ガレット・デ・ロワの起源と歴史
-新年に食べる理由・キングケーキとの違いは?

ガレット・デ・ロワの起源と歴史<br> -新年に食べる理由・キングケーキとの違いは?

サクホロ食感の生地と、濃厚なアーモンドクリームが美味しいフランスの焼き菓子、ガレット・デ・ロワ。12月~1月くらいになると期間限定メニューとして販売しているパティスリーやパン屋さんも多いですよね。ガレット・デ・ロワが冬季限定なのはフランスの新年菓子だから? フランスではいつから食べられているの? など個人的に気になった事を調べてみました。歴史や逸話を知るとガレット・デ・ロワを食べるのがもっと楽しくなりますよ。

ガレット・デ・ロワ基礎知識

ガレット・デ・ロワとは

ガレット・デ・ロワはフランスの伝統的な焼き菓子の一つ。
フランスでは1月6日の公現祭に食べるお菓子としても親しまれています。

ガレット・デ・ロワの作り方は地域によってバリエーションがありますが、もっとも広く食されているのは折りパイ生地の中にアーモンドクリーム(フランジパーヌ)が入ったタイプです。円形に焼き上げられ、上に紙で出来た王冠がのっています。日本で一般的に“ガレット・デ・ロワ”として販売されているのもこちらのタイプですね。

ところで、ガレット・デ・ロワ(Galette des Rois)は直訳すると「王達のお菓子」
昔はフランス王室御用達だったのかなと思うネーミングですが、実はこの“Rois”は聖書に登場する人物を指しています。それはイエスキリストが生まれた時に、星に導かれてキリストの元を訪れて礼拝したと伝えられる東方の三博士。日本では博士・賢者と呼ばれることが多いですが、東方三賢王とも表現されフランスでは“rois mages”と呼ばれています。この東方三博士がキリストのために用意した供物を象徴するお菓子、というのが呼び名の由来です。

ちなみに、同じフランスでも、南フランスでは公現祭に“ガトー・デ・ロワ(Gâteau des rois)”もしくは“ブリオッシュ・デ・ロワ(brioche des Rois)”と呼ばれるタイプのケーキを食べます。ブリオッシュは生地のタイプなので少しニュアンスが違いますが、ガトー(Gâteau)はケーキを意味するフランス語。ガトー・デ・ロワを直訳すると「王達のケーキ」となります。こちらの王も同じくフランスの国王などではなく、降誕したキリストの元にやってきた“東方の三博士”の事を指しています。

キングケーキとの違いは?

ガトー・デ・ロワ(Gâteau des rois)の“rois”は、アメリカでは英語に直訳されて“キングケーキ(King Cake)”と呼ばれています。フランスからの入植者によって、旧フランス領だったアメリカ合衆国南部に持ち込まれ広まったもの。一般的なキングスケーキはフランス南部で食べられているブリオッシュ生地・パン生地に近いタイプで、元々は元々は公現祭の日のお祝いとして食べられていました[3]。

しかし、現在ルイジアナなどの地域では、公現祭の日ではなく謝肉祭(カーニバル)の日にキングスケーキが食べられています。謝肉祭の最終日、肥沃な火曜日(マルディグラ)に食べられることが多く、見た目もマルディグラの色である緑、黄、紫のアイシングがかけられています。日本人からするとケーキというよりは、カラフルなデコレーションが施された大きなドーナツ状に焼かれたパンという感じですね。

公現祭とは?

ガレットデロワは本場フランスで「公現祭」の日に食べるお菓子、いわゆる行事食ような扱い。この公現祭、宗派によっては顕現日や主の洗礼祭などとも呼ばれ、英語ではEpiphany(エピファニー)と表現されることもあります。とは言え、キリスト教に馴染みが無い方であれば、どの呼び名を聞いても「何それ?」ですよね。

公現祭はキリスト教の祭日で、文字通りイエス・キリストが公現(顕在)したことを記念した日とされています。カトリックなどの西方教会系宗派では、ベツレヘムの星に導かれた“東方の三博士”がイエス・キリストの元へ辿り着き、礼拝を行ったことを記念した日と説明されています。人類の前にキリストが現れた日ではなく、三博士よって幼子イエスが見出された(公現した)ことを記念する日なんです。

ともあれ、キリスト教では
12月25日:クリスマス
1月6日:公現祭
までがクリスマス期間として、イエス・キリストの降誕を祝う文化があります。日本ではお正月に備えて12月26日あたりにはクリスマス飾りを撤去してしまいますが、キリスト教国では公現祭(エピファニー)の日までクリスマス飾りもそのままです。クリスマスよりも盛大にお祝いされていた時代もあったようですし、地域によってはクリスマスではなく公現祭にプレゼントをもらうという風習も残っています。

そんな公現祭は西方教会(カトリックなど)では1月6日、固定祭日とされています。ただし祝日になっていないキリスト教国では、平日にお祝いするのは無理があるので、1月2日から1月8日の中の日曜時にお祝いするケースもあります。日本でもこの移動祭日式のところが多いそう。ちなみに。クリスマスと同じく聖書には明確な日付は書かれていないので、日にちは元々1月6日に行われていたギリシア神のお祭りがキリスト教化した[1]ものようです。

ガレット・デ・ロワ=新年をお祝いするお菓子?

