雛祭り(桃の節句)の食べ物について
-代表的な行事食・その意味や由来とは?

雛祭り(桃の節句)の食べ物について<br />-代表的な行事食・その意味や由来とは?

前回、ひな祭りと上巳・桃の節句の歴史や意味について書きましたが……雛人形と同じかそれ以上に楽しみなのが、ちらし寿司やひなあられなどの食べ物ではないでしょうか。ひな祭りに登場する食べ物は彩りも良くテンションの上がるもの。ひなあられ・菱餅など季節限定感のあるものも多いですよね。成長して家も出たし雛人形は飾らないけれど、食べ物・飲み物を一つ二つ買ってひな祭り気分を味わうという女性も少なくないはず。

見た目にも可愛らしいものが多いひな祭りの食べ物ですが、ひな祭りの起原は邪気を払うこと。ひな祭りへと変化した現在でも、子供の元気な成長や幸せを祈る行事でもあります。なので使われる食べ物や飲み物にも、それぞれに意味や由来があります。知っているとお子さんの幸せを願って準備に力が入りそうですし、食べながら「これにはXXXという意味があるんだよ」と教えてあげることも出来ますよ。

ひな祭りのお酒・お菓子類の意味・由来とは?

お酒(桃花酒・白酒・甘酒)

有名な童謡の歌詞にもあるように、ひなまつりに使われるお酒と言えば“白酒”と呼ばれる白く濁ったお酒が定番です。しかし3月3日の上巳の節句(桃の節句/ひな祭り)にこの“白酒”が定番となったのは江戸時代以降のことで、それ以前には“桃花酒(とうかしゅ)”と呼ばれるお酒が飲まれていました。

古代の中国や日本における上巳の節句というのは、春の訪れや子供の成長を願う行事ではありませんでした、古い時代には「上巳の祓い」とも呼ばれていたように、自分の身を守るために邪気払いや厄払いをするというのがメイン。旬の食材を節句料理として取り入れるようになったのも美味しいからと言うだけではなく、旬の食材を取り入れることで自分の生命力を高める(=邪気を払う)という考え方が元になっていると言われています。

雛祭りの起原と歴史についてはこちら>>

そこで桃。上巳の節句とされていた旧暦の3月3日は現在の4月頃となるので桃の開花時期でもありましたし、中国には桃は邪気を祓ってくれる植物であるという信仰もありました。また不老長寿ための秘薬であるとも考えられており、武帝の時代に桃花水(桃花が流れる川の水)を飲んでいた人が300歳まで生きたという故事があったり、“桃花を酒に入れて飲めば、百害を除き、顔色を増す”という伝承もあるそう。邪気を払って長寿に導いてくれるありがたい植物と見做されていたというわけですね。

日本でも古くから桃は邪気を払うものであるという考え方は存在していました。加えて日本独自の語呂合わせとして桃(モモ)という音が、百歳(ももとせ)に通じることから長寿の縁起物としても愛されていたようです。このため平安時代頃には上巳の節句に体内から邪気を払うという目的で、桃の花を酒に漬けた“桃花酒”を飲むよう風習が既にあったと言われています。

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江戸時代になって定番のお酒が変わった理由としては諸説ありますが、有名ところでは東京都千代田区の豊島屋が売り出したという話があります。創業者である豊島屋十右衛門は「夢枕に紙びなさまが立ち、白酒の作り方を伝授した」として桃の節句の前に白酒を売り出し、これが江戸で評判になったことで定着したと言われています。そのほか大蛇を宿してしまった女性が白酒を飲んでこれを払ったという説、当時酒造が盛んだった白酒は甘くて飲みやすいと女性が好んだからなどの説もあります。

ちなみに白酒はみりんや焼酎などをベースに、蒸した餅米・米麹などを加えて一ヶ月~数ヶ月程度熟成させ“もろみ”を作り、それを軽くすり潰した飲み物。アルコール分は約7%~9%で、リキュール類に分類されています。甘い飲み口ではありますがアルコール度数はそこそこ。このため近年はアルコールの苦手な女性や、お子さんと一緒に飲むためにノンアルコールの甘酒が使われることも多くなっています。

