安産祈願の「帯祝い」と岩田帯について
-戌の日のお参り? 帯じゃないとダメ?

安産祈願の「帯祝い」と岩田帯について <br />-戌の日のお参り? 帯じゃないとダメ?

赤ちゃんを授かって安定期に入ると「帯祝い」と呼ばれる安産を願って行われる日本独自の儀礼があります。文字通り妊娠状態に適した帯(妊婦帯)を身に付け、神社などに行って安産祈願をしてもらおうという風習ですね。古くから行われてきた歴史ある風習ですし、母子ともに健康に出産を終えたいという想いは今も昔も一緒。現在でも安産祈願として行う方の多い帯祝いですが、その歴史や意味について見直してみませんか?

実は現代行われている「帯祝い」はかなりふんわりしたルールで行われていますし、歴史ある風習とは言われているものの起源についても分かっていないことが多いんです。大切な体に負担にならないよう、楽しく日本文化を取り入れるきっかけになれればと思います。

帯祝いと戌の日について

帯祝いとは

帯祝は妊娠5ヶ月目にあたる“戌の日”に行う、妊婦さんが腹巻き(腹帯)を身につける儀式のことです。一般的には帯祝いもしくは着帯式、宮中行事(皇室の宮中儀式)としては「着帯の儀」と呼ばれています。

なぜ帯祝いをするのかと言えば、安産祈願のため。
この一言に付きますが、腹帯を身につけることを仰々しく儀式化したのは安産祈願だけではなく、周囲に妊娠していることが分かるようにすることで母体の健康を守ることにも繋がっていたのではないかと考えれています。

また、帯祝いという言葉の意味としては「妊娠5ヶ月目の戌の日に腹帯をつけて安産祈願する」ことを指していますが、家でただ妊婦さんが一人で腹帯を巻くという訳ではありません。戌の日には神社に参拝して、安産祈願をお願いする・親族を集めて祝宴を行うなど、儀式や宴席と言える部分も込みで“帯祝い”と呼ぶ場合もあります。

妊娠5ヶ月目というのは一般的に安定期に入る頃合い。家族や親しい人であれば早い段階で妊娠を打ち明けていますが、ご近所の方などに対しては妊娠が確実になり安定した5ヶ月目くらいにお知らせする事が多かったのではないでしょうか。医療技術も妊婦さんのサポート体勢も低かった昔は今以上に、妊娠したと分かっていても流産してしまう可能性があったという背景もありますしね。

個人的な見解も入りますが、帯祝は儀式という形をとることで
神様→この先もお腹の中の赤ちゃんが無事に成長し安産でありますようにと願う。
母親→自分の中にもう一人の命がいるのだから自分を大切にするよう意識する。
周囲の人→これから生まれてくる子供を認めると共に、母子の健康に心をかける。
と、神様にお祈りするだけではなく、お子さんを身ごもったママ&周囲の人にも妊娠していて大事な時期なんだよという意識を高める目的があったように感じます。

戌の日に理由はある?

日本の伝統行事や風習では割と多く登場する「〇の日」という表現。○の部分には子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥と十二支が入ります。現在最も馴染みのある十二支と言えば“年”を数えるためのものですが、古くは方角や月・日にちを数えるためにも使われていました。現在の数字のような扱いとでも言いましょうか。

十二支の意味や由来だけでも辞典レベルの本があるので細かいことは省略しますが、日にちに関しては年と同じく12日に1度=月に2~3回“戌の日”があります。妊娠5ヶ月目は16~19週目頃と置き換えられますから、間違いなく該当期間に“戌の日”はやってくる……どころか、複数回ある場合もあります。帯祝いをするタイミングについては「妊娠5ヶ月目にあたる“戌の日”」と表記されていますが、妊娠5ヶ月目に入って最初に迎える“戌の日”というのが基本的な形ではあるようです。

初午とか、大抵日本の伝統行事では“最初の”が重視されますから、まぁ納得ですね。気になる今年の戌の日についてはマタニティショップ『犬印本舗』さんのサイトで紹介されています。

十二支の中でなぜ“戌の日”が重視されたのかと言うと、犬はお産が軽く一度に沢山の赤ちゃんを生むからという見解が主流です。お産が軽い犬を安産の象徴と見做して、その御利益にあやかろうと考えたというわけですね。……が、実は犬がお産が軽い説について俗説の域を出ず、そのほか犬が霊獣だからとか色々な説もあり、理由ははっきりわかっていないそう。犬に限らずネズミもウサギも多産で安産なんじゃないかなーとか、霊獣的ご利益なら龍とかもありだなと思ってしまうのは罰当たりでしょうか(苦笑)

