ベーコン=スモークした豚バラは間違い?!
-ベーコンの定義と種類・歴史とは?

ベーコン=スモークした豚バラは間違い?! <br />-ベーコンの定義と種類・歴史とは?

ハムと並んで家庭料理でも外食でもよく見かける食肉加工製品ベーコン。朝食にそのまま焼いたりベーコンエッグにして食べるのはもちろんのこと、ベーコンバーガーやサンドイッチなどのランチメニュー、アスパラのベーコン巻きなどはおつまみにと大活躍する食品です。

ハムとベーコンは形も食味も違うから間違わない、と思いがちですが実は日本のハムやベーコンはイギリスなどの方から見れば特殊なのだとか。今回はベーコンの定義や種類、起源説や現在のようなベーコンが食べられるようになった歴史などを紹介します。

ベーコンの定義と雑学

ベーコンとは

ベーコンは豚肉を塩漬けにして、塩を洗い流したのちに燻製もしくは乾燥させた食肉加工品です。

「ベーコン(Bacon)」という呼び名の語源は古高ドイツ語の“bacho”ではないかと考えられており、意味は“back meat(背中の肉/ロース)”とされています。16世紀頃にはイギリスで英語として取り入れられ[1]、現在でもイギリスやアイルランドを筆頭にヨーロッパ諸国ではロースベーコンが主流の国が多いようです。

とは言え、アメリカや日本では腹側のお肉(バラ肉)を原料にしたベーコンの方が主流
世界的に見ると使用する豚肉の部位は背中(ロース)と腹(バラ肉)が多いですが、ショルダーベーコンやネックベーコン、豚の半丸枝肉を使ったサイドベーコンなど様々な部位が利用されています。強いて言えばハムに使用するモモ肉は使わない傾向にあるというくらいでしょうか。日本はハムにモモではなくロースを使うことの方が多いですが、かと言ってモモベーコンは見かけないように感じます

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日本でのベーコンの品質表示基準

各国で商品としてのベーコンの表示基準がありますが、私たちの住む日本では使用する豚肉の部位によってベーコン・ロースベーコン・ショルダーベーコン・ミドルベーコン・サイドベーコンの5種類の表示が定められています。ちなみに英語ではロースベーコンはバックベーコン(Back bacon)、ショルダーベーコンはコテージベーコン(Cottage bacon)と呼ばれています。

ベーコン類品質表示基準[2]では単に「ベーコン」とだけ表示できるのは豚のバラ肉を原料としたもので、ロースで作ったものはロースベーコン、肩肉で作ったものはショルダーベーコン、豚の胴肉を使ったものをミドルベーコン・豚の半丸枝肉を使ったものがサイドベーコンと書かれています。

ベーコン(バラ)やロースベーコンなどは「ミドルベーコン又はサイドベーコンの該当部位を切り取り整形したもの」というような記述もありますから、ミドルベーコンとサイドベーコンはバラ・ロース・ショルダーを抜かした部位が多いのかなと思います。

豚肉以外のベーコンも

ベーコンの定義を辞書などで調べると「豚肉」であることが書かれていますが、世の中には豚肉以外で作られた“ベーコン”も沢山あります。エルク・シカ・マトン肉を使ったものやアヒル肉を使ったダックベーコン、七面鳥を使ったターキーベーコンなどもあります。日本でもクジラベーコンがありますね。宗教上の理由で豚肉を食べられないイスラム教圏では特に豚肉以外のベーコン文化が発達しているようです。

また、ベジタリアンやヴィーガンの方・健康を考えている方向けに肉以外を原料としたベーコンも作られています。大豆たんぱく質を使って作ったソイミートをはじめ、ココナッツやナス・キノコなどを燻製もしくはオーブンで焼き上げたものもベーコンと呼ばれています。このあたりになるとベーコンの定義が分からなくなってきますが、ベーコンっぽい風味や見た目になれば「○○ベーコン」と呼んでしまうようなところがあるのかなと。

各地のベーコンと特徴

ベーコンは使用するお肉の種類・部位によって呼び方を変えて区分しているだけではなく、その場所でポピュラーなベーコンだよという意味で「アメリカンベーコン」などという俗称でも区別されています。それぞれの地域で特徴や種類によって呼び名が多くありますが、今回はBacon Scoutsを参考に豚肉を原料としているベーコンの地域差を紹介します。

アメリカンベーコン

イギリスなどではロースベーコン(バックベーコン)がオーソドックスなベーコンとして扱われているのに対し、アメリカでは脂肪の多い部位を使ったベーコンが好まれています。サイドベーコン、特にポークベリー(バラ肉)を使用したベーコンが好まれて使われていますから日本人の思う“ベーコン”とほぼ同じものですね。おそらくアメリカ人は自分たちの食べているベーコンを「アメリカンベーコン(American bacon)」とは言わず、イギリスやカナダで食べられているバックベーコンとの区別でそう呼ばれるのでしょう。

