クリスマスの代表的な食べ物・お菓子とは
-七面鳥やクリスマスプディングの歴史も

クリスマスの代表的な食べ物・お菓子とは<br />-七面鳥やクリスマスプディングの歴史も

クリスマスには様々な伝統がありますが、忘れちゃいけないのが食事。日本でもクリスマスはご馳走を用意するご家庭が多いですし、お祝いの歴史が長いクリスチャン地域では更に様々な伝統があります。日本ではあまり知られていないメニューも沢山ですし、シュトレンやガレット・デ・ロワなど実はクリスマスには食べないものもありますよ。ちょっとした雑学としてはもちろん、マンネリ化したクリスマスメニューのアイディアに繋がる……かも。

クリスマスディナーと代表的な食事

クリスマスディナーとは

クリスマスディナーは、その名の通りクリスマスの日に食べられる伝統食もしくは特別なご馳走のこと。
学校ではdinnerは「夕食」であると教えられた覚えがありますが、正しくは「一日のメインの食事」を指す言葉として使われています。なので12月24日の夕方であるクリスマスイブから25日の日没までの期間に食べるメインの食事=24日の夕食が多数派という感じでしょうか。宗派や個人の考え方によっては25日の夜に食べるという方、24日の夕食と25日の昼食両方に伝統があり全力投球という場合もあるようですが。

各国でクリスマスディナーに特別な食事が用意されるのは、クリスマスが祝日・行事日として定着しているのはもちろんのこと、キリスト教圏では1月6日の公現祭まで続くクリスマスシーズン(クリスマスタイド)の幕開けでもあるからなのだそう。また、クリスマスの意味でも紹介したように聖書には明記されていないイエス・キリストの誕生日もしくは降誕を記念して礼拝を行う日を12月25日と設定した理由としてキリスト教以前の風習・信仰の関係が指摘されています。キリスト教が広まるよりもずっと前からヨーロッパの人々は「弱まった太陽が力を取り戻す日」として冬至を特別視し、12月25日頃にユールなどの冬至祭を行っていました。

この冬至祭でもご馳走が振る舞われていた、秋に収穫した食材や冬を越すために屠殺した家畜の肉などを食べる収穫祭的な意味合いもあったと推測されています。古くは冬至祭を意味していたユールという言葉がクリスマスを指すものへと変化した経緯のある北欧では、ルーツがキリスト教化以前の時代のユールと考えられる伝統が多く残っています。スウェーデンやイギリスで食べられているクリスマスハムも、ゲルマン民族の風習が起源であると推測されていますよ。ヨーロッパなどでは古代から冬至に特別な料理を食べる風習があり、キリスト教の中でもお祝いシーズンの始まりとしてそれが受け継がれていると言えるのかもしれません。

クリスマスの意味・起源はこちら>>

クリスマスのご馳走は多種多様

多くの国でクリスマスのお祝いとして伝統食や特別なメニューが用意されていますが、その内容は国によって様々。中世までにヨーロッパを席巻したカトリック教会も家庭内で食べるものまでは細かく指導しませんでした。そもそもクリスマスの日程自体が異教の祭り=冬至祭を上塗りするために選ばれたなんて疑惑もあるくらいですから、クリスマスと決められる前から各地域で食べられてきたものもあるのでしょう。同じ国でも地域や宗派によって異なる部分もあるようですし、各家庭でも違いがあります。ワールドワイドな宗教ですから、日本のおせち料理以上にバリエーションも豊富なんですね。

そのため下記では日本でも知名度がある代表的な料理・個人的に固定的だなと感じたものをピックアップしています。なお、本来は食事の締めとなるデザートも含めてのクリスマスディナーではありますが、下記では食事として食べられるもの・デザートもしくは菓子として食べられるものと分けてご紹介させていただきます。

肉料理

クリスマスのメインディッシュはお肉、というイメージがある方も多いのではないでしょうか。ポーランドを始めとした中央ヨーロッパと北ヨーロッパのいくつかの地域では、断食ルールの関係から肉・卵・牛乳を使わないで作った“12皿の料理”がクリスマスイブの伝統食となっているため、ニシンなどの魚料理がメインディッシュとして用意されていることもあります。しかし現在、世界的に見れば肉料理が提供されている国の方が多いようです。お肉については日本でもお馴染みの鶏肉から、七面鳥・牛肉・豚肉、さらにはアヒルやガチョウまで様々。お国柄が出るという感じでしょうか。

