マフィン&イングリッシュマフィンとは?
-マフィンの起源・歴史と変遷を紹介
しっとり&もったりした生地で食べごたえもあるマフィン。厳密にきっちり計量しなくても作れること・手慣れていれば30分~40分位で完成することからパン・焼き菓子系のレシピ本にもよく登場しますよね。ブルーベリーを入れるか、バナナを入れるか、チーズを入れるかなど、生地にプラスするものによって雰囲気が変わるのも魅力。日本でもカフェからパン屋さん・スーパーまで様々なところで販売されている、馴染みのペイストリーの一つです。
そんなマフィン、カップケーキに似たタイプのもの以外に「イングリッシュマフィン」と呼ばれるものもありますよね。なぜ見た目も食味も違うのに同じ“マフィン”なのか、マフィン発祥の地はアメリカなのかイギリスなのか、そもそもカップケーキとは何が違うのか…などなど、マフィンの歴史と雑学をざっくりとご紹介します。
目次
マフィン(Muffin)について
マフィンとその種類について
マフィンは小麦粉を主原料とした、焼き菓子もしくは小型パンの一種。
中途半端な言い方になっているのは、同じマフィン(Muffin)という呼称で呼ばれている食べ物にはクイックブレッドタイプ・フラットブレッドタイプと2つのタイプがあるため。この2つは作り方も、主な食べられ方も違っています。フラッドブレッドマフィンは「イングリッシュ・マフィン」と呼ばれ朝食やサンドイッチ用のパン感覚で、クイックブレッドマフィンは「アメリカン・マフィン」と呼ばれ軽食・菓子として食されています。
イングリッシュ・マフィン(フラットブレッドマフィン)
イングリッシュ・マフィンは平らな円形をした、パンに近い食べ物。その形状からフラットブレッドマフィン(Flatbread muffin)とも呼ばれており、見た目としては長野県名物「おやき」にも似ています。また、焼き菓子として親しまれているアメリカン式のマフィンと区別するためにイングリッシュ・マフィンとも呼ばれています。ベーキングパウダー入れて膨らませるアメリカンマフィンとは異なり、イングリッシュマフィンは酵母を入れて生地を発酵させてから焼くということが特徴。材料も作り方もパンとほぼ同じで、違いは水の分量が多め・バターの分量が少なめというくらいでしょうか。
イングリッシュマフィンとは呼ばれていますが、アメリカやカナダでもイングリッシュマフィンは朝食用としてお馴染みの存在。エッグベネディクトにも欠かせない材料ですし、ファストフード店の朝メニューでも使われています。日本でもイングリッシュマフィンを使用した“エッグマフィン”などのマフィンバーガー(?)類がマクドナルドで販売されていますし、イングリッシュマフィンを水平に切って間に具材を挟んだサンドイッチを提供しているカフェも結構あります。スーパーなどでも“イングリッシュマフィン”として袋詰されたものが販売されていますから、マフィンと言われて真っ先に想像する方は少ないと思いますが、日本でも意外と身近な食べ物ではあります。
アメリカン・マフィン(クイックブレッドマフィン)
私達がマフィンと聞いて想像する、カップケーキ状で上部がふんわりと膨らんでいるマフィンがアメリカンマフィンもしくはクイックブレッドマフィンと呼ばれるタイプ。日本では単にマフィンと言った場合はこちらを指すことが多いですが、朝食用として親しまれているイングリッシュマフィンと区分するために、アメリカ発祥のマフィン=アメリカンマフィンと呼んで区分することもあります。
イングリッシュマフィンは生地を酵母発酵させるのに対して、アメリカンマフィンは生地にベーキングパウダーを混ぜて膨らませることが特徴。この作り方からクイックブレッドマフィン(Quickbread muffin)とも呼ばれますが、日常会話であえてアメリカンマフィンもしくはクイックブレッドマフィンと呼ぶことは少ないそう。世界的に単にマフィンと言えばこちらのタイプを指すという認識が多いようです。
アメリカンマフィンにもホウレンソウ・ニンジン・チーズなどを使用した“食事マフィン”と呼ばれるタイプがありますが、アメリカンマフィンは砂糖を入れて生地を甘めにしたり、ブルーベリーやチョコレートを入れるなどするタイプがポピュラー。ジャンル分けすると焼き菓子に入ると思われます。製法としても食味としても、パンと言うよりはカップケーキに近い存在ですよね。
余談ですが、アメリカでは公式のマフィンが存在している州もあり、
マサチューセッツ州:コーンマフィン
ミネソタ州:ブルーベリーマフィン
ニューヨーク州:アップルマフィン
となっているそう。
記念日についても2月に「National Muffin Day」がある以外に
7月11日がブルーベリーマフィンデー
9月22日がミックスベリーマフィンデー
12月19日がオートミールマフィンデー
と、種類別で記念日として制定されていたりします。それだけアメリカを代表する焼き菓子の一つとして親しまれているという事でしょうか。
マフィンとカップケーキの違いとは…?