草餅(よもぎ餅)

地域・ご家庭によっても違いはありますが、ひな祭りには蓬(ヨモギ)を練り込んだ草餅・よもぎ餅が食されることもあります。ひな祭りは上巳の節句と呼ばれる五節句の内の一つで、古くは節句に生命エネルギーに満ちた旬の食材・邪気を払う食材を取り入れて無病息災を願っていました。ヨモギも旧暦3月3日頃に生えている野草であり、香気によって邪気を払う力があると考えられていた食材。古い時代には病気というのも邪気が原因で起こると考えられていましたから、現在でも漢方や民間療法で使われている健康食材であるヨモギが“邪気払い”に良いと言われていたのも納得ですね。

上巳の節句に草餅というのは江戸時代以前から行われてきた風習で、さらに古い平安時代には七草粥にも使われる御形(ハハコグサ)を加えて搗いた母子餅と呼ばれるお餅が食べられていたことが分かっています。しかし平安後期頃には「母と子を餅と一緒に搗くのは縁起が悪い」と考えられるようになり、各地に自生していたヨモギを使って草餅を作るようになります。ともあれ上巳の節句に草餅は千年以上前から食べられてきたもので、桃の節句だけではなく「草餅の節句」と呼ばれることもあります。白酒(桃花酒)と共に、最も古くから使われている伝統的な行事食であると言っても過言ではないかも知れません。

菱餅・ひなあられイメージ

菱餅(ひしもち)/雛餅(ひなもち)

菱餅もしくは雛餅と呼ばれる、やや淡めの赤(ピンク)・白・緑の3色が重なった見た目にも華やかなお菓子。よもぎ餅よりも「ひな祭り(桃の節句)の食べ物」としては全国的に使われていますし、飾り物としてミニチュアの菱餅が組み込まれている雛人形セットもありますね。柔らかいパステル系の色味で、春のイメージにもぴったりなので、ピンク・白・緑色は祭りのイメージカラーともなっています。

そんな菱餅ですが、その起原は上の草餅にあると言われています。元々、上巳の節句には草餅単体のシンプルなお餅が使われていしたが、江戸時代になるとその上に菱(ひし)の実を入れた白い餅が重ねられるようになります。発祥については諸説ありますが、草餅の上に白い餅を重ねることで“雪の下に新芽が芽吹いている情景”を表したというのが一般的。単色よりは見た目も鮮やかになりますしね。

また、ひし形をしているから菱餅なのではなく、菱の実を粉に挽いたものを使って作られていたことが名前の由来であるとも言われていますよ。菱形になった理由については材料として使われていた菱の実を模した、大地の形を表している、心臓の形を模った、四角を引き伸ばすことで長寿を願ったなど諸説あります。…個人的には切りやすい・正方形よりもちょっと歪になってもわかりにくい的な製作側の意向もあったのではないかと思っていたりしますが。

江戸時代の間は菱餅と言えば緑・白の二色でしたが、明治になるとクチナシの実を入れて着色した赤(ピンク)が加えられ現在ポピュラーなものとなっている三色構成の菱餅が誕生します。赤色が加わったのはより華やかに、より桃の節句・女の子のお祭り感を出すことが主だったと推測されていますが、赤色を生命の象徴とした・厄除けの色を加えたという信仰的な捉え方もなされています。

ちなみにクチナシの実は植物性の食品着色料としても使われていますが、古くは生薬(漢方薬)としても活用されていたもの。緑のヨモギも民間薬として親しまれてきた食材ですし、白の菱の実も滋養強壮薬として使われていた歴史があります。こうした食材を盛り込んだ菱餅は、一種の健康食品・薬膳料理のようなニュアンスもあったのかも知れません。