イギリスやかつてイギリスの支配下にあった国では七面鳥を食べることは日本でも報じられていますよね。日本でフライドチキンもしくはローストチキンと“鶏肉”がクリスマスの定番となっているのも、日本で七面鳥を手に入れられなかった外国人がケンタッキーフライドチキン(KFC)を使ったのがきっかけと言われています。これをヒントに1970年代にはケンタッキーさんが“クリスマスはケンタッキーを食べよう”と広告を打ち、これが大ヒットして定着したわけです。ちなみに、英語版のwikipediaにはクリスマスの食事に特化したChristmas dinnerというページがあり、その中で“日本など長いキリスト教文化がない国においては、クリスマスの食事は大衆文化の影響をより強く受けるようだ”という紹介がなされています。KFCで食事をすることが国の習慣とまで書かれていますから、海外の方からすると奇特に見えるのかもしれませんね。

また、アメリカではローストビーフも人気があるクリスマスメニュー。日本でもチキンではなくローストビーフを用意する・両方入ったオードブルにする方も珍しくありませんね。家庭によってはミートローフが登場することも。イギリスやオーストラリア・スウェーデンなどの国ではクリスマスハムと呼ばれるハムを塊をどーんと用意する家庭も多いそう。そのほかノルウェーではピンネショット(PINNEKJØTT)というラムのリブ肉が、ギリシアでは豚肉料理を食べるのが伝統的だそう。イタリア・イタリア系アメリカ人の方はクリスマスイブの食事では、シーフードをたくさん使った料理を食べる方が多いよう。こちらも前夜に肉を食べることを控えるというローマカトリックの伝統が由来とされています。

なぜ七面鳥(ターキー)を食べるのか?

イギリスやアメリカ・カナダでクリスマスディナーを代表する料理の一つとして七面鳥が親しまれています。北米ではクリスマス以外に感謝祭の代表的なメニューでもありますね。遠く離れた日本でも「アメリカではクリスマスに七面鳥」というイメージがあるくらいですが、実は七面鳥は北米大陸が原産。ヨーロッパに持ち込まれたのは15世紀頃からで、それ以前は存在さえも知らない鳥だったんです。そのため中世までのヨーロッパではクリスマスと言えばガチョウ料理が定番でした。

七面鳥がアメリカ大陸から持ち込まれると、ヨーロッパではエキゾチックで大きな鶏肉としてこれを好んだそう。自分たちの土地にはいない珍しい鳥ですし、輸送コストも掛かっていることから七面鳥=一部の上流階級の方しか口にできない特別な肉として扱われました。“英国でクリスマスの食事に七面鳥を食べた最初の人物”と言われているのも、16世紀にイングランド王だったヘンリー8世ですしね。王家も取り入れた関係もあって17世紀にはイギリス国内の富裕層の間でクリスマスに七面鳥を食べることが定着しましたが、その値段は高くビクトリア朝時代まで労働階級はクリスマスにガチョウを食べていたようです。

そんなイギリスでは上流階級の食べ物だった七面鳥、しかしアメリカに移住した人々にとっては事情が違いました。北米には野生の七面鳥がウロウロしています。しかも移住時に連れていけた家畜はわずかだったので、牛は乳牛や労働力として、雌鳥は卵を産ませるために潰したくないという状況。でもクリスマスのごちそうにするには雄鶏の肉は硬くて嫌だし、豚肉は普段から食べているし……と言うことで、野生の七面鳥を狩猟・飼育して肉料理(メインディッシュ)に使用したと伝えられています。こうした経緯があることから20世紀頃までのアメリカではイギリスとは真逆で、クリスマスに七面鳥を食うのは貧乏人、というイメージさえあったそう。裕福な家庭では牛肉を食べていたそうです。

野菜類

各地域で様々な肉・魚が食べられているように、クリスマスディナーの前菜・副菜類も多種多様。宗教的な関係から肉類は控えるという地域もありますが野菜には規制がなく、伝統+家族の好みによって家庭内での定番が決まってくる部分もあるでしょう。個人的に欧米のクリスマスで特徴的だなと感じたことはジャガイモの使用率が高いこと。ローストポテト・マッシュポテトなどの違いはありますが、ジャガイモ料理が添え物的に使われている国は結構多いようです。

