リンゴ(林檎)の語源や歴史は謎だらけ!
-ルーツや栽培時期が諸説ありすぎ果物

リンゴ(林檎)の語源や歴史は謎だらけ! <br/ >-ルーツや栽培時期が諸説ありすぎ果物

リンゴは果物としてはもちろん、お酢やワインの原料、ジュースやお菓子のフレーバー、雑貨のモチーフまで幅広く使われている食材。アレルギーの問題もあるので誰もが食べたことがある、とは言い難いものの、ほとんどの人が“リンゴ”と言われれば、形状を思い浮かべられるはず。

iPhoneを販売しているapple社のロゴ、旧約聖書や童話の白雪姫にも登場していますから、リンゴ=世界的に通じる果物の代表格と言っても過言ではない存在。古くから栽培されてきたことは分かっていますが、栽培の歴史や英名“apple”の由来など謎が多い果物でもあります。

リンゴ(林檎)とは? 概要と語源

リンゴの概要

柔らかい甘酸っぱさと、シャキシャキした食感のリンゴ。
私達が普段果物として食べているリンゴは、バラ科リンゴ属のうち、セイヨウリンゴ、学名Malus domesticaと呼ばれる種類。

同じセイヨウリンゴの中で“ふじ”や“シナノスイート”、“王林”などの品種に分けられている形です。和たちが手にするリンゴは圧倒的に国産リンゴで、日本っぽい名前もついていますが“種”という大きな括りでみるとセイヨウリンゴなんですね。

厳密な数は分かっていませんが、世界中には1万を越えるほどセイヨウリンゴ品種があるという説もあります。多くの地域で様々な品種が作られています。

西洋、とつきますが、セイヨウリンゴの原産地は断定されていません。ゲノム解析によってセイヨウリンゴはクラブアップル(野生種)が交配することで誕生したこと、カザフスタンあたりに自生している野生リンゴMalus sieversii、ヨーロッパの野生リンゴMalus sylvestrisなど4種以上のDNAが含まれていることが報告されています[1]。こうした種が混ざり合い、現在のセイヨウリンゴが完成したのは、アジア西部からヨーロッパにかけての地域という見解が主流のようです。

リンゴの仲間はたくさんある、けれど…

広義でのリンゴは、リンゴ属に分類される樹木やその果実全般を指す場合もあります。リンゴ属の植物は交雑種を入れると42種~55種ほど存在します[2]が、ほとんどが日本で姫リンゴやクラブリンゴ、英語でクラブアップル(Crab apple)と呼ばれる小型のリンゴ。りんご飴に使われている、ピンポン玉より小さいくらいのサイズのものです。

現在果物として食べられているリンゴの多くは、セイヨウリンゴ(学名 Malus domestica)。わざわざ西洋とつけるくらいですから、日本のリンゴもありそうですよね。ご想像の通り、日本でワリンゴ(和林檎)もしくはジリンゴ(地林檎)と呼ばれている種もリンゴ属の中にはあります。学名はMalus asiatica、英語ではChinese pearleaf crabapple。中国から日本に伝わったものと考えられています。

ちなみに「姫リンゴ」は小さいりんごの総称としても、イヌリンゴ(学名 Malus prunifolia)の別名としても使われています。このイヌリンゴの英名はChinese crabappleやPlum-leaf crabappleで、中国周辺地域が原産と考えられています。エゾリンゴ(学名 Malus baccata)も北海道の固有種ではなく、中国からロシアあたりの地域が原産。実は50前後あるとされるリンゴ属の種のうち、約半分は中国周辺地域が原産なんです[2]。

日本原産のリンゴ類と言えるのは、学名 Malus sargentii、ズミ(酸実)や小リンゴと呼ばれているものが代表的でしょうか。ただし、こうしたクラブアップル類のほとんどが酸味が強かったり、果肉が硬かったりで、生食には適していません。加工して使われるか、観賞用として扱われるのが主。ズミも酸っぱく、果実酒などに加工して使われています。ハナカイドウやノカイドウなども、鑑賞目的で品種改良されたリンゴ属の植物です。

リンゴの語源と由来

日本語りんご(林檎)の語源

現在食べられているセイヨウリンゴではありませんが、日本では古くからリンゴの栽培が行われていました。リンゴ属の種のうち約半分は中国周辺地域が原産。和林檎と呼ばれているMalus asiatica(英名:Chinese pearleaf crabapple)などは、セイヨウリンゴが伝わるずっと前から日本に伝わっており、それを栽培してきた歴史があります。

林檎(りんご)という和名も、中国語の呼び方が語源です。林檎の“檎”という字は、もともと鳥を意味する“禽”でした。猛禽類の“禽”です。林檎という表記が使われるようになったのは、りんごの果実は甘くて美味しい⇒あると林に鳥(禽)が集まってくることが由来だそう。

読み方に関しても中国語で「リンキン」や「リンゴン」だったものが、日本人の発音しやすい形リンゴウになり、末尾のウが消えて「リンゴ」となったと考えられています[3]。実際に平安時代に作られた辞書の『和名類聚抄』にはリンゴウとして記述が残っています。

リンゴの英名appleの語源は不明?!

