チュロスの発祥はスペイン? ポルトガル?
-チェロス起源説や種類も紹介
手軽に食べられるスナックとして、日本でもテーマパークや映画館などで定番になっているチュロス。カリッとした食感が美味しく、手を汚さなくても食べられるというのも便利ですよね。ホットチョコレートにディップして食べるということがTVなどでもよく紹介されていますが、チェロスの発祥地や種類は意外と知らなかったり。そこで今回はチュロスの起源説・チョコレートとセットになった背景、各国で食べられているチェロスの種類を大まかに紹介します。
チュロスについて
チュロスとは
チュロスはスペイン・ポルトガルが起源とされている揚げ菓子の一種。
細長く絞り出された生地を揚げるため“doughnut sticks”とも呼ばれますが、一般的なドーナツはパン・スポンジ系の食感なのに対して、チュロスは生地に空気感が少なく硬めの食感です。日本だともっちり系・ふわふわ系のチュロスもありますが本場のチュロスはバリッというくらいに外側ががっちりしていて、中もみっしりしたパンのような印象がありました。
チェロスは発祥地とされるスペイン・ポルトガルのほか、南アメリカを中心としたイベロアメリカやフィリピンなどスペインとポルトガルの植民地だった歴史のある地域で定番の軽食/スナックの一つ。よく食べられてい地域名を付けて“Spanish doughnuts”や“ Portuguese Doughnuts”もしくは“mexican doughnuts”と表現されることもあります。こうした呼び名は呼称というよりは説明を含んだ表現という感じでチュロやチュロスという呼称が一番定着しているように感じますが…。
スペイン・ポルトガル文化の影響が強い地域で多く見られるチェロスですが、現在はアメリカや日本を含め世界中で親しまれているお菓子。カフェやドーナツショップは勿論のこと、手軽に食べられることからディズニーランドなどのテーマパークや行楽施設でも定番となりつつあります。ちなみに、日本で私達が使っている「チュロス」というのは複数形で、本来は
単数形=churro(チュロ)
複数形=churros(チュロス)
と数によって呼び方が変わります。
日本だと単数複数で言葉を変えることがほとんどないので、言いやすいチェロスという方が定着したような形でしょうか。日本では「チュロス」という呼び方のほうがオーソドックスなど思われるため、当ページでは数に関係なく「チュロス」と表記させていただいています。
必要なものだけを使った、シンプルなチェロスのレシピとしては小麦粉・水・塩・ベーキングパウダーの4成分でバッター液を作り、“Churrera”と呼ばれるチュロスマシンやペストリーバッグ(絞り袋)などを使って揚げ油に絞り入れて揚げるというもの。生地に少しだけ砂糖やシナモンを入れる場合が多く、揚げた後はシナモンシュガーをまぶす・蜂蜜でコーティングする・チョコレートソースでディップするなどバリェーション豊富。スペインではホットチョコレートに浸したものが定番の朝食の一つとも言われています。
チュロスが星型の理由
ところで、チュロスと言えば表面がギザギザした、いわゆる星型に絞り出されていることが多い食べ物ですよね。本場スペインのアンダルシア東部地方など一部地域ではギザギザの隆起を形成しないチュロスも存在しているのでチュロス=星型に絞り出された生地とは言えないものの、見た目にも食感的にもチェロスっぽさを出してくれる大きなポイントと言えます。
チュロス生地を星型に絞り出すようになった地域や考案者については分かっていませんが、この形状はビジュアル的なインパクトではなく加熱調理が上手くいくように採用されたもの。チェロスバッターをそのまま高温の油に入れると生地の内側に含まれている膨張し、爆発してしまう危険性があります。ポップコーンが破裂するのと同じような感じですね。そこで膨張した水分が生地内に閉じ込められないように・均等に熱が行き渡るようにと考案されたのが、星型にして表面積を広くするという方法だったようです。やっていることは違いますが、ドーナッツが輪の形をしているのも同様に生焼け・爆発を防ぐために考案されたと伝えられています。
チュロスの種類
