos(桃)”を組み合わせたもの。この命名についても、毒草ベラドンナに似ている=狼駆除に使われる毒である、もしくは、美味しそうな果物(桃)だが食べると毒(狼)である、など毒草と考えられたことが由来との説が多く存在しています。

イタリアでのトマト普及も比較的早め

ヨーロッパの多くの国で毒があると信じられていたトマト。ですが、イタリアでは1550年ころまでに定期的に消費されていた[2]との記述もありますので、イタリアでも比較的早い段階で食材として認知されていたことがわかります。

トマトが食べられるようになった理由としては、飢餓が起こり食べるものがなかった人々が口にした[3]という説があります。貧困層・貧しい農村部の人々が空腹に耐えかねて口にしたものの、毒はなく、案外美味しかったということでしょうか。イタリアでも地域によってトマトを口にする・しないの時差は大きく、フィレンツェなどでは17世紀後半まで食材として普及していなかったようですよ。

18世紀にトマトはヨーロッパ、北米に普及

16世紀から局地的に食用されてきたトマト。
食べられることに気づいた人が多くなるにつれ、野菜としての栽培や品種改良も行われるようになります。トマト独特の食味もヨーロッパの人々の口に合うよう改良され、美味しくトマトを食べるための料理法も確立していきました。スペインとイタリアではドライトマト、ソーストマト、ピザトマト、長期保存に適したトマトなど、用途に合わせた品種改良も進められていきました。

トマトがヨーロッパに伝わって約200年後、18世紀から19世紀の時期にやっとヨーロッパでもトマトが野菜として定着しました。トマト原産地にほど近い北アメリカでも、実はトマトが食材として見られるようになったのは18世紀末以降。1789年に当時は国務長官だったトーマス・ジェファーソンが、パリでトマトを食べてアメリカでも栽培しようと導入しましたが、上手くいかなかったようです[2]。北米でトマトが定着したのは19世紀に入ってから。比較的歴史が浅いんですね。

トマトケチャップとトマトスープ

アメリカの代表的なトマト製品といえば、ケチャップとトマトスープ缶。

トマトケチャップが最初に作られた時期は“どの段階からをトマトケチャップと呼ぶか”によって諸説ありますが、古いものでは18世紀末~19世紀初頭くらいのレシピに登場しています。トマトはあまり日持ちのしない食材なので、香辛料と一緒に煮ておくことで保存できるようにするのが当時の定番。

1850年頃になると、アメリカでは各家庭でトマトケチャップの作り置きが作られていました。このため、アメリカでは生野菜としてのトマトの普及よりも、トマトケチャップの普及の方が早かったなんて説もありますよ。ちなみに、ハインツ社によって瓶詰めトマトケチャップが発売されたのが1876年。

ケチャップの歴史はこちら>>

アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)の作品にもなっている、あのキャンベルのTOMATO SOUP缶詰が登場するのはハインツのケチャップよりも少し後。キャンベルでは1895年にBeefsteak Tomatoという缶スープを発売しており、1897年にはその改良版と言える濃縮トマトスープ缶が発売されました。

日本でのトマトの歴史

日本にトマトが伝わったのは、江戸時代、17世紀のことです。
1668年には狩野探幽のスケッチに“唐なすび”として登場しており、1709年に刊行された貝原益軒の本草書『大和本草』にも“唐がき”としてトマトが記載されています[6]。

ただし、江戸時代の日本でもヨーロッパと同じくトマトは珍しい観賞植物という扱いが主。当時のトマトは今私達が食べているものよりも青臭みが強く、かつ日本人は今よりも風味の強い食材も苦手でした。派手な赤色も相まって、食材として親しみやすいとは言えなかったのでしょう。

日本で野菜としてトマトが普及するようになったのは、明治以降
明治に入ると日本政府は欧米から、野菜や果物を取り寄せて国内での栽培を推奨しています。トマトもまた、タマネギやジャガイモとなどと共に導入された西洋野菜の一つです。

とは言え、肉じゃがなど和食系家庭料理に取り入れられたタマネギやジャガイモとは異なり、トマトは現代でも“洋食に多く使う”というイメージの強い野菜。これは、トマトが日本で広く普及したのは、洋食屋さんのメニューから広まったという背景があります。醤油や味噌で煮たり焼いたりするのではなく、洋食の普及とともに広がっていった野菜なんですね。

日本のトマト普及に一役も二役も買ったのがケチャップ。
カゴメの創業者である蟹江さんが、西洋ではトマトを加工して使うことをヒントに、1903(明治36)年にトマトソースを、1908年には国産のトマトケチャップとウスターソースを販売します[6]。当時は洋食がブームになっていた時期。加工されたことで青臭さが薄れたトマトソースやケチャップも、洋食の調味料として受け入れられました。大正頃からは家庭料理でも洋食が作られるようになり、トマトケチャップもおなじみの味として定着していきました。

ちなみに、20世紀にアメリカから日本人の口に合いやすいピンク系大果品種が導入されたこと、もしくはそれを元に品種改良されたトマトが流通するようになってからと言われています。

【参考サイト】

  1. トマト博士になろう! – カゴメ株式会社
  2. love-apple | Etymology, origin and meaning of love-apple by etymonline
  3. トマトは和名(別名)でなんて言う?意外とたくさんあった! | トマトマト
  4. Genomic Evidence for Complex Domestication History of the Cultivated Tomato in Latin America
  5. Tomato History – Origin and History of Tomatoes
  6. カゴメ株式会社|トマト大学 文学部
トマト=イタリアなイメージがあった筆者です。実はヨーロッパでのトマト先進国はスペインだったという事実にビックリ。チョコレート(カカオ)とかもスペインのほうが先に取り入れていたりしますしね。原産地にほど近いアメリカでも、宗教的な弾圧とかではなく、普通に食べられるのが遅かったあたりトマトがちょっと哀れです。

江戸~明治初期の日本人がトマトを受け入れられなかったのは、納得なのではないでしょうか。青臭さが強いだけではなく、赤い実で中からドロっとしたものが出てくる…武士にめちゃくちゃ嫌われそうなビジュアルでもあるような。