メロンは元々キュウリみたいだった?!
-呼び名の由来・甘い果物になるまでの歴史

メロンは元々キュウリみたいだった?!<br />-呼び名の由来・甘い果物になるまでの歴史

ちょっぴり贅沢感のあるフルーツ、メロン。
甘くジューシーな果肉と独特な芳香が特徴的な果物で、好き嫌いはあれど、子どもからお年寄りまで知っている食材の一つ。「昔食べていたメロンはもっと瓜っぽかったんだよ」という話を聞いたり、実際にご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

今回はそれよりももっと大昔、紀元前まで遡ってメロンの歴史を紹介します。メロンの歴史は長く、かつ、世界的に食べられている果物ですが、私達が知っているメロンが出来たのはごく最近。しかも、その歴史は謎に包まれています。

メロンとは? 概要と語源

メロンの定義と種類

植物分類での、メロンの学名はCucumis melo
ウリ科キュウリ属に分類されています。属名の通り、メロンはキュウリと比較的近い種類。同じウリ科にはスイカも含まれており、どれも一年生のつる性植物(草本植物)です。このため樹木に実る果物ではないとして、キュウリと同じく“果菜”という野菜の一種であると扱われることもあります。

しかし、甘いメロンの主な用途はデザート。野菜にされると消費者とってはわかりにくいので、食品流通や栄養学などの分類でメロンは、果物もしくは“果実的野菜”という扱いをされていることが多いです。スーパーでも、スイカもメロンも果物コーナーで販売されていますしね。

また、メロン(Cucumis melo)には数多くの品種があり、品種群で区分されています。
普段「メロン」と呼ぶことはありませんが、日本で古くから親しまれてきたマクワウリ(真桑瓜/味瓜とも)やシロウリ(白瓜/漬瓜とも)なども、種としてはメロンと同じCucumis melo日本では縄文時代頃からマクワウリが食べられていたので、慣例的に、古くから食べられていた甘みの少ない種類は〇〇瓜、昭和ころから普及した西洋系の甘みの強い品種は〇〇メロンと呼び分けるようになっています。

英語「melon」は、ウリ科食材に色々と使われる

Cucumis meloの中でも一部の果物をメロンと呼ぶ日本とは反対に、欧米でメロンという言葉は、かなり広い植物を含む言葉として使われています。WordSense Dictionaryで「Melon」という単語を検索してみると「キュウリ以外の、食用目的で育てられたいくつかのウリ科植物」と紹介されています[1]。

身近なところでいうと、スイカは英語でwatermelon。
キュウリ属ではないウリ科の植物では、冬瓜を英語でwinter melon、ゴーヤは英語でbitter melonと呼びます。日本人が西瓜・冬瓜・苦瓜のように“瓜”という言葉を使う感覚で、英語ではmelonという言葉が使われているんですね。

スイカの歴史・語源はこちら>>

メロンの種類について

日本でメロンと呼ばれているCucumis meloには、様々な品種があります。
その中で世界的に“果物”として食べられているメロンは、主に3つの品種群に分類されています[2]。

  • レティクラトゥス群:Cucumis melo var. reticulatus
  • カンタルペンシス群:Cucumis melo var. cantalupensis
  • イノドルス群:Cucumis melo var. inodorus

日本の場合は、プラスしてマクワウリ群(学名Cucumis melo var. Makuwa)や、マクワウリとカンタロープを交配させたプリンスメロンなどの品種も見かけますね。

なお、メロンの品種群については様々な分類法があり、今もどの分類が正しいという決着はついていません。また、異なる品種分同士での交配も行われているので、どのグループに入れるか曖昧な品種もあります。
以下では、それぞれの品種群の代表的な品種を紹介します。

レティクラトゥス群

レティクラトゥス群(Cucumis melo var. reticulatus)のメロンは、表面に細かな網目模様がある、果肉は麝香のような香りがあることが大きな特徴。最も広く栽培されている品種群とされています[2]。

