マシュマロのルーツは薬だった!?
-マシュマロの歴史・ギモーブとの違いは?
ほんのり甘い優しい味と、ふわもち食感が楽しいマシュマロ。一袋100円くらいで購入でき、そのまま食感を楽しむことも、温めてとろーり食感にして食べることも出来て、応用も効く便利なお菓子です。
そんなマシュマロ、何から出来ていて原産国はどこかご存じでしょうか?意外と知らないマシュマロのルーツや現在の形になるまでの歴史、原材料やフランスのマシュマロと話題になった“ギモーヴ”との違いをチェックしてみて下さい。
目次
マシュマロ基礎知識
マシュマロとその材料
マシュマロ(Marshmallow)はふわふわ食感と独特の弾力が特徴的なお菓子です。
メーカーやレシピによって違いはありますが、オーソドックスなマシュマロの主原料としては砂糖、卵白、ゼラチンの3つ。そこに水飴やコーンスターチ、増粘剤、香料、中に入れるジャムやチョコレートペーストなどが加わります。ちなみにコーンスターチはマシュマロ同士がくっ付かないように外側にまぶされていることも、食感を出すためにマシュマロ本体に加えられていることもあります。
というのも、商品として販売されているものには卵白を使用せず、水あめや増粘剤(グルコースシロップ・加工デンプン類)などで食感を出しているものもあります。甘く粘り気のあるシロップにゼラチンを溶かし、ミキサーで泡立てることで空気を含ませるという製法で作られていることが多いそう。このため、スーパーなどで1袋100円くらいで販売されているマシュマロの原材料に“卵白”の文字はほぼお見掛けしません。
こうした“もの”として用意される原料とは別に、マシュマロに欠かせないのが空気。空気を沢山含ませないと、ふわっと弾力のある、柔らかめの低反発クッションのような独特の食感にはなりません。このため主要成分として「空気」を紹介しているメーカーさん[1]や紹介記事もあります。同じく水(水分)も必要ですね。
マシュマロがフワフワになる理由
現代ではマシュマロを作るのによく使われている“ゼラチン”。
しかし、ゼラチンを使うお菓子としてはゼリーやムースなどが代表的ですよね。少量だとトロトロ、しっかり入れるとプルプル食感になるはずのゼラチン。どうしてマシュマロに必要なのかと気になった事はありませんか?
マシュマロの作り方は
- 卵白でメレンゲを作る
- ゼラチン+砂糖+水を混ぜてシロップ状に
- ゼラチンシロップをメレンゲに混ぜる
- 冷やして固める
主にこの4項目がポイント。
マシュマロのエアリーでフワフワした食感は卵白(メレンゲ)がベース。ゼラチンは冷やすとプルプルした食感に固まるという性質から、メレンゲの泡を潰さずに固めるために使っています。軽いメレンゲの食感とは別物の、マシュマロにもっちりとした弾力があるのはゼラチンのおかげなんですね。
マシュマロの語源は薬草?!
私たちが食べているマシュマロはふわもち感覚のお菓子ですが、英語“marshmallow”の語源は「マーシュマロウ(marsh mallow)」。和名をウスベニタチアオイ(薄紅立葵)もしくはビロードアオイ、学名はAlthaea officinalisというアオイ科の植物です。
このウスベニタチアオイという植物、ハーブや薬草と呼ばれる使い方をされてきた歴史がある薬用植物の1つ。マシュマロのルーツはウスベニタチアオイの根から取った粘性の汁を使った薬用食品[1]とされています。ウスベニタチアオイの根にはデンプンが含まれているため、コーンスターチなどと同じような粘り気が出たんですね。日本で言うところの葛粉なんかに近い形でしょうか。
マシュマロのギモーヴの違いは?
