ブリオッシュはフランスのパン?
-ブリオッシュの種類や歴史も紹介
しっとりフワフワ食感と、バターの香りが香ってほんのり甘い生地が特徴的なブリオッシュ。大小の丸を積み重ねたようなぽっこりとした形が代表的ですが、食パン型、三つ編みタイプなどもありますね。見た目も味もかなり異なるパンが「ブリオッシュ」と呼ばれているのは何故なのか、そもそもブリオッシュの定義はなんなのか調べてみました。
ブリオッシュの定義と種類
ブリオッシュとは
ブリオッシュはパンの一種、厳密には“Viennoiserie(ヴィエノワズリー)”と呼ばれる菓子パンの一種です。ブリオッシュは生地を練るときに水の代わりに牛乳を使うこと、卵とバターを多く使用して砂糖を加えることが特徴。食事として食べるシンプルなパンであれば粉、酵母、塩、水の4種類で出来ますから、非常にリッチなパンと言えますね。
とは言え、パンの中には牛乳や生クリーム・バター・卵などの副材料を使用するものもあります。その中でもブリオッシュは使用する副材料の割合が高く[1]、風味が豊かで柔らかい生地に焼きあがります。このためブリオッシュはペイストリーに近いパンである、パンとパウンドケーキの中間的存在だと称されることもありますよ。
ブリオッシュは使用するバターや砂糖の量・生地をどのような形に成形するかによって呼び名が変わってきます。水の代わりに牛乳を使い副材料も多く使用した(層状に生地を重ねない)いくつかのヴィエノワズリーの総称として“ブリオッシュ”という言葉が使われているようなイメージですね。
発祥国であるフランスでブリオッシュは現在は朝食パンとして親しまれている存在。種類によっては菓子パンというよりは風味豊かなパン、くらいのものもあります。しかし、元々はヴィエノワズリー=発酵酵母生地から作られた焼き菓子というスタンスの食べ物。
マリー・アントワネットが発したとも言われる「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という言葉も、原文では「Qu’ils mangent de la brioche(ブリオッシュを食べればいい)」となっています(※この言葉はマリー・アントワネットの言葉ではないことが判明していますが)。当時のブリオッシュは菓子もしくはケーキという扱いだったので、日本語に訳されるときに「ケーキ」になったのですね。
デニッシュ・クロワッサンとの違いは?
デニッシュは大きなカテゴライズでは“ヴィエノワズリー”に属し、発祥国はフランスとされています。同じヴィエノワズリーの括りの中にはデニッシュやクロワッサンなども含まれています。
デニッシュ、クロワッサンとブリオッシュが大きく異なる点としては「生地を層状に重ねない」という事が挙げられます。ブリオッシュは生地をこねて発酵→成形するという流れで作られていますから、材料としては近いですが食感も全く違いますね。特にデニッシュとは名前が似ているので紛らわしいですが、食べれば分かる違いです。
デニッシュ、クロワッサン
本編と外れますが、デニッシュとクロワッサンの区分は(特に日本では)曖昧。オーソドックスな作り方で行くとクロワッサンの方が折り込み回数(生地の層の数)が多いとされているのですが、規格として決められているわけではないので層の数が変わらないこともあります。
また、
生地が甘いもの=デニッシュ、甘くないもの=クロワッサン
三日月もしくは菱形=クロワッサン、それ以外の形=デニッシュ
などで呼び分けている場合もあります。
ブリオッシュの種類
ブリオッシュ生地のパン類
ブリオッシュと呼ばれる菓子パン類は、さらに材料配合や形状によって呼び分けられています。細かい区分も入れると非常に多くの呼び名が存在しているようですが、下記では代表的なもの・個性的なものを紹介します。なおブリオッシュの種類についてはフランス菓子ラボ様[2]を一部参考にさせていただいております。
ブリオッシュ・ア・テット(Brioche à tête)
日本で「ブリオッシュ」のイメージビジュアルとして使われることが多いのが、こちらのタイプ。丸めた大小2つの生地を積み上げて作られるため、鏡餅や雪だるまにも似たポッコリとした独特の可愛いらしい形状が特徴です。呼び名に付けられている「tête」は頭を意味するフランス語、確かに頭のような形にも見えますね。生地に具材やチョコレートなどを練り込むことはほとんどなく、プレーンタイプが一般的です。
ブリオッシュ・ブール(Brioche boule)
ブリオッシュ・ブルは生地を片手の手のひらにのるくらいのサイズに丸めた、丸いブリオッシュ。シンプルな形をしており、見た目にはテーブルロールと同じような印象です。「boule」はそのままボールの意味。
ブリオッシュ・ナンテール Brioche Nanterre
ブリオッシュ・ナンテールは生地を四角い型に入れて焼いたタイプ。日本では「ブリオッシュ食パン」と呼ばれることもあります。厳密に決まっているわけではありませんが、記事を8等分にして丸め、長方形型のパン型に2列に並べて焼くという方法がオーソドックスです。ちなみに、ナンテール (Nanterre)というのはフランス中央部にある都市の名前で、このパンの作り方はナンテールが発祥なのだそうです。
