デニッシュはデンマーク発祥のパン!
-特徴やクロワッサンとの違いとは?
サクッとした食感と豊富なフィリングが美味しいデニッシュ。菓子パンの一種のような感じでパン屋さんでもよく目にしますし、数は多くはないものの専門店もありますよね。パン好きなら食べたことのある種類で何となく見た目や味も思い浮かべることが出来るかもしれませんが、クロワッサンとの違いは? ブリオッシュとは違うの? という話になると自信を持って説明できる方は少ないのではないでしょうか?
目次
デニッシュの定義と語源
デニッシュとは
デニッシュはパンやペイストリーの一種。
イースト菌で発酵させたパン生地を薄く延ばし、バターなどの油脂を塗って生地を重ねる…と折パイにも通じる作り方をするのが特徴。オーソドックスな作り方だと3つ折りが3回=27層の生地を成形して焼き上げます。生地を何層にも重ねることでサクサクとした独特の食感が生み出されますが、層の数が多いクロワッサンよりはパンに近い食感になっています。
デニッシュはスカンジナビア諸国、特にデンマークの名物というイメージを持たれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。上記のような製法で作ったパン・ペイストリー類の呼び名として使われている“デニッシュ(Danish)”という言葉も、英語で「デンマークの」という意味です。英語だとデンマーク語もDanish languageと言いますしね。単にデニッシュ(Danish)と省略して呼ぶのはアメリカ英語で、イギリス英語では「Danish pastry(デンマークのペイストリー)」と呼ぶようです。
デンマークではデニッシュと呼ばない
デニッシュ(Danish)の由来はデンマークとされています。
が、デンマークほかスカンジナビア諸国ではデニッシュという言葉は使われていません。デニッシュを指す言葉は“wienerbrød”または“wienerbröd”で、意味は「ウィーンのパン」。
詳しくはこの下でご紹介するデニッシュのルーツと歴史の部分で紹介させて頂きますが、デンマークでは「ウィーン(オーストリア)から来たパン職人が伝えたパン」という逸話が残っているために、こうした名前で呼ばれることになったのだそうです。フランスでもデニッシュのようなペイストリー生地の甘いパン類は“Viennoiserie(ヴィエノワズリー/ウィーンのもの)”と呼ばれています。
しかし、ウィーンではデニッシュを“Kopenhagener Gebäck”と呼び、意味は「コペンハーゲンのパン」。コペンハーゲンはデンマークの首都ですから、デニッシュと似た感覚の呼称ですね。ドイツも同様に“Copenhagener”とコペンハーゲンの名前が呼び名になっているようです[2]。
ところで、一口にデニッシュと言っても色々な種類がありますよね。
シナモンがたっぷりと使われていて渦巻き状になっているものもあれば、チョコレートがトッピングされているもの、カスタードクリームが入っているものなどなど。フィリングとトッピングの種類は数えられないほどあります。甘い菓子パンと紹介されることが多いですが、日本ではマヨネーズなどを使った食事系のデニッシュも販売されていますしね。
日本では「チョコデニッシュ」のように、デニッシュの前にフィリングやトッピングに使った材料名を付けることが多いですが。デンマークでは
- シナモン入りの渦巻き形はKanelsnegle(カニールスナイル)
- カスタードクリーム入りのspandauer(パンダウアー)
- けしの実をトッピングした“Tebirkes(ティビアキス)”
など「○○wienerbrød」ではなく固有名称で呼ばれているデニッシュもあります。“Tebirkes”はペストリー生地を折りたたんでからスライスして焼くため長方形に近い形状も特徴[1]です。
デニッシュ、ブリオッシュ、クロワッサンの違いは?