鮮やかな色合いとフルーティーな風味が特徴的な「フランスのマシュマロ」として、かつて女性を中心に話題になったおしゃれななお菓子ギモーヴ(Guimauve)。マカロンのように定着したとは言い難い存在ですが、記憶にある・食べたことがあるという方もいらっしゃると思います。
消費者側としてマシュマロとギモーヴを比較すると
- 見た目はカラフルでキューブ型が多い。
- 食味はフルーツ風味で弾力が弱いマシュマロ。
という点が違いとして挙げられます。
しかし、マシュマロとギモーヴの本来の違いは材料・作り方にあるのだそう。
工場生産品については置いておくとして、マシュマロの基本的な作り方はメレンゲに甘みをつけてゼラチンで固めますよね。対してギモーヴはフルーツピューレとゼラチンを混ぜ、それを泡立てて固めます。卵白なしでふわふわの食感になるまで泡立てる…大変ですよね。このためメレンゲを使ってくられているギモーブも多い[2]そうです。
ギモーヴのキャッチコピーは「フランスのマシュマロ」。
このためフランスで食べられているマシュマロは、日本で呼ばれているギモーブと呼ばれているもの=メレンゲ無しで作るタイプのように思いますよね。しかしフランス語版wikipediaでguimauveと検索して見ると、出てくるのは私たちがマシュマロと呼んでいるタイプの画像。作り方についても“卵白を泡立て、砂糖とゼラチンを混ぜたものを注ぎ泡立てる”[3]としっかり卵白が登場しています。
フランス語のguimauve(ギモーヴ)はマシュマロを指す言葉で、語源もマシュマロと同じく“ウスベニタチアオイ”が由来。フランス語でこの植物のことをGuimauve officinaleもしくはGuimauve sauvageと呼び、古くは根を原料に作られていたお菓子のことも「Guimauve」と呼ぶようになりました。そもそもマシュマロを美味しいお菓子として確立させたのはフランスのことですから、このフランスの命名方法がそのまま英語になったような形でしょうか。
このためフランスではマシュマロの製法が違うということは無く
マシュマロ=marshmallow=guimauve
なわけです。フランスでは卵白(メレンゲ)を使わないマシュマロをギモーヴと呼んでいるわけではなく、空気を含ませてゼラチンで固めたマシュマロ類のお菓子をギモーヴと呼んでいます。
マシュマロとギモーヴを異なるお菓子として見ているのは日本だけです。こうした区分は日本のお菓子業界が「フランス発のオシャレなお菓子」を売り出すために仕掛けたこと…という噂も。実際にフランスでのオーソドックスという訳ではなかったのも、ブームから定着に至らなかった原因なのかもしれません。
マシュマロの起源と歴史
古代エジプトではファラオ限定の食べ物
マシュマロの語源となっている植物マーシュマロウは、西アジアから北アフリカにかけての地域が原産。原産域に含まれている古代エジプトでは、紀元前2000年頃からマーシュマロウの根から抽出されるねばねばした粘液質を食べていたことが分かっています。当時のエジプトで食べられていたマシュマロのルーツと言える菓子はファラオと王族、そして神々しか口にしてはいけないものとされていました[4]。それ以外の人が口にすることは犯罪とされていた[5]そうなので徹底していますね。
肝心の紀元前2000年頃に古代エジプトで食べられていた菓子のレシピは、残念ながら判明していません。マーシュマロウの粘液と蜂蜜が使われていたことから、粘り気のある水飴のようなシロップだったという説が多いようです。その他に、マーシュマロウの粘液+蜂蜜+ナッツでキャンディーにした、マーシュマロウの粘液+蜂蜜+ナッツ穀物粉を混ぜて焼いたケーキだった[5]という説もあります。
紀元前の古代ギリシアやローマでも、マーシュマロウからとれる粘液はのどの痛みや炎症を落ち着ける働きを持つと考えられていました。マーシュマロウの根は当時の薬のようなもの。マーシュマロウの菓子もまた、嗜好品としてのお菓子というだけではなく、健康食品や薬用食品と言える存在だったと考えられます。現在の喉飴や咳止めシロップなどの役割も持っていたとすると、シロップ・キャンディー系だった可能性が高そうですね。
1800年代にフランスでマシュマロ誕生
古代エジプト以降もマーシュマロウはハーブ、当時の間隔では薬として使われてきました。菓子原料として使われてなかったとは言い切れませんが、嗜好品として食べるという扱いではありませんでした。食材として見ると、飢饉のときに仕方なく食べる非常食レベルだったようです[6]。
そんなマーシュマロウに転機が訪れたのは、1800年代の前半頃。
フランスの菓子職人が泡立てたメレンゲに砂糖・水とマーシュマロウの根から取り出した粘液を加え、更にホイップすることでフワフワとした食感を持つお菓子の形を作り上げました。一説では古代エジプトで食べられていた贅沢な成分に習い、より美味しく薬効のある薬用食品を作ろうとしたともいわれています。
