中国で桃は人気の縁起物?
-桃の語源と歴史、伝説・伝承を紹介

中国で桃は人気の縁起物?<br />-桃の語源と歴史、伝説・伝承を紹介

しっかりとした甘さと、ジューシーさが特徴の桃。缶詰などで一年中食べられますが、旬の時期に食べられる新鮮な桃の美味しさは格別です。桃はお爺ちゃんお婆ちゃんの代でも馴染みのある果物。童話『桃太郎』や桃の節句、夏の土用の桃の葉湯などもあり、日本でもずっと昔から食べられてきた果物のように感じます。

しかし、実は桃が日本で親しみのある果物になったのは明治以降。にも関わらず日本で桃が伝統的に使われている理由、中国ではどうして桃が愛されているのか、など桃の歴史を紹介します。

桃(モモ/Peach)とは? 概要と語源

桃の定義と種類

桃がなる木は、植物としてはバラ科に分類され、学名はPrunus persica
とは言え、バラ科の分類は曖昧で、国や専門家の間でどの分類方法を採用するかが分かれています。桃に関してもスモモ属(Prunus)にするか、モモ属(Amygdalus)にするのかが異なり、日本のWikipediaではモモ属の Amygdalus persicaの方が採用されています。
英語版やヨーロッパ系のWikipediaだとPrunus persicaが主流です。

桃と比較的近い果樹としては、スモモ(プラム)や杏(アプリコット)、梅などがあります。スモモの語源は、桃より酸味が強い“酸っぱい桃”でスモモとされていますよ。また、スモモ属モモ亜属もしくはモモ属(Amygdalus)と、桃ととても近い植物として分類されているのはアーモンド[1]。果物のスモモやアプリコットよりも、ナッツのアーモンドのほうが桃と近い種…ちょっと不思議ではないでしょうか。

桃の種類

日本で桃(Prunus persica)は以下4つの品種系統に分類されています[2]。

  • 水蜜種系
  • ネクタリン種系
  • 蟠桃(ばんとう)種系
  • 花モモ系

このうち、果物の「桃」として主に食べられているのは水蜜種
最後の花モモは果実を食用とするのが目的ではなく、花を楽しむことが目的の観賞用品種です。

一般的な果物の「桃」と言える水蜜桃もしくは水蜜種は、果肉の色によって更に白桃系統と黄桃系に分けられます。水蜜桃という品種の桃は存在せず、明治に中国から入ってきた桃もしくはそれを品種改良した桃の総称です。水蜜桃=丸い形状で果皮に産毛が生えている桃の総称、という認識で良いでしょう。

ネクタリン(Nectarine)は、果皮のツルリとしていて色が濃く、水蜜種の桃よりもプラムに近いビジュアルの桃。水蜜系に比べると果肉がみっしりしていて、味も濃いことが特徴です。日本で流通しているネクタリンは果肉が黄色いものが大半ですが、水蜜種と同じく果肉が白い品種もあります。

蟠桃と呼ばれる種類は、平べったい形が最大の特徴。種も小さめで、中心(ヘタとお尻の部分)が窪んでいることから、英語ではドーナッツピーチ(Doughnut Peaches)とも呼ばれています。水蜜種系の桃よりも甘みや香りが強く、果肉もしっかりとした食感。美味しい桃として評価されているものの、栽培に手間がかかることから生産数が少なく“幻の桃”とも称される存在です。日本では“幻”ですが、ヨーロッパでは流通量も多いようです。

ちなみに、欧米などでは種の取りやすさから、ポロッと簡単に種が果肉から外れる“フリーストーン(Freestone Peaches)”と、果肉から種が外れにくい“クリングストーン(Clingstone Peaches)”に分ける。果肉の色で白桃系統と黄桃系に、果肉の食感から溶けるようにジューシーなMeltingと果肉がしっかりとしているnon-melting[2]の2つに。というように、ピックアップした特徴に合わせて品種を大別しています。

こうした区分・分類の中でも、特徴的な桃であるネクタリン(Nectarine)と蟠桃(Doughnut Peaches)は、別枠で紹介されていることが多いです。

桃の語源

桃という漢字の由来

さくらんぼを“桜桃”とも言うように、桃という文字は古くから使用されてきました。
桃という漢字は「木」と「兆」の組み合わせで出来ています。

木はそのまま、樹木のこと。
兆という文字は現在だと、前兆などのように前触れを意味したり、数を数えるときの1億の上の位を意味したり、というところで使われています。しかし、兆という文字は元々“占いをする時に亀の甲羅に現れる割れ目”を意味する象形。ここから転じて占いや前触れを指す文字になったほか、甲羅が割れる様から“2つに割れる”ことを示す際にも用いられています[3]。

