半夏生(はんげしょう)の意味・由来とは
-タコを食べる理由、他の行事食もある?

半夏生(はんげしょう)の意味・由来とは<br />-タコを食べる理由、他の行事食もある?

半夏生という言葉はどこかで聞いたような、でも馴染みはないという方が多いのではないでしょうか。半夏生というのは夏至の後に来る雑節の一つです。日本、特に農村部においては農作業が一段落する目安でもあり、古くは物忌や豊作祈願を行う日でもありました。日本では太陽が最も高い日である“夏至”よりも重要視されていたと言えますし、タコや小麦餅(半夏生餅)など行事食も各地に存在していますよ。

半夏生(はんげしょう)の意味とは

半夏生とは

半夏生は夏至の後にやってくる雑節の一つ。
七十二候の一つでもあり、古く半夏生は夏至後半の期間を指す言葉として使われていました。しかし現在は七十二候としての期間の使い方よりも、至から数えて11日目もしくは「黄経100度の点を太陽が通過する日」と日にちを指す言葉として使われることの方が一般的になっています。

半夏生という呼び名は七十二候の名称“半夏生ず(はんげしょうず)”がそのまま使われたもの。半夏というのはカラスビシャク(烏柄杓)というサトイモ科植物で、これが生え始める頃を意味していると考えられています。夏の半分が過ぎた、半分夏に入った頃合いという意味ではないんですね。

古く半夏生は「この日までに農作業(田植え)を終える」という目安の日として、農家の方を中心に重視されていました。半夏生の由来はこの時期に生える植物ではありますが、田植えが終わらないと収入が半分になってしまうぞという意味とかけて半夏半作・半夏半農なんて言葉もあります。田植え終了の目安とされていた日であることから転じて、半夏生は田植え終了を祝う日にもなりました。田植えを終えた後、半夏生の5日間をお休みの期間としている地域もあるそう。

日本では冬至にこそ様々な風習がありますが、北欧などのように夏至を祝う文化はほとんどありません。これも夏至の頃は田植えの繁忙期、作業の締切日である半夏生が間近に迫った時期で忙しかったということが理由として考えられています。そのため半夏生には様々な言い伝えや行事食があります。半夏生を含む期間である“夏至”としてタコなどの食べ物が紹介されこともありますが、こうした夏至の風習として伝えられているのも半夏生由来のものが多いと考えられます。

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期間を指す言葉としても使う

現在は7月2日前後の“日にち”を指す言葉として使われている半夏生ですが、元々は夏至後10日目から小暑の前日までの期間を指していました。これは二十四節をさらに更に3つに分けて、約5日毎に名前をつけた七十二候(しちじゅうにこう)に則った考え方が元となっているためです。

月の動きをベースにしていた太陰暦の時代に、季節の移り変わりを占めるために太陽の動きを元とした暦の補助として作られたのが二十四節気。その各節気をそれぞれ三つに分けてより細かく分けたものが七十二候。二十四節気は立春や夏至など季節の移り変わりを端的に表現しているのに対して、七十二候の名称はとっても風流。草木萌動(そうもくめばえいずる)や寒蝉鳴(ひぐらしなく)など動植物や自然風景の様子を使って時候を表しています。お手紙の時候の挨拶などでも使われますね。

この七十二候の考え方では、夏至は
夏至初候:乃東枯(なつかれくさかるる)
夏至次候:菖蒲華(あやめはなさく)
夏至末候:半夏生(はんげしょうず)
という3つの期間に分けられます。夏至から11日目と言われると「何で?」と思いますが、夏至から小暑までの期間を3つに割って約5日ごとに区分しているため、最後のパートとなる半夏生は夏至から11日目になるという訳です。

半夏生はいつ?