ブリオッシュ・ムースリーヌ(Brioche Mousseline)
ブリオッシュ生地を筒状の型に入れ、円柱状に焼き上げたものを指します。ブリオッシュ・ムースリーヌの「Mousseline」は織物の一種である“モスリン”が由来で、モスリンのように滑らかで柔らかい食感を楽しめることから命名されたと言われています。
ブリオッシュ・トレッセ(Brioche tressée)
ブリオッシュ生地を三つ編みにして成形し、焼き上げたものを指します。ブリオッシュ・トレッセの「tressée」は直訳すると編組(へんそ)、組み合わせる・編むなどの意味があります。
ブリオッシュ・スイス(Brioche suisse)
ブリオッシュ・スイスはもっと菓子パンに近く、デニッシュ生地の中にカスタードクリームとチョコレートチップスを巻き込んだ形のパン。生地と生地の間にクリームなどを挟み込むため、長方形もしくは渦巻き型に形成されます。
ガッシュ・デ・ヴァンデ(Gâche de Vendée)
ガッシュ・デ・ヴァンデ、もしくは単に「ガッシュ(gâche)」と呼ばれているパンは、甘みの強いブリオッシュ生地を使った菓子パンのようなもの。フランス西部ヴァンデ地方やノルマンディー地方の名物で、イースターの日に食べることもあるのだとか。ラム酒やスパイスなどを使って香りをつけるものも。
ブリオッシュ生地のケーキ・お菓子
パン/菓子パン類だけではなく、ブリオッシュ生地をベースにしたスイーツ類も多く存在しています。クグロフもブリオッシュ生地とよく似た製法で生地を作るため、ブリオッシュグループに含められることもあります。そのほか広くとらえるとイタリアのパネトーネなどもブリオッシュの一種に数えられることがありますが…下記では間違いなくブリオッシュの派生であろうというお菓子を3つ紹介します。
ガレット・ブレッサンヌ(Galette bressane)
ガレット・ブレッサンはブリオッシュ生地をお皿のように平たく成形し、表面にバターもしくはクレーム・ドゥーブル(生クリーム)を塗り、砂糖をまぶして焼いたお菓子です。
ガレットと言うとザクザク生地を連想しますが、本来は「薄く丸い形に焼いた生地(料理)」を指す言葉。ブレッサンヌはフランス中東部のブレス地方(Bresse)を指しており、ブレス地方は酪農が盛んだったこともあって特産品となったようです。生クリームの代わりにクリームチーズを入れたり、チョコチップを入れるアレンジもあり“タルトのタルト台部分がブリオッシュのもの”と言った方がしっくりくるものも。
タルト・トロペジエンヌ(Tarte tropézienne)
タルト・トロペジエンヌは円盤型に焼いたブリオッシュ生地の間にクリームを挟んだお菓子。トロペジエンヌは「サントロペ(フランス南部にあるリゾート地)の」を意味しているので、直訳するとサントロペのタルトの意。1955年に発売され、フランスで女優・ファッションモデル・歌手とマルチに活躍されていたブリジット・バルドーがサントロペを訪れた際に気に入ったことからフランス中で人気になったお菓子なのだそう[3]。
見た目はブッセに似ていますが、大きいものだとホールケーキくらいのサイズも。
ブリオッシュ生地のため食感はパンとスポンジケーキの中間くらい。
ガトー・デ・ロワ(Gâteau des Rois)/キングケーキ
アメリカの一部地域では、カーニバル(謝肉祭)で「キングケーキ(King Cake)」と呼ばれるケーキを食べる風習があります。このキングケーキもブリオッシュに近いパン生地が使われており、旧フランス領だった地域で多く食べられていることもあってブリオッシュの一種に数えられることがあります。
ところでキングケーキ=王様のケーキ、といえばフランスにも王冠付きのお菓子「ガレット・デ・ロワ(galette des rois)」がありますよね。ガレット・デ・ロワという呼び名は“王様のケーキ”の意味がありますし、公現祭(エピファニー)の日に食べられることから新年を祝う菓子と紹介されることもあります。
食べる日もキングスケーキとは異なりますし、私たちが目にするガレット・デ・ロワはパイ生地の中にアーモンドクリームが入ったやや硬めの食感。ですがフランス南部の方ではブリオッシュ生地を使ったガトー・デ・ロワ(Gâteau des Rois)もしくはブリオッシュ・デ・ロワが良く食べられています。ブリオッシュ・デ・ロワはリング状に作られており、この形が王冠を、上に載せる果物が王冠についている宝石を表しています[4]。
なぜかカーニバルの行事食に変わっていますが、アメリカやメキシコなどで食べられているキングケーキもブリオッシュ・デ・ロワ(ガトー・デ・ロワ)から派生したもの。どちらもケーキの中にはイエス・キリストを模した赤ちゃんの人形、おみくじ的なオモチャが入っているという共通点もあります。
ブリオッシュの由来と歴史
名前の由来・語源は?
