ミートローフと歴史と雑学
-ハンバーグとの違い・米国料理化した経緯は?

ミートローフと歴史と雑学<br />-ハンバーグとの違い・米国料理化した経緯は?

アメリカやヨーロッパではハンバーグよりもよく食べられているミートローフ。細かく切った野菜などとひき肉を混ぜたものを長い箱もしくは筒状に固めた、日本人からするとロースハムみたいなハンバーグとでも言うべき料理。アメリカでこのミートローフが定番家庭料理の一つに数えられるほど親しまれている理由、ハンバーグとの違いなどミートローフの気になるところを調べてみました。

ミートローフとその仲間

ミートローフとは

ミートローフは挽肉を大きめの塊に成型し、加熱調理した食べ物の総称。
牛肉で作られることが多いですが、呼び名が“meat(肉)”となっている通り豚や羊・鹿・鶏肉などで作られることもあります。そのほかツナ・ミートローフやシュリンプ・ミートローフなど魚肉やシーフードを主原料としたミートローフも作られていますから、かなり幅が広い料理と言えます。

ミートローフの“ローフ(loaf)”というのはアングロサクソン系の古英語でパンを意味する言葉。ここから派生してローフ型=直方体に近い形状を呼ぶ言葉となり、似たような形に整えて焼く料理を〇〇ローフと呼ぶようになりました。日本語だと穀物粉の生地を焼き上げたパン・鍋が両方とも「パン」と同じカタカナ表記になるので分かりにくいですが、箱型パン型のことをローフパン(loaf pan)と呼んでいるのもパン鍋というような意味合いです。このローフパンを使ってミートローフを作ることも多いようですよ。ただしローフパン系の形ではなく、ソーセージのような円筒状に作られることもあります。

ミートローフに使用されるお肉・肉以外の具材は国や地域によって様々。アメリカの家庭料理として紹介されることが多いものの、ミートローフに含まれるお料理は多くの地域に存在しています。アメリカ国内でも“家庭の味”のため野菜や香辛料には違いがありますし、呼び名は違えどミートローフ類といえる料理はヨーロッパの様々な国で伝統料理となっています。こちらも使用される材料には若干の違いがありますからミートローフの最大公約数的な定義は細かく切った肉を使うこと、大きな塊で作って切り分けるもしくは型に入れて加熱することと言えそうです。

ミートローフとハンバーグとの違いは

ひき肉を使った料理として、日本では国民食とも言えるくらいにハンバーグが浸透しています。ハンバーガーの仲間・アメリカの料理という印象を持ちがちなハンバーグですが、実際のところは和食と言っても過言ではない存在だったりします。私達が今食べているハンバーグはアメリカの牛挽肉ステーキ(Hamburg steakもしくはSalisbury steak)を日本人感覚でアレンジしたもので、ハンバーグが美味しい料理である・大好きでたまらないって人が多数派なのは日本とハワイくらいだとも言われています。世界的に見ると挽肉料理はミートボールもしくはミートローフの2種類が主流と言えるようです。

ハンバーグについてはこちら>>

とは言っても、日本人からすると「ハンバーグもミートローフも形が違うだけでは」と思ってしまうもの。お一人様サイズの小判型がハンバーグ、縦長に作って入り分けて食べればミートローフに分類されるように感じます。ア日本でポピュラーなハンバーグとでは挽肉以外の材料に違いがありますが、ミートローフの定義がざっくりしている以上はハンバーグ種をローフパンに入れて焼いたものもミートローフと言い切れなくはありません。おそらく間違ってもいないでしょう。

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とは言え、ミートローフを作ろうと思ったのに完成したらパサッとした巨大な四角いハンバーグになってしまった…というのはちょっと悲しい。そこでハンバークっぽくなく、ミートローフらしさが出せるポイントとしては

  • 挽肉はペーストに近い細切れ・赤身多め
  • タマネギ以外の野菜・ゆで卵などを入れる

の2点が挙げられます。

ミートローフはハンバーグよりみっしりとした、練り物やバテに通じる食感。使用する挽肉を変えることでこの食感に近付けることが出来ますし、レシピサイトでは豚挽肉と鳥挽肉を混ぜて使う・おからを入れるという方もいらっしゃいます。また、ミートローフは切った時の断面に個性が出る料理でもありますから、ゆで卵や細かく切ったニンジン・枝豆・いんげんなど彩り野菜を加えることも多いです。そのほかハーブ・スパイス類を活用してハンバーグとはまた別の味付けにすることを提案されている方も。

個人的にはミートローフのほうがジューシさ(肉汁感)や焼き立て感にこだわる必要がなく、手抜きしようと思えば電子レンジで加熱しちゃえるので楽かなと思います。芸術的センスがある方は表面をマッシュポテトなどを使ってクリスマス向け・誕生日向けなどにデコレーションされているのもレシピサイトなどでお見かけします。日本だと馴染みの薄い「お肉系ギフトセットに入ってるやつ」くらいの認識のミートローフですが、ハンバーグより味・見た目ともにアレンジしやすい部分が魅力かなと。

各国のミートローフ事情(?)

