アメリカ発祥ブラウニーについて
-発祥や歴史、ブロンディとの違いは?
ソフトクッキーとケーキの間のような食感で、チョコレートの濃厚な味が楽しめるブラウニー。ワンボウル&混ぜて焼くだけと手軽なお菓子でもあるので小さいお子さんと一緒に作るお菓子としても人気ですし、混ぜ込むものやトッピングでオリジナリティーも出せるのでバレンタインデーの特集でもよくお見かけするお菓子の一つ。頻繁に食べるかと言うと微妙なところですが、日持ちがするためスイーツ系ギフトセットに入っていたり、コンビニでお手軽サイズが100円位で買えたりと、身近なお菓子ではありますよね。
ブラウニー発祥の国はアメリカ…という事は知られていますが、いつ頃からアメリカで食べられていたのかなど、改めて考えると気になることが沢山。最近よくレシピサイトで見かける「ブロンディ」なるものとブラウニーの違いや、ガトーショコラとブラウニーの違いなどについても調べてみました。
目次
ブラウニー(brownie)について
ブラウニーとは
ブラウニーはアメリカで親しまれている、平たい形をした重めの食感の焼き菓子のこと。あえてチョコレートブラウニーという呼び方をされることもありますが、本来“ブラウニー”だけでもチョコレートもしくはココアパウダーを使用しているお菓子を指す言葉です。ブラウニー(brownie)という呼び名も、チョコレートを加えたことで生地が「brown(茶色)」になっていることが語源。このため単にブラウニーと言った場合には茶色いチョコレートブラウニーのことを指すのが一般的です。
ブラウニーは大雑把に言えば焼き菓子ですが、ケーキなのかクッキーなのかの判断は微妙なところ。日本語版Wikipediaやオックスフォード英語辞典では“ケーキ”として紹介されている一方で、英語版Wikipediaなどではシートクッキーもしくはバークッキーの一種であると記載されています。これは編纂者のイメージや捉え方の違いだけではなく、一口にブラウニーと呼ばれてはいても食感にはバリエーションがあるためではないかと思います。チョコレートと小麦粉の配分によって柔らかめてケーキっぽい食感のものから、キャラメルのような食感のファッジ系・もろもろとした食感のクッキー系と色々なタイプが作られています。
クッキーは生地を切り分けるか型抜きして焼き上げることが多いですが、ブラウニーの場合は大きめの平型に入れて焼き上げてから正方形もしくは長方形に切り出すという方法がポピュラー。焼き方としてはケーキもしくはファッジに近いと言えるかもしれません。ちなみに日本だとケーキと呼ばれるものは丸型が多く使われますが、アメリカではブラウニーに限らず四角いケーキ型がよく使用されています。
ブラウニーの材料・ガトーショコラとの違い
手作りしやすいお菓子として親しまれていることもあって、日本でもブラウニーのレシピがかなりの数公開されていますよね。混ぜて焼くだけなのでお子さんとのお菓子作りにも人気です。最近ではホットケーキミックスやブラウニーミックスなどを使う方も多いですが、ブラウニーはバター・砂糖・チョコレート・卵・小麦粉の5つの材料があれば出来てしまうお菓子。ベーキングパウダーを入れるレシピもありますが、昔ながらのブラウニーの作り方としてはベーキングパウダーも使いません。実にシンプル、家庭のおやつと言った感じですね。
ブラウニーとほぼ同じ原材料で出来るチョコレートケーキとして、ガトーショコラがあります。こちらも材料が少なく工程もシンプルなので「初めてバレンタインで手作りしたお菓子」なんて方もいらっしゃるのではないでしょうか。同じ原材料を使っていますが、ガトーショコラの方が濃厚でしっとりした食感、ブラウニーはクッキーやビスケットに通じるような噛みごたえがあるのが特徴。この食感の違いは使用する小麦粉の量が違うことと、ガトーショコラが全卵もしくは卵白を泡立てるのに対してブラウニーはただ全卵を混ぜ込んでいるという点。メレンゲの泡立ても結構大変ですから、ブラウニーの方がより初心者向きのお菓子と言えるかもしません。
その他にもブラウニーは平たく焼いてから直線的にカットする、ガトーショコラは円形の型に入れて焼くことも特徴とはされています。また、ガトーショコラよりはブラウニーの方がクルミなどのナッツ類やチョコチップなどを混ぜ込むことが多くなっています。とは言え、このあたりはガトーショコラとブラウニーを区分するものではなく、多い傾向にあるくらいのレベル。可愛らしいシリコン型に入れたりスキレットで焼いてしまうというブラウニーレシピもありますし、ナッツやドライフルーツを入れたガトーショコラもあります。