菱餅の色の意味と重ね方

草餅から菱餅への変化の始まりが“雪の下に新芽が芽吹いている情景”を描いたとも言われているように、菱餅の色はそれぞれ意味や縁起を持ち合わせています。単にカラーバランスが良いからというわけではないんですね。一般的には「雪(白)の下には新芽(緑)が芽吹き、その上では桃の花が咲いている」という春の風景を表現していると言われていますが、それ以外にも各々の色、その色を出すために使用された材料には縁起の良い意味が込められています。

赤(ピンク):桃、生命、魔除け
白:雪、清浄、長寿、子孫繁栄
緑:新芽、健康、邪気払い

そのほか黄色・オレンジを加えたり、赤を紅・小豆の紫・ピンクなど濃淡に分けることで5色構成・7色構成にした菱餅もあります。赤系の色は概ね魔除け・邪気払いのイメージであるそうですし、オレンジは太陽を、黄色は春(菜の花)や月を表していると言われています。また餅はその後に食べる手間がかかることから、菱餅を模ったケーキであったり、そのまま食べられる蒲鉾やゼリーで作られたりと“餅”以外への進化も遂げていますね。

桜餅(さくらもち)

桃餅ではなくて桜餅という呼び名から想像できる通り、桜餅は桃の節句(ひな祭り)の行事食という訳ではありません。桜餅は戦後になってから取り入れられたもので、ひなあられや菱餅のような意味・謂れもありませんが、スーパーやコンビニなどの「ひなまつりコーナー」では菱餅以上に大々的に売られていますね。

桜餅がひな祭りのお菓子として使われるようになったのは、ひな祭りのイメージカラーと言えるビンクと緑色をしており、桜の葉が春を感じさせてくれるという理由のようです。菱餅はそれぞれの色に願いが込められていると紹介しましたが、桜餅も厄除けと無病息災祈願に通じるという見方もなされています。

現在でこそ色々なタイプの“ひしもち風〇〇”が販売されていますが、昔の菱餅というのは本当に餅。飾っていれば固くなってしまいますから、食べるときには千切って焼くなどの手間がかかります。対して桜餅は日持ちこそ長くはありませんが、そのまま美味しく頂ける手軽さが魅力。忙しいお母さんたちにとっても、甘いものが好きな女の子にとってもウケがよく人気を集めたという面もあるのでしょう。

つまり桃の節句に使われる餅類は
草餅→菱餅→桜餅
と形を変えていると言えるかも知れません。菱餅もまだ使われてはいますが、飾りというイメージが強くなっている部分もありますよ。小さい女の子はいないし、自分も成長しているけれど「ひな祭り気分を味わいたいなぁ」という場合に、桜餅なら手軽に買ってこられるというのも嬉しいところですね。桜餅(道明寺と長命寺)のイメージ

桜餅には長命寺と道明寺がある

一口に桜餅といっても、薄い皮であんこが巻かれたもの・ツブツブした生地であんこを包んだもの、大きく二つのタイプがあります。東京を中心とする東日本では、小麦粉などの生地を焼いて作った薄めの皮で餡を巻く“長命寺餅”と呼ばれるものが桜餅の主流となっています。呼び名の通り隅田川沿いにある長命寺が発祥とされ、長命寺の門番だった山本新六氏が桜の落葉を活用するために考案したと伝えられています。享保2年(1717年)に塩漬けにした桜の葉を使った和菓子=桜餅を長命寺の門前で売るようになる、たちまち江戸の大ヒット商品に。それ以降関東では桜餅と言えば長命寺餅として定着したというわけですね。

対して西日本では“道明寺餅”と呼ばれる、表面がツブツブしたタイプが桜餅の主流。餅を包む生地を作る粉は“道明寺粉”と呼ばれていますが、これはもち米を蒸してから乾燥させ、粗く挽いたもの。道明寺粉は大阪の道明寺で保存食として考案されたもので千年以上の歴史があるとも言われていますが、これを使った和菓子が商品として販売されるようになったのは長命寺餅のヒット後、もしくは明治に入ってからであると言われています。ともあれ関西を中心とするエリアではもち米を使った道明寺餅の方が普及し、桜餅といえば道明寺餅のことを指すようになりました。