ブリオッシュ(Brioche)という名前の由来・語源にはいくつかの説があり、断定はされていません。
- 壊れたを意味するゲルマン語“brekan”
- かき混ぜるを意味するフランス語“brise”
- 生地を捏ねることを意味するノルマン語“brier”
- サンブリュー地域の住民“Briochins”さんにちなんで[4]
などが語源として考えられています。
ブリオッシュの歴史
ブリオッシュという言葉を使った最も古い記録は1404年[1]とされていますが、レシピ等の文献は無く詳しいことは分かっていません。15~16世紀頃にフランス北西部を含む“ノルマンディー地域圏”で伝統的に食べられていたパンを改良した、というのが通説となっていますが断定はされてないのが現状です。ちなみに、ノルマンディー地方は当時から酪農が盛んで、牛乳やバターなどの乳製品が豊富。水の代わりに牛乳を使ってパンを作る、という製法が考案された可能性は高そうですね。
フランスでは17世紀頃から“brioches”と呼ばれる卵とバターを練り込んだパンもしくは菓子についての記述が存在しています。17世紀に書かれた百科事典『Dictionnaire universel、contenant generalement tous les motsfrançois』から小麦粉、バター、卵を使っていたこともわかっています[5]。18世紀にはジャン=ジャック・ルソーの『告白』で身分の高い女性が「(パンがないならば)ブリオッシュを食べればいい」というフレーズも登場していますから富裕層の食する贅沢品、もしくは特別な日のごちそうだったのでしょう。
フランスで生まれ改良されていったという説がある一方で、ルーマニアでも同じように牛乳・乳製品を使ったパンがある[1]ことから、ブリオッシュのルーツはルーマニアにありと唱える方もいらっしゃいます。ブリオッシュ含まれている“ヴィエノワズリー(Viennoiserie)”という言葉の。ウィーン(Vienna)が語源ですしね。
どちらの方が現在のブリオッシュのルーツなのかは分かりませんが、フランスで一般庶民にまでブリオッシュが普及した・現在食べられている製法に近づいたという面ではウィーンの影響が強いと考えられます。
というのも、19世紀半ばアウグスト・ツァング氏がパリで開店したパン屋“Boulangerie Viennoise(ウィーン風のパン屋)”が大人気に。このお店で売り出されていたパンをパリのパン職人たちも真似たことで、バターや砂層をふんだんに使ったパン・菓子パンが爆発的に普及したという歴史があります。
当時のウィーンはパン先進国ともいえる存在で、砂糖やバター・卵などを混ぜ込む手法も多く使われていました。元々フランスで食べられていた“brioches”にもその製法は取り入れられ、ミックスされることで現在のような風味豊かで柔らかい食感のパン製造方法が確立していったのではないでしょうか。
参考サイト
[1]What Is Brioche? What to Know About This French Bread
[2]ブリオッシュの種類 Brioche | フランス菓子ラボ
[3]大女優が絶賛して、大人気のスイーツ「タルト・トロペジエンヌ」
[4]Gâteau des rois — Wikipédia
[5]Dictionnaire universel、contenant generalement tous les motsfrançois
子どものころブリオッシュは甘い食パンだと思っていて、雪だるま型のブリオッシュを見た時に「?」となった人が書きました。小麦粉のほのかな甘みだけではなく、お砂糖や牛乳の風味がしっかりしたブリオッシュ食パン…子どもは高確率で好きな味ですよね。
と言っても、日本は菓子パン大国。プレーンのブリオッシュであれば菓子パン(ヴェノワズリー)というよりも普通の食事パン認識な気もします。「パンが無ければブリオッシュを食べればいいじゃない」なら「いや、それパンだから…」とツッコミたくなるから、日本語訳版ではお菓子もしくはケーキとなっているんじゃないかしら。。
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