作り方の違いについても“泡立て無し(メレンゲ無し)”ガトーショコラのレシピも少なくありませんから、区別は食感と製作者の自称によるものと結構グレーな部分が多いように感じます。余談ですが、ガトーショコラは元々フランス語でGâteau au chocolat=チョコレートのケーキ全般を示す言葉。日本だとガトーショコラという呼び名である種のケーキのイメージが確立してしまっていますが、本来の意味であればブラウニーもガトーショコラに含まれる事になるのではないかと。グレーで正解、とも言えそうですね。
チョコレートを使わないブロンディもある
ブラウニーはチョコレートもしくはココアパウダーを使用して焼き上げた、チョコレートブラウニーの事を指します。あえてチョコレートブラウニーと呼ぶからにはチョコレート以外のブラウニーもあるのかなと思いきや、チョコレートを使用していないブラウニー様の焼き菓子は“ブロンディ(blondie)”と呼ばれています。ブロンディはブロンド・ブラウニー(blonde brownie)の短縮形らしいですが、個人的にはブロンドブラウニーよりもブロンディと呼ぶ方のほうが多いように感じられます。
ブロンディはブラウニーに使用されている「チョコレート・ココアの代わりにバニラを使用したもの」と説明されます。オーソドックスなブロンディの原材料は、バニラ(バニラエッセンスなど)とブラウンシュガーが挙げられますしね。英語版Wikipediaでは“ブロンディはホワイトチョコレートブラウニーとはかなり異なる”と書かれており、その理由としてチョコレートもしくはチョコレートフレーバーを含まないということが挙げられています。
しかし、日本では株式会社明治さんや富澤商店さんのレシピ集ではホワイトチョコレートを使用したブラウニーが“ブロンディ”として紹介されています。国内レシピ投稿サイトでもブロンディのレシピとしてホワイトチョコレートブラウニーが紹介されていますし、発祥の国アメリカのレシピサイトを見てもホワイトチョコレート使用・バニラ不使用のレシピがあります。バニラの使用についてもあまり重要視されておらず、バニラを使用せずにピーナッツバターやココナッツなどチョコレート以外のもの小麦粉を混ぜ合わせて生地を作ったものも“ブロンディ”として紹介されています。
このためブロンディの規格は曖昧で、特に日本国内においてはカカオマスの色がついていないブラウニー=ブロンディというような認識なのではないかと思われます。ホワイトチョコレートブラウニーはブラウニーなのか、ブロンディなのかは謎。ちなみに、姉妹品と言えるブラウニーとブロンディーではありますが記念日は12月8日がナショナルブラウニーデー(National Brownie Day)・1月22日がナショナルブロンドブラウニーデー(National Blonde Brownie Day)と分かれています。
チョコレートとブラウニー発祥説
チョコレートの普及について
基本のブラウニーを作るのに欠かせない材料がチョコレート。
チョコレートの原料となるカカオはメソアメリカが原産で、紀元前2000年頃からアメリカ大陸の人々に食されてきました。アメリカ大陸に古くから住んでいた人々はカカオを活用・栽培していたことが分かっていますが、カカオがスイーツとして使用されるようになったのはヨーロッパに紹介されて以降の事。おそらく16世紀末~17世紀頃に、砂糖や牛乳を入れて苦味を消したチョコレートドリンク=ココアのようなものが飲まれ始めたと考えられています。17世紀のカカオ(チョコレート)というのは、セレブが好む高級な“飲み物”だったようです。
私達が知る固形のチョコレートが作られるようになったのは、産業革命が起こった18世紀頃。水力や蒸気を活用してカカオからカカオバターを絞り出す機会が普及したことで、欧州各地でチョコレートの製造が行われるようになります。チョコレートの生産量の増加に伴い、18世紀の間にはチョコレートトルテやチョコレートビスケットなどチョコレートを使用したお菓子類も作られるようになっていきました。そして、1828年になるとオランダでカカオ豆からココアパウダーとココアバターを分離する方法が発明され、1847年にイギリス人のジョセフ・フライによって初の固形チョコレートが作られました。
