入梅(にゅうばい)とは?
-梅雨入りとの違い・語源や豆知識も紹介
購入するカレンダーによって記載されている“入梅”という文字。お手紙の冒頭に書く挨拶文というやつが苦手で例文集を見たりするのですが、そこでも「入梅の頃」や「入梅を控えて」という言葉が多く登場します。季節と字面から梅雨の関係だろうなとは思うものの、梅雨入り時期とは微妙に違う違和感。気にしはじめると、そもそも「梅雨」って何で梅の雨で“つゆ”って読むんだろうかとか…気になりませんか?そんなわけで入梅という言葉や、梅雨にまつわる雑学などを色々と。
目次
入梅と梅雨入りの関係とは
入梅とは
入梅は雑節の一つで、簡単に言えば「梅雨に入る」日を指す言葉。入梅と書いて“にゅうばい”と読むだけではなく“つゆいり”と読むこともあります。ただし関東の一部地域では入梅を梅雨入りすることを指す言葉としてではなく、入梅=梅雨として使う地域もあるようです。
しかし気象庁によって行なわれている現在の梅雨入り発表は、地域によって日にちが変わっていますよね。梅雨は北上する梅雨前線が停滞している時期を指しますから、沖縄と東北ではかなり梅雨入りの日に差があるのはご存知の通り。このため入梅は実際の梅雨入りではなく「暦の上での梅雨入り」という表現をします。
実際は地域によって違うのに、暦の上で「この日が入梅ね」と決まっている。今の私達からすれば大雑把にも感じますが、入梅という日が作られた当初は、衛星も気象ニュースも無かった時代。しかし当時の人々、特に農家にとっては田植えや種蒔きをするタイミングを図るため梅雨の時期を見定めることが大切だったのは同じです。このため雑節の一つとして、梅雨入りの目安となる入梅という日が設定されました。
これに補足すると、当時の日本というのは太陰暦(旧暦)を使用していたということもあります。江戸時代にはある程度改善はされていたようですが、太陰暦というのは月の動きがベースのため、これで12ヶ月(一年)を計測すると地球の公転周期とはズレが生じてしまいます。数年経つと同じ6月1日でも季節感が違うという事態になってしまう=仕事や生活の目安としては暦が当てにならない、ということですね。
このため古代中国では季節の移り変りをより適確に掴む暦の補強として、太陽の位置を元にした“二十四節気”が作られました。冬至や夏至、秋分春分などがこちらですね。しかし二十四節気は中国(中原)の気候を元にして作られたものなので、日本で体感する気候とは季節感が合わない部分もあります。自分達の暮らしにより合うものを、特に農作業を行うための目安となるものが欲しい…というわけで二十四節気にプラスして設けられたのが入梅や八十八夜などの“雑節”であると考えられています。
入梅はいつ?