ガレット・デ・ロワは日本では、フランスで新年をお祝いするお菓子と紹介されることもあります。ケーキ屋さんでも新年菓子(ケーキ)として予約受付していたりしますよね。

ガレット・デ・ロワは厳密には「公現祭に食べるお菓子」。
公現祭は年が明けてから少し経った1月6日ですから、新年のお祝い菓子、と言い切ってしまうのは若干語弊を感じます。クリスマスを大晦日のお菓子って言っているような違和感を感じなくもない。

ですが、公現祭のお祝いも現代ではキリスト教色が薄まっているのも事実。クリスマス期間の最終日なので親しい人と食事をする、ガレット・デ・ロワを食べつつフェーブでちょっとした占いをする、など新年行事の一つを兼ねたカジュアルなお祝いになっているようです。

レット・デ・ロワも1月6日だけに食べるのではなく、年末~1月6日までの間に食べるという雰囲気のようです。フェーブが欲しくてねだるお子さんがいたり、期間限定のお菓子として何店舗かで買ったりと、複数回食べることも珍しくないそう。調べた限り、公現祭で三賢者に思いを馳せて食べるというよりは、年末年始のご馳走(ケーキ)というニュアンスを強く感じました。

フェーブ(fève)って何? マメ?

ガレット・デ・ロワは、中に一つだけフェーブ(fève)と呼ばれる、陶器の小さな人形が入っていることも特徴です。みんなで切り分けて食べる際に、このフェーブの入った部分を貰えた人は大当たり。王冠を被る権利を得ることができ、その年は一年間幸運に恵まれる――と伝えられています。

photo by Fungus b~commonswiki

ちなみに、フェーブ(fève)は直訳すると“そら豆”の意味。現代ではガレット・デ・ロワの中にそら豆を入れることはほとんどありませんが、昔は本物のそら豆が入っていたのだそうです。芽を出してすくすくと伸びるそら豆は、生命の発芽・成長を象徴するものだったと考えられています。日本のおせち料理で使われる縁起物(縁起の良い食材)にも通じるところがありますね。

南フランスの“ガトー・デ・ロワ”やアメリカ南部で食されている“キングケーキ”にもフェーヴを入れる習慣はあります。王冠を模ってケーキ自体をドーナッツ型に焼くようになったというう話もありますが、ドーナッツ型ケーキに紙の王冠をのせているタイプも結構見かけます。

また、アイルランドなどでハロウィンに食べられている焼き菓子“バームブラック”も、ケーキの中にソラマメなどを入れて占いのようなことをします。公現祭の日に限らず、ヨーロッパではこうした占い・おみくじのような文化が古くからあったのかもしれません。

ガレット・デ・ロワの起源と歴史

ガレット・デ・ロワのルーツは古代ローマ?!

1月6日は東方三博士がイエス・キリストに礼拝したことを記念する“公現祭(エピファニー)”となっていますが、実はキリスト教以前から1月6日頃はお祭りが行われていました。公現祭を表す英語epiphany、フランス語だとépiphanie、という言葉についても、語源はギリシア語の「epiphaneia(出現)」であると考えられています。

クリスマスの起源でも登場するように、キリスト教以前のヨーロッパでは、各地でそれぞれに冬至のお祭りを行っていました。太陽が天にある時間が最も短くなり、翌日からは太陽が再び力を取り戻す冬至の日を特別視していたのですね。古くは西方世界で最も力を持っていたローマ帝国でも同様に、12月25日前後には農業神サートゥルヌス神を祝したお祭り“saturnalia(サートゥルナーリア祭/謝肉祭)”が行われていました。後に太陽神ミトラを祝う“Dies Natalis Solis Invicti(不滅の太陽が生まれる日)”と合体したという説もありますが、ともあれ、当時には古くからお祭りが行われていたのです。

そして、ローマで行われていたサートゥルナーリアはとても盛大だったことが分かっています。サートゥルナーリア祭ではご馳走を用意して盛大に飲み食いし歌って踊ったり、社会的役割を入れ替えた主従逆転(奴隷と主人が役割を入れ替えて振舞う)をしたりと、無礼講に近い馬鹿騒ぎが行われていました。この時に「ケーキに豆を隠し、その豆が当たった奴隷は一日だけ王様になり願いを叶えられる」という風習も行われていた[1][2]と考えられています。現在も行われている、ガレット・デ・ロワのフェーブ探しとよく似ていますよね。

