アップルパイ発祥はアメリカではない?!
-アップルパイの歴史、国ごとの特徴とは?
しっとりしたアップルフィリングと、サクサクのパイ生地のハーモニーが美味しいアップルパイ。どこかほっこりするような素朴な風味は、好き嫌いや飽きが出にくく、小さなお子さんからお年寄りまで食べられる安心無難なお菓子ではないでしょうか。そんなアップルパイをこよなく愛する国と言えばアメリカ…という印象もありますが、実はアップルパイ発祥国はイギリス。それ以外にオランダやフランスなどでも独自のアップルパイ文化があります。各地のアップルパイの特徴と歴史をサックリと。
目次
アップルパイとリンゴについて
アップルパイとは
アップルパイはパイ生地に砂糖で甘く煮たリンゴを詰めて加熱したもの。
形や煮リンゴのサイズ・味付けなどは国、地域、家庭によって様々。基本的にはオーブンで焼きますが、マクドナルドさんのアップルパイのように揚げたものもありますしね。非常に大雑把な表現とはなりますが「主な充填物がリンゴでパイ生地」であればアップルパイと呼んでも良いはずです。タルトとは付きますが、フランスの“タルト・タタン”もアップルパイの一種に含むという見解が主ですし。
アップルパイの発祥国というわけではないものの、よくアップルパイを食べている国として日本人がイメージするのはアメリカではないでしょうか。アメリカでは感謝祭のメニューとしてもアップルパイがよく食べられていますし、日本ではアメリカ人にとってアップルパイは「おふくろの味」であると紹介されることもあります。知人によると最近は手作りする家庭は少なく、お母さんではなく「お婆ちゃんの味」っぽいらしいですけど。日本人で言うお煮染めくらいのポジションなのではないかと思ったりもします。
ともあれ、アメリカでは “As American as apple pie(アップルパイの如くアメリカ的)” という表現もあるほど自国を象徴する食べ物の一つとして親しまれている存在。国民的アイデンティティの一部であり、愛国心の象徴でもあるのだそうです。2008年度にアメリカ人を対象に行われた好きなパイについての調査では、19%の方がアップルパイと回答し、パンプキンパイを抜いて1位に。ちなみに、5月13日はナショナル・アップルパイデー(National Apple Pie Day)に制定されています。
りんごを使わないモックアップルパイもある
アップルパイ大国とも言えるアメリカでは、時折“モックアップルパイ(mock apple pie)”と呼ばれるリンゴを使わないアップルパイについての記述が見られます。モックアップルパイの起源はリンゴが手に入りにくかった西部開拓時代であるとも、海軍によって考案されたとも言われていますが、広く普及したのは世界恐慌が起こった1930年頃から。仕掛け人はナビスコさんらしく、Ritzクラッカーの箱の裏にも” Mock Apple Pie “のレシピが掲載されているのだそうです。
クラッカーをどうリンゴの代用に仕立て上げるかと言えば、砂糖水に砕いたクラッカーをいれて弱火で煮込み、レモン汁とシナモン・バターを振りかけるとの事。見た目はちょっとアレですが、砂糖の甘み+レモンの酸味+シナモンの香りで味としてはアップルパイっぽい感じになるのだそう。
パイの種類は大きく2つ
一口にアップルパイと言っても、円いホールタイプからスクエア型・一人一個食べられるサイズのものまで種類は様々。見た目もまるっとアップルフィリングを生地で覆い隠しているものから、網目状に生地をかけて隙間からリンゴが覗いているもの・細かく砕いたビスケット状のものが載っているものなど様々。世界には形状や材料・製法によって色々なタイプのアップルパイが存在していますが、使用する生地によって大きく“折りパイ”と“練りパイ”の2つに大別することが出来ます。
折りパイ
日本でパイと言われて連想されることが多いのが、ヨーロピアン式とも言われている“折りパイ”と呼ばれる方法で作られたパイ生地です。冷凍パイシートなどもこの“折りパイ”タイプの生地がほとんどで、薄くパリパリの生地が何層にも重なっていることが特徴。
ミルフィーユの生地を連想してもらえると分かりやすいはずです。イギリス英語ではPuff Pastry、アメリカ英語ではFlaky Pastryと呼ばれています。お菓子作りが好きな方ならフランス語のPâte feuilletée(パート・フィエテ)の方が聞き馴染みがあるかも…。