代表的なレティクラトゥス群のメロンには、アールスメロンやアンデスメロンがあります。また、北米で一般的に“カンタロープ”と呼ばれているメロンも、こちらのレティクラトゥス群に分類されるメロンです。

カンタルペンシス群

カンタルペンシス群(Cucumis melo var. cantalupensis )のメロンは、果皮が滑らかなタイプ・イボのように凸凹したタイプ、両方の種類があります。こちらも果肉は麝香のような甘い香りがします。

ヨーロッパで一般的に“カンタロープ”と呼ばれているメロンの多くはカンタルペンシス群に分類されます。フランス原産のシャラントメロン(カンタロープ・ディ・シャラント)などが代表的です[3]。

イノドルス群

イノドルス群(Cucumis melo var. inodorus)は別名フユメロン群とも呼ばれ、果肉の香りが薄い、もしくは無臭であることが特徴。代表的なメロンとしては、ハニーデューメロン系、カサバメロン系があります。そのほかペルシャメロンや、スペイン原産でサンタクロースメロン(クリスマスメロン/ピエルデサポ)と呼ばれるメロンもイノドルス群に含まれます。

マスクメロンとは?

日本でマスクメロンと呼んでいるメロンは、正しい英語だと“Muskmelon(ムスクメロン)”
呼び名の由来は、熟すとMusk=麝香のような香りを放つメロンのことです。

マスクメロンという品種やグループがあるわけではなく、ムスクのような芳香をもつメロンの総称が「マスクメロン」なのです。このためマスクメロンには、レティクラトゥス群のメロンも、カンタルペンシス群のメロンも含まれています。

メロン(melon)の語源と由来

私達が普段使っているメロンという言葉は、英語melonの音をそのまま拾ったもの。

英語melonの語源は、古代ギリシアで使われていた「mēlopepōn」という言葉に辿り着きます[1]。このギリシア語「mēlopepōn」は、リンゴを意味する“Mēlon”と、熟していることを意味する“pepōn”という言葉を組み合わせて作った造語。後に“pepōn”はメロン、カボチャなどウリ類を広く示す言葉としても使われます。

カボチャの歴史はこちら≫

また、古いギリシア語での“Mēlon”はリンゴに限定した言葉ではなく、ベリー以外の果物に対して広く使われる言葉でした。例えば、古代ギリシアでは桃のことをMelon Persikon(ペルシャのリンゴ/果実)という呼び方をしています。その点を考慮すると「mēlopepōn」は、果物として食べられる瓜やヒョウタンの一種、という意味合いだったと考えられます。

桃の語源・歴史についてはこちら>>

ギリシア語「mēlopepōn」はラテン語に取り入れられると「melopeponem」に、中世ラテン語では短縮されてて「melonem」に変化していきます。13世紀頃の古フランス語では「melon」となり、英語に取り入れられて現在使用されているmelonになりました[1]。

メロンは漢字で「舐瓜」

メロンは漢字で甜瓜(てんか)と表記されることもあります。
余談ですが「めろん」と入力して変換すると舐瓜が候補に出てきますが、goo辞書などで“舐瓜”を検索するとヒットしません。甜瓜で検索するとメロンについてや例文が表示されるので、甜の字が正しいのでしょう。

甜瓜の「甜」の字は分解すると“舌”に“甘い”。
漢字自体もそのまま「甘い」という意味があるので、甜瓜の由来は「甘い瓜」です。ちなみに、マスクメロンは麝香甜瓜。麝香(ムスク)の香りする甘い瓜…と、文字の意味を素直に拾っていくと、美味しそうなのかちょっと微妙な印象です。

甜瓜は元々、古くからあった甘い瓜=マクワウリをさす言葉でした。しかし、西洋からもっと甘みの強いメロンが伝わり普及するようになると、甜瓜という表記はメロンに使われるように変わっていきました。それまで甜瓜だったマクワウリの方は、当時名産地だった岐阜県真桑村の地名をつけて真桑瓜になりました。

メロンのルーツと歴史

メロンの原産は?