パンの一種と言ったほうがしっくりくるイングリッシュマフィンはさておき、マフィン(クイックブレッドマフィン)はカップケーキとよく似ていますよね。材料もほぼ同じですし、オーブンで焼く時にもマフィンとカップケーキは同じようなカップ状の型を使用しています。どちらも出来上がりは下がカップ状・上はこんもりと膨らんだキノコっぽい形…と出来上がりも似ています。
よく言われるのはマフィンはパン、カップケーキはケーキ(スイーツ)であるという区分。カップケーキはケーキだからバターを入れるけれど、マフィンはバターを入れないのが本式であると解説する研究家の方もいらっしゃいます。確かにイングリッシュマフィンにまで遡れば仰る通りなのかも知れませんけど、現在のマフィンを焼き菓子のような感覚もあるのでパンと言い切るには微妙な部分もありますし、販売されているマフィンにもバターもしくは植物油脂類が入っているはず。少々モヤっとするので、個人的見解も込みで、マフィンとカップケーキの特徴と違いをピックアップしてみました。
【カップケーキ】
・生地は軽く、ふわっとした印象
・小麦粉に対する砂糖の割合が高め
・バターと砂糖を混ぜるところから始まる
・クリームやアイシングなどでデコることがある
(焼き上がってからもうひと手間かける)
・食事系のしょっぱい味付けは基本無い
⇒スイーツとしての利用が主
【マフィン】
・生地の密度がやや重く、どっしりした印象
・小麦粉に対する砂糖の割合が低め
・材料投入の順は色々(綺麗に混ざればOK)
・焼き上がってからの飾り付けはあまりしない
・食事になるような味付けをされることもある
⇒クイックブレッド・朝食用にも利用
いくつかネット投稿レシピと手持ちのレシビ本を見合わせてみたんですが、バターと牛乳の量についてはレシピ差が大きく、どっちがどうとは言えないような気がします。ついでに簡略化したホットケーキミックスを使うレシピになると違いがほとんどわからないものもあったり。
なのでカップケーキはスイーツ一択、マフィンは菓子または惣菜パン感覚で食べられるものという感じでしょうか。チーズ&ブラックペッパー味のカップケーキは無いけれど、マフィンの場合ならばさほど違和感がありません。よほどのスイーツ好きで無ければ朝食にカップケーキをモリモリ食べませんが、甘さ控えめのマフィンなら朝食として食べるにも適しているとか。デコられているマフィンが皆無とは言いませんが、個人的には生クリームが乗っている・スプレーチョコなんかが掛かっている・アイシング(フロスティング)されているものはカップケーキだと判別します。
一番わかりにくいのが甘いマフィン・デコレーション無しのカップケーキ。ここらへんになると食感や味のイメージと、製作者・販売者の自称部分が大きいような気もします。本場の国アメリカでも「マフィンはハゲのカップケーキ」という認識の方がいらっしゃるそうですし、 Boston Globe Mediaには“マフィンとカップケーキの境界線がぼやけていて、マフィンのアイデンティティ危機”というような言葉が書かれています。この記事にもマフィンとカップケーキの違いや境界の考察があり、上の特徴部分でも一部使わせていただいています。
マフィンの起源・歴史とは
今や全く別物となっているアメリカンマフィンとイングリッシュマフィンではありますが、そのルーツは同じものとされています。初めはイギリスで食されたものが、イギリス系移民によってアメリカへと伝えられ、アメリカで開発・発売されたベーキングパウダーを取り入れることでアメリカンマフィンが確立していったという流れですね。
イングリッシュマフィンについて
マフィンのルーツともいえるイングリッシュ・マフィンがいつ頃からイギリスで食べられていたのかと言うと、これがはっきりしません。マフィンという呼び名が確認できる文献が登場するのは18世紀頃からですが、それよりも何百年も前から現在のイングリッシュマフィンに近いパンが食されていたと考えられています。断定はされていませんが、ウェールズで10世紀から11世紀頃から作られていた平たいパン=バノックから派生した料理の一つがマフィンになったという説が有力視されています。というのも、当時作られていたマフィンは火の上に鉄板を置いて焼く=パン焼き窯が無くても作ることが出来る手軽なパンだったのだそう。余談ですが、同じくバノックをルーツとするペイストリーにはスコーンもありますよ。
少し脱線しますが、イギリスには「クランペット(crumpet)」という円盤型のパンがあります。外見はイングリッシュマフィンに似ていますが、生地が甘めで柔らかい食感が特徴。クランペットについては“イギリス式パンケーキ”と説明されるように、イングリッシュマフィンよりはパンケーキに近い食品です。が、酵母を入れて発酵させるという特徴がありますし、ビクトリア朝以前は現在のもののように空気を含まず硬い食感だったことが分かっています。古くはパン焼き窯が使用できないところで、火にかけた鉄板・鍋などに乗せて焼いていたという共通点もあります。