呼び名の通り“折りパイ”は小麦粉に水やバターなどを加えて練った生地を伸ばし、その中央にバターの塊をのせて折り込む(包み込む)ことで作ります。バターを包んだ生地を平たく伸ばし、生地を三つ折りにして休ませる→再び伸ばして三つ折りにする→休ませて伸ばして三つ折り…という流れを6回くらいやります。よく「パイ作りは時間も手間もかかって大変」と言われますが、このパイは“折りパイ”の作り方を指していると思われます。
練りパイ
“練りパイ”は折りパイと比べると作る工程が少ない事が特徴で、呼び名のとおり生地を作る時に「バターも練り込んでしまう」という作り方。ミルフィーユ層になっていることでパリパリ&サクサクした食感を楽しめる折りパイに対して“練りパイ”の方は一枚生地、クラッカーに近いサックリ感が特徴です。よく見ると層にはなっているんですけどね…。イメージとしてはポットパイで蓋代わりに使われているパイとか、パンプキンパイの土台もしくはミートパイなどの生地。折りパイと比較すると空気感やライトさが少ない…と個人的には思います。
塩のみか砂糖を入れるかでも変わってきますが、基本的に“練りパイ”を作る時は粉と水分が結合しないようにすることが特徴。小麦粉とバターをすり合わせるようにして混ぜてから水分を加える、もしくはバター・砂糖・卵を混ぜ合わせてから小麦粉を加えることで、グルテンの粘りが抑えられる+熱でバターが浮き上がって独特の触感を作っています。
こちらの作り方のパイ生地はフランス語でパート・ブリゼやパート・シュクレとも呼ばれますが、おそらく世界的にアメリカンタイプもしくはアメリカン・パイで通じることが多いのではないかと。呼び名の通りアメリカのパイ料理に多用されている生地ではありますが、フランスのお菓子やヨーロッパのアップルパイにも使われています。タルト・タタンやタルト類にもこちらの“練りパイ”生地が多く使われていますよ。
原料となるりんごは中央アジア原産
モックアップルパイは除外するとして、基本的にアップルパイに欠かせないものはリンゴ。
イギリスもしくはヨーロッパの方が好んで食べている印象がありますが、リンゴの祖先と言える野生種は中央アジア、北部コーカサス地方から西アジアにかけての寒冷地域が原産とされています。と言っても原産地からは離れているスイスの遺跡からリンゴの化石が発見されており、約4000年前くらいには既に栽培が行われていたと考えられています。リンゴの木は“人間が栽培した最も古い果樹の一つ”とも称されるほど人との関わりが深く、数千年単位で品種改良が行われてきた果樹と言えるかもしれませんね。
ヨーロッパではギリシア神話や北欧神話、旧約聖書を題材にした絵画などでもリンゴが良く使用されています。アダムとイブが食べてしまった“禁断の果実”もリンゴとして描かれていますよね。ですが旧約聖書の時代・地域から考察するとリンゴはまだ栽培されていなかった=後世に作られたイメージだという結論になるそう。ギリシア神話などに登場する“黄金の林檎”もリンゴを指す言葉ではなく、Apple=果実、黄金の果物という意味でとるのが正しいという見解が多いようです。それ以前から1世紀ころからリンゴの栽培はなされていましたが、ヨーロッパの中部以北で盛んに栽培されるようになったのは16世紀頃から。
アップルパイにアイデンティティを重ねる(?)アメリカには、食用に適したリンゴ自生していなかったため、ヨーロッパから移民たちが持ち込んだ17世紀頃から栽培が行われました。しかし品種改良・新種開発などはアメリカの方が進み、世界中で栽培されている西洋リンゴと呼ばれる系統のリンゴはほとんどがアメリカで作られたもの。世界のリンゴ生産量としては圧倒的に中国が多く1位をキープしていますが、2位のアメリカも3位のトルコとは倍近い差をつけています。アメリカはリンゴ大国でもあるわけです。
各国のアップルパイの特徴と歴史とは?
アップルパイはイギリス生まれ?
アップルパイという食べ物についての最も古いレシピは、イギリスで1381年にリチャード2世王の料理人が記したとされる『The Forme of Cury』というレシピ本。14世紀のイギリスではミートパイが大人気であり、そのアレンジとしてアップルパイが作られたのではないかと考えられています。まだ当時はアップルパイとは呼ばれていませんが“For To Make Tartys in Applis”として記載されているものが最古のアップルパイレシピとされています。気になるその内容は…
Tak gode Applys and gode Spryeis and Figys and reyfons and Perys and wan they are wel ybrayed co-lourd wyth Safron wel and do yt in a cofyn and do yt forth to bake well.