バックベーコン類

豚肉の部位と名称

カナディアンベーコン

同じ北米でもアメリカがサイド(バラ)ベーコンが好まれているのに対し、カナダではバックベーコンの方がオーソドックスです。食感は柔らかくてジューシー、形は円形に成形されることが多く食べた時の印象はハムに近いと称されます。日本ではハムをロースから作っていますから尚更に「厚切りのハム」という感じがありますね。このため自分たちの食べているベーコンとは違う種類という意味でか、アメリカ英語ではバックベーコンのことを“カナディアンベーコン(Canadian bacon)”と表現することもあるようです。

アイリッシュベーコン

イギリスやアイルランドではロース肉を使用したバックべーコン類がオーソドックスで、燻製タイプ・非燻製タイプの両方があります。カナディアンベーコンとの違いは外側に脂肪の層が若干あること、きれいな円形ではなく横に長い形状をしていることが多い点。カナディアンベーコンはロースハムですが、アイリッシュベーコンは厚切りのベーコンとハムの中間という感じ。こちらもアイルランドでは「Irish bacon」とは呼ばず、単に「bacon」と呼ばれています。

パンチェッタ

カルボナーラを筆頭としたイタリアンでもお馴染みのパンチェッタ。元々イタリア語で“パンチェッタ(Pancetta)”というは豚のバラ肉を指す言葉で、そこから豚バラ肉を使用したベーコンの呼び名としても使われるようになりました。原料がバラ肉のため脂身の白の比率が高いことが特徴で、クルクルと巻き込んで断面が渦巻き模様になっている“arrotolata”・通常のブロック肉形状の“stesa”に大きく分かれます。

大抵のベーコンは加熱して食べる必要があるのに対し、パンチェッタ生でも食べられることも大きな特徴と言えますね。パンチェッタは豚肉に塩をすりこんで熟成・乾燥させることで作られます。日本ではこの印象が強いためパンチェッタ=生ベーコンと呼ばれることもありますが、パンチェッタという括りの中には燻製するタイプのパンチェッタ・アッフミカータ(Pancetta affumicata)もありますよ。

ジプシーベーコン

ジプシーベーコン(Gypsy Bacon)は呼び名の通りジプシーの方々が伝統的に作って食べてきたベーコンで、皮付きのままローストした串焼きに近いベーコンです。ペッパーやニンニクを使ってスパイシーな風味。手軽に作ることが出来るためベーコンを手作りしようかなというが最初にとチャレンジすことが多いタイプと言えるかもしれません。ハンガリーなどで食べられているスラブベーコン(Slab bacon)も同じように皮付きでローストして作られているそうです。

ベーコンの起源説と歴史

ルーツは紀元前中国

ベーコンの起源は紀元前1500年頃、古代中国にあるのではないかと考えられています。野生のイノシシから家畜化された「豚」が古くから東南アジア周辺地域に存在しており、中国でも新石器時代から「豚」は家畜として飼われていたそう。中国は古代ユーラシア大陸の西側ではトップの先進国でもありましたから、様々な文化が発展していた中国で“保存のために塩に漬け込む”という方法で加工されるようになった[3]と考えられています。

イノシシの家畜化はユーラシア大陸の東西で行われ、さほど時期は変わらずユーラシア大陸の西側でも独自に家畜の「豚」は誕生していたそう。古代オリエントや古代エジプトでも豚を食べるという文化はあったようです。しかしながら現在イスラム教では豚肉を食べることがタブーとされていますし、古代ローマなどでも豚は食べられていましたが重用されていたという訳ではないようです。

古代ローマには豚肩肉を煮込んだ料理などもあった[3]ようですが、どちらかと言えば寒冷地で土壌もあまり良くない、北法に住むゲルマン人やケルト人の方が豚をよく食べていた[4]のだとか。ハムも古代中国やケルト人(ガリア人)が古くから食べていたと伝えられてますから、豚肉を食べていた人たちがお肉を保存するために自然と“塩漬けにする”ようになったのかもしれませんね。

ベーコンのイメージ画像

よりベーコンに近づくのは中世頃?

紀元前からユーラシア大陸各地でベーコンのルーツと考えられている「豚肉の塩漬け」は食べられてきました。しかし、当初のベーコンは適度に切り分けた豚肉を塩に漬けただけのもの。確かにベーコンとの共通点もありますが、私たちが現在食べているベーコンとは全く別物ですね。

ベーコンがより現在のベーコンに近づいたのは中世初期頃、中央ヨーロッパの農民がたまたまその地域の鉱山からの塩で豚肉を塩漬けにしたことがきっかけではないか[3]と考えられています。完全に精製されていない岩塩には硝酸塩が含まれており、お肉の中で亜硝酸塩に変化したことで塩漬け肉に変化が起こります。

亜硝酸塩には殺菌効果があり、かつ風味を保ってくれる働き・肉の色をピンクっぽい色に変化させる働きもあります。ちなみに、当時ヨーロッパで食中毒の原因として多かったのがボツリヌス細菌。亜硝酸塩はボツリヌス細菌を抑えるのにも役立ちました。