アメリカで伝統的なブラウニーのレシピは、カカオ粉末を混ぜ込むのではなく「チョコレートを溶かして」作るものとされています。このためブラウニーが成立したのは固形チョコレートの発明よりも後、1847年以降であることは間違いないでしょう。では、いつ・誰がブラウニーを発明したのか…一応シカゴのパーマーハウスホテルのシェフが考案したという説が通説とはなっていますが、それを含め3つの発祥説が有力視されています。
1893年にパーマーハウスのシェフが考案
おそらくブラウニー発祥説としてもっとも有力視されているのが、1893年にシカゴ万国博覧会が開催された際に近隣のホテルが発祥というエピソード。シカゴにあるパーマーハウスホテル(The Palmer House Hotel)のシェフが、オーナー夫人だったバーサ・パーマー(Bertha Potter Palmer)に頼まれて考案したという話です。wikipediaでもこちらがブラウニーの発祥として紹介されています。
ポップコーンやホットドックのように万博会場で販売されて大ヒット、という訳でもないのにわざわざ“シカゴ万国博覧会”と紹介されるところに違和感がありますが。調べてみるとパーマー夫人は万国博覧会のための女性委員会の会長だったそう。イベントの主催者が「万博に参加する女性が、ランチボックスから気軽に食べられるデザーを作って欲しい」という要望があり、パーマー夫人はこの要望を叶えるレシピを作るようホテルで雇っているシェフにお願いした…というのが実情のようです。
パーマーハウスホテルのシェフはこの要望に答えるべく、チョコレートを使った平べったいケーキを考案。表面にはクルミをトッピングして、アプリコットグレーズを掛けたと伝えられています。パーマーハウスホテルはヒルトングループに買収され現在は“Palmer House – A Hilton Hotel”となっていますが、現在でも考案当時から変わらぬブラウニーを目玉にしています。ホテルの公式サイトでは「The Palmer House Hilton Brownie」としてレシピも公開されています。食べたことは無いのですが、写真で見る限りはトッピングと言うよりも一つの層を作るくらいの感じでクラッシュしたクルミが乗せられていますね。
そのほかの発祥説について
ブラウニーの発祥はシカゴ、パーマーハウスというのが通説になっています。考案された年代もはっきりされていますし、今でもアメリカで最も古いブラウニー的な感じで販売されているというのも大きいですね。しかし、ブラウニーの発祥がパーマーハウスと断定されているかと言うと…されていません。ブラウニーを発明したという伝説はいくつもあり、パーマーハウスもその一つという扱い。他の発祥説についてはあやふやな部分が多いのですが、有力そうなものを2つご紹介します。
料理人の失敗から誕生した説
ブラウニーの誕生はおっちょこちょいなシェフによるもの、という説もあります。パターンは幾つかあるみたいですが、シェフが誤って溶かしたチョコレートをビスケット生地に加えてしまった、チョコレートケーキを焼くつもりだったのに小麦粉の分量を間違えた、など。ビスケットと言うにはケーキっぽく、ケーキというには硬くみっしりしているブラウニーの特徴から言われ始めたのかもしれませんし、材料がほぼ同じと考えると分量間違いで出来た可能性も否定はできません。年代や場所などには触れられていないので信憑性としては今ひとつでしょうか。
ベーキングパウダーを切らせた主婦が考えた
もう一つのブラウニー発明説は、メイン州バンゴーのとある主婦がたまたま作ってしまったというもの。彼女はお客さんを迎えるためにチョコレートケーキを焼こうとしたものの、ベーキングパウダーを切らせていた(入れ忘れたという話も)ためベーキングパウダーを加えずに作ってみたそう。焼き上がったケーキは膨らまずに平べったい形をしていましたが、食べてみると濃厚で美味しかったので小さく切ってお客さん達に出したと伝えられています。こちらも「私がベーキングパウダーなしにチョコケーキを焼いたのよ!」という御婦人はいないようなので、伝承の域を出ないという扱いではありますね。
ブラウニーという呼び名とブロンディ