肝心の入梅とされる日にちですが、こちらは現在“太陽黄経が80度の時または80度になる瞬間を含んだ日”という定義になっています。芒種から5日目にあたる日とも言われますが、これも黄道座標が80度になる日に該当するので同じ日を指しています。これは明治に入って旧暦から新暦(グレゴリオ暦)へと切り替わるまで使われていた、日本最後の旧暦(太陰太陽暦)の天保暦による入梅の定義が引き継がれています。
ちなみに、それ以前には入梅の日をいつにするかが別でした。中国の文献も含めると“入梅”の日は一致せず、入梅という日が記載されるようになった享保暦になってやっと“芒種後の最初の壬の日”という定義が一般化したとも言われています。この芒種(ぼうしゅ)というのは二十四節気の一つで、壬(みずのえ)というのは十干の九番目。このため暦に載るようになった当初は「芒種の日が壬の日だったらどうするか」とモメたようですが、後には芒種の日=壬の日の場合は、その当日を入梅とするということで落ち着きました。
しかし享保暦方式は、太陽黄経を元にしている二十四節句の後に十干を加えたもの。「芒種の日が壬の日だったらどうするか」という混乱からも分かるように、年度によって現在の日にち(太陽の位置)とはズレてしまいます。この問題を解決するために天保暦では“太陽黄経が80度(芒種から5日目)”と太陽の高さのみを考慮したものに決め直し、現在に至っています。年によって多少違う場合もありますが、入梅は6月11日頃となっています。
実は出梅もある
梅雨に入ることを入梅というのに対し、梅雨明けを指す言葉として「出梅」というものもあります。
こちらも文字通り“しゅつばい”と呼ぶほか、この文字で“つゆあけ”と読ませるケースもあるそう。あるそう、と曖昧な書き方をしているのは、この出梅という言葉がほとんど使われることがないため。一応は出梅も雑節に含まれて入るのですが、二十四節気や雑節が記載されているカレンダーであっても、入梅は記載されているが出梅は載っていないということが多いのではないでしょうか。
また入梅は“太陽黄経が80度の時または80度になる瞬間を含んだ日”と定義されていますが、出梅の定義はないようです。昔の暦の上では“小暑後の最初の壬の日”とされていましたが、現在では太陽黄経のような明確な基準がないため載せにくい・使いにくいということもあったのかもしれません。これから始まるものは気にしますが、終わりはそこまで気にしませんし、体感で十分ということもありますけれど。
壬の日とされていた理由
享保暦方式で入梅の日は“芒種後の最初の壬の日”とされていました。二十四節句の芒種を基準にするならば、現在のように芒種から5日目と普通にカウントしても良かったはずなのに、何故、壬の日に限定されたのか。これは昔の人の経験則ではなく、中国の陰陽五行説と呼ばれる思想において壬が“水性の陽”に割り当てられていたためだと考えられます。日本では水の兄(みずのえ)とも書かれますね。
梅雨は雨が降り続く期間なので、水の性質のある壬の日が選ばれたと考えられています。昔の暦というのは日にちを確認するためのものだけではなく、占い・宗教的な面でも大切にされた存在。日本では縁起や言葉の一致なども大切にしていましたから、入梅・出梅共に“壬の日”とするのが相応しいと考えたのではないでしょうか。ちなみに近年は暦で十干は重視されていませんが、占いでは“壬”は水の性質を持つものとして結構登場します。
梅雨入りとは
現代の私達にとって実際に梅雨に入ったと感じるのは、暦の上で示される入梅ではなく、気象庁の発表する「梅雨入り」という言葉を聞いた時ではないでしょうか。この時期雨が続くのは本州の上で冷たく湿ったオホーツク海気団(オホーツク海高気圧)と暖かく湿った小笠原気団(太平洋高気圧)がぶつかり、同じくらいの力で押し合うことで停滞するため。この気圧団がぶつかり合っているあたりが、天気図に出てくる梅雨前線ですね。暖かい空気は上へと向って涼しい空気の上に乗り上げる形になるので、冷やされた水が雲や雨となることで曇天と雨が続きます。
昔の人は経験によって梅雨入りを決めていましたが、現在は観測方法・伝達手段が格段に進歩していますから、私達は気象情報として梅雨入りが近いか、梅雨入りしたのかを知ることが出来ますね。と言っても現在でも梅雨入り・梅雨明けの判断は非常に難しく、一応の定義はあっても外れてしまうこともあります。このため、かつては「梅雨入り宣言」がなされていましたが、現在は宣言ではなく「梅雨入りした模様です(梅雨入りしたとみられます)」のような曖昧な表現で発表されていまね。
梅雨明け宣言をしていたころは外すとクレームが殺到するということもあり、気象庁が梅雨入り梅雨明けを宣言をしてくれない年もありました。教えてくれないと困るという声もあり、現在は曖昧な表現に落ち着いているのだそう。そうした事を考えると、昔の「暦として決めた入梅が目安」で、あとは自己責任+地元のお年寄りなどの経験と勘に頼るという方式も悪くはなかったのかなと思いますね。
梅雨の語源・梅との関係について
梅雨の語源は諸説ある
梅雨はじっとりと雨が降り続く、中国から日本にかけての地域にとっての雨季であるとも言えます。沖縄はちょっと早いですが、全国的に見ると5月末もしくは6月から始まる、この雨の期間のことを「梅」の雨と書いて梅雨(つゆ)と呼ぶのはなぜかと疑問に思いませんか?