通常単に「パン」と呼んでいる食パンやバゲットなどと、デニッシュの違いは分かりやすいですよね。生地が層状になっており、バターやそれに類する油脂の香りが強いことが特徴です。しかし、デニッシュと同じく生地が何層にも重ねられているパンにはクロワッサンもありますし、名前が似ているデニッシュもありますよね。デニッシュとクロワッサンの違い、デニッシュとブリオッシュの違いはどこにあるのでしょうか。
クロワッサン
クロワッサンはフランス発祥のパン(ヴィエノワズリー)。
折パイと同じように生地の間にバターなどの油脂を塗り、折り重ねてくことで生地の層を作ることが特徴。パイ生地との違いとしてはイースト菌などの酵母を使って生地を発酵させていること、パイ生地よりも折り込み回数(生地の層の数)が少ないことが挙げられます。発酵させた生地をパイよりは少ない層にすることで、独特のサクサク感とパンに通じる食感のハーモニーが生み出されています。
ブリオッシュ
ブリオッシュもフランスが発祥のパン(ヴィエノワズリー)の一つ。
水の代わりに牛乳を使い、バターと卵を普通のパンより多く使う・砂糖を加えることでリッチで風味豊かなことが特徴です。材料をふんだんに使うことから「最もリッチな配合で作られるパン」などと表現されることもあります。
バゲットや食パンなどと比べるとバター(油分)を多く含んでいるという点では似ていますが、ブリオッシュはクロワッサンやデニッシュのように生地を折り重ねての層を作ることはしません。食感もサクサク感ではなく、しっとりふんわり系。デニッシュと名前が似ているので混同しがちですが、製法や食感は全く別物です。
デニッシュ
デニッシュはデンマーク(スカンジナビア諸国)発祥のペイストリー。
クロワッサンと同じくイースト菌などの酵母を使って発酵させた生地を、バターを挟んで折り込むことで層状にしてから成形して焼き上げます。デニッシュの層の数は概ね27層(3つ折り3回)と、クロワッサンよりも少ないことが特徴とされています。
ただし、クロワッサンを何層で作るかは人によってかなり差があります。少ないものであれば16層(4つ折り2回)くらいというレシピもありますし、過去8000層のクロワッサンが話題になったこともあります。この辺りは極端でクロワッサンの層の数として多いのは27層~81層、実はデニッシュと変わらない層の数の生地もあるわけです。
特に日本では、クロワッサンとデニッシュの区分は曖昧な部分が多く、
- 【生地の味】
- 生地が甘いもの=デニッシュ
- 甘くないもの=クロワッサン
- 【形状】
- 三日月もしくは菱形=クロワッサン
- それ以外の形=デニッシュ
などで呼び分けている場合もあります。
また、クロワッサンは基本的に生地のみのシンプルなタイプが多く、デニッシュはチョコレート・カスタード・果物・ナッツなどがトッピングもしくはフィリングとして使われていることが多いのも特徴と言えるかもしれません。
デニッシュにもクロワッサンにも厳密な規格はありません。販売店やレシピ制作者が思った方の呼び名を付けられているような印象です。クロワッサンと同じ生地を薄巻き状に成型する・カスタードなどを入れたものを「デニッシュ」と呼んだとしても特に問題は無いので、クロワッサンとデニッシュの違いは結構曖昧ですね。
デニッシュの歴史と起源についての諸説
デニッシュが誕生したのは1800年代
デンマークで私達が「デニッシュ」と呼んでいるタイプのパン/ペイストリーが誕生したのは1800年代、こここまでは共通しています。呼び名からウィーンのパン/ペイストリーに何らかの影響を受けていることも分かりますが、どうやってデニッシュ(デンマークで言うwienerbrød)が誕生し普及していったのかについてはハッキリとわかっていません。有力視されている2つの説を紹介します。
発祥説①パン屋さんのストライキ
デンマークでデニッシュの事を“wienerbrød(ウィーンのパン)”と呼ぶようになったのは、1800年代半ばに起こったデンマークの菓子職人やパン職人によるストライキが発端というのがこちらの説です。職人達がストライキによって給料をよこさないと働かない、と言ったことで困った雇い主たちはウィーンからペイストリー職人達を雇用したと伝えられています。
オーストリアでは遅くとも17世紀には“キプフェル(Kipfel)”と呼ばれる、三日月形をしたブリオッシュ生地に近いペイストリーが食べられていました。デンマークのパン屋さんに雇われた彼らは自国で食べられていたパンの作り方を伝えたのでしょう。彼らが作ったペイストリーはウィーン(オーストリア)式ということで“wienerbrød(ウィーンのパン)”と呼ばれるようになっています。ストライキが終わり再びデンマークの職人たちが働き始めた時、デンマークではオーストリア式のペイストリーが既に人気になっていました。
復帰した職人たちは顧客の要望に応えるために、オーストリア式のペイストリーの作り方を学ぶことになります。デンマークのパン職人は自身の知識と経験を活かし、バターの量を増やしたり、卵を加えるなどしてよりデンマーク人の好みに合うようにアレンジしていきました[2]。既にフランスで発明され普及していたフランスの折りパイの製法も取り入れられたことで、現在のデニッシュ生地の形が出来ていったのでしょう。