このことから、桃という漢字の由来は「2つに割れる木の実(果物)」とされています。

桃の漢字の成り立ち

桃(モモ)という呼び名の語源

桃という漢字は中国で作られました。
桃の読み仮名、私達が普段使っている「モモ」は日本独自の音です。

モモという言葉の語源については、諸説あり断定されていません。
有力視されているモモの語源説としては、以下の4つあります。

桃の語源説①燃実

桃の果皮の色が燃えているような赤色だったことから「燃実(もえみ)」と呼ばれ、時代とともに転訛した。

桃の語源説②百もしくは実々

桃は一本の木に多く果実をつけることから、百(もも)と呼ばれた。
もしくは実々(みみ)と呼ばれていたものが転じた。

桃の語源説③毛毛

果実の表面に柔らかい産毛が生えていることから「毛毛(もも)」と呼ばれるようになった。平安時代頃に書かれた辞書『本草和名』や『和名抄』には、毛毛や毛々という記述もあります。

桃の語源説④

「真実(まみ)」が転じてモモになった。
真という言葉は、正しい、純粋、本物の、などの意味があります。古代、桃は邪気を払う聖なるパワーを持った果物と考えられていたあたりに由来があるのかもしれません。

英名Peach(ピーチ)の語源

Peachという英語は、ペルシア(ペルシャ)を意味するギリシア語“Persikon”、もしくはラテン語“persicum”が語源です。

桃の原産地はペルシアではなく中国ですが、ヨーロッパにはペルシアを経由して伝わりました。日本でも中国原産ではないけれど、中国から伝わったものは唐辛子やトウモロコシと命名されていたりします。それと同じようなニュアンスで、ヨーロッパでも輸入国の名前をつけたわけです。

古代ギリシアでは伝来当初、桃のことをMelon Persikon(ペルシャの果実)と呼んでいました[2]。古代ローマでも同じように、桃をPersicum Malum(ペルシャの果実/リンゴ)と呼んでいます。これがフランス語でpêcheになり、英語ではpeachと転訛していきました。
ちなみに、桃の種小名persicaも同じく「ペルシアの」を意味しています。

桃のルーツと伝説・歴史

桃のイメージ画像

桃のルーツ、果樹栽培は中国発祥

桃の木、もしくは現在の桃のルーツと言える野生種の桃は、中国に自生していたと考えられています。現在の桃に直接繋がるような、野生の桃が何であるかは断定されていません。しかし、中国南西部の昆明では260万年前のものとみられる、現代の桃と見分けがつかない特徴を持つ“桃の内果皮の化石”が発掘されています[4]。このことから、果肉が多く、果物としての食用に適した桃が存していたのではという見解もあります。

とは言え、何万年も昔の桃もしくはその近縁種は現在のアーモンドに近い、種が大きく果肉が薄いものが主体。果物として食べられる果肉を持つようになったのは、人の手による栽培化(作物化)に起因する可能性が高いことが示唆されています[4]。

中国における桃の栽培の歴史も古く、かつては中国北西部で紀元前2000年頃から栽培が行わるようになったと考えられていました。近年の研究では更に古い紀元前6000年頃に、中国の浙江省で桃の栽培が行われていた可能性も示唆されています[5]。8000年も前に、既に中国では「甘い」「果肉が多い(肉厚である)」など自分たちに有益な特徴を持つ個体を掛け合わせていたようです。

中国での桃の歴史と伝説

人によって桃についての記録が残されているのは、紀元前2,000年頃から。桃が登場する最古の記録は、中国最古の農事暦『夏小正』である、中国最古の詩篇『詩経』であるなどと言われています[5]。唐の時代になると桃の栽培技術は更に確立され、広く栽培も行われていたと考えられています。

また、古代中国で、桃は邪気を祓い不老長寿を与える神聖な植物と信じられ、宗教的・象徴的意味合いでも重要視されていました。桃の果物は食べた人々に長寿もしくは不死を与える、桃の木で作った弓は邪気を払う、日本で言うところの“破魔矢”のような効果を持つと信じされていました。桃の果実そのものも、長寿などの意味を持つ吉祥図案とされています。

五行思想の中でも健康を保つための重要な果実“五果”として、李(すもも)・杏子(アンズ)・棗(ナツメ)・栗と共に桃が数えられています。そのほか、桃の種子は桃仁(トウニン)、桃の花は白桃花(ハクトウカ)など、生薬としても使われています。日本にも桃の葉の入浴剤があったりしますね。

実は孫悟空とも関係のある桃

中国では古来より、不老長寿や邪気払いの力を持つと信じられてきた桃。
女神(女仙)の最上位で、寿命を司るとされている“西王母”と関係が深い植物としても、中国の神話に登場しています。西王母は不老不死の仙桃(蟠桃)を実らせる果樹園を持ち、一年に一度、蟠桃会では神仙が集まって蟠桃を食すと信じられていました。

私達にとって親しみがある、桃が登場する中国のお話は『西遊記』。
主人公の孫悟空は天界でいたずらをしてまわり、神々の不興を買って五行山の下敷きになります。その天界での悪行(武勇伝)の中には“蟠桃会に自分だけ招かれなかったことを恨み、西王母の蟠桃園(桃園)で桃を盗み食いした”というものが。沙悟浄や猪八戒にも蟠桃会でやらかした結果、天界から追放されたエピソードがあります。