英名アップル(apple)の直接的な語源は、古英語æppel。これが中世英語ことにはæppla→appelに、そしてappleに変化したと考えられています。しかし古英語æppel以前のことについては諸説あり、遡るとインド・ヨーロッパ祖語(Proto-Indo-European /PIE)の“ab(e)l-”にまで遡るという説もあります[4]。なにせインド・ヨーロッパ祖語という「先史時代にあったんじゃないか」考えられている仮説上の言葉まで出てくるくらいですから、最初に人が何を思ってリンゴの呼び名を付けたか、その由来は定かではありません。

また、17世紀、中英語の時期まで“æppla”や“appel”という言葉は、ベリー以外の果物の総称として使われていました。古英語ではデーツ(ナツメヤシ)の事を“fingeræppla”、中英語ではバナナのことを“appel of paradis”と呼んでいたりもします[4]。このため古い文献ではリンゴのことなのかどうか断定できない果物の記述も多く、学者の方々の間でも意見が分かれるところがあるようです。

リンゴのルーツと歴史

リンゴ類栽培の歴史は古い?

リンゴはイチジクなどと共に「人間が栽培した最も初期の果樹」と称される、栽培の歴史が古いと考えられている植物の一つです。栽培するよりも更に前から野生のリンゴを食べていたはずですから、人とリンゴとの関わりは更に古いと考えられますね。

トルコでは新石器時代(西暦前6500年)とみられるリンゴの種子が発見されています。ヨーロッパでもスイスの湖畔住居群やイギリスなどでも、新石器時代のもとの見られる化石化したリンゴ種子が発見されています。

ただし、近年では、リンゴが作物化・栽培されるようになった歴史はさほど古くない、との見解もあります。1万年前からカザフスタンから中国にかけての天山山脈エリアで、セイヨウリンゴの祖先である野生リンゴ(Malus sieversii)の栽培が行われていたとの説もありますが、古い時代に関しては根拠が無いことから疑問視されています[1]。

ヨーロッパでは紀元前4000年頃から、中東でも紀元前3千年紀頃からリンゴを栽培していた可能性があると発表されています。このためリンゴの栽培が行われるようになったのは、古くても紀元前4000年~3000年の頃ではないかと考えられています。

甘いりんごの登場は4000年前?

酸味が強いクラブアップル系ではなく、現在のセイヨウリンゴ(Malus domestica)のように甘みの強いりんご。この甘いリンゴは、接ぎ木という栽培技術が使われるようになった紀元前2,000年ほど前、中東あたりで誕生したと推測されています[5]。

そして中東を横断する交易路を通る商人や旅行者によって、東西へと運ばれました。西側へは地中海地域を通ってエジプトまで伝わっています[1]。古代エジプトのラムセス2世の時代(紀元前13世紀頃)には、ナイル川デルタ地帯に作られた庭園でリンゴの木が植えられていたと伝えられています。リンゴは贅沢な果物の一つとして扱われたようです[6]。

また、リンゴはギリシャやイタリアへも運ばれました。紀元前8世紀頃に書かれたと考えられているホメーロスの『オデュッセイア』にも記述があることから、ホメーロスよりも前の時代には既にギリシアでもリンゴの栽培が行われていたと考えられます。

天山山脈でもヨーロッパでも紀元前のうちから接ぎ木をしての栽培が行われていたことが分かっており、古代ギリシアのヒポクラテスやテオプラストスの著書にも記述があります[1]。

いつ、どこでセイヨウリンゴ( Malus domestica)が誕生したのかは分かっていませんが、人によって栽培されていく中で、同じくセイヨウリンゴの祖先であることが報告されているヨーロッパの野生リンゴ(malus sylvestris)などと交配して出来上がっていったのかもしれませんね。

リンゴと神話

旧約聖書以外の神話にもリンゴは登場しています。ギリシャ神話の主神ゼウスの妻であるヘラをはじめとした女神たちを争わせた“黄金のリンゴ(パリスの審判)”のエピソード。同じく“黄金のリンゴ”はヘラクレスの12の功業の11番目「ヘスペリデスの黄金の林檎」としても登場していますし、トロイア戦争を引き起こす原因としても描かれています。

北欧神話では、神々の若さの源である“イドゥンのリンゴ”が登場します。こちらは、トリックスターの神ロキが巨人に“イドゥンのリンゴ”を渡してしまったため神々は老化し、慌てて奪還を命じたというエピソード。ケルト神話でもリンゴは不死の象徴とされていたと考えられています[7]。

ただし、神話を訳す時にリンゴとされている果物が、現在私達がリンゴ呼んでいる果物もしくはその祖先だったかは分かっていません当時appleやその語源として使われていた言葉は、果物の総称としても使わあれていた可能性があり、何を指すかまでは断定できないのです。聖書の“禁断の果実(善悪を知る果実)”は小麦だった[4]、ギリシア神話の“黄金のリンゴ”はオレンジのことだ、などの見解もあります。