発祥説②パン職人がウィーンで覚えた
もう一つ有力視されている発祥説は、1840年頃にデンマークのパン職人がヨーロッパ中で話題となっていたオーストリアのペイストリーを学びにウィーンに行ったというもの。世界的には①の逸話が紹介されていることが多いように感じますが、デンマークの学者達はこちらのウィーンへ学びに行ったという説を支持している方が多いのだそうですよ[3]。
彼はオーストリアから、パン生地に近い、けれどもっと甘くてお菓子っぽい生地の作り方を自国デンマークへと持ち帰ります。そして「wienerbrødhorn(ウィーンの角型パン)」として甘く三日月形のペイストリーを作った[3]と伝えられています。おそらく、こちらも三日月形をしたブリオッシュ生地に近いペイストリー“キプフェル(Kipfel)”の影響を強く受けたものだったのでしょう。①と同様にデンマークで普及していく中でアレンジされ、現在のデニッシュの形が確立していったと考えられます。
デニッシュのルーツについて
デニッシュの直接的なルーツと言えるのは、オーストリアで食べられていた三日月形をしたブリオッシュ生地に近いペイストリー“キプフェル(Kipfel)”であることはほぼ確実でしょう。キプフェルの発祥についても諸説ありますが、早いものでは1529年、最も遅い説でも1686年と伝えられていますから17世紀には既に存在していた可能性が大。
このキプフェルはフランスへも伝わってヴィエノワズリー(Viennoiserie)と呼ばれるようになり、のちに折りパイの製法と合体してクロワッサンが誕生します。同じキプフェルをルーツに持つため、クロワッサンとデニッシュは兄弟もしくは親せきのような関係であると紹介されることもありますよ。
ではオーストリアのキプフェルは何をルーツに持つのか。
この辺りは更に曖昧な推測にもなってきますが、遡ればトルコ(オスマン帝国)で食べられていた“バクラヴァ”という甘いペイストリーであるという方も、古代エジプトで食べられていた“フティール(小麦粉とギーを層状にして焼いたもの)”の原型に行き着くという方もいらっしゃいます。パンやペイストリーのほとんどは、生地の発酵方法を発見したと伝えられる古代エジプトまで遡ると言っても嘘ではないのかもしれませんが…。
1900年代初頭アメリカへ伝わる
デンマークで独自に進化したペーストリーは、1900年代初頭にデンマークからアメリカや他ヨーロッパ地域に移住した人々によって各地に伝えられました[2]。デンマークにキプフェルが伝わりアレンジされたことを知らない人々は、デンマークで食べられているペーストリーと認識してそれをDanish pastryや、デンマークの首都名を付けてCopenhagenerと呼ぶようになっていきました。
デンマークを筆頭としたスカンジナビア半島で食べられていたペイストリーは、アメリカでは単にデニッシュ(Danish)と呼ばれる親しまれるように。アメリカでデニッシュが普及した背景には、1915年から1920年頃にデンマークからアメリカに移住してきたパン職人Lauritz C. Klitteng氏の存在が紹介されます。Klitteng氏は1915年12月、ウッドロウ・ウィルソン大統領の結婚式でデンマーク式のペイストリーを焼き、その後ニューヨークの五番街でデンマーク料理教室を開いていた[4]そうです。
アメリカでデニッシュと呼ばれるようになったペイストリーはアメリカ人の好みに合わせて甘くしたクリームチーズを入れられたり、オリジナルとは生地も変化していきました。デンマークの方にとってデニッシュと同じ意味を持つ“wienerbrød”は様々なタイプのペイストリーを含む総称で、どちらかというとペイストリーという言葉と近い感覚で使われているようです。
参考サイト
[1]In Denmark, Danishes Aren’t Actually Danish
[2]Are Danish Pastries Really from Denmark?
[3]You Call This Danish Pastry?
[4]A New School of Danish Is Taking Root
よく思い出すとあまり似ていないのに「シュ」が重なるためか、デニッシュとブリオッシュが一瞬どちらがどちらか分からなくなってしまったりします。デニッシュとクロワッサンの違いについては色々な方が色々と言っていらっしゃるっていて総合すると「人による」としか言えない状態でした。デニッシュは27層が圧倒的多数でしたが、クロワッサンの生地の重ね方は決まりはないためか人によって違うんですよね…。
調べた英語サイトでは「アメリカのデニッシュはwienerbrødではない」的な記述も多くありました。製法や風味が変わっているだけではなく、デンマークの方にとってwienerbrødという言葉はペイストリーの総称。クリングル(プレッツェル)などもwienerbrødの1種として扱われています。実際にはデニッシュ=wienerbrødと紹介されますが、wienerbrødに含まれる何種類かがデニッシュと呼ばれていると言った方が正しいように思います。
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