-The Forme of Cury
となっています。私達の知る英語と違う部分もあって分かりにくいのですが、りんごだけではなくイチジク・レーズン・洋ナシという果物が使用されていること、サフランが使われていることが特徴と言えそうですね。
当時はまだ砂糖の入手が困難であったことから、この最古のアップルパイレシピでは砂糖を使用しません。しかもコフィン(cofyn)というのは小麦粉を固めて容器状にしたものですが、食べることを想定しないものだったという見解が主になっています。小麦粉をカチカチに焼き固めた容器の中に、リンゴ他フルーツを入れて焼き上げたもの(砂糖や甘味料は一切なし)……私達が想像するアップル“パイ”とは全く別物だった印象です。
レシピのタイトルとなっている「Tartys」もパイではなくタルトに繋がる言葉ですし、砂糖が入手しやすくなった16世紀頃からは容器代わりにしたペストリーが食べられるようになっていきますので、ますますアップルパイというよりはアップルタルト寄りのものだったように感じられます。最古のレシピだと焼きフルーツ盛り合わせって感じですけどね。
ともあれ、砂糖が登場して料理の幅が広がった16世紀。その16世紀半ばに出版された女性のためのレシピ本『A Proper newe Booke of Cokerye』に“To make pyes of grene apples”として記載されているレシピでは、リンゴ以外の果物の記載がなくなり、サフランとバター・シナモン・生姜・砂糖が使用されています。
アップルパイのメインであるリンゴも単なる焼きリンゴではなく、リンゴのコンポートに変化したのもこの頃だとか。お祭りの時のお祝い料理としてもアップルパイが食べられていたようです。エリザベス1世もアップルパイを好んだという逸話が伝えられていますよ。
現在でも“British Pie”と呼ばれているような、伝統的なイギリス式のパイは深皿に入れて焼くのが定番なのだとか。容器に砂糖で煮たリンゴを流し込んで上から生地をかぶせて焼く・容器に沿わせるように生地を押し付けてた中に煮リンゴを入れて生地で蓋をして焼く、そんな感じ。
日本人的な感覚で言わせていただくと、焼き菓子のしてのパイと言うよりも、具としてアップルフィリングが入っているポットパイという感じ。あっさり目で美味しいですが、バターたっぷりで何層ものサクサク感が楽しめるあのパイとはちょっと違うように思います。
パイの起源は古代ギリシア?
諸説ありますが、パイ菓子の起源として有力視されているのは古代ギリシア。紀元前5世紀頃の演劇には小さなペイストリーの中に果物を入れた甘いお菓子についての言及があり、古代ギリシアでは既にパン用の生地の作り方・菓子用の生地の作り方を分けていたのではないかと考えられています。古代ローマになるとその差異はさらにハッキリとしたものになり、紀元前160年頃にはチーズと蜂蜜を混ぜて月桂樹の葉で風味付けした“Placenta”というパイケーキのようなものが食べられていたことも分かっています。
オランダでは16世紀初頭にレシピが登場
アップルパイの歴史が古い国としてイギリスと共に名前が挙がるのがオランダ。オランダ最古とされるアップルパイのレシピは1514年に料理本『Een notabel boecxken van cokeryen』に登場するもの。この料理本に記載されているアップルパイのレシピはイギリスで作られたものからアレンジされ、リンゴに生地を被せて焼いた後にトップクラストを切ってシナモン・ナツメグ・生姜・カルダモンなどのスパイスを加えた蜂蜜や砂糖と共にスプーンでかき混ぜ、もう一度オーブンで焼くというものだったそう。このレシピは現在のアップルパイにより近いものと評されています。
後の17世紀に発刊されたレシピ本『De Verstandige Kok』になるとアップルパイだけで6種類のレシピが掲載されており、18世紀にかけてアップルパイはオランダの食文化に欠かせないものとなっていきました。加える香辛料や製法の違いを更に細分化すれば、17~18世紀ころのオランダには多種多様なアップルパイ・アップルタルトが存在していたと推測されています。しかし、まだ当時はアップルパイ=上流階級の人々のためのものと言う部分が大きかったのだとか。オランダではアップルパイとコーヒーをセットで食べることが多いそうですが、これも当時の上流階級の人々の流行から生み出された伝統であるようです。