紀元後~中世のリンゴ

古代ギリシアの後に栄えたローマ帝国も農業や品種改良を行っていた国。プリニウスなどは数十種類のリンゴを記録しています。また、ローマ人はリンゴを好み、行軍時にリンゴ植えたことで北ヨーロッパにリンゴ広めたという説もあります。ただし、ローマ帝国衰退後はリンゴ栽培や改良も衰退。

再びリンゴ栽培が活発になるのは11世紀、ノルマン征服によってノルマン人が新しい品種のリンゴがイギリスに導入されたころから。13世紀初頭にはイギリスでペアメイン(pearmain)というセイヨウナシに似た形をしたリンゴが記録され、13世紀末には英国種の大粒のリンゴ“costard”という品種も登場しています[6]。

リンゴは晩秋に収穫され、保存か効く果物。冬場のビタミン源として各地で重宝されてきた背景があります。ヨーロッパでも保存食としてリンゴは評価され、栽培が広がっていきました。ペストや戦争でリンゴ栽培が激減した時、イングランド王がフランスへリンゴ栽培を学びに行くよう指示したという話もあります。

アメリカ大陸でのリンゴ栽培

航海技術が向上し船での行き来が出来るようになると、ヨーロッパ人は入植地へもリンゴを持ち込み栽培するようになります。17世紀ころからカナダやアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどでもリンゴ栽培が行われはじめます。アメリカ西部開拓期の人物“ジョニー・アップルシード(Appleseed)”も、1800年頃にリンゴの種を蒔いて歩いたことで有名になった人です。

18世紀前後のアメリカで栽培されていたリンゴは、サイダーアップルと呼ばれるアップルサイダーやお酒の原料として使われるものが主でした。しかし、19世紀になると突然変異した甘く美味しいりんごが発見され、更に改良が重ねられていきます[6]。こうして現在の主力品種の原型と言える品種が作られ、ヨーロッパにも逆輸入のような形で導入されました。同時期にはオーストラリアで青りんご系の品種も作られています。

日本でのリンゴの歴史

日本の歴史にリンゴが登場するのは平安時代中期頃。中国からワリンゴが伝えられたことで林檎という呼び名とともに人々に知られるようになりましたが、当時伝わったワリンゴは粒の小さな野生種のようなもの。当時伝わったリンゴはあまり美味しくなく、花がきれいで可愛い実をつける観賞用の植物というニュアンスが強かったようです。

鎌倉~江戸時代になるとお菓子として加工された林檎が食べられていましたが、そのまま美味しく食べられる果物のポジションにリンゴがくるのは明治以降。現在食べられているセイヨウリンゴ自体は幕末に伝来していたものの、本格的に栽培が行われるようになったのは明治初期の北海道から。実は、日本で最初に西洋りんごの栽培を行ったのは青森県ではなく北海道なのです。

国内での西洋リンゴ栽培は、明治2年。農業指導を行っていたドイツ(当時の言い方ではプロシア)人のR.ガルトネル氏が“七重村農場”にリンゴの苗木を植えたことが初とされています。余談ですが、さくらんぼの栽培もガルトネル氏が植えたものが日本初と言われていますよ。日本政府もリンゴ栽培を推奨し、政府主導でのリンゴの品種の輸入・苗木配布も行われています。

明治10年には“青森県りんごの始祖”と呼ばれる菊池楯衛氏が七重村を訪れ、リンゴの栽培技術を学びました。青森県でそうした技術が広まり、明治のうちに青森県のリンゴ生産量が日本一に。戦争によってリンゴ栽培は衰退してしまいますが、徐々に復興や品種改良が進められ、昭和37年には日本が世界に誇るリンゴ品種“ふじ”が青森県藤崎で誕生しています。

 

【参考サイト】

  1. Origins of the Apple: The Role of Megafaunal Mutualism in the Domestication of Malus and Rosaceous Trees
  2. Malus – Wikipedia
  3. リンゴ/林檎/りんご – 語源由来辞典
  4. apple | Etymology, origin and meaning of apple by etymonline
  5. The genome of the domesticated apple (Malus × domestica Borkh.)
  6. SIMPLY… A HISTORY OF THE APPLE
  7. Fruit in Mythology

リンゴって聖書物語にも出てくるし歴史がはっきりしてそう……と思って調べてみたのですが、甘かった。Malus domesticaがはじめて記録されたのは19世紀あたり、いつから存在していたかは謎、リンゴ類の栽培の歴史も謎……難しい論文も読みましたが、分かったのは「分からないので色んな研究者が調べている」ということでした。うぅ、残念。ちなみに自分は北海道出身で、謎の歴史雑学が好物。ガルトネル農場と果樹の話は、学生時代に調べて知っておりました(今思えば渋い学生ですね)。生まれた地域も札幌の、かつては一面りんご農園だったと言われているエリア。小学校でもチラッと明治に始まったリンゴ栽培習ったような。そんな感じで調べたのですが、世界規模のの歴史の深さは甘く見ちゃいけないですね…。リンゴ、身近なのに謎が多い果物に格上げされました^^;