ジャガイモもアメリカ大陸産野菜なので大昔から食べてきたという訳ではないはず、と調べてみると、ジャガイモはヨーロッパで貧しい人々のための食材として飢饉から人々を救ってきた歴史があります。日持ちのするジャガイモは冬真っ盛りのクリスマスの食卓にも取り入れやすかったのでしょう。また、中世から近世にかけては病気や天候などに問題があると特権階級・一部の富裕層以外の方は餓死にまで追い込まれるような時代です。毎年クリスマスのご馳走だって揃えられたかは怪しいので、やむを得ずな部分もあったかもしれません。19世紀にイギリスでヴィクトリア女王がクリスマスメニューとしてマッシュポテトを取り入れたことで、階級を問わずに普及することになったという見解もあります。

クリスマス料理のイメージ

また、イギリスやアメリカでは伝統的なクリスマス料理の中で“芽キャベツ”もよく使われています。七面鳥の横に添えたり、芽キャベツと栗をバターソテーにしたりして食べられています。クリスマスに使われるようになったのヨーロッパ北部の気候が栽培に適しており冬が旬なこと・栄養豊富だからだそう。普及するようになったきっかけは栽培が活発化した20世紀にマーケティングキャンペーンが行われたからという声もあり、クリスマスの定番と化している理由ははっきりしません。ちなみにこの芽キャベツは嫌いだという人も多く、食べなきゃだめと言われて泣いちゃう子もいます。

キャセロールも人気

欧米ではキャセロール(casserole)と呼ばれる料理もクリスマスの定番として親しまれています。キャセロールは北米が発祥とされる料理で、耐熱容器に肉・野菜・パスタなどを入れ、スープを加えてオーブンで焼いたもの。グラタンの仲間のような感じです。キャセロールの発祥地であるアメリカではインゲン豆とクリームソースを焼いた“グリーンビーン・キャセロール”がクリスマスや感謝祭の定番料理の一つでもあり、懐かしいおふくろの味でもあるのだとか。

飲み物・お酒

ヨーロッパでクリスマスの定番として親しまれているのがグリューワイン、日本で言うホットワインです。ワインを温めるだけではなく、シナモンやクローブなどの香辛料、お砂糖などが加えられています。ノンアルコールバージョンもあれば、ウォッカなどの蒸留酒を加えてアルコール度数を上げる方もいらっしゃると、誰でも飲めるのも魅力です。ビール大国という印象のあるドイツでもグリューワインは冬の定番で、クリスマスマーケットでは多くの屋台が出るんだとか。

また、北米ではクリスマスを筆頭とした冬場のお祭り・お祝い事がある日の伝統的メニューとしてエッグノッグが飲まれています。基本的なエッグノックは牛乳・卵・砂糖を混ぜて作ったミルクセーキのようなもの。お祝いメニューとして出される際にはラム酒やブランデーなどのアルコール、ナツメグやシナモンを入れたものが好まれているようです。

そのほかベルギーなどではクリスマスからお正月にかけて飲むために特別に造られた“クリスマスビール”が愛されていたり、イギリスでは“クリスマスパンチ”という柑橘類やシナモンなどの香辛料を使った飲料が親しまれています。クリスマスパンチは赤ワインなどを使わない、フルーツジュース+果物+香辛料というタイプもあります。ホットワインもぶどうジュースに置き換え可能ですから、クリスマスビール以外はお子さんも皆で楽しめそうですね。

代表的なクリスマスのスイーツは?

クリスマスプディング

イギリスやアイルランド・オーストラリアでは伝統的なクリスマス菓子としてクリスマスプディング(Christmas pudding)が親しまれています。英国風クリスマスの食事には欠かせない存在なんて声もありますし、チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』でもクリスマス食事会のシーンで登場しています。アメリカやカナダでも結構食べる方がいらっしゃるそう。ちなみに、クリスマスプディングはプリンとは別物で、結構重ための焼き菓子という感じ。生地にはドライフルーツ・果物の皮を砂糖漬けにしたもの・ナッツ・スパイス類・ラムなどのお酒が練り込まれていています。大人の味とでも言う感じでしょうか。

伝統的なクリスマスプディングは小麦粉ではなく“小麦粉とパン粉”が主原料。そこに牛脂もしくはバター、砂糖・卵・牛乳・ブランデー・ラム・ドライフルーツなどを混ぜ込み、型に流し込んで4~5時間くらい蒸します。ちなみに、クリスマスプディングはプラムプディング(plum pudding)とも呼ばれていますが、プラムを入れられることはほどんどありません。呼び名はビクトリア朝以前にはレーズンなどのドライフルーツを総称して“plum”と呼んでいた名残りとされていますから、ドライフルーツのプディングという意味なんですね。