オランダ式アップルパイとしてはリンゴの上にかけるトップクラストに網目模様が入ったラティストップ・パイ(lattice-top pie)と、細かく砕いたビスケット状の生地をリンゴの上に敷き詰めたクランブルトッピング・パイ(crumble topping pie)の2つのタイプがあります。網目模様のラティストップ・アップルパイは日本でもオーソドックスと言って良いくらいに見かけますよね。日本人にとっては“欧米”でまとまっていたりアメリカンな印象を持っていたりしますが、アメリカで「Dutch apple pie(オランダ式アップルパイ)」と言えばクランブルタイプのものを指すのが一般的なようです。
17~18世紀にはアメリカでも人気に
14世紀からイギリスで食されていたアップルパイ。16世紀ころまでにはオランダだけではなくフランス、イタリア、ドイツなどでもアップルパイのレシピが登場し、ヨーロッパの多くの国で食べられる存在となっていました。そして、そんなヨーロッパから多くの人が移住したアメリカでもアップルパイは変わらず食べられていた…のかと思いきや、アメリカでアップルパイが食べられるようになるには少し時間がかかりました。
その理由はアメリカにリンゴが無かったため。
17世紀頃までアメリカにあったのはクラブアップルと呼ばれる、酸っぱくて小ぶりなリンゴのみ。このリンゴはアメリカ原産の唯一のリンゴであり、アップルサイダーを作るなどの目的では使用されていたようですが生食には適しませんでした。母国のアップルパイ再現を試みた方はいるのでしょうが…熱を通しても美味しく食べられるものでは無くヨーロッパのようにアップルパイやケーキなどに活用することはほとんど無かったそうです。
しかし、ヨーロッパからの入植者はアメリカ大陸に自国から様々な作物を持ち込み栽培しました。ヨーロッパで食されていた甘みのあるリンゴも、17世紀頃までにはピューリタンによって種が蒔かれ栽培されるようになった一つ。後は収穫してアップルパイを作るだけ、かと思いきや、ミツバチがいなかったために初期の果樹園ではリンゴが実らなかったという事実もあります。
1622年にイギリスからミツバチのコロニーが出荷されたことでようやくリンゴ栽培は本格的にスタートし、17世紀後半頃に北米でリンゴ果樹園が定着したというのが実情のようです。そして17世紀末頃にはアップルパイがアメリカ料理のレパートリーの一部として取り入れられました。1750年頃にアメリカ・ウィルミントンへと赴任していたスウェーデンの宣教師イスラエル・アクレリアス博士は手紙の中で“アップルパイは一年中食べられていて、新鮮なりんごが入手できなくなった時は、乾燥したリンゴを使っている”と当時の様子を記しているそうです。
リンゴを持ち込んだのもそうですが、当時のアメリカにはピューリタンと呼ばれるプロテスタント系派閥の方が多くいらっしゃいました。厳格で潔癖な、映画なんかでは孤立した村に住んで清貧生活をおくっている方々ですね。彼らの関係もあってアメリカでアップルパイは伝統的な家庭料理であると同時に、感謝祭やクリスマスなどの宗教的行事がある日のメニューとしても欠かせないものとして定着してきました。19世紀~20世紀ともなるとアップルパイ=アメリカの繁栄と国家の誇りの象徴として語られるようになり、20世紀初頭には“For mom and apple pie”や“As American as apple pie”という言葉も登場していますよ。
ところで、上記で紹介したようにイギリスやオランダなど国によってアップルパイのレシピは異なる部分がありますが、移住した人々はその起源にこだわらず「アメリカのアップルパイはアメリカのもの」と割り切ったようです。1796年に刊行されたアメリカ初の料理本『American Cookery』でも、アップルパイのレシピは2つ載っているのにルーツとなる国については一切触れていないそう。
アメリカのリンゴといえば“ジョニー・アップルシード
アップルパイとは離れますが、アメリカのリンゴ史で外せないのが1800年代に活躍したジョン・チャップマンという方。本名よりもその功績から付けられた“ジョニー・アップルシード(Appleseed)”という呼び名のほうが有名ですね。アップルシードさんは西部開拓期の伝説的な人物の一つで、強烈な個性から様々な伝承が残っているお方。その見た目についでだけでも、大きい麻袋を外套のように着て、鉄鍋を帽子のように被って裸足で歩いているとエキセントリック。個人的には大好きな歴史上の人物の一人ですけど(笑)