梅雨という表記は中国にもあり、言葉自体は中国で生まれたと言われています。しかし中国でなぜ弱い雨が降り続く時期を梅雨と呼ぶようになったかは断定されていません。梅雨の語源として有力視されているものは2つあり、一つ目は文字通りに“梅の実が熟す頃の雨季”というもの。
もう一つは“黴(カビ)が生えやすい雨”もしくは“雨で湿度が高く黴(カビ)が生えやすい時期”という意味の「黴雨」が元とする説です。後に黴雨という表現はよろしくないということで、季節的に合っていて同じ音・字面的にも美しい梅に置き換えられたと考えられています。そのほか毎日降る雨の「毎」を同じ音の梅に置き換えたという説などもありますが、どの説にせよ梅の時期であるという要素があるのは同じですね。
この中国で成立した梅雨という呼び方は、江戸時代頃に日本にも伝わります。日本では中国から伝わってきた梅雨という文字を“つゆ”と読むようになりますが、なぜそんな読み仮名になったのかも諸説あり断定されていません。湿っぽく雨が多いから露(つゆ)とかけた、梅の実が熟す時期だから潰ゆとかけた、物がカビて駄目になってしまう費ゆ、などの説があります。
「梅雨」と呼ばれるのは江戸時代から
入梅という表現もありますし、馴染み深い言葉でもあるので古くから使っているように感じますが、上記でもご紹介したように梅雨という言葉が日本に伝わったのは江戸時代。それまでは何と呼んでいたのかというと、五月雨(さみだれ)もしくは麦雨(ばくう)。
現在は五月雨と書いていますが、古くサは五(5月)・ミダレは水垂れであったのだそうです。この5月というのは旧暦なので、現在では6月頃に当たります。五月雨というのは5月に降る春の雨ではなく、梅雨のことを指す言葉というわけですね。五月晴れという言葉も、最近はゴールデンウィークの好天気などに使われていますが、元々は梅雨の間にのぞく晴れ間を指す言葉でした。
梅雨に関わる豆知識
梅雨期間以外の“梅雨”が付く天候
梅雨は日本人にとっては、生活的にも気分的にも気になるシーズン。毎年のことでもありますので、梅雨を表現する言葉もあります。ニュースや天気予報などでも、晴れと雨がハッキリ分かれる陽性梅雨(男梅雨)・曇りが多くシトシト雨が振る陰性梅雨(女梅雨)、雨がほとんど降らない空梅雨などの表現は耳にしますよね。しかし梅雨の性質を表す表現以外に、梅雨のようだという意味合いで使われている言葉もあります。
菜種梅雨(なたねづゆ)
5月末から6月中旬の長雨を梅の時期とかけて梅雨と呼ぶのに対し、3月中旬から4月上旬に雨が続くことを菜種梅雨と言います。菜種とは言っていますが、菜種の収穫時期ではなく、菜の花が咲く頃にかけています。ムワッとした暑さと湿度がある梅雨に対して、菜種梅雨は寒いことが特徴。菜種に梅の雨とは、何ともややこしいネーミング。そう思った人が多かったのかは分かりませんが、文学的表現以外には春雨もしくは“春の長雨”と言うことのほうが多いような気がします。春霖(しゅんりん)とも言います。
走り梅雨
本格的な梅雨入りをする前に、天気がグズついて梅雨のような状態になることを指します。沖縄・奄美エリアに梅雨前線が到達すると、その影響で本州(南岸)にも前線が停滞することで起こると言われています。通常は数日間悪天候が続いた後に一旦晴れ、その後に梅雨入りとなりますが、回復せず走り梅雨かと思っていたら本格的な梅雨入りをする場合もあります。迎え梅雨や梅雨の走りと呼ばれることもあります。
残り梅雨/戻り梅雨