お母さんだけではなく、子犬もすくすくと成長することからお宮参りの犬張子などに使われています。日本での妊娠・出産は戌と関わりが深いと言えるかもしれません。おそらく犬が選ばれた理由にはお産が軽いこと・子どもが強く健康に育つこと・邪気を払う霊獣と考えられたこと…様々な要因があったと考えられます。

明確な理由は分かっていませんし、また現在は生活スタイルの変化もあって「妊娠5ヶ月目の戌の日」については目安という程度の認識になっています。ママさんやご家族の仕事の都合もありますし、安定期とは言われていても体調に変動の大きい方もいらっしゃいますからね。わざわざ一般説を否定するようなことを書いたのは、慣例とはされているけれど深い謂れは無いということを紹介したかったのです。

神社でも戌の日しか安産祈願をしてくれないという事はほぼありませんので、ご家族が無理なく行える日に帯祝いや神社への参拝・帯祝いを行うのがベスト。帯祝いは安産祈願であり、妊娠してらっしゃるお母さんが幸せを感じられて気晴らしにもなるイベントでもあります。そんなせっかくの帯祝い、義務のようなプレッシャーになってしまったら勿体無いと思いませんか?

安産祈願イメージ

帯祝いの起源と歴史

帯祝いは古くから日本に伝わる安産祈願行事とされています。
その起源は『古事記』に登場する、神功皇后が朝鮮半島に出兵した際のエピソードが由来ではないかと考えられていますが、こちらもはっきりしていません。というのも、このエピソードは出兵時の神功皇后は応神天皇を身ごもった状態であり、戦のさなかに産気付かないように月延石と呼ばれる石を帯に入れて巻いてお腹を冷やし、出産を延期させたというもの。国にお戻りになってから無事に出産されたから良かったものの、普通は妊婦さんに推奨できる方法ではありませんよね。神功皇后についても実在説と非実在説がありますし、起源と言えるのかは怪しい所です。

それはさておき。
平安時代頃から貴族(公家)社会の中では、妊娠が定まり安定した頃合いに腹帯を巻くという儀式が行われていたようです。残念なことですが昔は「赤不浄」という言葉もあったように、出産も血が流れることから穢れに通じるという考え方がありました。このため古い時代の帯祝いは出産を迎えるための期間“産の忌み”に入る、生活における制限が始まる合図という一面もあったと考えられます。

穢れ・忌みと言われるととてつもなく感じが悪いですが、良い方面で見れば、食事制限など母子ともに健康に出産を終えるために必要なことも含まれていたと考えられます。医療が発達していない時代に闇雲に外出したり人と交流して病気を貰ってしまう危険性もありましたしね。ただ貶められていたわけではないとも言えるわけです。これを踏まえると帯祝いは祝であると同時に、女性に出産を迎え母親となるという自覚を促すような、戒めの意味もあったのではないでしょうか。

この帯祝いの儀式、元々は公家など一部の特権階級のみで行われていたもの。武家が台頭するようになると武士社会でも取り入れられたと考えられますが、庶民には馴染みのない文化だったと考えられています。これが江戸時代の半ばから後半頃になると庶民も様々な貴族文化を取り入れるようになり、帯祝いも安産祈願行事の一つとして広く行われるようになっていきました。

帯祝に使われる腹帯(岩田帯)について

岩田帯とは

帯祝いで使われる、安定期に入った女性がお腹に巻く腹帯は“岩田帯(いわたおび)”とも呼ばれます。全国的にポピュラーなのは白いさらし布。地域によって絹が使われたり、紅白二色・黄色なども場合もありますが、現在は入手しやすく扱いやすい木綿(さらし)が使われることがほとんど。メーカーによっては可愛らしい柄入りのものなどもありますよ。

岩田帯は元々生まれてくる子供のお祝いと同じく七五三、七尺五寸三分の長さとされていました。古くは奇数が陽数=縁起の良い数だという考え方が存在していましたから、その影響と言えるかもしれません。また白い木綿のさらし布+紅白の絹の帯をセットでという形が正式であるとも言われていますが、現在は厳密な決まりごとなどはありません。帯の長さにしても販売されているもの、もしくは自分が巻きやすい長さが選ばれています。体型によっても必要量は違うでしょうから、こだわる必要は無いでしょう。

ちなみに妊娠中に巻く腹帯がなぜ“岩田帯”とゴツめの名前で呼ばれるようになったのか、その由来は断定されていません。諸説ありますが、穢れ・災いから身を守ってくれるように「斎肌帯(いはだおび)」、もしくは結んだ帯を肌に着けることから「結肌帯(ゆいはだおび)」が語源ではないかという説が有力。そこに岩のように丈夫(健康)な赤ちゃんが生まれるように…という願いを込め、岩の字を当てて“岩田帯”と呼ばれるようになったと考えられています。岩のように丈夫な赤ちゃんが、犬のようにするりと生まれて欲しいという感じでしょうか。

