マヨネーズの起源はスペイン? フランス?
-日本での歴史・日本の独自性とは?

マヨネーズの起源はスペイン? フランス?<br/ >-日本での歴史・日本の独自性とは?

日本家庭の冷蔵庫でも定番となっているマヨネーズ。サラダ類はもちろんのこと、お好み焼き・たこ焼きなどソースと組み合わせたり、ツナマヨなどおにぎりなど具材の味付けにも使用していますね。世界中でマヨネーズは利用されていますが、ここまで様々な料理にマヨネーズを使うのは日本だけと評されることもあるほど。世界で一番マヨネーズを使うのはロシアだそうですが、なんでもマヨネーズで食べる国は日本という認識なんだとか。

そんな日本の食事にも欠かせないマヨネーズ。
どこの国で作られたものか、何語なのかご存知でしょうか。マヨネーズの起源は断定されていませんが、フランスもしくはスペインという説が有力視されています。そのほか意外と知らないマヨネーズの歴史や、日本人がマヨネーズを愛するようになったきっかけなどをご紹介します。

ケチャップの起源と歴史

マヨネーズとは

マヨネーズ(mayonnaise)は食用油・酢・卵を主材料を主原料としたドレッシングまたは調味料のこと。日本では厳密なマヨネーズの基準が定められていますが、言葉としては乳化させた半固形状=とろみがあるクリーミーな食感のソースもしくはドレッシング類を指す場合もあります。またマヨネーズは単体でも利用されますが“mother sauce”の一つに数えられるように、タルタルソースなど他のソース・ドレッシング類を作る時のベースとしても使用されています。

マヨネーズのポイントは卵黄(に含まれているレシチン)を乳化剤として油と酢を結びつけること。理科や家庭科の実験で作ったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。煮詰める工程があるケチャップウスターソースは作るのが大変ですが、マヨネーズはざっくり言ってしまえば混ぜるだけなので手作りする方も多いですよね。最低限、油・酢・卵・塩があれば作ることが出来ますし、電動泡立て器やブレンダーなどを活用すれば意外と手軽に作れます。油や酢を選んだり、香辛料を加えたりして自分好みのマヨネーズを作るのは結構ハマります。

ちなみにマヨネーズはフランス語ですが、英語も同じくmayonnaise。日本ではツナマヨやマヨラーなんて言葉もあるように「マヨ」と略して使われますが、英語でも同じ様に「mayo」と略して言う場合もあります。

マヨネーズの起源と語源は?

私達も使用しているマヨネーズ(Mayonnaise)という言葉はフランス語ですが、その語源やマヨネーズというドレッシングの発祥については諸説あり断定されていません。マヨネーズの語源として有力視されているのは地中海西部、バレアレス海にあるメノルカ島のマオンと、マヨルカ島の2つ特に1756年にフランスの軍隊が、イギリス海軍拠点であったメノルカ島を包囲・攻撃したエピソードは通説と言っても良いくらいによく耳にします。日本でもマヨネーズの代表的メーカーであるキユーピー株式会社さんなどがマヨネーズの起源として紹介されています。

1756年、メノルカ島包囲作戦を指揮していた第3代リシュリュー公爵ルイ・フランソワ・アルマン・ド・ヴィニュロー・デュ・プレシが港町マオンで食事をしようと思い立ちます。当時からフランスと言えば美食の国。そんな国のしかも公爵に食事を求められたシェフは困ってしまい、油・塩・レモン果汁に卵を加えてホイップしたクリーム状のソースを肉料理に添えて出したのだそう。食したリシュリュー公爵はこのクリーミーなソースを気に入り、後にパリでそのソースを「マヨンのソース」として紹介したことでMahonnaiseと呼ばれるようになり、時代と共にMayonnaiseという呼び名に変化していったという説が有力視されています。

同じマヨルカ島起源説でも、エピソードはリシュリュー公爵の勝利を祝うためにシェフが作った・フランス人がマヨルカ島を占領した時にソースを発見し自分たちの功績として盗んだという話まで様々。全く別の見解として、マヨネーズはフランス南西部の町バイヨンヌ(Bayonne)が発祥という説もあります。フランスの有名な美食家・評論家であるグリモ・ド・ラ・レイニエールは「マオン港は美味しいものがあると知られていない」という理由でメノルカ島のマオン説を否定。美食の町として知られていバイヨンヌが発祥だから、マヨネーズとは呼ばずbayonnaiseと呼ぶべきだと著書『Manuel des Amphitryons(饗応の手引き)』に記しているそうです。