ちなみに道明寺でも長命寺でも使われる、桜の葉の塩漬け。これは彩りを整えるための“飾り”としてだけではなく、桜の葉を塩漬けにすることで独特の香気成分が生まれ、それが餅に移ることで桜餅も美味しくなると言われています。桜餅の香りは塩漬けにされた桜の葉の香りですよね。また若干の塩気が甘さを引き立ててくれるというメリットもあります。この桜の葉を桜餅と一緒に食べるべきか、食べないべきか意見がわかれるところ。食べても問題ないものが使われていますし、この葉の塩っ気も美味しいのよという方もいらっしゃいますが、外して食べても不調法や失礼に当たるものではありません。特に小さいお子さんには食べにくいと思いますので、外してあげたほうが良いでしょう。

ひなあられ

ひなまつりのお菓子の代表格、ひなあられ。
ひなあられの起原は平安時代、ひな祭りの起原とも言われる“ひいな遊び”にまで遡ると言われています。当時の子供達は紙人形の“ひいな”を使っておままごとのような遊びをしただけではなく、その人形を外に持ち歩いて春の景色を見せてあげる「ひなの国見せ」というピクニックのような風習もあったのだそうです。ひいなを持っていたのは貴族子女たちですから「ひなの国見せ」の時にはご馳走を持っていって宴会が行われることもあったそうですが、近場に行くときや移動途中に食べやすいお菓子・携帯食として作られたのが起原ではないかと考えられています。

ひなあられをひなまつりのお菓子の代表格と言いながらも、項目の最後で紹介しているのは菱餅と関わりのある食べ物のため。ひなあられは平安時代ころに原型出来たとされていますが、当時は現代のように他のお菓子類と一緒に用意されるものではなく、菱餅を砕いて作っていたと考えられています。鏡開きを終えた餅が「かき餅」になったのと同じような感覚ですね。おそらく当時は菱餅ではなく草餅であったと考えられますが、邪気払いや無病息災の願いが込められていた食べ物でもありますし、より古い考え方をすれば餅は神様への供物でもありました。これを携帯食にして「ひなの国見せ」の時に子に食べさせていたというのもまた、当時の親たちの子供への愛情を感じられるエピソードではないでしょうか。

ただし現在のひな祭りの形が整ったのは江戸時代であると言われるように、ひなあられも桃の節句(ひなまつり)の行事食として広まったのは江戸時代以降とされています。起原として紹介される「菱餅を砕いて作ったお菓子だから、その色や込められた意味も菱餅と同じである」という話も、菱餅が三色になった後=江戸時代の話ではないかと思われます。雛あられは基本的に菱餅と同じく3色(白・ピンク・緑)、もしくは白・ピンク・緑・黄色の4色が使われていますよ。

三色の場合は菱餅と同じく
赤(ピンク):桃、生命、魔除け
白:雪、清浄、長寿、子孫繁栄
緑:新芽、健康、邪気払い
など願う意味合いがあると言われています。また4色の場合は緑は春、赤が夏、黄色が秋、白が冬と“四季”を表しており、すべての自然の力を吸収して一年間幸せに過ごせますようにという願いが込められています。

ひなあられは関東と関西でかなり違う

ところで、ひなあられの見た目と味は関東と関西で大きく異なります。関東風のひなあられは米を爆ぜさせて作った「ポン菓子(ドン菓子)」と呼ばれるタイプ。起原は江戸時代に“爆米”と呼ばれるポン菓子が流行ったのでそれに便乗した、釜に残ったご飯粒を干して炙ったものが始まりであるなど諸説あります。ポン菓子はそのままでは色も味もほとんどありませんから、上から着色料と砂糖をコーティングしている物が大半。このため関東式のひなあられは鮮やかなパステル調の色合いで、ほんのりの甘いことが特徴と言えます。

