クグロフはの発祥はフランス? オーストリア?
-クグロフの特徴と歴史、起源説を紹介

クグロフはの発祥はフランス? オーストリア?<br> -クグロフの特徴と歴史、起源説を紹介

クリスマスケーキとして見かけることも増えたクグロフ。真ん中に穴が開いているドーナツを高くしたような形は共通ですが、軽い食感が特徴的なブリオッシュ系生地、パウンドケーキに近い食感の生地、クリスマス用として販売されることも多いチョコレートがかかったタイプなどのバリエーションもあります。今回はブリオッシュチュロスからするとまだ少しマイナーなクグロフについて、どこのお菓子で、いつから食べられていたものかを紹介します。

クグロフと似たお菓子の違い

クグロフとは

クグロフは焼き菓子の一種。近年はバターケーキタイプも多く流通していますが、トラディショナルなタイプは小麦粉・卵・バター・砂糖を主原料とする生地をイースト菌や酵母で発酵させ焼き上げたタイプです。クグロフを名乗るなら必ず入れるべし、という訳ではないのですが、リキュールで香りを付けたレーズンを生地に混ぜ込み、焼き上げてから粉砂糖をまぶしたものが世界的にオーソドックスなタイプとなっています。日本でも多くのクグロフにはレーズンが入っていますね。

製法だけではなく、クグロフの特徴と言えるのは「クグロフ型」と呼ばれる、側面に少しねじれた溝が入ったリング状の型に入れて焼きあげること。クグロフは日本だとお菓子に分類されていますし、外見もケーキ寄りですが、食味としてはブリオッシュや菓子パンに近い存在です。クグロフを古くから食べていたヨーロッパの地域では、日曜日の朝食の定番としても親しまれています。少し贅沢な朝ごはんに使われていることを考えると、パンに近い存在なのではないでしょうか。

クグロフを古くから食べてきた地域はフランス東部からドイツ、スイス、オーストリア、ポーランドなど中央ヨーロッパにかけてのエリア。かなり広範囲で食べられてきた菓子パンのため、呼び方も地域によって様々。日本ではフランス語からとった“クグロフ(Gugelhupf)”という呼称が使われていますし、アルザス地域の郷土料理として紹介されることも多いのでフランス菓子というイメージが強いかもしれません。ブリオッシュ系生地のクグロフの事を「フランス・アルザス風」と表現することもあります。

ちなみに、アルザス地域圏の横にはロレーヌ地域圏があり、短期間だけアルザス=ロレーヌ共和国として独立していた歴史もあります。ロレーヌ地域と言えばキッシュ発祥の地。アルザスにもクグロフ以外にキッシュとピザの中間のような“タルト・フランベ”があったりします。文化が入り混じる地域だからこそ、個性的で美味しい郷土料理が沢山あるのかもしれませんね。

クグロフは英語だと…?

クグロフというお菓子の呼び名はフランス語“Kouglof”の音をそのまま拾ってカタカナにしたものです。ならば、英語でクグロフは何と言うのか…ちょっと気になりませんか?

調べてみたところ、地域により違いがありますが、アメリカ英語でクグロフは“Gugelhupf”と表記することが多いようです。ドイツ語「グーゲルフップフ(Gugelhupf)」系ですね。日本だとフランス菓子というイメージが強いクグロフですが、フランスと言うよりもアルザス地域、もしくは中欧で食べられているお菓子という印象が強いのかもしれません。

クグロフの語源は

クグロフ(Kouglof/Gugelhupf)の語源については諸説があり、決着がついていません。

有力視されている説の1つは中高ドイツ語で僧帽(先のとがったフードまたは帽子)を意味する“クーゲル(Gugel)”という言葉と、ジャンプ意味する“フップフ(Hupf)”という言葉を繋げたというもの。グリム兄弟はこのHupfを酵母によってが膨らむ様子を表しているのかもしれない記した[1]ものの、真偽は定かではないようです。帽子型に焼いたパンもしくはケーキ、という感じで命名されたとすると納得できますけれどね。

また、新約聖書に登場する『東方の三博士』をもてなした、アルザス地域のリボヴィレというの村に住んでいたクーゲル(Kugel)さんにちなんで命名された[2]という説もあります。ただしこのエピソードは家に泊めてくれたクーゲルさんに旅の一行が感謝の意を込めて作った、クーゲルさんが三博士をもてなすために作った、などなど更に分かれており真偽は分かりません。ともあれ、クグロフ誕生のきっかけとされているリボヴィレでは毎年6月に“Fête du Kougelhopf à Ribeauvillé”というお祭りも開催されているそうです。

クグロフとカヌレの違いは?