4世紀に入り、皇帝コンスタンティヌスがキリスト教を公認したことでサートゥルナーリア祭は衰退していきます。すぐ完全に切り替わることは無かったようですが、お祭り期間(降誕節)の開始は12月25日のクリスマスに、お祭り期間の最終日は1月6日の公現祭へと、キリスト教の祭日と合体・置換されていきました。今は公現祭のあとにくる最初の日曜日を“主の洗礼の日”としてそこまでが降誕節とされていますが、古くは公現祭が最終日だったんですね。

フランスで公現祭の定番になったのは13~14世紀頃

フランスで、公現祭の日に特別なケーキ(ガレット・デ・ロワ)を食べる伝統が始まったのは13~14世紀頃[2]のこととされています。それまでも宗教色を失ったエピファニーのお祝いは行われていたという説もありますが、記録として見られるのは“ルイ2世 (ブルボン公)がエピファニーで8歳の子供を王にした”など、14世紀前後からのようです。サートゥルナーリアから続く当たりのマメを引いたら王様になれるという風習が受け継がれていることが分かりますね。

また、この時にはキリスト教色も強く、エピファニー=東方三博士がイエス・キリストの元を訪れて供物を捧げたことを記念する日という認識も強かったようです。パーティーの参加者へケーキを切り分けて振舞う意外に、もう一つ「聖母マリアの分け前」もしくは「貧しい人々の分け前」と呼ばれるケーキを用意して施しをする風習もあったそうですよ[3]。このころから公現祭の日に食べるガレット・デ・ロワが広まり、地域や地方の習慣に応じてさまざまな形や味で作られるようになっていきました。

16世紀にはパン屋さんとケーキ屋さんの争いも

公現祭にガレット・デ・ロワを食べる風習が広まると、そこに商機を見出したのがパン屋さんとケーキ屋さん。ガレット・デ・ロワを独占的に販売できるようにと、16世紀頃には彼らの間で静かな抗争が起こりました[4]。というのも、当時食べられていたガレット・デ・ロワは、現在私たちが目にするパイ生地系のものではなく、パン生地に近いケーキ。ベーカリーの管轄か、パティシエの管轄か、確かに微妙なところですよね。

最終的にフランソワ1世が、ガレット・デ・ロワの販売権をパティシエに認めたことでこの利権争いは終幕となります。しかし、諦めきれないパン職人たちはケーキではなくガレットに置き換えることで、販売禁止を回避した[4]なんて話も。こうした背景があって、私達が食べているガレット・デ・ロワ=アーモンドフランジパーヌを詰めたパイ生地のガレットが誕生したのかもしれません。現在もフランスではガレット・デ・ロワをパティスリーではなくベーカリーで売られている(購入する)ことが多いそう。パン屋協会の粘り勝ちと言ったところでしょうか。

1870年頃からウェーブが磁器製に

ガレット・デ・ロワのお楽しみと言えば、当たると王様・王女様になれるフェーブ。元々はリアルな豆が使われており、中世には金貨を入れていたケースもあるそうですが…現在目にするような小さな人形がフェーブとして使われるようになったのは1870年代からです。最初の磁器フェーブは1874年にドイツで作られた、幼子のイエス・キリストを模した人形だそうです。

そこからキリスト降誕のシーン、天使、鳩などの宗教的モチーフが使われるようになり、時代と共に徐々にキリスト教から離れた形のものも登場してきます。近年ではプラスチック製のフェーブも多く使われていますし、お子さんをターゲットにした車・アニメキャラクターなどもあります。宗教的なニュアンスよりは、家族で楽しむ・お子さんをターゲットに売り上げアップなどの面が重要視されていそうですね。

ちなみに世の中には“fabophiles”と呼ばれるフェーブのコレクターの方々[1]もいらっしゃり、専門のオンラインショップやオークションなどでフェーブだけを購入するという事もあるそう。インターネットで見た限り「古代エジプト」シリーズや、音楽関連のアイテムなどフェーブの種類は様々。何となくコレクター心をくすぐられるのも分かるような気がします。

参考サイト
[1]エピファニー(公現祭)とはどんな意味?
[2]THE GALETTE DES ROIS: A TRADITION CELEBRATED AROUND THE WORLD
[3]King cake – Wikipedia
[4]Story and Tradition of French Galette des Rois Epiphany King Cake

中学校からずっとキリスト教系の学校に通っていました。東方三博士のエピソードは知っていたのですが、プロテスタントだったためか、公現祭という祭日は成人してから知りました。ガレットデロワも公現祭もしくは新年の祝い菓子というよりも、クリスマスケーキの仲間だと思っていたりして(笑)

ガレット・デ・ロワのお楽しみ、幸運のフェーブ。これも日本だと結構入っていないことがある気がします(自分が買ったものには入っていなかった)。せっかくなので年末年始にガレット・デ・ロワを購入するときは、フェーブ入りのものを買って家族や仲間と運試しをしてみても良いかもしれません。ちょっとした王様ゲーム感も入れると盛り上がって楽しそうです。