桃のイメージ画像

日本の桃の歴史・伝説

日本に中国から桃が伝わったのは、縄文時代以前と推測されています。これは長崎県にある伊木力遺跡から、縄文前期、7,000年~6,000年前のものと見られる桃核が出土しているためです[5]。日本には桃の野生種、桃に近い植物が自生していたことは確認されていません。このため、約6500年前、つまり紀元前4,500頃までには桃が中国から日本に伝わっていたと考えられます。

桃は平安時代から鎌倉時代頃になると“水菓子(果物)”として食べられてもいました。しかし、果物を収穫するために栽培していたというよりは、花の美しさを愛でるための鑑賞用植物や、生薬として使う目的で植えられることの方がメインだったようです[6]。

観賞用植物として桃の人気は高く、江戸時代には200を超えるほどの品種が確認されていたという見解もあります。観賞用や民間医薬に使える植物として植えられていた桃。実がなった際に食べることもあったと考えられますが、現在のように広く親しまれる果物ではありませんでした。当時の桃は現在よりも果肉が薄く、甘みも弱い品種でした。保存・運送技術も低く、デリケートな桃はすぐに傷んでしまっていたのでしょう。

果物としての桃の地位が高まったのは、明治以降。
中国(清国)から、甘みの強い上海水蜜桃や天津水蜜桃など水蜜種系の品種が導入されたことが大きなきっかけ。明治32年には岡山で桃を栽培していた大久保重五郎さんが、新品種”白桃”の創成[6]。この白桃から、様々な日本特有の桃の品種が作られていきます。ちなみに、明治にはヨーロッパからも桃が輸入されましたが、ネクタリンなど少数の品種を除き、日本の土地に合わずに栽培を断念しています[2]。

日本の桃の伝説といえば…

日本最古の歴史書とも称される『古事記』には、伊弉諸尊(いざなぎのみこと)が亡くなってしまった妻を連れ戻しに黄泉の国まで迎えに行くエピソードがあります。変わり果てた妻の姿を見て逃げ出した伊弉諸尊は、追いかけてきた黄泉醜女に葡萄、筍、黄泉の国になっていた桃の実を投げつけて難を逃れます。『古事記』が編纂されたのは奈良時代、伊弉諸尊は天照大御神の父神とされていますから、かなり古い時代には中国から桃は邪気払いの力を持つ果物という考え方も伝わっていたのでしょう。

日本で最もポピュラーな“桃が登場するお話”と言えば桃太郎。おばあさんが川で洗濯をしている時に、流れてきた桃の中から男の子が出てきて、成長したら鬼を退治するあのお話です。

桃太郎が瓜や柿ではなく“桃”から生まれるという設定は、桃が桃が魔除け・厄除けの象徴だったためという説もあります。鬼を退治する伏線ですね。そのほかに不老長寿の実である=おじいさんおばあさんが若返って子供ができる話を、マイルドにしたなんて説もありますが。

ヨーロッパ、アメリカへの桃の伝播

中国で作物化(果樹化)された桃は、シルクロードを通じてユーラシア大陸の西側にも運ばれていきました。紀元前数世紀頃にはペルシア、現在のイランに伝わっていたと考えられています[4]。

ヨーロッパに桃が伝わったのは、一説ではアレクサンドロス大王が遠征した際にペルシアから持ち帰ったとも言われています。が、紀元前にヨーロッパに伝わったものは、何でもアレクサンドロス大王の功績エピソードになりがち。紀元前300年代~紀元前200年代に、シルクロードを通じて伝わったという説のほうが有力視されています[2]。

その後、紀元前のうちには古代ローマでも桃の栽培が行われていました。ローマ帝国は果樹を含む農作物の品種改良に秀でた国。中国とは別のルートで、果実をより美味しく食べられるように品種改良を行っていったと考えられます。ヨーロッパでは黄色みの強い黄桃系の品種が多く見られるのも、土地や栽培・改良方法の違いによるものなのかもしれません。

16世紀にはアメリカ大陸へも桃が持ち込まれ、栽培が行われています。

【参考サイト】

  1. 34 Different Types of Peaches
  2. 第14回サイエンスカフェ「聞いてみよう!桃のコト 桃ってどんな木、気になる木?」開催報告
  3. 「桃」という漢字の意味・成り立ち・読み方・画数・部首を学習
  4. Genome re-sequencing reveals the evolutionary history of peach fruit edibility
  5. Archaeological Evidence for Peach (Prunus persica) Cultivation and Domestication in China
  6. モモ(桃) – 歴史まとめ.net

1個約25円と激安で、サイズ感もちょうどいいと最近気に入っている業務スーパーの「桃まんじゅう」。見た目も可愛いミニあんまん、という感覚で食べていたのですが、中国では長寿を願うお祝い菓子なのでそうです。餃子もそうだけど、B級グルメの扱いをしてしまってちょっと申し訳ない^^;

爆買いが話題になった時期に「桃をかたどったアイテムが激売れ」というニュースを見た記憶があります。日本でも桃の節句とかありますが、果実の方は桃太郎(笑)というイメージが強く。なんで桃?と思ってしまったのですが、紀元前からの歴史を思うと納得です。日本で歴史があり、現在でも需要のあるラッキーモチーフって……鶴亀や打ち出の小槌、鯛、富士山、松竹梅あたりですかね。