アメリカ

ミートローフ大好き国家の筆頭がアメリカ。似た製法で作られている他国の料理もミートローフ類として紹介していますが、ミートローフ(meatloaf)という言葉時代がアメリカで食べられている料理を指す英語ですしね。同じ英語圏の国というかアメリカ英語の元となっているのはイギリスですが、イギリスでは地域によって冷やして食べるhasletまたはaceletという豚ひき肉のミートローフが食べられている程度でミートローフはポピュラーでは無いそう。詳しくは下記の歴史で紹介しますが、アメリカのミートローフ文化はイギリス系移民ではなくドイツ系移民から広がっていったものなんです。

家庭料理の定番とも言われるほどミートローフが定着しているアメリカ。アメリカ国内でも様々なレシピがあり、何系アメリカ人かによっても好みが違うようです。一応アメリカンミートローフの特徴とされているのはメインコースの一部として温かい状態で提供されることが多い、後付けでケチャップやグレービーソースなどのソース類をかけるという点。お肉は牛と豚の合いびき肉で、卵はつなぎ(ゆで卵は入れない)・野菜はタマネギとニンジンくらいということが多いようです。いろんなレシピサイトで調べてみましたが、香辛料・ハーブなどはバラバラでした。全体的な傾向としてお肉主体のシンプルで肉肉しいものが好まれているような印象です。

ゆで卵入り

ブルガリア・ハンガリー・ポーラントなど東ヨーロッパあたりで食べられているミートローフは、真ん中にゆで卵が入っているタイプがポピュラー。ドイツやギリシアもゆで卵が入ることが多いようです。ちょっと変わっているのがフィリピン。フィリピンの代表的なミートローフには“Embutido”と“Hardinera”の2つがあり、“Embutido”と呼ばれるミートローフはカットしたゆで卵・ニンジン・ピーマン・ピクルス・レーズンなど様々な物が挽肉に混ぜられており、オーブンで焼くのではなく蒸すことが特徴。クリスマスやお祭りの日・お祝い事がある時にも使われるようです。もう一つの“Hardinera”も同じく具だくさんで蒸し調理されますが、平たい楕円もしくは長方形の型に入れて蒸す=切り分けないことが特徴。

北欧

フィンランドのミートローフ“lihamureke”は挽肉とタマネギが主体で、後はつなぎにパン粉・サワークリーム・卵が入る程度のシンプルなもの。味付けも香辛料はほぼ使われておらず、最低限だと塩・胡椒だけというものもあります。日本のハンバーグもしくは肉団子に近いようなタネですね。対してデンマークでは“Forloren Hare”と呼ばれるミートローフが食されており、こちらもフィンランドと同じく人シンプルなもので味付けは塩コショウ+α程度。外側にベーコンが網目状に巻かれていることが特徴です。

菜食式クリスマスはナッツロースト

欧米を中心にクリスマス時期になるとナッツロースト(Nut roast)もしくはローストナッツローフ(roasted nut loaf)と呼ばれる料理を出すお店も増えるようです。日本でナッツローストと言えばローストナッツ・ナッツを焼いたものしか想像できませんが、ナッツローストと呼ばれるのはベジタリアン・ビーガンの方向けの料理。挽肉の代わりにナッツを細かく砕いたものを使用し、パン粉や栗などをつなぎにして作ったミートローフもどきのことなのだそうです。ちなみに野菜類や香辛料はほぼミートローフと同じで、繋ぎには米などの穀類・豆類を使ったレシピもありました。見た目はほぼミートローフ。肉を食べない菜食主義の方々はクリスマスディナーや特別な日にローストビーフやミートローフの代わりにナッツローストを食べることが多いそうです。

Gunmakers, Clerkenwell, London

ミートローフの起源と歴史

ルーツはハンバーグと同じ古代ローマ?!