慣例面での理由と覚えやすさから半夏生の日にちは夏至から数えて11日目と紹介されることが多くなっています。これは古くは平気法(時間分割法)を使って算出されていた関係から、夏至から数えて11日目と固定されていたため。しかし、現在は黄経100度の点を太陽が通過する日と定義されており、ほとんどのカレンダーなどでもこちらの決め方が採用されています。

夏至の日を起点に半夏生を決める決め方であれば、夏至の日程に合わせて半夏生の日にちも変化しますよね。しかし、今度の半夏生の日付は
2019年:7月2日
2020年:7月1日
2021年:7月2日
2022年:7月2日
2023年:7月2日
2024年:7月1日
2025年:7月1日
2026年:7月2日
になると予想されています。2023年から2055年までは夏至の日がずっと「6月21日」に固定となりますが、半夏生の日は2023年以降も変化する形になりますから従来の数え方だとズレてしまいますね。

夏至についてはこちら>>

半夏生の由来と伝承

半夏生イメージ

植物としての半夏生と半夏

植物の名前としてハンゲショウと言った場合には、上記の写真のハンゲショウを指すのが一般的です。こちらはドクダミ科に分類される植物で、ドクダミと似たハート型の葉っぱが特徴の植物。半夏生のほか“半化粧”と表記されたり、片白草(カタシログサ)とも呼ばれるように、夏至過ぎの開花時期頃になると葉の表面が部分的に白くなります。ハンゲショウという名前の由来については、半分だけお化粧をしているように見えたからだとも、半夏生の頃に花を咲かせるからだとも言われています。

……ん?

七十二候の半夏生は“半夏が生え始める頃”なのに、ハンゲショウの名前の由来には半夏生に花が咲くから? 鶏と卵のような関係にも思えますが、七十二候の表現として使われた「半夏」というのは上記でもご紹介したようにサトイモ科の植物とされています。ハンゲショウとは別の植物なんです。そもそも“生”は生える様子なので名前じゃないわけですね。

で、問題の半夏はカラスビシャク(烏柄杓)という植物を指すと考えられています。半夏というのはカラスビシャクの塊茎(コルク層を除いたもの)を乾燥させた生薬の名前。日本薬局方にも収録されており、半夏厚朴湯や半夏瀉心湯などの漢方製剤にも使われています。季節感があるというわけではなく、現在のように様々な薬が出回っていなかった時代の人々にとっては重要な薬草だったので、七十二候の表現に採用されたのかもしれませんね。

ただし、半夏生とカラスビシャク・ハンゲショウの関係については諸説あります。ハンゲショウの花が咲く時期だったから半夏生が七十二候の名称になったという卵と鶏の関係になってしまう方の説もあり、どれが真実なのかは断定されていません。

古くは物忌の日という説も

半夏生は田植えを終了させる目安の日として古くから大切にされてきましたが、それ以外に「物忌みの日」としても重視されてきたのではないかと考えられています。物忌み(ものいみ)というのは、穢れ(肉体的・精神的に不浄なもの)に近寄らないように一定期間飲食や行動を慎んで家に篭もること。神事・お祭りなど神様にお近づきになる前や、災いを避けたい時に行なわれていた風習です。

半夏生から5日間をお休みの日としていた地域があるのも、農作業に疲れた体を労るためではなく、物忌が行なわれていたのではいかと考えられています。というのも半夏生の日には「天から毒気が降る」という言い伝えがあり、地域によっては大切な水を守るために前日の夜から井戸に蓋をする風習があったそう。またこの時期に収穫した野菜・山菜を食べることが禁じていたり、畑や竹林に入ることを禁じている地域もあります。

大事な作物を植え終えて無事に育ちますようにと神様にお祈りをするための物忌であったのか、厄日のように捉えられた結果の物忌であったのかは見解が分かれていますが、実際問題としては「田植えで疲れている身体を更に酷使して、体調を崩さないように」という戒めが込められているという説が現在は主流となっています。昔の人の知恵ですね。熊野地方などでは妖怪“ハンゲ”に遭遇してしまう農作業をしてはいけない=半夏生までには田植えを終わらせるべしという教訓色の強い伝承もあるそうですよ。