残り梅雨は梅雨が開けたと言われていても、梅雨が続いているように天気がパッとしないことを指します。戻り梅雨というのは梅雨が開けてからしばらくはカラッとした晴天が続いた後、再び天気がグズつくこと。返り梅雨・戻り梅雨と呼ばれることもあります。走り梅雨という言葉は今でも使われることがありますが、この2つはあまり使われないようです。
北海道に梅雨はない
日本の季節の移り変わりを語るに外せない梅雨ですが、北海道には梅雨がないとされています。気象庁が発表する梅雨入り・梅雨明けリストにも北海道は記載されていませんね。そのほか小笠原諸島にも梅雨は無いと言われていますが、こちらは東京都に含まれているので、都道府県としては唯一梅雨のない地域としても有名です。
北海道に梅雨がない理由としては、梅雨前線が北海道まで北上する前に無くなっている・ぶつかり合いが弱まり停滞しないため。ぶつかり押し合いながら北上していくうちに、どちらの気団も勢力が衰えてしまうということですね。このため一時的に曇ったり雨が振ることはあるものの、本州以南のように長々と悪天候が続くことはないとされています。
蝦夷梅雨・リラ冷え
梅雨がないと言われる北海道ですが「蝦夷梅雨」と呼ばれる、梅雨のような状態が訪れることもあります。かつて蝦夷梅雨はホーツク海高気圧の影響によって湿度が高くなり、曇りもしくは雨という天気が続くこととサれていました。オホーツク海高気圧は冷たい空気を伴うので、この時期には「リラ冷え」と呼ばれる気温の低下もおこります。リラ冷えは「寒の戻り」もしくは他県の方の言うところの花冷えと同じようなもの。蝦夷梅雨やリラ冷えは5月下旬頃に起こるものなので、梅雨前線と言うよりもオホーツク海高気圧の影響と言えますね。
しかし近年は北海道でも、東北から北海道周辺に梅雨前線が停滞している影響で気温と湿度が上昇することが増えています。蝦夷梅雨と呼ばれていたものとは違い、生暖かくてジメジメしているのが特徴。かつてこうした現象は稀だったので「北海道に梅雨はない」という事にされていたようですが、個人的な体感を含めると最近は梅雨に似た状態になることが多いように感じます。地元のお年よりも「昔はこんなに蒸さなかった(ジメジメしていなかった)」と仰る方が多数なので、北海道にも梅雨が出来たと道民は言っていたりします。
ちなみにリラというのはフランス語呼びしたライラックのことで、ライラックが咲く頃に冷えるからリラ冷えと言われます。こう書くと北海道民はライラックをリラと呼ぶ人が多いように思われますが、植物として呼ぶ場合はライラックと言う人の方が多かったりします。
参考サイト:入梅|日本文化いろは事典/梅雨と梅の関係/出梅の日付
北海道出身ですと言うと「梅雨とゴキブリがない」ってことで羨ましがられます。上京当初は空梅雨気味だったこともあり、雪降るけどね、しばれる(※すごく冷え込むという意味の北海道弁)けどね……と思っていたんですが本気のジメジメ梅雨を体験してからは納得しました。梅雨前線に伴う大雨被害などもありますし、空梅雨は空梅雨で渇水の恐れがある、と本当に日本人にとっては大変かつ大切なシーズンなんですよね。
北海道も梅雨のような状態に陥ることが多いですし、梅雨に関わる災害が報道される頻度も増えているような気がします。梅雨とは関係ないですが、東京のゲリラ豪雨もすごいですしね。環境破壊とか地球温暖化の影響もあるんじゃないかと邪推したり。梅雨というと鬱々としたシーズンのイメージもありますが、うっすら濡れた紫陽花とか綺麗なものもあると思います。「四季が美しい国」として名高い日本の風景を残せるのか、単に災害の多い国になってしまうのか…なんてことを書きながら考えてしまいました。
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