クリスマスプディングは蒸してすぐ食べるのではなく、熟成させる食べ物。このため伝統的にアドベント期間に突入する直前の日曜日に作る方が多いそうです。アドベントはクリスマスよりも4回前の日曜日から開始されますから、一ヶ月以上も前に仕込むわけですね。熟成期間が長いほど美味しいと言われているので、フライングしてもっと早くから作る方がいるという噂もありますが…。そして熟成されたクリスマスプディングは、クリスマスになるともう一度蒸し直しされ、ブランデーをかけてフランベして食べるのが定番となっています。

現代では出来合いのものを買う方などもいて変わりつつあるようですが、イギリスでクリスマスプディングは家族みんなで作るのが伝統だそうです。家族全員が自宅のキッチンに集まり、代わる代わる心のなかで願い事を唱えながら時計回り(東から西)に生地を混ぜます。ちょっとした儀式のようですね。この風習からアドベント期間前で最後の日曜は“Stir-up Sunday(かき混ぜる日曜日)”とも呼ばれています。家庭によっては指輪やコイン・ウィッシュボーンなどを生地に入れ、食べる時に出てきたものを見て占いをすることもあるそう。キリスト教以前からの宗教・民間伝承の影響を受けているようにも感じられます。

クリスマスプディングのイメージ

クリスマスプディングの歴史

クリスマスプディングの起源は小麦をお粥のように煮たポリッジとされています。中世頃になるとおワインや砂糖・肉・ドライフルーツなど当時は貴重だった食材を入れることで、特別な日のお祝いメニューにアレンジしていたと考えられています。現在のクリスマスプディングはお菓子ですが、原型はクリスマスポタージュと呼ばれていたそうです。15世紀頃のレシピでは肉が入ったポタージュのようなものと書かれているそうで、食事の最初に食べるものだったことも分かっています

十字軍遠征や各地の植民地化などによって、クリスマスポタージュに使われる砂糖やドライフルーツ・スパイス類の使用量が徐々に増加していったと考えられます。また、時代とともに肉の保存技術が向上し、肉が使われない=よりデザート的なものになっていったようです。諸説ありますが、おそらく18世紀に入る前後にドロドロのスープ状ではなく、固形のクリスマスプディングが誕生したと考えられています。蒸すようになっのは当時オーブンがない家庭もあったためと推測されています。

1830年代には現在とほとんど変わりのないクリスマスプディングのレシピが普及。1843年に発刊されたチャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』でも、現代のものとそう離れていないクリスマスプディングが描かれれていますしね。同時期にはヴィクトリア女王が英国王室のデザートに採用したこともあり、中流~上流層の間でもクリスマスのデザート=クリスマスプディングというのが定着しました。

ミンスパイ

イギリスなどではクリスマスプディング以外に、ミンスパイ(mince pie)と呼ばれる甘いパイもクリスマスの定番菓子。別名クリスマスパイとも呼ばれる存在で、一口から二口サイズくらいの小ぶりな大きさがポピュラーです。ミンスミートと呼ばれる、ドライフルーツやナッツなどを砂糖やスパイスと一緒に酒に漬けて煮込んだジャムのようなものがパイの具材となっています。呼び名のminceはみじん切りにした肉=現代で言うひき肉状のものが具材として使われていたことが由来ですが、現在は肉なし・みじん切りにした果物メイン。

伝承では幼子イエスの元へと東方の三博士がやって来た際、お祝いとして捧げた没薬が起源であると伝えられています。しかし、実際のところ作られるようになったのは13世紀以降。おそらくはクリスマスプディングと同じくお祝い用のポリッジ(小麦粥)に中東のレシピや香辛料が加えられ具沢山で香辛料の効いたバージョンに、それがやがてパイの中に入れるようになったようです。この時、クリスマスに因んでパイの形を飼い葉桶のような形にし、上にはイエスをモデルにした赤ちゃんの絵を書いたり小さい像を入れていたようです。

このためピューリタン革命の際に嫌われ、クリスマスパイやミンスパイの製造が禁止された時期もあります。禁止令が人々は再びミンスパイを作るようになりますが、ビクトリア朝時代までには食事というよりも甘くスパイシーなお菓子へと変化していったそう。形も飼葉桶を模した長方形から、小ぶりな円形が好まれるようになりました。