ともあれ、このフランス人パティシェが作ったお菓子“Pâté de guimauve”が売り出されると、新食感のお菓子は人気商品に。しかし、初期のレシピではギモーヴ(マシュマロ)の量産は困難。というのも粘液を取り出すためにはマーシュマロウの根を乾燥させる必要があり、また、取り出した粘液を卵白と混ぜてフワフワになるまで攪拌するのも、一つ一つ手作業でマシュマロを成形するのも相当な手間がかかります。
ギモーブというお菓子が定着し始めた1800年代半ば~後半になると、もっと低コスト・低労力でギモーヴを作れないかとフランスの菓子職人たちの間で試行錯誤が行われました。その結果考案されたのが、starch mogulと呼ばれる、コーンスターチで作られた型に填めることでマシュマロを成形する方法。ほぼ同時期にマーシュマロウ粘液がゼラチンに置き替えられた[4]ことで安定して固めることも出来るようになり、19世紀末~20世紀初頭頃には量産が行えるようになりました。
マーシュマロウの根が使われなくなったこの時期が、ギモーブ(マシュマロ)が健康食品ではなく嗜好品の“菓子”というポジションに落ち着いた時期であるとも言えますね。マーシュマロウの根を攪拌してふわふわ食感のお菓子を作ったのも、原料をゼラチンに置き換えたのもフランス。このためマシュマロの原産国はフランスというのが通説です。
ゼラチンについて
19世紀後半にギモーヴ(マシュマロ)のレシピに取り入れられたゼラチン。こちらも古代エジプトでは既に動物の骨や皮を煮て作ったドロドロの液を乾かして固める=“にかわ(膠)”が使われていたことが分かっています。純度はアレですが、ゼラチンの原型と言える存在です。
時代とともに“にかわ”の製造方法は洗練されて、17世紀末頃から大規模な生産が行われるようになっていきました。19世紀初頭には食用ゼラチンも生産されるようになっていたと伝えられています。マシュマロが誕生し改良されていく、ちょうどその時期にゼラチンもまた製菓原料として注目されていた素材なんですね。
アメリカでより安価に量産化
フランスでマーシュマロウの根を使わないお菓子マシュマロの作り方が考案された前後、19世紀末~20世紀初頭の時期にマシュマロはアメリカへも伝わりました。1927年に発刊されたガールスカウトのハンドブックに“some mores”という呼び名で現在「スモア(s’more)」と呼ばれている焼いたマシュマロとチョコレートをグラハムクラッカーに挟む食べ方も掲載されています[6]。アメリカでもマシュマロは食べられていましたし、この頃からキャンプファイヤーのお供というポジションも獲得していったのでしょう。
1948年にはAlex Doumak氏がマシュマロをもっと効率よく量産するための製造方法を試し、マシュマロをチューブに通してノズルを使って切り分ける「押し出しプロセス」を発明します。従来のマシュマロを型に入れて固める方式からすると、低コストでマシュマロを大量生産出来ますね。ちなみに、Alex Doumak氏はこのマシュマロ製造プロセスで1954年に特許を取得し、1961年には現在もマシュマロ製造を行っている企業Doumak Inc.を立ち上げています。
「押し出しプロセス」の普及によってマシュマロはチューブの形=私たちにとってもお馴染みの円筒形が定番に。大量生産され手ごろな価格になった1950年代アメリカでは、庶民派おやつとしてマシュマロが定着しました。マシュマロを使ったアレンジレシピも沢山考案され、現在のアメリカは年間9000万ポンド以上のマシュマロを消費する[6]マシュマロ大国となっています。
参考サイト
[1]エイワのマシュマロ|マシュマロ大百科
[2]「マシュマロ」と「ギモーヴ」の違いってなあに? – 幸せのレシピ集
[3]Guimauve (confiserie) — Wikipédia
[4]2000 BC, Ancient Egyptians Discover How To Make A Gooey Marshmallow
[5]Marshmallow History| BoyerCandies.com
[6]The Long, Sweet History of Marshmallows
発祥国さえ気にしたことが無いほど日本人にとっても身近なお菓子、マシュマロ。遡ると植物の名前、その植物を使った古代エジプトの王家専用お菓子に辿り着く。けれど今のマシュマロとは似ても似つかないもの…何だか不思議ですね。
マーシュマロウの根は入っていませんが、その現在のマシュマロは独特の食感とフレーバーが楽しめる気軽なお菓子。ホットココアに入れたり、ヨーグルトに入れてトロトロにしたり、パンに乗せて焼いたりと色々な使い方も紹介されています。お安いので迷うことなく試せるし、マシュマロレシピは外れが少ないと個人的には思います。薬用シロップからお菓子に進化させてくれたフランスの職人さん、ありがとう。
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