コロッケは和食?! フランス料理発祥?
-元となったクロケットの正体と歴史は?

コロッケは和食?! フランス料理発祥?<br />-元となったクロケットの正体と歴史は?

コロッケはスーパーで売られているお惣菜としても定番で、庶民的なメニューの一つ。日本独自の進化を遂げた“洋食”と紹介されることも多いですが、その元ネタと言えるクロケットはあまり馴染みがないですよね。クロケットとはどんな料理を指していてコロッケとの違いは何か、クロケットの発祥やヨーロッパでの歴史はどのくらいかを調べてみました。

コロッケとクロケットの定義

クロケットとは

クロケットは細かく刻んだ具材を混ぜて小さめの円盤もしくは円筒状・球状にまとめ、衣をつけて油で揚げた料理のこと。フランス発祥とされる料理で、英語とフランス語どちらも“croquette”と表記されます。

さて、いつも通り紹介しているクロケットの定義は非常に曖昧
日本の料理本やサイトであればクロケットについて「一般的にベシャメルソース(ホワイトソース)を刻んだ具材に和えて形成し、衣をつけて揚げたもの」「ジャガイモを使っていない、日本で言うクリームコロッケに近いもの」などと紹介されていることもあります。

こちらの説明の方が上の漠然とした説明よりは分かりやすいですし、実際にそういう呼び訳をしている洋食店さんもあります。が、クロケット=ベシャメルソースかと言えばそんなこともありません。
英語版wikipediaで調べてみると

The binder is typically a thick béchamel or brown sauce, or mashed potatoes.
(つなぎは通常、濃いベシャメルまたはブラウンソース、またはマッシュポテト。)

引用元:Croquette – wikipedia

と紹介されています。日本語版wikipediaの説明でも主な材料としてマッシュポテトが挙げられています。クロケットは「ジャガイモを使っていない」という事では無いことがわかりますね。分かりやすいように、ジャガイモを使った私たちの知るコロッケと近い料理は“Potato Croquettes”と呼び分けれられることもありますが…クロケットの一種という扱いなことが分かります。ドイツやメキシコほかジャガイモのクロケットの方がポピュラーと言う国も多く、マッシュポテトを使ったクロケットは世界中で食されている料理の一つと言えます。

このため当サイトではクロケットをベシャメルソースでまとめたもの・ジャガイモを使っていないものと表記はしません。クロケット=細かく刻んだ具材を混ぜて小さめの円盤もしくは円筒状・球状にまとめ、衣をつけて油で揚げた料理の総称として扱っていきます。

コロッケは日本オリジナル?!

クロケットよりも格段に馴染みのあるコロッケは、ベースにひき肉や野菜などを混ぜ合わせ、茹でて潰したジャガイモもしくはベシャメルソース(ホワイトソース)と混ぜ合わせて成形し揚げた料理を指す言葉として使われています。どちらかと言うとマッシュポテトがメインのコロッケが多く、ホワイトソースを使っているものは「クリームコロッケ」と呼び分けることが多いのではないでしょうか。英語圏ではジャガイモをメインもしくはつなぎに使っているクロケットを“Potato Croquettes”と呼ぶので反対ですね。

コロッケは洋食としてクロケットを元にして、日本で独自に進化した料理だという声もあります。

とは言え、私たちの食べているコロッケ(ジャガイモ+ひき肉のオーソドックスなコロッケ)は日本式ではありますが、日本のオリジナル料理と言うには弱いように感じます。“Potato Croquettes”の一種という感じでしょうか。

それでいて日本のコロッケは独自の進化を遂げた料理“Korokke”と呼ばれるのは、

  • パン粉が違う(食感が違う)
  • バリエーションが豊富

この2点が大きいように感じられます。日本のコロッケは具材のバリエーションが多く、豆腐・おからを使ったものなど日本独自の食材を使用しているものも多いですし。また、欧米でオーソドックスなクロケットと比較すると、サイズも大きめの円盤型・小判型が多いのも特徴と言えそうです