彼がアップルシードと呼ばれるようになったのは品種改良をしてアメリカ産品種を大量に作ったなどの理由ではなく、アメリカ東部から中西部までの開拓地一帯、10,000マイルと推測される距離をリンゴの種を植えて歩いたから。ただの善意でリンゴの種を植えて歩いたわけではなく、スウェーデンボルグ主義に傾倒し、新教会(新エルサレム教会)の布教を兼ねてのことだったようですけれど。彼の植えたリンゴの種は各地で芽吹き、果樹として定着していきました。このリンゴの木普及活動(?)もアメリカでアップルパイが家庭料理として普及する要因になったと考えられています。
ちなみに奇抜な装いと布教というワードからちょっと怖い方を想像しますが、ジョニー・アップルシードは大変穏やて優しい方で、頼まれれば誰にでもリンゴの種を分けてあげたと伝えられています。行く先々の村の方にも慕われたそうですし、当時は今以上にギスギスした関係だった先住民の方とも親しかったんだとか。怪人リンゴの種蒔きおじさんではなく「伝説的な人物」なわけですね。
フランスのタルト・タタンは1880年代
一般的なアップルパイとは別物ですが、アップルパイの一種にはフランス菓子のタルト・タタン(Tarte Tatin)も数えられています。パイなのかは意見が別れるところでしょうが。フランスで伝統的に食べられてきたお菓子のような印象のあるタルト・タタン、実は作られるようになったのは1880年代。19世紀もほぼ終盤ですから、アメリカのアップルパイと同じかそれ以上に歴史の浅い種類であると言えます。
タルト・タタンの考案者として定説になっているのは、パリの南にあるラモット=ボーヴロンという町で“Tatin”というホテルを営んでいたステファニー・タタンさん。彼女はホテルで提供する調理のほとんどを担当しており、アップルパイも定期的に作っていました。しかし、ある日ステファニーさんはバターと砂糖で炒めるリンゴを時間を間違えてしまい、焦げたような匂いがしてきたことで慌てます。彼女は焦げかけてしまったリンゴをなんとかしようと、リンゴを炒めていた鍋の上にタルト生地をのせてそのままオーブンに入れたと伝えられています。生地が焼けた頃合いを見計らってオーブンから鍋を取り出し、お皿の上にひっくり返すようにして出してみると良い具合に。
この逆さまのタルトは大変出来が良く、お客さんに出してみると大人気となりホテルの名物料理になりました。作り方も周辺地域に伝わり、世界で最も有名なレストランとも称されるフランスの超高級店“Maxim’s(マキシム)”の経営者ルイ・ヴォーダブルの耳にも届くまでに。彼はこのタルトを自分のレストランのメニューに加え、彼のレストラン“Maxim’s”が有名になるのと合わせてタルト・タタンも世界的に知られるフランス菓子の一つとなっていったそうです。アップルパイの失敗から生まれた菓子はホテルの名物へ、そして国を代表するお菓子へと大出世ですね。
参考サイト:Apple pie – Wikipedia/Apple Pie History, Whats Cooking America/Frenchified ‘Hollandse Appeltaart’… and a History of Dutch Apple Pie
自宅で一から作るにはちょっと敷居の高いアップルパイ。アップルと言うかパイ全般ですけれども。冷凍パイシートを使えば良いじゃんって話ですけど、個人的に作るならちゃんと作りたいわけです。アメリカ人、意外とマメだよねぇ……と思っていたらアメリカで食べられている「お婆ちゃんのアップルパイ」的なものは、日本のお菓子教室で習うようなバターを包んで折って伸ばして、生地を休ませてからまた折って伸ばして…というとんでもなく面倒なアレではなく、粉とバターをするように混ぜただけの生地。食感はライトなクラッカーみたいなやつですね。
確かにこっちの“練りパイ”と言われている方法なら、イベント事がある時に家でも頑張れば自作出来るかなと思ったり。日本だとお店で売られているアップルパイってミルフィーユ状の“折りパイ”もしくはデニッシュ系の生地がポピュラーな気がするんですが…どうでしょう? 私の知っているアップルパイの有名店・パイのお店で売られているのは大体が何層にもなっている生地にアップルフィリングがインしているものなのですが。
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