フイッシュアンドチップスって結局ナニモノ?
-起源と歴史・トリビアを紹介

フイッシュアンドチップスって結局ナニモノ?<br />-起源と歴史・トリビアを紹介

料理が不味いという評もあるイギリスですが、旅行に行った際に食べてみたいイギリス料理ランギングを作ったら上位に入るのこと間違いなしなのがフイッシュアンドチップスではないでしょうか。むしろそれ以外にイギリスを代表する料理を思いつかない、という事も珍しくないと思います。ある意味では悪名高い「うなぎのゼリー寄せ」も有名ですが、食べてみたいかは人によりますしね。

イギリスを代表する料理、ファストフードと言えるフィシュアンドチップス。
日本でも提供されているお店はありますが、ハンバーガーやフライドチキン・ピザなどと比べればかなりマイナーと言っても問題ないでしょう。ですがフィシュアンドチップスは世界的なファストフードの一つでもあります。日本でもそのうち流行るかも知れない(?)ですし、フィシュアンドチップスの歴史を見るとイギリスの歴史との深い関わりも見えますよ。

フイッシュ・アンド・チップスについて

フイッシュ・アンド・チップスとは

フィシュアンドチップス(Fish and Chips)は白身魚のフライ+フライドポテトがセットになっているもの。イギリスに行ったことのない・そこまで興味がない方でも、名前を知っている方が多いのではないでしょうか。ちなみに使われる魚は地域やお店によって違い、味付けも塩のみだったりオリジナルのソースが付いたりと様々。現地ではフィシュアンドチップスを売るお店のことを親しみを込めて「chippy(チッピー)」や「chipper(チッパー)」と呼ぶのだとか。

イギリスでフィシュアンドチップスはバーやレストランなどでも提供されていますし、小さなお店では飲食スペースがなく持ち帰り専門というところも多いそう。お持ち帰りして歩きながら、もしくはベンチなどに座って食べている方もいらっしゃいます。イギリスには約8,500のフィシュアンドチップス専門店があり、マクドナルドの店舗1店舗につきフィシュアンドチップスショップは7~8つあるくらいの計算になると言われていますよ。イギリスで消費される白身魚の約25%、ジャガイモの約10%はフィシュアンドチップスで使われていると評されていますから、まさに国民的料理の一つと言えそうですね。

また、フィシュアンドチップス=イギリス名物という印象がありますが、実は世界的にポピュラーなファストフードの一つでもあります。お隣のアイルランドを始めアメリカ・ニュージーランド・オーストラリア・南アフリカなどなど過去にイギリス支配下に会った国・現在のイギリス連邦加盟国にはフィシュアンドチップス販売店が多くあるのだとか。日本はそこまでイギリスと密接な関わりがあったわけためか、アメリカの影響が強いからか、フライドチキンよりも親しみという点では一段下がった印象がありますけどね。

フィッシュは何の魚?

フィシュアンドチップスもしくはバタード・フィッシュと、呼び名から“fish(魚)”が外れない様にフィッシュアンドチップスは魚のフライが主体の料理。稀にエビ・ロブスターが使われるものもあるそうですが、大多数は白身魚のフライとなっています。白身魚にも沢山の種類がありますが、多いのはハドックやコッドと呼ばれているタラの仲間。その他にイギリスではカレイ類やウナギ、アイルランドではエイ、オーストラリアではゴウシュウマダイなど、その地域で良く獲れる・安価で手に入る魚も使われています。一応フィシュアンドチップスショップのチェーン店もあるようですが、マックドナルドのように世界の都市の大半に同じ店があるというほど増殖してもいないので地域性があると言っても良いかもしれません。

チップスなのにフライドポテト?

フィッシュ&チップスと言うのに、チップスではなく細切りにしたジャガイモを揚げたフライドポテトが使われていることに違和感を覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか。私達日本人はチップスと言われると薄くて平べったい形状の揚げ物=ポテトチップスのようなものを想像しますが、イギリス英語で“チップス(chips)”という言葉はジャガイモを揚げたものを指します。同じ英語でもアメリカ英語の場合はフレンチフライもしくはフライドポテトと言い、チップスも日本と同じような感覚で使われています。フィッシュ・アンド・チップスのチップスはフライドポテトですが、アメリカ式のフライドポテトよりも太いことが特徵なんだとか。

フライドポテトの起源や歴史はこちら>>

では、イギリス英語圏の方は私達が思っているチップス・ポテトチップ的なものを何て呼ぶのかと言えば、答えはクリスプス(Crisps)。日本でも確かに使う言葉で、ポテトチップス類としてもTOPVALUさんなどからは“Potato Crisps”というパッケージのものが出されていますね。日本ではアメリカ英語とイギリス英語、その他の外来語がごちゃ混ぜになっているので余計に分かりにくいのかもしれません。個人的な感覚ではジャガイモをスライスしてそのまま揚げたものがチップス、粉末にしたジャガイモを平丸形に成形したお菓子をクリスプと日本では呼び分けているようにも感じます。

フィッシュ・アンド・チップスの起源は?