クグロフと見た目が似ているお菓子にカヌレがあります。
オーソドックスなクグロフ型とカヌレ型はサイズ感が異なり、カヌレの方が小さいのですが、写真で見ると分かりにくいですよね。手軽に食べられるよう、小振りに作られたミニクグロフも時折売られていますから尚更です。

どちらも見た目だけではなくラム酒の風味があることも似ています。しかし、クグロフが生地をイースト発酵させるパン/ペイストリー式の作り方をするのに対して、カヌレの調理工程にはイースト菌発酵がありません。このため見た目は似ている2つですが、食べたときの食感は
クグロフ→パンに近い
カヌレ→焼き菓子感が強い
と別物に仕上がっています。

割って中を見てみると分かりやすいですね。

クグロフとカヌレ

ポピュラーなクグロフはレーズンが生地に練り込まれているのに対して、カヌレはレーズンやフィリングなどを練り込みません。カヌレは卵(特に卵黄)の比率が多いので、濃厚な味わい+もっちりした食感に焼きあがります。とは言えクグロフ・カヌレどちらも個性的なアレンジレシピが考案されているので、境界線が曖昧なレシピもあるような気はします。

また、原産地もクグロフとカヌレは違います。クグロフがアルザス地方や中央ヨーロッパなど広い地域で食され原産地が曖昧なのに対して、カヌレはフランスのボルドー(ボルドー女子修道院)で古くから作られていた郷土菓子のようなものだという事も分かっています。カヌレはフランス菓子と言い切ってしまって良い食べ物ですね。

クグロフとバントケーキの違いは?

カヌレよりももっとクグロフに近いお菓子として、バントケーキ(Bundt Cake)と呼ばれるものがあります。

クグロフとバントケーキ

実はこのバントケーキは、クグロフから派生してアメリカで誕生したお菓子というポジション。ヨーロッパ発祥の食べ物ではなく、ペンシルバニアダッチ料理とされています。ペンシルバニアダッチ=ドイツ語圏からアメリカ合衆国(ペンシルバニア周辺)に移住した人々の、という意味ですね。

バントケーキには“バント・パン”と呼ばれる専用の焼き型がありますが、この型以外でも「リング状の型を使って焼かれるケーキ」の総称として使われています。製法についても厳密な決まりは無いので、クグロフに近いパン生地系のものから、バントケーキミックスを使って手軽に焼いたスポンジケーキ/パンケーキ系の生地まで様々。中の生地がカラフルな層になっている、アメリカらしい「レインボーバントケーキ」なるものまであります。

リング型のケーキの総称としてもバントケーキという言葉が使われています。ヨーロッパの方々が聞いたら微妙な顔をなさるかもしれませんが、英語版wikipediaではクグロフ(Gugelhupf)のタイプがBundt cakeとされています[1]。広義で捉えるとバントケーキの中に、クグロフやイタリアのパンドーロなども含むという見方も出来てしまうわけですね。

ただし、限定はされないものの、バントケーキはぺーキングパウダーを使って膨らませたケーキタイプが主流。ブリオッシュに近いイースト発酵させたリッチな生地を使用するクグロフとは、何となく住み分けがされているように感じます。日本だとぺーキングパウダーやHMを使ったクグロフレシピもあるので、作者の主張による部分もありますが。

クグロフのルーツと歴史エピソード

クグロフは古代ローマからあった?

新約聖書に登場する東方三博士のエピソードはさておき、クグロフはいつごろから食べられていたのでしょうか。大まかに「ヨーロッパで中世から」と紹介されることもありますが、実はもっと昔、起源前からクグロフは食べられていたという説があります。

ずっと人々に親しまれ続けてきたという訳ではないにしろ、古代ローマ帝国には既にクグロフのベースはありました。その理由は、現在のオーストリア、当時はローマ帝国の軍駐屯地だったカルヌントゥムからもクグロフ型が発掘されているから。それ以外にハンガリーやフランスなどからも青銅器製のクグロフ型が発掘されており[3]、2000年以上も昔に既にクグロフに似たパンもしくはケーキが食べられていたと考えられています。

クグロフ文化は一旦途絶える

古代ローマ時代からクグロフはずっと人々に親しまれてきた…という訳ではありません。ローマ帝国が分裂・崩壊していく中で、クグロフを作って食べるという文化も衰退し忘れられていったと考えられています。完全に無くなっていた訳ではないのでしょうが、1000年近くほとんど歴史には登場しません。

こうした背景にはクグロフを焼くために“酵母”が必要だったという事が考えられています。古代ローマではパン作りの製法はパン職人たちと彼らを働かせていた王侯貴族によって独占され、キリスト教もこの独占に参入します。酵母は醸造業者と蒸留業者が生産し、それをパン職人に販売するというルートが確立されていた[4]なんて話もありますよ。