現代に私達が食べているミートローフに近い形が出来たのは中世、もしくは肉ひき機(ミンサー)が誕生した近代と考えられています。しかし、古い時代から肉を細切れにして料理に使うという方法は使用されており、ミートローフの原型と呼ばる料理も古代ローマから既に存在していたという声もあります。

その根拠となっているのは4世紀~5世紀頃に記されたという、古代ローマ(ローマ帝国)時代のレシピを集めた『Apicius(アピシウス/ラテン語: De re coquinaria)』という書籍この『Apicius』の2巻目Sarcoptesはミンチ肉を使ったレシピを集めたものになっており、ソーセージなどのレシピも掲載されています。47番目のレシピとして登場する“Isicia Omentata”はおそらく細かくカットした豚肉を使用したレシピで、ミートローフの原型としても「ローマ時代のハンバーガー(※日本で言うハンバーグ)」とも称される存在。ラテン語がわからないので英訳版からですが…

[47] ALITER ISICIA OMENTATA

FINELY CUT PULP [of pork] IS GROUND WITH THE HEARTS OF WINTER WHEAT AND DILUTED WITH WINE. FLAVOR LIGHTLY WITH PEPPER AND BROTH AND IF YOU LIKE ADD A MODERATE QUANTITY OF [myrtle] BERRIES ALSO CRUSHED, AND AFTER YOU HAVE ADDED CRUSHED NUTS AND PEPPER SHAPE THE FORCEMEAT INTO SMALL ROLLS, WRAP THESE IN CAUL, FRY, AND SERVE WITH WINE GRAVY.

引用元:Project Gutenberg’s Cooking and Dining in Imperial Rome, by Apicius

となっており、筆者の怪しい英語力で大雑把に訳すと「細かく切った豚肉にワインを浸した小麦(パン?)を混ぜ、胡椒とブロス(だし汁)で下味をつけてマートルベリーを加えて挽く。砕いたナッツと胡椒を加えて小さいロール状にして大網膜に包んで加熱料理する」という感じでしょうか。ハンバーグともミートローフとも違う気はしますが、挽肉に具を練り込んだ“肉ダネ”を作って加熱するという感じは確かに原型と言えなくは無いのかな、と。

この『Apicius』は5世紀にまでには完成していたと推測されていますから、細かく刻んだ肉と繋ぎを練り合わせて加熱するという調理法は更に前から存在していたのでしょう。現在の挽肉というよりもさいの目切りに近い肉が使われていた・豚肉は使われていなかったなど様々な憶測が飛び交っていますが、時代や技術も考慮すれば“挽肉”と言って問題無いのではないでしょうか。日本でも木の実を砕いて固め直した「縄文ハンバーグ」なる食べ物が発掘されていますから、硬い部分・半端な部分を細く砕いて形を作り直そうというのは原始的な発想なのかもしれません・

中世に各地で独自の形へ

ローマ帝国で食されていた挽肉料理はヨーロッパ各地へと広がり、それぞれの地域で採れる野菜・フルーツ・ナッツ・調味料を使用するレシピが誕生していったと考えられます。こうした料理が広まり愛されたのは半端な野菜や傷んでしまいそうな食材を使いやすかった=残り物処理・節約レシピとして優秀だったからではないかという見解もあります。日本で言う雑炊・ごった煮的な感じでしょうかね。

ヨーロッパでは11世紀頃から十字軍遠征の関係もあり、それまではほとんど流通しなかった果物や香辛料が出回る時代へと入っていきます。ミンスパイフルーツケーキなどと同様に、ミートローフ(の原型)も普段は家にある半端食材・クリスマスや収穫祭ではスパイスやドライフルーツを使ったものと使い分けられていた可能性もありそうですね。現在はドライフルーツと砂糖・香辛料が主体のミンスミートやミンスパイについても、中世の時点では牛ひき肉にこれらの具材を混ぜ合わせて作る保存食であったことが分かっています。

ミンスパイを伝統食としているのはイギリス文化圏、ミートローフ系の食べ物はドイツから東ヨーロッパにかけての地域・オランダから北ヨーロッパにかけての地域でよく食べられているようです。元は同じようなものだったのが、肉感とメインディッシュ感を強調したもの、保存性やフルーティーさを強調したものに分かれたのかもしれませんね。ともあれ、ドイツやオランダなどではミートローフが伝統食に数えられるほど親しまれてきた食べ物でした。アメリカにミートローフを伝えたのもこの二カ国から移住してきた人々であったと言われています。

ミートローフのイメージ画像

アメリカへ渡り国民食になるまで

現在ミートローフ大好き国と世界に認識されているアメリカ。
そのアメリカへとミートローフが伝わり食べられるようになったのは17世紀頃、北アメリカ植民地化が本格的に進められた時期と推測されています。アメリカへと入植してきたオランダ人・ドイツ人達はそれぞれのコミュニティ内で自国で親しんできたミートローフ様の調理を食べていたのでしょう。現在アメリカで親しまれているミートローフの原型についてもオランダ・ドイツの食事がアメリカ流にアレンジされたものとされています。