フィッシュアンドチップスがイギリスで食べられ始めたのは今から約150年ほど前、19世紀中頃。しかし誰が魚のフライとポテトチップス(フライドポテト)をセットにして始めたのかについては、諸説あり分かっていません。

初のフィッシュアンドチップス販売店についても1860年頃にロンドンでジョセフ・マリン(Joseph Malin)が初1863年頃にランカシャー州モスリーでジョン・リー(John Lees)が売ったのが初、と双方が元祖を主張しあっているのだとか。魚のフライやフライドポテトについてはその50年以上前からイギリスで食されていましたから、話題にならなかっただけでセットにして販売していた店もあったのではという指摘もあります。

日本語版ウィキペディアではホット・パイ・ショップが発祥という説も紹介されています。元々はサイドメニューのような形で魚のフライとポテトフライを販売していたのが、そちらのほうが人気になってしまい切り替えたという見解ですね。19世紀初頭から魚やジャガイモを揚げたものが存在していたと考えれば、さもありなんと言いたい話ではあります。

フイッシュ・アンド・チップスの歴史と豆知識

フィッシュアンドチップスは産業革命の味

本国イギリスでも解明されていない元祖フィシュアンドチップスについてはさておき、1860年年代以降フィッシュ・アンド・チップスの販売は右肩上がりに成長していきます。これはイギリスの人々に受け入れられたというだけではなく、産業革命という時代背景も大きく関係していたと考えられます。産業革命という言葉には色々な技術革新が含まれていまが、フィシュアンドチップスに関係する部分で言えば蒸気船と鉄道の発明ですね。

蒸気トロール船の使用によってイギリスの漁場はグリーンランド海と北海にまで広がり、白身魚の漁獲量は大幅にアップ。港から都市までが鉄道で結ばれたことで輸送時間とコストが減少し、魚はかつて無いほどに値下がりして手の届きやすい食材となりました。何処の国でも同様ですが、労働者が外食にも求めるのは「安い・早い・腹持ちが良い」の三点が基本条件。魚が安く手に入るようになったこと、料理工程はシンプルでありながら美味しく食べごたえのあるフィッシュアンドチップスが労働者向けの食事として販売されるようになったのです。日本で言うところの江戸時代に屋台で売られていた“握り寿司”と同じような感覚ですね。

産業革命があったからフィシュアンドチップスが普及したとも言えますし、産業革命によって都市部に集中した人口をフィシュアンドチップスが支えたという見方もあります。どちらにせよフィシュアンドチップスと産業革命は深い関わりがあると言えるでしょう。1860年代にスタートしたフィッシュ・アンド・チップスの販売は、20世紀初頭にはロンドンだけでも約1200軒、1920年代にはイギリス全国に35,000件以上と爆発的に増加しました。

フィシュアンドチップスはイギリス初のファストフードと称されているだけではなく、外食産業の先駆けであるとも言われています。19世紀後半まで一般庶民は外食をする事がほとんどなかったので、庶民にとっては最初の外食産業=フィシュアンドチップスでもあるのです。1930年代頃からは中流階級もフィッシュアンドチップスショップに出入りするようになり、食べ物を売るだけではなく庶民の憩いの場・社交場としても愛されるようになります。元々が庶民発祥で料理としても価格としても親しみやすかった事もあって、現在に至るまで国民食として愛され続けているという面もあるように感じます。

フィッシュアンドチップスのイメージ

世界大戦に勝ったのはフィシュアンドチップス?

産業革命の影響によってイギリスで普及したフィシュアンドチップス。1900年代前半も着々と店舗数が増えていったのは上記でご紹介しましたが、1910年代には第一次世界大戦、1940年頃には第二次世界大戦と大きな戦争もありました。産業革命だけではなく、世界大戦についてもフィシュアンドチップスの逸話があることをご存知でしょうか?