クリスマスの伝統的なお菓子色々

シュトーレン

日本でもクリスマスの菓子・パンとして多く流通するドイツのシュトーレン。ドライフルーツやナッツを練り込んだハード系のパンに、表面が真っ白くなるように粉砂糖をまぶしたパンです。ドイツ語ではStollenと言いますが、これは色々なものを練り込んだパンの総称としても使われます。区別をつけるためクリスマス時期に売られるのは“Christstollen”もしくはドイツでクリスマスを意味するヴァイナハテンを付けて“Weihnachtsstollen”と呼ばれていますよ。ちなみにシュトーレンという名はなかったものの、14世紀頃からクリスマスの贈り物としての記録が残っているそう。日本で言えば室町時代頃から食べられている行事食なんですね。

クリスマスのお菓子として紹介していますが、シュートレーンはクリスマスまで少しずつカットして食べていくというのが伝統的な形。クリスマスのお祝いで食べるお菓子ではなく、クリスマスの到来を待つ期間「アドベント」のお菓子なんです。日に日に練り込んだ具材の味が染み込み、一体化してまろやかになっていく=クリスマスまでの期待を高めるような意味合いもあるのだとか。クリスマス前のアドベントにシュトーレンを食べる風習はドイツのほか、オランダ、フランスの一部地方にもあります。

ブッシュ・ド・ノエル

日本でもクリスマスケーキの一種として認知されているブッシュ・ド・ノエルは、丸太や切り株に見立てた装飾が施されているケーキ。上部にはヒイラギの葉やサンタクロースなどクリスマスと関連する飾りが乗っていることもあります。ブッシュドノエルの発祥はフランスとされており、フランスではクリスマスケーキの定番中の定番だそう。呼び名はフランス語的発音であればビュシュ・ド・ノエル(bûche de Noël)となり、意味は“クリスマスの丸太(切り株)”です。

クリスマスに丸太を模したケーキが食べられるようになった理由は諸説ありますが、有力視されているのがケルト・ゲルマンの文化の影響もしくは名残というもの。キリスト教以前の北欧では冬至のお祭りをユールと呼び、当時の晩にはユール・ログという太い薪を燃やしてその周りで食事をするという習慣がありました。19世紀にパリのお菓子屋さんがこの風習に目をつけ、ユールログを模したケーキを作ったと伝えられています。このためか日本ではブッシュドノエルもしくはビッシュドノエルと呼ばれていますが、そのまま「ユール・ログ(Yule log)」をケーキ名にしている国もあります。

クッキー&ジンジャーブレッド

クリスマスに通じるような星や雪の結晶、ツリー型などに型抜きされたクッキーもクリスマス菓子の定番。ジンジャーブレッドやジンジャークッキーと呼ばれるスパイスクッキーが代表的ですね。人形にくり抜かれたジンジャークッキー、通称「ジンジャーブレッドマン」は宗教的要素がないクリスマスキャラクターでもあります。固く日持ちのするクッキー類は食べるだけではなく、地域によっては紐を通してクリスマスツリーのオーナメントにしたり、ガーランドのようにしてお部屋に飾ることもあります。

クッキーもしくはそれに近いお菓子は古くからお祝いごとやお祭りの行事食として利用されてきたと考えられていますし、十字軍の遠征などで香辛料が入手しやすくなった時期と合わせて、ヨーロッパではキリスト教以前から特別な日に食べられていたクッキーをアレンジしたジンジャーブレッド(スパイスクッキー)がクリスマスの行事食として定着していきました。ジンジャーブレッドのルーツと言えるドイツの“レープクーヘン(Lebkuchen)”は、クリスマスに伝統的に関連付けられた最初の菓子だという見解もありますよ。1500年代までにはヨーロッパの広範囲ででクリスマスクッキーが焼かれていたようです。

ジンジャーブレッドは型抜きするだけではなく、様々なパーツを組み合わせて“ジンジャーブレッドハウス”と呼ばれるお菓子の家づくりにも使われています。クリスマスに限ったものではないのですが、クリスマスクラフトの一つとして、ジンジャーブレッドマンとセットで作られることが多いようです。お子さんも喜びますしね。

ジンジャーブレッドの起源・歴史はこちら>>

そのほか

クリスマスデザート・お菓子は上記でご紹介した以外にも国や地域により様々。例えばイギリスでは「スティッキー・トフィー・プディング(Sticky Toffee Pudding)」と呼ばれるお菓子もクリスマススイーツとして食べられています。こちらはドライデーツを練り込んだスポンジに、イギリスでよく使われるタフィーというキャラメルのようなソースをドバっとかけたもの。また「シュガープラム(Sugar plums)」という細かく砕いたドライフルーツ・ナッツ・香辛料を混ぜてボールに丸め、砂糖をまぶしたお菓子も伝統的なクリスマスメニュー。クレメント・ムーアが著者とされる『A Visit from St. Nicholas(邦題:サンタクロースがきた/別題:The Night Before Christmas)』にも登場しているそうです。