棒状にして揚げる、中にクリーム類を入れる・入れない……など、一口にチュロスと言っても世界には色々な種類があります。大まかには形状からスティック型・カーブ型・渦巻と3タイプに分けることが多いようですが、下記では調理法の違いも加えて5タイプを紹介します。
棒型(スティック型)
日本でチュロスとして目にする機会が多いタイプが、真っ直ぐな棒のような形状のチュロス。食べ進めやすいのでテーマパークやスタジアムで売られているのもこの形が多いのでははいでしょうか。ディズニーランドで購入できるチュロスもスティック型ですね。
U字・涙型
スティック型と並んで多く見かけるのが、チェロスの生地を大きくカーブさせたT字型・始点と終点をくっつけて涙型にしているタイプ。日本でもコンビニのパン・菓子コーナーなどでは結構U字型のものを目にするように感じます。涙型としてはミスタードナッツさんで販売されている「ハニーチュロ」などのチュロスが代表的。
渦巻き
スペイン・アンダルシア地方には日本人からするとちょっと独特な、生地を絞り出しながら蚊取り線香のような渦巻き型にして揚げられるチュロスもあります。この渦巻きチュロスは現地で“calentitos de rueda”と呼ばれているそうで、一般的なチェロスよりも柔らかいマッシュポテトのような食感が特徴。クルクル渦巻きの状態で食べるものではないので、お店で頼むと緩やかな弧を描いたスティック型にカットされて提供されることもあります。スペインのものと同じかは確認できませんでしたが、メキシコやグアテマラなどでも渦巻チェロスは作られているようです。
充填型チェロス
南米では“Filled churros”と呼ばれる、チェロスの真ん中にチョコレートやカスタード・フルーツソースなどが入れらたタイプが多く食べられています。ストローのようにチェロスの真ん中が空洞になっていて、そこに充填物を入れるというタイプですね。この充填が面倒くさいためか英語のレシピサイトを調べていると食パンを薄く潰してクリームなどを巻く=棒状にして揚げる、という“churro rollups”なるレシピも結構あります。
トルコのトゥルンバ
独自の激甘スイーツ文化が注目されているトルコにも“Tulumba(トゥルンバ/トゥルムバ)”と呼ばれる、チュロスの仲間と言えるお菓子があります。形状としてはスティック型もしくはU字型系ではあるのですが、トゥルンバの特徴は形ではなく「ひたすら甘い」こと。小ぶりなサイズでチェロスを揚げた後、砂糖シロップに漬け込む→乾かすというのが製法。好みや販売店の味付けにもよるのでしょうが……歯に染みるくらい甘いです(笑)
その他
チェロスは基本的に小麦粉で生地を作りますが、地域によってはトウモロコシ粉やジャガイモが生地に加えられているバリエーションもあります。形としても一口サイズでスナック感覚で食べられる“Churro Bites(チュロバイツ)”から、厚みのあるリング状にした“Churro Donuts(チュロ・ドーナツ)”まで様々。チュロス=揚げ菓子と紹介されていますが、電気で焼き上げることでチュロスを作れる「Churro Maker」というホットサンドメーカーのような家電品も販売されています。発祥国のスペイン・ポルトガルはさておき、多くの国ではそれっぽい形状と食感ならチェロスにカテゴライズするようになっているとも言えそうです。
チュロス起源説と歴史について
今や世界的に食べられている揚げ菓子の一つと言っても良いチュロス、その発祥はスペインもしくはポルトガルとされています。場所的にも近い位置ですから文化的交流もあり、その中でチュロスが確立していったとも考えられますが、スペイン起源説とポルトガル起源説では全くと行って良いほど「チュロスが作られるようになったエピソード」には違いがあります。
スペイン起源説
スペインでチェロスは羊飼いが食べていた簡易版のパンが起源と伝えられています。羊飼いは放牧のシーズンになると羊と共に野山を移動し、長い期間を野外で生活します。当然近所にはパン屋さんはなく、移動しているため発酵が必要なパンも作るのは難しいでしょう。そこで羊飼いの人々は小麦粉で作った生地を直火で揚げ、パンの代用品として食べる方法を考案しました。この新しい料理は羊飼いから街の人々へも伝わり、より均一に熱を入れられて食感も良くなるように星型に絞り出す方法が考案されました。