第一次世界大戦では安価で美味しいフィシュアンドチップスがイギリスの勝利を陰ながら支えたと称されています。また第二次世界大戦はイギリスでも配給制がとられていましたが、フィシュアンドチップスは変わらずに提供さ続けていました。当時の政府は国民に親しまれているフィシュアンドチップスを提供することが士気低下を防ぐことに繋がると考え、配給を途切れさせないよう努めたと伝えられていますよ。イギリスはフィッシュアンドチップスなど国民の食料供給を維持した、維持できなかったからドイツは負けたのだという見解もあるそう。

世界大戦には勝ったが、タラ戦争には負けた

第二次世界大戦後の1958年から、イギリスとアイスランドでは「タラ戦争(Cod Wars)」と呼ばれる紛争が起きています。呼び名の通りタラ…というかタラが良く獲れる漁場を巡って、第一次から第三次までに分けられ約20年間も二つの国が争うことになったのです。

アイスランドは第二次世界大戦中はドイツに占領され、戦後もアメリカとイギリスが駐在していました。1944年になってやっと独立出来たものの、主な財源はタラなどの水産資源。タラをヨーロッパに輸出することで外貨を獲得していました。しかしヨーロッパの大型トロール漁船が近くで魚をがっつり獲っていってしまうため、水産資源の減少が問題に。そこで自国の領海を4海里から12海里へと拡大すると主張したものの、イギリスは認めず軍艦付きで操業を続けました。後の1972年にはアイスランドが漁業専管水域を50海里、1975年には漁業専管水域を200海里へと拡大する新法を制定。

1958年の12海里から1975年の200海里まで、毎回イギリスは承認しかねると軍艦を出して威嚇したり、時には衝突したそうですが、結果的にはどれもアイスランドの主張が通ることになっています。最後の200海里についてはイギリス漁船は最大24隻まで・年間の漁獲量は5万トンまでという条件が認められましたが、イギリスには大打撃。その後はアイスランド以外でも各国で200海里排他的経済水域を設定しますし、世界的にタラの漁獲自体も激減しています。タラの主用途と言っても良いフィシュアンドチップスも従来の値段での販売が困難となり、他の安いファストフードにお客さんが流れてしまうというケースもあるそうです。

新聞紙には包まれていない

イギリスのフィシュアンドチップスというと揚げたてを新聞紙で包んで渡される…というイメージがありませんか? ちょっと古めの映画を見ると、屋台で新聞紙に包まれたフィシュアンドチップスを買って買えるシーンが結構あったような気がします。伝統的にテイクアウトのフィシュアンドチップスは古新聞で包んだ形で提供されるという形がポピュラーだったそうです。昔は「〇〇の新聞で包む店は美味いんだよ」なんていう都市伝説もあったそう。

しかし1980年代に新聞紙のインクと食品が接触するのは宜しくないという話になってからは、衛生用の白紙+油分を吸収するための古新聞で包んだ形で提供されるという形に変更。ですが二重構造にするのは手間がかかること、古新聞の量が減ったことなどもあり、現在は食品用の包装紙を使うか、プラスチック容器に入れる用になっています。新聞紙のほうが雰囲気が出ると、新聞柄のプリントをした包装紙も人気。

参考サイト:BBC – Travel – Chipping away at the history of fish and chipsTraditional British Fish and Chipsフィッシュ・アンド・チップス – Wikipedia

イギリスのファストフードというかソウルフードであるフィシュアンドチップス。魚の値段の問題やチェーン店化などで伝統的な(個人経営の)専門店は減少しつつあるそうで、イギリスでは伝統食保護的な活動もなされているようです。一番美味しいフィシュアンドチップスを決める大会が開かれていたり、フィッシュ・アンド・チップス連盟 (TNational Federation of Fish Friers)さんで作り方講習をしたりとか。チェーン店も気軽で良いけど、それぞれの個性や特色のある個人店を潰さないっていうのも大切ですよね。

私が日本やアメリカで食べたフィシュアンドチップスは普通に美味しかったですが、昔イギリスに留学していた友人は「あいつらは油を切るという行為を知らないのでは」と愚痴っていました。お店によるんじゃないかと思いますが、本場の国でも当たり外れはある模様。友人が美味しいと連れて行ってもらったお店は、冷めるのと同速度で油がベチャベチャに染みていったらしいです(苦笑)メシマズ国のイメージ払拭のために頑張っているイギリス、最近のフィシュアンドチップスはどうなんでしょうかね。