対し関西風のひなあられは、餅から作られた本来の意味での「あられ」元々は菱餅を使って作っていたと言われていますから、こちらの方が元祖である・昔ながらの形であると言われています。関西式のひなあられにも色がつけられていますし陰陽五行にちなんで“五色”のものもありますが、関東風のようにクッキリと着色されているものは少なく、茶系ベースのでナチュラルな色味のものが多いようです。また塩もしくは醤油を使って味付けされているので、しょっぱい系のお味となっています。

ただし近年は関東・関西両タイプのひなあられを扱っているお店も増えていますから、地域にこだわらず見た目や味の好みで選ぶという方も増えています。

ひな祭りに食べられる食事と、その由来は?

雛祭りのちらし寿司イメージ

ちらし寿司(五目寿司/ばら寿司)

寿司は「寿(ことぶき)を司る(つかさどる)」という漢字が当てられているように、ひな祭りに限らず宴席には頻繁に登場するものでもありますね。近年はお子さんでも自分で作れる手巻き寿司や、見た目が可愛らしい手まり寿司を使うご家庭も増えていますが、伝統的なひな祭りのお寿司としては様々な具材を使ったちらし寿司(五目寿司)が使われています。

ひな祭りにちらし寿司が使われているのは、お正月料理の煮物と同じく縁起物を沢山使うことで我が子の幸せと成長を祈る意味があると言われています。奮発して沢山の具材を使うことで「子供が一生食べるものに困りませんように(幸せに暮らせますように)」という願いがあるとも言われていますよ。なので縁起を担ぎたい・子供の成長を祈りたいという場合には、海鮮メインの生ちらしではなくトラディショナルなちらし寿司を使うと良いと言う声もあるようです。

もちろん寿司自体がおめでたいイメージのある料理ですし、色鮮やかで華やかが見た目がひな祭り(女の子のお祭り)にピッタリだったということもあるでしょうが^^

代表的な縁起物の具材

海老(エビ)

曲がった腰や長いひげが老人に見えるということで、腰が曲がるまで長生きすることを祈って使われます。そのほか茹でると赤くなることから魔除け・厄除けにもなる、目玉が飛び出していることから「目出度い」に通じるなど複数の意味で縁起が良い食べ物と考えられています。

蓮根(れんこん)

穴がたくさん空いていることから「先を見通す」ことに繋がるとされています。またレンコンは一つの花から種が沢山できるという特徴があるため、豊穣や子孫繁栄の縁起物としても使われています。

豆という音が「まめ」に通じることからも、元気でしっかりと働くという願いが込められています。絹さや(さやえんどう)や枝豆などを入れると、緑が入って色合いも華やかになりますね。

そのほか…

乾燥椎茸や干瓢などの“乾物”は昔から神様へのお供え物として使われていたものでもあるので、同じく縁起物に数えられています。また季節感としても、節句の料理としても、春っぽさを感じられる旬の食材を加えるようにすると良さそうですね。と言っても家族・お子さんの好みもありますから、皆で楽しく食べられることが第一です。

蛤(はまぐり)のお吸い物

地域や家々によっては使わないところもありますが、ちらし寿司と並んでひな祭りの行事食としてポピュラーとされているのが蛤をいれたお吸い物・潮汁です。言わずと知れたことですが、はまぐりは二枚貝。対の貝殻しか合わないことから、はまぐりは良縁祈願や夫婦円満を象徴する縁起物として使われるようになりました。ひな祭りにはまぐりが使われるのも、娘にぴったりのパートナーが見つかり仲の良い夫婦になれますように・一生沿い遂けられますようにという願いが込められています。ひな祭り以外に、結婚式などでも使われることがありますよ。

余談ですが、平安時代頃には貝殻を使った“貝合せ”という遊びが貴族達の間で流行しました。元々は持ち寄った貝の形や色を比べてその優劣を競うものだったようですが、後にぴったり合う貝殻を探す神経衰弱のようなゲーム(貝覆い)へと変化したのだそう。この貝合せ・貝覆いに使われたハマグリの貝殻は内側に蒔絵や金箔で装飾が施され、和歌が書かれていたそう。貝殻が大きいので使いやすかったという現実的な面もありますが、こうした雅な遊びに使われていた経緯も貝の中でもハマグリが縁起物に選ばれた理由なのかも知れませんね。

蛤でなくとも二枚貝ならOK?