羊飼い発祥の料理であること・チュロスがの細長くギザギザした形が羊の角のように見えることから、イベリアで買われていたチュラ種(Spanish Churro)もしくはナバホ・チュロ種にちなんで“churro(チュロ)”と呼ばれるようになったという語源説もありますよ。羊飼いたちがチュロスの原型と言える揚げパンを食べていた・それがチュロスと呼ばれるようになった時期については分かりません。ただ17世紀の文献には「churrero(チュロス職人)がチュロの値上げを申請した」という記録があるらしく、17世紀初頭までにはスペインで定着していたと推測されています。
ポルトガル起源説
ポルドガルでチュロスは16世紀初頭に中国(明)に行ったポルトガルの船乗りが、中国で時に口にした油条にヒントを得て作ったものとされています。油状というのは英語で“Chinese fried churro”や“Chinese doughnut”とも称される、中国から東南アジア地域で食べられている揚げパンのようなものの事。国によっても食べ方は異なりますが、揚げパン・ドーナツのようにそのまま食べるのではなく、お粥や豆腐花などとセットで食べられることが多い存在です。中国やベトナムのお粥に入れる、パリパリの油揚げのようなもの=油条です。
その油条の存在を知ったポルトガルの船乗りは自国でこの料理を再現し、塩味ではなく砂糖味の甘いお菓子としてアレンジしたというのがポルトガル起源説。また、油条は生地を手で引き伸ばして揚油に入れることが特徴ですが、チュロスは柔らかめのバッターを絞り出して油に入れます。表面積を大きくするために星型に絞り出す方法についてはポルトガルで考案されたという説、ポルトガルで出来た原型が伝わったスペインで発明されたという説があります。
チュロの仲間Farturas
チュロス発祥地ともされるポルトガルには“ファルトゥーラス(Farturas)”と呼ばれるチェロスの仲間のようなペイストリーも存在しています。ファルトゥーラスは「ファンネルケーキとチュロスの間の子のようなもの」と紹介される、細長い生地を渦巻き状に巻いて揚げたもの。ちなみに、近年は日本でも“新感覚スイーツ”として注目されているファンネルケーキは、甘みの少ない生地を熱した油の中に細く絞り出しながら円形にしていくという食べ物です。
ファルトゥーラスはファンネルケーキのように一枚の生地になるようにバッターを重ねず、渦巻型のチュロスのように感覚を開けて生地を絞り出す=食べる時には少しカーブしたスティックチュロスのような形に切り分けられることが特徴と言えます。調べた限り、渦巻チュロスとの大きな違いは絞り機が型ではない=油条に似たちょっと歪な円筒状になること・生地(バッター)に卵が入ることのようです。
新大陸への伝播とチョコレートの追加
チェロス発祥については上記でご紹介したようにスペイン・ポルトガルそれぞれにエピソードがあり「ポルトガルが中国から持ち帰ったものをスペイン(スペインの羊飼い)が取り入れた」などの両方のエピソードが取り入れられている説もあります。中国起源→ボルトガル発祥→スペインで現在の形が確立したとすると、全ての話が繋がりますよね。
おそらくポルトガル・スペインでチェロスが作られるようになったであろう16世紀頃。1500年代から~1600年代というのはコロンブスの航海によって新大陸の存在が知られ、アメリカ大陸産の動植物が導入されたり、ヨーロッパ人による植民地化が進められていた時代でもあります。そうした中でチュロスの製法はアメリカ大陸にも伝わり、同時にアメリカ大陸からは1520年代にカカオ豆がスペインに持ち帰られました。実はヨーロッパで最も早くカカオを導入した国も、カカオ豆に砂糖を加えたのもスペインとされています。チョコレート(カカオ)はスペインからイタリア・フランスほかヨーロッパの国々に広まっていったという経緯があるんです。