メロンを含むウリ科キュウリ属の植物はアフリカ、インドや東南アジアなど各地に自生しています。
私達が食べているメロン(Cucumis melo )の起源は断定されていません。かつてはアフリカ原産であるという説が指示されていました。しかし、現在は遺伝子研究によってイランやインド、中央アジアにかけての地域を原産地とする説が有力視されています[4]。

原産地として有力視されているイランでは、紀元前3000年頃のものとみられるメロンの種子が発掘されています。このため、紀元前3000年頃にはイラン(当時のペルシア)ではメロンの栽培も行われていたと考えられています。また、インドでも今から3500年以上も前のメロンが発見されており、メロンの栽培が古くから行われていたと推測されています。

メロンは紀元前のうちに、ユーラシア大陸の東西へと広がっていきました。そして他の野菜や果物と同じく、伝播した土地土地の気候や人々の好みに合うように、少しづつ違った品種に変化していったと考えられます。現在、私達がメロンと言われてイメージする甘くジューシーなメロンは、原産地から地中海方面に伝わり改良が重ねられたものです。

古代のメロン

メロンは紀元前から、古代エジプト・古代ギリシアなどで栽培されていたと考えられています。とは言え、古代から中世にかけてのメロンの歴史はハッキリわかっていません。

これは、古い時代、メロンとスイカ、そのほかウリ類の区分が曖昧だったため。ギリシア語やラテン語ではメロンとスイカ両方に同じ呼び名が使われていたり[2]、壁画などでは「これはメロンだ」「これはスイカだ」の両主張があるものがあったりと、人が残した記録は発掘された種子のように断定できないものが多いのです。

遺跡・壁画などの描写から、紀元前に栽培されていたメロンは、スネークメロン(Cucumis melo var. flexuosus)系の、キュウリに似た細長い形状でした[5]。現在のメロンのような芳醇な香りも、甘さも無く、食味としてもキュウリに近い存在だったと考えられます。甘みを楽しむデザートではなく、野菜として使われていたのでしょう。ウリ類は水分が多いので水分補給源としても重宝されたのかもしれませんね。

キュウリの歴史はこちら>>

メロンとスイカが明確な表記が見られるようになるのは1世紀から。古代ローマの大プリニウスが著作『博物誌』の中で“pepoは非常に爽やかで、 melopepoはマルメロの形をしていて芳香がある ”と書いているのが、はじめてメロンとスイカを区分した記述であるとされています[2][4]。ちなみにマルメロはセイヨウカリンという、カリンや洋梨のような形状をした果皮が黄色の果物です。

ただし、この当時、メロンについて“甘い”や“デザート”という表記はありません。古代ローマの料理本『アピシウス』に掲載されているメロンの調理法も、食事用というレシピなので、甘く美味しい果物という位置付けではなかったのでしょう。

中世以降に甘いメロンが登場

現在のように甘みの強いメロンが、いつ、どこで誕生したのかも断定されていません。
10世紀のアラブ人、イブン・ハウカル(Muḥammad Abū’l-Qāsim Ibn Ḥawqal)という方が、ベルシアの村で栽培されている“見た目は醜いが、甘く食べやすい、細長いウリ”があったことを記録しています[2]。このため甘みの強いメロンが誕生した時期は特定されていませんが、9世紀~10世紀には中東・中央アジアに甘いメロンがあったのではないかとの説もあります。

ヨーロッパでも11世紀になると甘いメロンと思われる記述が登場していますが、甘いメロンがヨーロッパで知られた存在になるのは15世紀頃から。アルメニアを通じて、イタリアやその近隣国に導入された[2]と伝えられています。このため甘みの強い、現在のメロンに近い品種は中東・中央アジア地域で作られたのではないかと考えられます。

後に新大陸(アメリカ大陸)が発見されると、メロンもアメリカへ導入されます。コロンブスも1494年に、イサベラ島にメロンを植えたそうですよ。1683年にはスペイン人によってメロンはカリフォルニアで栽培されはじめ、気候が生育に適していた西海岸側の地域を中心にメロン栽培が進められていきます[6]。

イギリスでメロンは高級品?!