世界にクロケット類はある

日本のコロッケ以外にも、世界にはその土地で採れるもの・暮らす人々の好みにマッチした様々なクロケットが考案され親しまれています[1]。あえてコロッケ=日本で独自の進化を遂げたクロケットの一種と紹介させていただいているのも、日本以外にも各国の個性的な揚げ物料理がクロケットの一種として扱われているため。日本人として「コロッケは日本のものだ」と言いたい気持ちも若干ありますが…ここは公平に。

クロケットのルーツとコロッケに繋がる歴史

直接的な発祥国はフランス、ルーツは…

コロッケ/クロケットの発祥国はフランスというのが定説。クロケット(croquettes)という呼び名についても。語源はフランス語で(バリバリと食べ物を)かみ砕くという意味の動詞「croquer」とされています。18世紀頃にはcroquetと綴られていたものが時代と共に現在のスぺルに変化したのだとか。

フランス料理の流行によってイギリスやオランダなどへ、そして世界中に広がっていったクロケット。しかしながら、フランスでゼロから考案された料理と言うわけではなく、古代ローマ時代から食べられていた“リッソール(rissoles)”と呼ばれる料理をフランス式に洗練したものである[2]と考えられています。大抵の洋食レシピと同じく、クロケットもルーツはローマにあり説があるわけですね。

クロケットのイメージ画像

古代ローマのリッソール(rissoles)

クロケットのルーツと目される古代ローマのリッソール。
ではありますが、クロケットが古代ローマが発祥だとは言われないことからもうかがえるように、クロケットやコロッケと、リッソールの料理法にはかなり違いがあります。

古代ローマで食べられていたリッソールはミンチ肉がメインの料理。ミンチ肉もしくは魚肉をベースに作ったパテを丸め、ペイストリー(小麦粉を水で練った生地)に包んで焼くか揚げるかしたもの。John Aytoによる『An A-Z of Food & Drink』には、西暦4~5世紀の間に書かれたローマの料理本『アピシウス(De re coquinaria)』に“孔雀肉を使ったリッソールのレシピがある”と記されています[2]。レシピについては不明ですが、パン粉を使っていないこと・肉がメインの事から、食感も風味も現在のクロケット/コロッケとはかなり離れたものと推測できます。

ちなみに、現在でもヨーロッパやかつてヨーロッパ支配下にあった地域では英語で“Rissole”と呼ばれる料理が食べられています。国によってペイストリーの中に具材が入っているタイプ、ひき肉や刻んだ野菜を丸めて焼くハンバーグのようなタイプの両方があります。料理法も揚げる・焼く両方のタイプがあり、衣無し&焼くタイプであるオーストラリアのリッソールはほぼほぼハンバーグのような料理です。

クロケットの誕生と普及

クロケットは17世紀から18世紀半ば頃までにの間にフランスで作られるようになったと推測され、18世紀のうちにオランダやイギリスでもコロッケのレシピが登場していますよ。とは言え、誰が思いついたものなのかは断定されておらず、フランス発祥なのかを疑問視する声もあるようです。

はっきりとコロッケの発祥が分からないのは、コロッケ=半端に残ってしまった肉や野菜をおいしく食べるための料理法という位置づけだった[3]ため。節約レシピのような要素が大きく、華々しく記録されるようなものではなかったのかもしれません。

考案者は不明ですが、コロッケを広めた人として名前が挙がるのが19世紀に活躍したフランス人シェフ・パティシエのAntonin Carême(アントナン・カレーム)。アントナン・カレームは“国王のシェフかつシェフの帝王(king of chefs and the chef of the kings)”なんて呼ばれていたくらいに当時フレンチの頂点に君臨していた料理人であり、19世紀で最も意外なフレンチシェフ・パティシエとも称されるお方。