また、イギリスでは地域によっては昔風の空気穴の少ないクランペットやイングリッシュマフィンなどを“パイクレット”と呼ぶ方もいらっしゃるそう。証拠があるわけではありませんが、こうした理由からイングリッシュマフィン・クランペットの原型と言えるパンは同じものだったのではないかと個人的には思っていたりします。時代と共に、用途に合わせてより使いやすいようにレシピが改良されて別々のパン・焼き菓子として確立していったのではないかな、と。
ともあれ、マフィンという言葉が登場するのは“Encyclopedia of American Food and Drink”によれば1703年にイギリスで発行されたものが最古とされています。1747年に刷られたイギリスの料理作家ハナー・グラスの料理本『The Art of Cookery made Plain and Easy(第5版)』にはマフィンのレシピも掲載されていることから、18世紀半ば頃のイギリスでは小さな円盤状のパンがマフィンと言う呼び名で認知されていたと考えられます。18世紀から19世紀のイギリスでは焼きたてのマフィンを入れたトレイを持ち、ベルを鳴らしながらマフィンを売り歩く”マフィンマン”も多く実在していたそう。欧米では“Do you know the muffin man?”から始める「The Muffin Man」という童謡・ゲームがありますが、こちらも1820年代には存在していたようです。
マフィンの語源は?
その起源や歴史がはっきりしていないのと同様に、マフィン(muffin)という呼び名の語源や由来も断定されていません。有力視されているのは「小さなケーキ」を意味する低地ドイツ語の“muffen”が語源という説と、柔らかいパンを意味するフランス語の“moufflet”もしくは“moffin”が語源という説の2つが主。
アメリカンマフィンの誕生
18世紀頃からイギリスで親しまれていたマフィンは、19世紀・ビクトリア朝時代にはイギリス全土で人気のあるペイストリーの1つとなっていました。アメリカでも同時期には新聞やレシピなどで(イングリッシュ)マフィンについての記述が登場していますから、そう時間差なくマフィンというパンの存在は知られていたと考えられます。しかし、この時点ではまだパンに近いイングリッシュ・マフィン。
アメリカでよりお菓子っぽいマフィンが作られるようになったのは、19世紀後半に膨らし粉(ベーキングパウダー)が開発されてからだと考えられています。それ以前からアメリカでは“Pearlashe”と呼ばれる炭酸カリウムがパンの膨張剤として利用されていましたが、使用が難しかったんだとか。19世紀に登場したベーキングパウダーはご存知の通り扱いが簡単で、よほど分量を間違えない限りは苦味や渋みが残ることもありません。
この手軽なベーキングパウダーの普及によって、パンケーキなど手軽に作ることが出来るパンもしくは軽食のレシピがアメリカで注目されるようになっていきます。マフィンもまた酵母を使って発酵させるものから、ベーキングパウダーを入れて即座に膨らませることが主流になったと考えられています。パンと同じ様に一次発酵・二次発酵と待ち時間が長いのは面倒ですし、思い立った時にすぐ作って食べられませんもんね。混ぜて焼くだけですぐ出来るアメリカン・マフィンは“ファストフードの一種”だという声もありますが…。
また、19世紀くらいまでマフィンはマフィンリングと呼ばれる目玉焼き型のようなリング状の型を使って焼くのが一般的でした。熱した鉄板にマフィンリングを置く→生地を流し込んで焼くという感じですね。しかし19世紀半ばから後半にかけての時期には生地をマフィンカップに入れてオーブンで焼く方が多くなっていたようです。1個2個ではなく家族全員の分を、と考えるとマフィンリングで焼くよりは8個くらいの凹みがあるマフィンカップに入れて一気に焼いてしまったほうが楽。このあたりもベーキングパウダーと同じくアメリカ式時短方法という感じがします。
アメリカの作家であり料理学校の創設もしているMaria Parloaは、1880年までにパン生地に近いイングリッシュ・マフィンと自国で食べられているマフィンは別物と区別し、鉄板で焼かれているイングリッシュマフィンに対して“この国(アメリカ)でのマフィンはオーブンで焼かれたものを意味する”と説明しています。いつ誰が初めたかは分かりませんが、20世紀に入るまでにはブルーベリーマフィンやコーンマフィンなどあったようですよ。
アメリカでイングリッシュマフィンの普及