15世紀頃から甘い、マスクメロンと呼ばれるようなメロン栽培が本格化したヨーロッパ。しかし、ヨーロッパ全域でメロンが栽培出来たわけではなく、栽培に適さない地域もありました。

その代表的な国と言えるのがイギリス。気候の問題からメロン栽培が上手くいかなかったイギリスでは、温室を使ってメロンを育てる“温室メロン栽培”の方法が考案されました。メロンやキュウリなどを温室で栽培することが富裕層のステータス、という時代もあったようですよ。

そんな背景もあってか、温室メロンの代表品種であり、日本で栽培されているメロンのご先祖様とも言える品種“アールス-フェボリット(Earl’s Favourite)”が誕生したのもイギリス。この品種は19世紀にイギリスのラドナー伯爵邸の農園長だったH.W.ワードによって育成されました[7]。伯爵の(Earl’s)+ お気に入り(Favourite)という呼び名は、ラドナー伯爵はこのメロンをとても気に入っていたことが由来。

日本でのメロンの歴史

日本でも縄文・弥生時代の遺跡からマクワウリの種子が出土していますから、紀元前のうちにはメロン類と言える植物が伝わっていたことが分かります。しかし、日本で食されてきたのはマクワウリなど“東洋系メロン(Oriental melon)”とも称される、中東やヨーロッパで食されていたメロンとは別系統の品種。現在のような濃厚な風味のヨーロッパ系メロンが伝わったのは明治からと、メロンの歴史を考えればごく最近のことです。

明治にはイギリスからアールス・フェボリットの種子が導入され[7]、ガラス温室栽培方法などメロン栽培のノウハウを学びながら日本でも栽培が行われ始めました。対象に入るとマスクメロンの栽培が本格的に行われるようになり、イギリスと同じく財閥・富裕層の人々は自邸内でメロンを栽培していたそうです。当時のメロンの販売価格も高値だったため、昭和初期までにはメロン=高級フルーツという印象も定着していたようです。この時点ではまだ、一般庶民は昔と変わらずにマクワウリを食べていました。

第二次世界大戦後、高度経済成長期頃になるとマクワウリと西洋系メロン(カンタロープ)の交配種である“プリンスメロン”が登場します。このプリンスメロンは「日本初の大衆メロン」とも呼ばれるように比較的安価で売り出され、一般家庭へのメロン普及の引き金となりました。その後アンデスメロンを始めとする様々な交配品種が作られ、現在ではメロンの品種数・品質共に日本は世界トップレベルとも称されるほどになりました。

【参考サイト】

  1. melon: meaning, origin, translation – WordSense Dictionary
  2. Medieval emergence of sweet melons, Cucumis melo (Cucurbitaceae)
  3. 8 Different Types of Cantaloupes You Can Enjoy
  4. Genetic diversity among melon accessions from Iran and their relationships with melon germplasm of diverse origins using microsatellite markers
  5. Medieval History of the Duda’im Melon (Cucumis melo, Cucurbitaceae)
  6. Muskmelons Originated in Persia
  7. 温室メロンの歴史と品種

「北海道のメロン、そんなに美味しいかねぇ」と思ったりしている、北海道出身者です。個人的にはメロンよりスイカ派。ですが、まぁ、メロン=贈り物に使える高級感あるフルーツ、というイメージはありますよね。メロンよりお高いスイカもあるけど、イメージ的にね……。

メロンは世界的に食べられているものの、その歴史は謎が多い存在。このブログを書いていると古くからあって定番な食材や料理のほうが、ルーツがわからなくなってる事が多いのかなと思います。遺伝子なんて概念のない、体系化もほぼ出来ていない大昔は、果物や野菜の区別がめっちゃアバウトですしね。