パーマーハウスでは1893年にブラウニーを作ったということになっていますが、その当時作られた小さなケーキがブラウニーと呼ばれていたかは定かではありません。というのもブラウニーという呼び名が確認できるのは、1896年に刊行された料理学校の教科書『The Boston Cooking-School Cookbook』が最も古い記録のため。10年以上も間が空いているんですね。しかも、この本に記載されているブラウニーのレシピでは、チョコレートが使用されていません。
1/3 cup butter
1/3 cup powdered sugar
1/3 cup Porto Rico molasses
1 egg well beaten
7/8 cup bread flour
1 cup pecan meat cut in pieces
-The Boston Cooking-School Cookbook
と、材料として記載されているのはバター、砂糖、糖蜜、卵、パン粉(小麦粉?)、ペカンナッツだけなんです。これは現在の区分で言うとブラウニーではなく、ブロンディ(ブロンド・ブラウニー)の方になりますよね。チョコレートを使用したブラウニーの最古のレシピとしては1899年の『Machias Cook Book』にウィスコンシン州出身の女性が寄稿したもの、もしくは1904年にThe Club of Chicagoが発売した料理本にバンガーブラウニー(Bangor Brownies)と書かれているものであると言われています。
1906年版『The Boston Cooking-School Cookbook』でブラウニーのレシピはチョコレートを使用したものに変更され、1907年に発売された『Lowney’s Cook Book』にはチョコレートの分量を多くしたファッジタイプのブラウニーのレシピが登場しています。これらのことからブラウニーという呼び名・チョコレートを使ったデザートバーであるという認識が確立したのは20世紀初頭だと考えられます。ちなみに、ブラウニーという呼び名については誰が、何を由来に命名したものなのか断定されていないそう。冒頭でご紹介したように茶色いからという見解が主ですが、イギリスなどで家事のお手伝いをしてくれるとされている妖精Brownieが由来ではないかという意見もあります。
ブロンディの登場は…
1896年の『The Boston Cooking-School Cookbook』から、チョコレートを含まないブラウニー=ブロンディの誕生はブラウニーとほぼ同時期だと推測されています。ブロンディ(糖蜜風味のバークッキー)が出来たのが先で、それにチョコレートを入れることでブラウニーが作られたのではないかという説もあるほど。このチョコレートを使わないブラウニーは1940年代~1950年代に普及して糖蜜の代わりにブラウンシュガーとバニラを使用したものへと変化し、1980年代頃から“Blondie”という呼び名が普及したそう。日本でも聞き慣れていなという方も珍しくありませんし、アメリカでもブロンディという呼び方はわりと最近普及したと言えそうですね。
参考サイト:Brownies – US History Scene/Who Invented the Brownie?/Blondie History For National Blondie Day
紀元前とかいうレベルではなく、登場してから150年くらいなのに考案者も命名者もハッキリわからないブラウニー。世の中をちょっと斜めって見ている私としましては、パーマーハウスのシェフ以前にも似たようなものを作っていた方はいたんじゃないかなと思います。ビジネスと言うか、宣伝と言うか、声高に主張したもん勝ちなところがあるような気がするんですよね。日本でも元祖〇〇って旗が出たお店が並んでいるエリアとかありますし(笑)
最古のブラウニーレシピのようにチョコレーを使わない・砂糖ではなく蜂蜜などでも良い、ってなると古代ギリシアとかローマでも平たくてみっしりしたケーキっぽい何かは食べられていたんじゃないかと思います。以外と古代ギリシア・ローマの食生活って現代に近いですよね。とか言いつつ、個人的にはチョコレートが入っていてみっしりずっしりした「食べたら太るなぁ…」というブラウニーが好きです。食感はさておき、砂糖とチョコレートとバターをケチらなければ美味しく出来ると信じています^^;
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