現在食べられているミートローフに影響を与えた・前段階であると目されているのがペンシルバニア州発祥の「スクラップル(Scrapple)」という料理。スクラップルは豚ひき肉に小麦粉やコーンミール・スパイスを練り合わせて焼いたもので、薄っらいハンバーグとパテの間のような食感。17世紀頃ペンシルベニアにオランダもしくはドイツから入植した人々が、自国で食べていた“Pannhaas”もしくは“pan rabbit”というミートローフの一種をアレンジして作ったものとされています。

当時スクラップルが製造された背景には潰した豚の廃棄量と少なくし、出来る限り有効活用しようという目的があったとも伝えられています。ステーキ用の肉をカットしたあと骨から削り取った肉・使わない内臓などを煮込んだものをマッシュ状にしたものが使われていたようです。このため食品としてのランクはソーセージよりも更に下であると評する方もいらっしゃるほど。ソーセージやハンバーガーなども同じですが、一時期は「何が入っているかわからない肉」と挽き肉料理全般が警戒される傾向にあったため、17~18世紀の間は一部の人以外には普及しなかったそうです。

挽き肉に対する目が変わったのは19世紀、手回しの肉ひき機(ミンサー)が発明されて以降。19世紀後半になると家庭用ミンサーの販売が行われるようになり、企業は製品を宣伝するためのレシピ本の提供なども行いました。その努力の甲斐あってかアメリカでは家庭で作る食事にもひき肉が使用されるようになっていったのです。1800年代後半には当時ポピュラーなレシピ本だった『Boston Cooking-School Cook Book』にもパン粉と卵を使ったミートローフのレシピが登場し、19世紀末から20世紀初頭にかけての時期にはミートローフがアメリカで広まりつつあったことが分かっています。

ミートローフは大恐慌・第二次世界大戦で定番に

アメリカの家庭に徐々に浸透していたミートローフが爆発的に普及したのは1930年代、大恐慌と呼ばれる経済不況が起こったことがきっかけでした。お金が入ってこない・失業者が相次ぐような経済業況でアメリカの主婦たちが目を付けたのが、安価で売られている端肉と残りもので出来てしまうミートローフ。古くなったパンを粉にしたり、小麦粉やコーンミールなどの穀物粉を加えることで肉のカサ増しも出来ることから家計の味方としてミートローフは一気にアメリカの庶民層に広がっていきました。

更に世界恐慌の終焉と重なる1939年からは第二次世界大戦が勃発。家計に優しく栄養も補給できる料理としてミートローフはこの時も食卓によく登場していたそう。戦時中ミートローフは“Vitality Loaf”とも呼ばれ、良好な栄養状態でいざという時には戦争に参加できる様にと推奨されていたという逸話もあります。また、戦時配給規制が強化された1940年代に入ると『Your Share: How to Prepare Appetizing, Healthful Meals With Foods Available Today (意訳:今日用意できる食材で食欲をそそる健康的な食事を準備する方法)』というシュールなタイトルのレシピ本も発刊されており、その中では“Emergency steak”なんて名前でミートローフが登場しています。

世界恐慌から第二次世界大戦という食べたいものを手に入れられない可能性があった数十年間、この中で安く食べごたえがあり栄養も補給できる料理としてミートローフは家庭料理の定番としての地位を獲得したようです。戦争が終わった1950年代以降もミートローフは家庭料理として愛され、時には女性的なイメージやスキルを称賛するためのアイテムとしても使われたそう。日本で言うところの「肉じゃがが上手」みたいな感じですかね。90年代頃からはレストランなどでも高級バージョンのミートローフが登場するようになり、Comfort food(コンフォートフード)=心が安らぐような心地よい食べ物の一つとして注目されているようです。

参考サイト:From Budget Fare to Culinary Inspiration, the History of MeatloafFood Timeline: history notes-meatA Neb at Nut Roast – information and recipes

ギフトセット的なものに入っているミートローフはあまり好きではない私。実は練り物系全般が(食べるけれども)得意ではなく、パック詰めのミートローフも練り物っぽい感じがして苦手です。ですが、気まぐれにレシピサイトを見て作ってみたところ結構ハマりました。アメリカに留学していたり、アメリカ人と結婚したわけではないので「アメリカの家庭の味」を食べられる機会が無いのがちょっと残念。ママが豪快に作ったミートローフは肉肉しくて美味そうなイメージです←

ハンバーグ優勢なせいか、ミートローフは日本だとそこまでポピュラーな惣菜ではないように思います。しかし、日本人はアレンジの天才。ナッツローストじゃないですが、ミートローフのくくりに入れちゃって良いのかレベルでアレンジできるような気がしています。私は豆腐を入れる派。豆腐ハンバーグ・おからハンバーグは焼く時に崩れやすいですが、ミートローフだと自称してしまえば型に入れて焼けるから楽っていう。