イタリアではクリスマスケーキの感覚でパンドーロもしくはパントーネと呼ばれる菓子パンが食べられています。パンドーロはふんわり食感のプレーンなスポンジ系焼き菓子で、パントーネはドライフルーツがたっぷり混ぜ込まれたタイプ。パンドーロはヴェローナが発祥・パントーネはミラノ発祥とされていますが、今はどちらもイタリア中でクリスマス菓子として親しまれています。雪に見立てた粉糖をかけた松の実のクッキー、トッローネと呼ばれているヌガー菓子もクリスマスによく登場するほか、クリスマスに限らずイタリアでは祝日に焼き栗や栗の砂糖漬けもよく食べられているそう。

そのほかポーランドではMakowiec(マコヴィエツ)・ドイツではMohnstollen(モーンシュトーレン)と呼ばれる、ケシの実を使ったフィリングを巻き込んだロールケーキ系の菓子パンがクリスマスとイースターによく食べられています。他にも中央ヨーロッパから東ヨーロッパにかけてこのケシの実ロールパンを食べる地域はあるそう。レバノンではmeghleh(メグリ)というシナモンなどの香辛料を使ったライスプディングを食べます。メグリは赤ちゃんの誕生をお祝いするデザートで、クリスマスもキリストの誕生を祝うために用意されています。レバノン以外でも中道ではライスプディング系のデザートをクリスマスに使う国が多いそう。クリスマスといえばデコレーションケーキと思いがちですが、国によって色々なんですね。

ガレット・デ・ロワについて

クリスマスのお菓子としても、新年をお祝いするお正月のお菓子としても紹介されるフランスのガレット・デ・ロワ。こんがりと焼けた平たい円形の生地に紙で作った王冠が乗っていることが特徴で、地域によってアーモンドクリームがたっぷり使われたガレット系・オレンジ風味のブリオッシュ系と2タイプが作られています。このガレット・デ・ロワは日本だとクリスマスケーキの一種としてラインナップされていることもありますが、フランスで12月24日ないし25日にガレット・デ・ロワを食べる方はほぼいらっしゃいません。

カトリックを筆頭とした西方教会の多くが12月25日のクリスマスだけではなく、1月6日を東方三博士が幼子イエスの誕生に駆けつけた日としてイエス・キリストの顕現を記念する祝日「公現祭(顕現日)」としています。公現祭はニュアンス的にもう一つのクリスマスのような感じになっているため、欧米では12月25日から1月6日までの12日間をイエス・キリスト誕生を祝う期間(クリスマスタイド)と捉えている人・国が多いようです。ちなみに、ガレット・デ・ロワ(galette des rois)の「rois」は王様ではなく東方の三博士(rois mages)が由来。

ガレット・デ・ロワは公現祭の日、もしくはクリスマス後の第1日曜日以降~1月中に食べるお菓子という位置付け。伝統的な食べ方としては1月6日(公現節)に家族みんなで切り分けて食べます。ガレット・デ・ロワの中には一つだけ“フェーヴ(fève)”という小さな陶器の人形が入っており、フェーブが当たった人は一年間幸運に過ごせると伝えられており、付属の王冠を被って祝福を受けます。ついでにフェーヴが当たった人は次の週末にガレット・デ・ロワを用意するという風習もあるので、1月いっぱい毎週ガレット・デ・ロワを食べるなんてこともあるそう。公現祭に馴染みのない日本人の感覚的にはクリスマスのお菓子や正月菓子にも見えますが、ちょっと違うんですね。

ガレット・デ・ロワについてはこちら>>

参考サイト:Christmas food historyThe origins of Christmas dinnerMince Pie & Christmas Pudding: The English Christmas

かなり大雑把な紹介になってしまいましたが、調べれば調べるほど「伝統的なクリスマスディナー(クリスマスメニュー)」は出てきます。本一冊どころか辞典が作れるのではないかというくらい。魅力的なメニューはもちろんですが、何より驚いたのはイギリスやその支配下・影響下にあった歴史がある国々におけるヴィクトリア女王の影響力。当ページではジャガイモを使ったお料理、ついでにクリスマスツリーやら純白のウェディングドレスやら、現在世界的にもポピュラーなアレコレを普及させた方として高確率でお名前が登場します^^