このためメノルカ島・マヨルカ島(もしくは2島が属すスペイン)がマヨネーズの発祥の地であるとも、フランス食文化の一つであるという人も居るというのが現状です。19世紀に入るまでフランスの文献にマヨネーズの記述が無かったことから、スベイン説の方が有力視されています。グリモ・ド・ラ・レイニエールの主張は自国愛というか面倒くさいプライドみたいなものも感じられますしね。。ただしメノルカ島で作られたマヨネーズは卵を撹拌するという技法が使われていたものの「酢が入っていなかった」という指摘もあり、酢を効かせてマヨネーズとしての形を確立し世界に普及させたのはフランスだという見解も少なくありません。

古代エジプト説もある

現在のものとは異なっていますが、マヨネーズの原型と言えるようなソースもしくはドレッシングは古代エジプトや古代ローマでも食されていたという説もあります。それはオリーブオイルと卵を混ぜ合わせたものだったと考えられていますから、メノルカ島で作られた酢の入っていないマヨネーズの原型とされるドレッシングと通じるものがありますね。バレアレス海はイタリアやエジプトから見れば結構西側ですが、地中海周辺地域には古くから卵をドレッシングとして使う文化があったという見方もできます。田舎町のシェフが公爵の来店時にとっさの機転で卵を入れて作ったというよりは、何らかの伝統料理があったと考えた方が自然かもしれませんね。

マヨネーズの確立と普及

発祥地については諸説ありますが、文献としてマヨネーズのレシピが登場するのは19世紀初頭から。有名なフランス人シェフのルイス・ユスターシュ・ウデは1815年に著書『The French Cook』でレシピを公開していますし、この頃には呼称もマヨネーズ(mayonnaiseもしくはmagnonnaise)で落ち着いていたそう。

同年代の有名なフランス人シェフであるアントナン・カレームが使用したこともフレンチの定番ドレッシングとなった一因であると言われています。カレームはタレーランやナポレオンなどのメインコースを任せられていた料理人で、後にはロシア皇帝やオーストリア帝国皇帝にも仕えたことから「国王のシェフかつシェフの帝王」とも称されている超一流シェフ。美食国家フランスで認められたこと、カレームが使用したことなどから、マヨネーズはイギリスやドイツなどヨーロッパ各国へと広がっていきました。

マヨネーズのかかったサラダのイメージ

1830年代にはアメリカへもマヨネーズが広まり、1838年にはマンハッタンの有名レストラン“デルモニコス(Delmonico’s)”でも料理にマヨネーズが使われていたことが分かっています。アメリカ大陸にもあっという間に伝わったと言えますね。ちなみに当時のマヨネーズは上流階級が口にする高級ソースという位置付けで、マヨネーズを使ったサラダを食べるのはエリートの証くらいの感覚だったのだとか。というのも卵黄・酢・油を乳化させて綺麗に混ぜ合わせるのは手間がかかるため、当時はかなり高価なものだったようです。数十年後の19世紀末頃にはマヨネーズ=家庭で頑張れば作れるくらいまでのポジションに落ち着いていたそうですけど。

そんなマヨネーズが商品化されより身近な調味料となったのはドイツからニューヨークに移住したリチャード・ヘルマン氏が、1905年にニューヨークでデリカッセンを開いたことがきっかけと言われています。彼の奥さんのレシピで作ったマヨネーズを使ったサラダは好評で、マヨネーズだけ売って欲しいというリクエストが多かったので売り始めたのだとか。1912年には大量生産が始まり、1917年にはデリカッセンを閉めてマヨネーズ製造販売一本に。同時期には反対側のカリフォルニアでもBest Foods社によってマヨネーズが販売されています。

大規模な工場生産、しかも人力で材料を混ぜ合わせなくて良くなったことでマヨネーズの価格は低下しました。1920年代は機械式のパンスライサーが発明されサンドイッチがより身近になったことも、マヨネーズがより人気に、定番のドレッシングとなっていった理由の一つと考えられています。サラダだけではなく、サンドイッチにもマヨネーズは欲しいですもんね。1940年までにはマヨネーズはお金持ち向けの調味料ではなく、一般庶民・労働者の家庭の必需品として定着していました。

日本独自のマヨネーズ文化と基準

日本のマヨネーズの歴史

マヨネーズが日本に伝わったのはケチャップよりもやや遅く、大正に入ってからとなります。日本にマヨネーズを広めたのはキユーピー株式会社の創始者でもある中島董一郎氏キユーピーさんのサイトでは農商務省の海外実業実習生として缶詰の勉強をするためにアメリカに派遣された際、アメリカで日常的にマヨネーズを掛けた野菜サラダが食べられている光景を目にして日本の栄養不足の改善に役立つと着目したと紹介されています。中島さんがアメリカに留学していたのは1912年からだそうですから、丁度マヨネーズの生産体制が整って一般家庭でも気軽に取り入れられつつあった時代と言えますね。

帰国後に現在のキユーピーの母体となる食品工業株式会社を設立し、1925年(大正14年)には国内で初めてマヨネーズの生産を開始します。当時は服装から食事まで西洋化が進んでいた真っ只中だったので、受け入れられると考えたのだそうですよ。しかしマヨネーズの原料である卵は当時まだ高級品。それを加工したマヨネーズのお値段も高く、馴染みのない調味料という事もあって初年度の売り上げは600kg(120箱)と売れ行きは良くなかったそうです。