かつてはそこまで珍しい食材ではなかったハマグリですが、昭和後期以降は全国で急激に数が減少し、現在は絶滅危惧種となっています。絶滅が報告された地域もありますね。かなり貴重な生物となっているためお値段もかなり高騰していますし、そもそも販売されていることはかなり稀。ひな祭り時期にはシナハマグリやチョウセンハマグリと呼ばれる輸入品が多く流通していますが、こちらも決してお安いとは言えない金額。

こうした事情もあり、最近は代用品としてあさりなどの二枚貝を使って汁物を作るご家庭も増えています。ハマグリが縁起物として使われているのは「元々対になっていた貝殻以外とは合わない」と言われているから。でも実のところはハマグリに限らず、二枚貝の多くはそうです。殻が小さいからピッタリ合わなくてもわかりにくい・貝合わせに使われていなかったし普段の食事と変わらないなどの問題は多少あるかもしれませんが…素敵なパートナーが見つかりますようにと言う願いを込めるに不足はないでしょう。

栄螺(さざえ)・鰈(かれい)・鯛

これらは寿司(ちらし寿司)・蛤の潮汁と比べると、ちょっとマイナー。とは言え鯛(タイ)はめでたいと掛けて「目出鯛」と書かれるように宴席の代表格ですね。色が赤いことから邪気を払ってくれるとも、腹にかけて紅白になるから縁起が良いとも言われています。

サザエが使われるのは巻き貝には願い事を叶えるという謂れがあるため。関東を中心にひな祭りの縁起物として、サザエを用意する習慣のある地域があります。巻き貝の中でもサザエが縁起物として選ばれた理由は定かではありませんが、漢字で栄螺と書く→さらに三三栄と置き換えられるので、ひな祭り(3月3日)に食べると益々栄えることに通じるためではないかとも考えられています。

最後にカレイ。こちらは普通のカレイではなく“子持ち鰈”が良いとされています。理由は単純明快で、お腹にたくさんの子(卵)を抱えていることから、子宝・子孫繁栄に通じる縁起物と考えられています。お正月の数の子と同じ様なニュアンスですね。またお財布事情としても鯛は高級魚でおいそれと購入できなかったため、庶民のお祝いとして鰈が使われることも多かったようですよ。

参考元:ひな祭りとお酒の関係は? 白酒は江戸時代から 未成年には乳酸飲料『ひな祭りの食べ物(一覧)』由来・意味などの解説付き

北海道から東京に出て「桜餅」のギャップを感じた人です。関東~東北は関東風の長命寺桜餅が主流らしいですが、北海道は道明寺餅が定番。大阪出身の方と「道明寺ってなんだよ、こっちが桜餅じゃないのかよ」と妙な意気投合をしました。あと北海道の“ひなあられ”は独特で、餅(米)が原材料ではなく、小麦粉が主原料のかりんとうタイプ。カラフルかつ球状のかりんとうが“ひなあられ”として食べられています。たまに無性に食べたくなります。

北海道の話は置いておくとしても、ここでご紹介した代表的なもの以外にも雛蕎麦と言われるお蕎麦や、長崎県の桃カステラなど地域によってひな祭りの行事食は異なります。自分の土地の文化を取り入れたり、願いたいものがある場合はそれにちなんだ縁起物を取り入れてみると、より一層ひな祭りを楽しめるのではないでしょうか?菱餅の三色の由来にかこつけるのであれば、春のイメージもあるし“三色団子”を食べても良いんじゃないかと狙っております^^;