自家製酵母も作れなくはないですけれど、基本的に一般家庭で食べられているパンは無発酵パン(種なしパン)が大半=生地を発酵させるクグロフには馴染みが薄かったのでしょう。

直接的な起源は15世紀頃

表舞台から姿を消したクグロフが再び登場するのは中世後期、15世紀頃からです。この頃のオーストリアでクグロフは結婚式などのイベントで提供され、ハレの日の特別なご馳走として扱われていました。現在私たちが食べているシンプルなクグロフとは異なり、季節の果物や花などで飾り付けされていたと伝えられています[1]。現代で言うデコレーションケーキのようなものでしょう。

16世紀にかけてクグロフは広い地域で普及していきました。1581年に発行されたドイツで最初に印刷された料理本『EinNewKochbuch』にも、帽子型のケーキとしてクグロフが載っています[4]。ちなみに、この頃のクグロフは王侯貴族のような上流階級の人々が食べるものではなく、庶民がちょっと贅沢するケーキというポジション。使われていた材料もシンプルかつ質素なもので、現在でもバターや卵が入ったものを“rich man’s kugelhopf(金持ちのクグロフ)”、卵・バターが少ないものを“poor man’s kugelhopf(貧者のクグロフ)”と表現する[2]こともあるそう。

ハプスブルク家はクグロフがお好き

フランスでクグロフを広めたのはマリー・アントワネット?

貧しい人々のケーキという扱いだったクグロフ。このスイーツが上流階級の人々も口にする、贅沢な焼き菓子へと昇華した背景にはハプスブルク家の影響が挙げられています。クグロフを好んだ王として紹介されることの多いフランツ・ヨーゼフ1世ですが、それよりも前の世代、マリーアントワネットも関係しています。

マリーアントワネットはフランス王妃でもありますが、元はハプスブルク家の出身でウィーン生まれ。他のペイストリー普及のエピソードでもよく登場するように、当時パンや焼き菓子の先進国だったオーストリアから多くの食文化をフランスに伝えた方でもあります。

クグロフもマリーアントワネットが好んで食べていたとされるお菓子の一つ。フランスでは16世紀のクグロフ型がいくつも残っているので輿入れ以前から存在はしていたのでしょうが、フランス宮廷を筆頭とした上流階級にヒットしたのは王妃が好んでいたからかもしれませんね。

名家ハプスブルク家のお嬢さんであるマリーアントワネットが食べていたというくらいですから、彼女が生まれた18世紀半ば時点にはクグロフの地位も「貧乏人のケーキ」よりも上がっていたんでしょうね。ウィーンに攻めてきたオスマン帝国軍を撃退したハプスブルク家に感謝を込めて、ウィーンのパン屋がスルタンのターバンの形をしたケーキを贈ったという伝説もあります[2]。

フランツ・ヨーゼフ1世によって高級ペストリー認識も

マリーアントワネット以上に、クグロフの歴史に登場するのが1830年生まれのフランツ・ヨーゼフ1世。この方もハプスブルク家の一員で、マリーアントワネットの甥に当たります。彼はクグロフが大好きで、毎日朝食にクグロフを注文していた・愛人にクグロフを焼いてもらっていたなんて逸話もあるほど。

オーストリア皇帝でありハンガリー国王でもあったお方ですから、影響力も強かったのでしょう。ウィーンのブルジョワジーも彼に倣って朝食やアフタヌーンティーにクグロフを食べるようになりました。クグロフがステータスシンボルくらいの扱いだった時期もあるようです。このことからフランツ・ヨーゼフ1世はオーストリアでクグロフを広め、地位を向上させた立役者として扱われています。

オーストリア・ウィーン風のクグロフ、と呼ばれるタイプはバターケーキ系の生地がよく使われています。卵やバターの分量もこちらの方が多いので、こちらの方が“rich man’s kugelhopf”なのかもしれません。

【参考サイト】

  1. Gugelhupf – Wikipedia
  2. In Alsace, a Pastry With Heart and History
  3. ハプスブルク家のお菓子―プリンセスたちが愛した極上のレシピ(著者:関田淳子/新人物文庫)
  4. The history of the Gugelhupf

お菓子なのかパンなのか微妙なクグロフ(笑)カヌレは完全にお菓子ですけれど、個人的にクグロフは菓子パンとパンの中間くらいとして扱っています。オシャレで高級というよりは素朴なイメージがあるので、元々は農民やあまり裕福で無い方が食べていたケーキという経緯を知って納得してしまいました。

クグロフやそれに似た各地のお菓子がクリスマスに食べられているのも、晴れの日のご馳走だった名残+18世紀くらいから高級ペイストリーとして使われるようになった名残かもしれません。生クリームやチョコレートなど重めのケーキが苦手な方は、クリスマスに食べてみては?