しかし広告宣伝に力を入れたことや時代の後押しなどもあってか、1941年にはマヨネーズの年間出荷量は10万箱(約500トン)と爆発的に増加第二次世界大戦の影響で原料の確保が困難となり一時は生産を中断したそうですが、終戦から3年後の1948年には再び製造が行われるようになります。戦後はキユーピーさん以外のメーカーもマヨネーズ製造に参入し、各社味の特徴を押し出すことで選択肢も広がりマヨネーズ市場は更に拡大しました。戦後と言えば大正期以上に西洋化が広がっていった時代でもありますから、マヨネーズは家庭に欠かせない調味料として定着していったと言えますね。

ちなみに現在、3月1日は「マヨネーズの日」として一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録されています。キユーピーさんが日本初のマヨネーズを発売したのは1925年3月9日ですが、日本初という意味も込めて3月「1」日にしたのだとか。

日本のマヨネーズは

ところで、輸入食品店でマヨネーズを購入したり、海外旅行に行って口にするマヨネーズ…日本で親しんでいた味や食感と少し違うなと違和感を覚えたことはありませんか? 日本人が想像するマヨネーズよりもとろみが少なくて酸味が強い、個人的にはコールスロードレッシングとマヨネーズの中間くらいの印象があります。

気になって調べてみた所、これは日本のマヨネーズが卵黄のみを使用しているものがポピュラーなのに対して、世界的には全卵を使用するもののほうが多い事が理由のようです。卵黄のみのほうがクリーミーで濃厚な風味になり、全卵タイプはあっさりとした印象になりますから、納得ですね。キユーピーマヨネーズは発売当時のアメリカ産マヨネーズの約2倍卵黄を使ったそうですし、海外ではレモン汁や蒸留酢を使うのに対して日本では醸造酢(米酢やリンゴ酢など)を使うという違いもあります。各社でお米を主食とした和食とも相性が良いように工夫されているので、同じくマヨネーズと呼ばれていても日本独自の味があると言っても過言では無さそうですね。

また日本農林規格(JAS)ではマヨネーズの定義を“原材料に占める食用植物油脂の重量の割合が65%以上”かつ“卵を使用して、着色料・保存料・増粘剤”と定めており、海外のものはこの基準に当て嵌まらないためマヨネーズではなく「マヨネーズ風ドレッシング(半固体状ドレッシング)」として扱われているものが多いそう。確かにマヨネーズよりもドレッシングやディップソースと言ったほうがしっくり来るものも多いように感じます。

ついでに、もう一つ日本のマヨネーズの特異性としてチューブに入っていることが挙げられています。日本のマヨネーズは柔らかいチューブボトルに入っていますが、輸入品はほとんどがビン詰めですよね。これは出しやすいというだけではなく、酸化を抑えて味の劣化を防ぐためでもあります。植物性油が主成分であるマヨネーズは、酸化が一番の問題。ポリエチレンとプラスチックの多層構造にするなど酸化対策に気を遣った結果、日本のマヨネーズはソフトチューブ入りが主流になっています。味にしろパッケージにしろ日本人らしい改良と言えるのではないでしょうか。英語版wikipediaの“Mayonnaise”でも日本のマヨネーズの独自性について記述があるので、海外の方にも独特のものと捉えられているような気がします。

参考サイト:A Brief History of MayonnaiseThe History Of Mayonnaiseマヨネーズの本 | キユーピー

私が幼い頃は「マヨラー」なんて言葉が普及した時期でもあり、白米にマヨネーズをかけて食べる人が取り沙汰されていた記憶があります(苦笑)。そのためかマヨネーズって戦後に日本で普及したものだと思っていたんですが、実は戦前から結構使われていたんですね。そして発祥は地中海沿岸地域…日本人は生卵を食べて不気味とか言いながら、生卵を使ったマヨネーズは良いんかいとツッコミたくなったのはココだけの話です。日本のキユーピーマヨネーズにしろ、アメリカのhellmann’s mayonnaiseにしろ、国内販売の元祖は未だにシェア率が高いというのも凄いのではないでしょうか。

特に日本の場合は大半の人がマヨネーズを知らない所にキユーピーさんが発売したわけですから、マヨネーズ=キユーピーという基準になったようにも思います。日本人が生野菜にもフライにも粉物にも米にもマヨネーズをかけるのは、メーカーさんが日本人に受け入れやすい万能調味料として開発してくれたからと言えます。今では当たり前過ぎて気にしませんが、体に悪い・太るとマイナスイメージを取り上げるだけではなく、食を豊かにしてくれた方々への感謝の心も忘れないようにしたいですね。