アメリカでは19世紀から調理時間が圧倒的に短い、ベーキングパウダーを使用したクイックブレッドマフィン(アメリカン・マフィン)が食べられるようになりました。この手軽に作れるマフィンは19~20世紀に朝食用としてポピュラー存在になりました。しかし、現在でもアメリカでマフィンの全てがベーキングパウダー式に切り替わったわけではなく、エッグベネディクトやサンドに使うのはイングリッシュマフィン・軽食用にはクイックブレッドマフィンという感じで使い分けられています。
アメリカでイングリッシュ・マフィンも親しまれているきっかけとして名前が挙がるのが、北米でイングリッシュマフィンやベーグル類の製造販売を行う「Thomas’」の創立者でるサミュエル・バース・トーマス(Samuel Bath Thomas)氏。ややこしい表現ですが、アメリカのイングリッシュ・マフィンの父、とでも言えそうな方です。
サミュエル・トーマス氏はイギリス生まれで1874年にニューヨークシティへ移住、1880年に163番街でベーカリーを開業。彼は母親のレシピを元に、酵母を使って作った生地をオーブンで焼き、フォークを刺してぐるりと穴を空けてから手で上下に割く“fork split”したものを販売したと伝えられています。このトーマスの販売したマフィンはトーストの代わりとして大人気になり、1902年にはイングリッシュマフィンという呼び名が確立したそう。1926年に「English Muffin」の商標出願も出されていますから、イングリッシュマフィンという呼称はイギリスで食べられていたマフィンを指す言葉というよりも「Thomas’」の商品名だったと言えますね。
イギリスではマフィンと呼ばれる円盤型のパンが食べられてきたのは事実。
……が、イングリッシュマフィンという呼び名が付けられたのはアメリカでサミュエル・トーマス氏が売り出して以降なんですね。クイックブレッドマフィンの登場によって人気が低下していた「酵母を使ったフラットブレッドマフィン」が消えずに存続したのは、1880年にサミュエル・トーマスがアメリカへ再度紹介したからだという見解もあります。
第二次世界大戦後にマフィンがビジネス化?!
サミュエル・バース・トーマス氏のイングリッシュマフィンなどもありますが、アメリカでクイックブレッドマフィンは基本的に食事もしくは間食の一つとして家庭内で作られるものでした。イギリスの“マフィンマン”のように街頭で販売したり、パン屋・菓子屋などで販売されることはあまり無かったそう。家庭内で作られて家庭内で消費するというのがポピュラーな形だったんですね。
そんなマフィンに変化が起こったのは第二次世界大戦を終えた1950年頃から。50年代に入るとより手軽にマフィンを作れるマフィンミックスが幾つかの会社から発売されました。ちょうど女性の労働参加・社会参加が広まりウーマンリブ運動(女性解放運動)へと繋がっていく時期とも被っているので、家事労働の軽減として人気になったのかも知れませんね。
また、1960年代までにはマフィンを販売するフランチャイズ食品ビジネスが大々的になっていきました。60年代70年代はカフェ(コーヒーショップ)系のチェーン店が登場したこともあって、コーヒーブレイクのお供としてマフィンの販売量も増加していきます。
健康志向の高まりによって人工保存料が忌避されるようになると、保存期間を延ばすためにマフィンに含まれている糖分と脂質が増えたと考えられています。さらに1980年代頃には「脂質が健康に悪い」と低脂肪無脂肪が叫ばれ、購入者のニーズに答えるためにマフィンの脂質を減らした=味を保つために糖質は増えたという一面もあるそう。
21世紀に入った現代では脂質よりも糖質の過剰摂取のほうが問題視されるようになっているので、オートムギや全粒粉・ふすまを使用したり、バナナで甘みをつけたタイプのマフィンも人気になっています。日本では「おからマフィン」なども作られていますね。
参考サイト:Muffin – Wikipedia/The Nibble: English Muffin History
ポピュラーなパン・菓子類だからすぐに起源から現在に至るまでの流れが分かるだろうと思っていたマフィン。実際に調べてみると大難航。「ベーキングパウダーが出来たことでアメリカのマフィンはクイックブレッド化したのだ」的な英文しか見つけられませんでした。誰がベーキングパウダーを使い始めたのかは謎のまま。私と同じことが気になった方、いらっしゃったら申し訳ない。
マフィンとカップケーキの違いの部分でも書きましたが、マフィンは一応パン類、細かく言うとSweet breads(菓子パン)に分類されています。個人的にはシナモンロールやあんぱんの仲間と言われるよりも、カップケーキの仲間って感じがしますけれど。。カップケーキの生地のほうが甘さ控えめじゃないって思うものもありますし。コストコさんで売られているマフィンとか、かなり甘かった気がします。異様に大きくてお得感満載ですが(笑)
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