半夏雨が降る

半夏生の時期頃に降る雨は“半夏雨”もしくは半夏水も呼ばれています。日本では夏至や半夏生は梅雨の真っ盛りの時期、雨が多い時候でもありますね。半夏生に降る雨ではなく「洪水」の事を半夏水と呼ぶという説もあるように、半夏の頃は大雨が降りやすい時期でもあります。

暦の上での梅雨入りとなる入梅は太陽黄経が80度夏至は太陽黄経90度と決められています。対して暦上の梅雨明けである出梅の定義はありませんが、昔の暦の上では“小暑後の最初の壬の日”とされていました。半夏生は七十二候では夏至の終わり(末候)で小諸の直前ですし、太陽黄経としても100度と夏至を挟んで入梅と等間隔。地域やその年の気候によって梅雨入り・梅雨明けは様々ですが、梅雨明けが近づいてきている時期ともとれます。

半夏生の時期は梅雨も後半のため、シトシトと降る雨ではなく強い雨が振りやすい時期。日本では梅雨入り・梅雨明けについても季節の変わり目のようなところがありますから、このタイミングで農作業をしていたら体調を崩してしまいそうですよね。昔は医療体制が整っておらず風邪をこじらせて亡くなってしまうことも珍しくはありませんでしたから、半夏までに農作業を一段落させて少し休むというのは生活の知恵だったと言われるのも納得です。また、せっかく田植えが終わったのに大雨・洪水が起きたらたまらないので神様に豊作を願ったという考え方も出来ますね。

半夏生の行事食

畑仕事を終える・田植えを終了させる日の目安とされてきた半夏生。毒気が生じる日であるという伝承があった関係もあってか、この半夏生は農作業を終えたお休みの日としている地域も多くありました。こうした関係もあり、半夏生は田植えを終えた後の祝日、無事に植えた作物が無事に育つように神様にお願いする祝日としての面も持っています。このため水田や神棚にお神酒や餅などの供物を捧げて田の神に感謝と豊作祈願する行事も行なわれており、それに使われた供物が行事食として食べられるようになりました。

現在の半夏生が1日の“日にち”として認識されているのに対して、冬至の半夏生は“期間”として認識されていました。この関係から「半夏生頃までに農作業を終えて食べる」というニュアンスの強いものが多くなっており、夏至後半もしくは半夏生期間頃に食べると言ったほうが的確だったようですが、半夏生の行事食と言える代表的なものをご紹介します。

半夏生タコイメージ

タコ(関西)

関西を中心に、夏至から半夏生までの間の期間にタコを食べるという風習があります。関東などでは半夏生の行事食が廃れつつあることも指摘されていますが、関西では今でも時期になると「半夏生にタコ」文化が根付いており、スーパーや鮮魚店などでも宣伝がなされています。

現在では「夏の暑さに負けない」や「元気になる」とも伝えられているそうですが、元々は植えた苗がしっかりと根付くようにという願いが込められたものと考えられています。タコは八本足で、吸盤を使って吸い付くという性質があります。この様子から田に植えた稲の苗が八方に伸び、しっかりと地に根付くことに繋がる縁起物として扱われました。豊作を願ってタコを神様に奉納し、それを下げて皆で食べていたのが起原とされています。

加えてタコはお正月の縁起物としても使われるように、呼び名が“多幸”に通じ、足の数も末広がりの“八”本タコの表皮の赤色は厄除け(魔除け)の意味を持つと考えられていましたし、栄養がありタウリンが含まれているため疲労回復効果が期待できる食材でもあります。作物の無事な成長を祈るのが始まりではあったのでしょうが、暑気あたりせず健康でいられようにという意味でも重宝され、定着したと言えそうですね。

ちなみにタコの調理法についてはとくに定められておらず、家々によって煮蛸・酢だこ・たこ飯など様々。近年はビールのおつまみに合うタコの唐揚げ、マリネやカルパッチョなど洋食レシピでも使われていますよ。半夏生の頃は瀬戸内周辺ではタコ漁の最盛期であり、身が引き締まって美味しい“旬”の時期でもあります。

小麦餅(関東~近畿)