このことによって保存が効き当たりにくい肉加工品を作ることに成功し、中世の北ヨーロッパでは秋に太らせた豚を屠畜し食塩と硝石(硝酸カリウム)で処理したものが冬場の主食と言える存在になっていきました。ちなみに、現在でもベーコンには保存料・発色剤として亜硝酸ナトリウムが使われているものがあります。

ベーコンの語源説

上記でも紹介させていただいたように「ベーコン(Bacon)」という呼び名の語源は古高ドイツ語の“bacho”であると紹介されることが多いのですが、実は語源ははっきりしていません。古フランス語の“bacun”であるとか、旧オランダ語の“baken”だという説もあり、学者たちの間でも意見が分かれているそう[1]。

どちらにせよ15世紀頃まで使われていた中期英語には“bacon”もしくは“bacoun”という言葉があり、加工されたベーコンだけではなくカットされたいくつかの豚肉を指す言葉として使われていたようです。

17世紀以降、ベーコンは更に進化

1600年代になるとヨーロッパの農民たちの間でベーコンは良く食べられる食べ物の一つになっていました。作るのが簡単で保存が効き、しかも安価であるという庶民の味方。この頃にはベーコンをスモークするという方法も行われ、手間のかかったスモークベーコンはとっておきの日のごちそうだったという逸話もあります。15世紀までにはイギリスにもベーコンの作り方は伝わっており、特に農民やあまり裕福ではない人々にとっては重要な食料として親しまれてきました。

18世紀後半、イギリスでベーコンは更に進化します。きっかけは1770年代、ジョン・ハリスがウィルトシャーで工場を作り大規模なベーコン生産を始めたこと。当時のベーコンは秋に太らせた豚を冬を迎えるころに捕殺して作るという一種の季節商品。しかしジョン・ハリスはウィルトシャーに養豚場を作ることで、商品として肉の安定供給を図ります。また、当時は自家製ベーコンを作る際に一か月以上の塩漬け熟成期間が必要でしたが、ジョン・ハリスは肉をブライン液(塩水もしくは塩水に砂糖を混ぜたもの)に漬け込む方法を採用[6]したことで生産コストを低下させました。

初期に作られたベーコンは品質が高いとは言い難いものだったようですが、貧しい方々をターゲットに安く販売され人気となったようです。1800年代に入る頃には加工方法もより洗練され、ヴィクトリア朝時代にかけイギリス中で様々なベーコンが販売され食されるようになっていきました。ロンドンでは様々な地域から仕入れられたベーコンが販売されていたそうですよ。

アメリカでも独自にベーコンは進化

ユーラシア大陸各地で家畜化され食肉として利用されてきた「豚」は、コロンブスと共にアメリカ大陸へも到達しています。コロンブスはイザベラ女王の提案で航海に豚を連れていた[3]そうですよ。その後に移民たちがアメリカ大陸へ向かった際にも豚・豚肉の加工法は持ち込まれたでしょうし、持ち込まれた豚はアメリカ大陸内で繁殖され爆発的に増えていきました。こうした背景からアメリカでも1600年代頃から豚肉を保存するベーコンは作られていたと考えられます。

アメリカでも徐々にベーコンの工業生産化が進み、1883年にはオスカー・F・マイヤーとガットフリーダ・マイヤー兄弟がシカゴに「The Oscar Mayer Company」を設立。マイヤーの看板商品と言えるのはドイツ系移民を中心に人気を博したフランクフルトですが、彼らはベーコンやハムなども手掛けています。1924年にはオスカーマイヤー社がアメリカで初のスライスしてパッケージしたベーコン製品として特許を取得しています。

第二次世界大戦後にはBLT、ベーコンチーズバーガーなどベーコンを使ったアメリカンなレシピも普及。21世紀に入る頃には「ベーコンマニア」と呼ばれる熱狂的なベーコン好きの方々も登場。チョコレートでコーディングしたベーコン・メープルベーコンドーナッツ・ベーコンアイスクリームなどなど斬新なベーコン創作料理も発表され、新定番として定着しつつあるそうですよ。

参考サイト
[1]History Of Bacon
[2]ベーコン類品質表示基準 – 消費者庁
[3]History Matters: How We Became Bonkers for Bacon
[4]ブタ – Wikipedia
[5]発色剤って何? | 大山ハム

どちらかと言えばハムよりもベーコン派。ベーコンの方が脂と肉が混じっていて「焼いたらベーコンの方が旨い」と思っていたのですが、日本で私が感じていたベーコン感は世界共通のものではなかったようです。海外旅行に行ったとき、朝食でやけに分厚いハムが出てきたことを覚えていますが…あれがおそらくバックベーコン系だったのでしょうね(苦笑)

気になって調べてみたのですが、なぜアメリカではロースではなくばら肉を使ったベーコンの方がオーソドックスになったのかは分かりませんでした。現在イギリスではバックベーコンがポピュラーとは言われていますが、元々は農民の保存食のようなもの。背肉(ロース)に限らず取れるだけの部位をベーコンにしていたのか、それとも脂の多い部位は保存しにくかったのが加工方法の進化でベーコンに出来るようになり「旨いじゃん」となったのか…。