話を戻しますと…紀元前からメソアメリカでカカオ豆を使用した飲み物が存在していましたが、それは砂糖抜きの苦いドリンク。スペインへ伝わった最初の“チョコレート”も現地で飲まれていたものと同じく苦味の強いものでした。美味しかったかは分かりませんが、当時南アメリカでしか採ることの出来なかったカカオ豆は間違いなく高級品でした。16世紀初頭にスペイン国王チャールズ5世が宮廷でもカカオドリンクを取り入れたことでスペインの上流階級で人気となり、17世紀までには砂糖を大量に加えて甘くした“ホットチョコレート”が飲まれるようになります。
当時まだ砂糖もヨーロッパでは贅沢品。カカオと砂糖を使った甘い“ホットチョコレート”は上流階級の間で大ブームとなり、時代とともに庶民へも広がっていきます。18世紀後半になると産業革命の影響もあってチョコレートの工業生産が始まり、19世紀の間には一般市民も“ホットチョコレート”を楽しんだりペイストリーの味付けに使用するようになっていきました。誰が思い立ったのかは解明されていませんが、19世紀から20世紀初頭にスペインでチェロスとチョコレートソースのセット“chocolate con churros”が販売されるようになっていたようです。
スペインは砂糖先進国?!
サトウキビは南アジアが原産の植物。交易品として使われたこともありヨーロッパでも古くから砂糖は知らていましたが、貴重で高価・かつ薬効があると考えられたことから古代から中世までは医療目的での使用が主でした。9世紀にシチリア島がアラブ勢力下に置かれた時にサトウキビの栽培が始まり、そこから温暖なキプロス島・クレタ島・イベリア半島へとサトウキビ栽培は広がっていきます。10世紀頃のイベリア半島南部はヨーロッパを代用する砂糖の産地として栄えたほど。
12世紀頃から十字軍遠征・交易などで他の地域でも砂糖が手に入れやすくはなっていくものの、砂糖が大量に手に入るようになるのは16~17世紀に南米やカリブ海の島々などでプランテーション農園が設立されてからのこと。庶民でも気軽に使えるほど値下がりするのは18世紀以降です。イベリア半島でもとんでもなく安価で砂糖が手に入ったというわけではないのでしょうが、スペインの国王や貴族は他ヨーロッパの国々よりも砂糖を使用しやすい立場であったと考えられます。カカオに砂糖を入れて甘いチョコレートドリンクを作ろうと考えたのも、当時のスペインならではの発想だったのかもしれません。
現在のチュロス事情
私のような日本人からすると一括りに「チュロス」と言ってしまいそうですが、マドリードやアンダルシア地方辺りで食べられている“porra(ポラ)”というチュロスの仲間があります。ポラはチュロスよりも生地が太くて柔らかいタイプ=ポルトガルのファルトゥーラスに近い食べ物で、チュロスと同じくホットチョコレートでディップしたものが朝食・軽食として食べられているそう。アンダルシアで“calentitos de rueda”や、“tejeringo”もしくは“tallos”と呼ばれ食べられているものも表面に凹凸がなく柔らかめの生地、お店によっては渦巻き型に揚げられることもあるようです。このことから「アンダルシア人は滑らかな表面を好む」「砂糖をかけるのを嫌がる」なんて紹介も。
チュロス類もスペイン国内でも地域差がありますし、スペインおよびポルトガルによって伝えられた国々でもそれぞれに独自のレシピが考案されています。チョコやキャラメル・フルーツソースが入ったお菓子系のレシピもあれば、ウルグアイではチーズを入れた食事系チェロスもあるそう。中南米やフィリピンでは露天で売られているスナックの代表格でもありますから、今後も他店との差別化のために斬新なチェロスが誕生する可能性が高そうですね。糖質と油の多さによって健康志向の方に避けられがちなこともあってか“グルテンフリー”や“ロカボ(低炭水化物)”を売りにしたチェロスも続々登場しているようですし。
参考サイト:The History of the Churro/History of Churros/Easy to Make Portuguese Doughnuts (Farturas)/History of chocolate in Spain – Wikipedia
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