関西のタコのように今なお定番という訳ではありませんが、関東周辺では半夏生頃の農作業が終わった頃合いに小麦を使った焼き餅を食べる風習があります。小麦でお餅というのは不思議な感じがしますが、小麦粉ともち米を同量混ぜ合わせて搗いたもの。こちらも田の神様に供えて五穀豊穣を願い、田植えの無事に感謝しながら食べられていました。

日本では鏡餅など神様へのお供え物として“餅”がよく使われています。この餅に小麦を混ぜるようになったのは、冬至の農家の多くが二毛作を採用していたためと考えられています。米の裏作として秋に植えた小麦が、田植えが終わる半夏生頃にはちょうど収穫されていたというわけですね。採れたての新小麦を入れることで「無事に収穫できました(今後も宜しくおねがいします)」という感謝と豊作祈願だったのではないでしょうか。

奈良県では半夏生餅・大阪でははげっしょ団子とも

関東で言う焼き餅(小麦餅)に似た小麦を使ったお餅を、奈良県では半夏生餅、大阪では半夏生を“はげっしょ”と呼ぶことからはげっしょ餅・はげっしょ団子とも言われています。原料は同じく小麦粉ともち米で製法もほぼ同じですが、関東圏では焼いて食べるのに対して、奈良や大阪ではきなこ・砂糖をまぶすことが多いのが違い。と言っても関東の“焼き餅”文化は風化しつつあることが指摘されていますし、奈良県で食べられていた半夏生餅の方が有名になった・和菓子として食べやすいことから、関東圏でもきなこ餅タイプの小麦餅が食べられていたりします。

ちなみに大和名物には総本家さなぶりやさんの『さなぶり餅』があります。こちらも小麦粉を使ったお餅にきなこをまぶしたもので、農作業を無事終えたことを田の神さまに感謝するためにお供えしたものと紹介されています。さなぶりというのは田植え終了後のお祝い・休日のことで、田の神様が田植えを見届けて天に帰ることを表した言葉とされています。ちなみに田植開始の日は、田の神様が降りてくる日としてサオリという地域もあります。

その他、各地に伝わる半夏生の食べ物

半夏生うどん(香川県)

香川県讃岐地方では古くから、農作業が一段落する半夏生の頃に、田植えや麦刈りを手伝ってくれた人達を労うためにうどんを打って振る舞う風習があったと言われています。こちらも関東と同じく裏作で作って収穫した小麦を使った料理ですね。この半夏生うどんの風習にちなんで、1980年には香川県生麺事業協同組合が半夏生の日(7月2日)を「うどんの日」として制定しています。

半夏生鯖(福井県)

福井県大野市などでは半夏生鯖と呼ばれる、丸焼きにしたサバを食べる習慣があります。半夏生鯖は江戸時代に越前国大野の藩主が、田植えで疲れていた領民たちに「焼き鯖を食べて栄養をとり、体を癒せ」と推奨したのが始まりとされています。大阪のタコと同様に、現在は夏バテ防止のスタミナ食として親しまれているようですよ。ちなみに半夏生鯖というのは半夏生に食べる焼き鯖の料理名ではなく、この時期に獲れるサバのことを指すという説もあります。

参考サイト:半夏生|暮らし歳時記総本家 さなぶりや

北海道出身で、西日本エリアに住んだことは無いのですが……半夏生にはタコを食べようと思いました(笑)農作業もガーデニングもしないですが、なんか色々縁起が良さそうですよね! 食事は大事なので豊作も大事ですが、個人的には“多幸”が欲しいです。多くなくて1つ2つでも十分ありがたいですけど。

日本で夏至が祝われないのは農作業との兼ね合い・北欧ほど日照時間が短いわけではないという説が主流ですが、私は梅雨の関係が大きいように感じています。ふと夕方に「日が長くなったなぁ」と感じるのは7月半ばから8月に入ったくらい、梅雨明け&気温が高くなった日って人は自分以外にもいるはず。暦の上では秋に入る“立秋”以降くらいのほうが夏っぽいですしね。半夏生も現在では「これから暑くなるので夏バテしないように」という夏の準備感が強いような気がしています。