このアントナン・カレーム氏が1817年、ロシア大公ニコラスの訪問を歓迎するためにブライトンのロイヤルパビリオンで行われた宴会で提供した料理の中に「De croquettes à la royale.」があったことが書かれています[4]。ロイヤルコロッケと言うからには、余りもの野菜の活用レシピではなくお偉方を満足させるように高級感あふれる仕上がりになっていたのでしょうね。

その5年後、1822年にフランス人シェフLouis Eustache Udeが出版した『The French Cook』に掲載されているウサギ肉を使ったコロッケのレシピでは“ローストしたウサギの肉をさいの目に切って、煮込んだベシャメルを投入する”というくだりが登場していますから、この頃にはフランスはクリームコロッケ系のクロケットが食べられていたことが分かります。

また、コロッケの普及に一役買った人として18世紀末頃に活躍したAuguste Escoffier(オーギュスト・エスコフィエ)氏の名前も挙がります。エスコフィエはアントナン・カレームの技法を元にフランス料理の手法を確立した「近代フランス料理の父」と呼ばれる人で、近代フランス料理の知識と技術をまとめたレシピ集も出版しています。

19世紀のレシピはバラバラ

1877年にロンドンで出版された『Kettner’s Book of the Table』のコロッケのレシピは“ミンチ肉にキノコや香辛料などを混ぜ、卵に浸した後にパン粉を付けて揚げる”という内容[2]。ベシャメルソースベースのクロケットではなく、日本でメンチカツと呼んでいる料理に近いレシピです。同時期に出された別のレシピにはクリーム(ベシャメル/ホワイトソース)を加えたレシピがありますから、揚げミートボールからの移行時期であったか、用途に合わせてレシピを使い分けていた可能性がありそうです。

日本のコロッケ文化は明治から

日本にクロケットが伝わったのは、西洋の文化が一気になだれ込んできた明治初期。フランスから伝わった・オランダから伝わったなど諸説ありますが“洋食”としてクロケットが取り入れられました。日本にクロケットとして伝わったものはベシャメルソースを使うものだったようですが、明治と言えば日本ではまだ牛乳・乳製品の加工方法が普及せず、食材としても馴染みのないものでした。

そこで日本では伝わったクロケットのレシピだけではなく、ジャガイモを使ったコロッケが作られるようになったようです[5]。完全にオリジナルだったのか、イギリスからジャガイモを使用したクロケットの製法が伝わっていたのかは分かりません。大正初期までコロッケはビーフステーキよりも高い高級メニューとして扱われましたが、大正後期~昭和初期にかけては庶民でも買える身近なお惣菜の一つとして定着していきました。値段が下がったのは洋食店で出される以外に、お肉屋さんが商品にならないような肉の切れ端やラードの活用として販売を始めたからだとか。

参考サイト
[1]Croquette – wikipedia
[2]Food Timeline
[3]Miami loves a good croqueta, here’s the history of the tasty treat
[4]An Extraordinary Banquet.
[5]コロッケとクロケットの違い!由来・ルーツ・世界6カ国の味を解説

クロケットの歴史部分がかなり曖昧になってしまって申し訳ない。もっと詳しい発祥や普及については各食品研究家の著作(洋書)を買って読まないと分からないうえに、どれも諸説ありの諸説の1つという感じのようで。ものすごいポピュラーな料理&もともと高級品では無かったためか、調べても19世紀以降のレシピしか出て来ないような状況でした(><)日本のコロッケの歴史は結構スッキリしているんですけどね。

欧米ではクロケット・日本ではコロッケくらいのイメージだったのですが、実は世界的にポピュラーでバリエーションも豊富。参考サイト5番目のサイト様やwikipediaでは各国のコロッケ(クロケット)を紹介されているので、気になる方はぜひ見てみてください。魚肉を使ったクロケットを食べる国も多いようですが…日本人的にジャガイモ+マグロとか貝とかって相当斬新な気がしますよね。