岩田帯の巻き方と注意点

行事名が安産祈願ではなく“帯祝い”と呼ばれているように、帯祝いの儀式は腹帯(岩田帯)を巻くことがメイン。現在でも少なくない方が岩田帯もしくはさらしを購入して腹巻きをしていますが、実は妊娠中に腹帯を巻くという習慣は賛否両論締め付けることで血行を妨げてしまうので良くないという見解もあれば、お腹の冷えや腰痛を予防してくれる・赤ちゃんの体位が安定するなど肯定的な見解もあります。産婦人科でも腹帯の巻き方講習をしてくれるところもあれば、必要ないと言われることもあるそう。

腹帯を巻いたほうが良いかは個人差もあると思いますので、不安な方はかかりつけの産婦人科に相談することをお勧めします。昔は医療が発達していませんでしたし、特に一般庶民は医療の恩恵など無いに等しいレベルでした。妊娠5ヶ月目に腹帯を巻くというのは経験則から妊婦さんの防御手段として取り入れられていたと考えられますが、現在は医療ありき、気軽に専門家からアドバイスを貰える時代です。岩田帯を巻くのも伝統を含んだ健康法のようなものですから、必要なのか・どのくらいのキツさが良いのかを尋ねた上で使用するのが確実です。

基本的な岩田帯(腹帯)の巻き方は…
文字とかイラストよりも、動画のほうが分かりやすいですよね。

大まかな流れは

1.腹帯を縦半分に折り、巻きやすいよう包帯のように巻いておく
2.折り目を下にして、下腹部からお腹を支えるように緩やかなV字で一周
3.正面に戻ってきたら上に折り返し、更にもう一周
4.布の終わりが見えるまで同じ様に折り返して巻く
5.布の端を腹帯に巻き込むようにして止める

となっています。

帯祝いの流れ・岩田帯の用意について

帯祝いを行うには?

帯祝いの日は「妊娠5ヶ月目を迎えた戌の日」に行うものとされていますが、日にちについては上記でもご紹介したように厳密に決められたものではありません。妊婦さんやご家族のご都合に合わせた日にちを選べば問題ないですし、戌の日しか安産祈願を受け付けないという神社は私の知る限りありません。むしろ体調の良い日に来てくださいとサイト上で書かれている神社さんがほとんどなので、戌の日に拘る必要はありません

そして気になるのが、
腹帯を巻いてから神社に参拝する(安産祈願をしてもらう)のか。
神社に参拝してから、腹帯を巻くのか。
という順番。

結論から言うと順番に決まりはありません。
決まっていると言われた場合は地域や血縁の中の決まりごと。全国的に見れば腹帯が先・参拝が先、どちらのパターンも存在しています。細かいところであれば事前に神社に行って腹帯に祈祷して頂き、妊娠5ヶ月目の日にそれを巻いて参拝する…なんてルールもあるそう。不安な方は母親や義母、ご近所の方、産婦人科の方など、地域のしきたりに詳しい方に確認してみると良いでしょう。

また、神社によっても帯祝いの安産祈願をお願いすると腹帯(岩田帯)を頂けるところ、授与品として社務所などで頒布されているところ、お願いすれば持参した腹帯に祈祷してくれる所とそれぞれ。授与品として腹帯を頂けるような神社であれば、参拝&ご祈祷を受けて気持ちを整えてから、岩田帯を身につけるようにするという流れの方が自然であると言えるかもしれません。家族の日程や体調などの関係で戌の日以外に参拝する場合であれば、腹帯(岩田帯)の使い始めを戌の日にしてみるなどの調節もできます。

安産祈願の受け方も神社それぞれ

神社で安産祈願をお願いする場合には、予約をして、名前・住所・金額を明記したのし袋にお金を包んで持っていくべし…とマナーブックやサイトでは紹介されています。こうしたルールは一般的ではあるものの、神社によって異なることもあります。予約不要で当日に社務所(受付)に来て下さいという神社もありますし、お納めする初穂料(祈願料)についても袋に入れないで持ってきて下さいという神社もあります。例えが妙ではありますが、役所みたいな感じで受付票に記入して現金をそのまま支払うタイプの神社さんもあるんです。

一般的であると言われている方法は確かにありますが「所変われば…」な部分もかなり大きいので、お参りする神社が決まれば、そちらのやり方を事前に確認することを強くお勧めします。ご祈願料についても相場は5000円~一万円くらいですが、お渡しする金額によって授与品が異なり、腹帯(岩田帯)の有無が分かれるところもありますよ。インターネットが普及したお陰でサイトで祈祷料や授与品について確認できる神社も多いので、事前にしっかりと確認してからお参りするようにしましょう。

腹帯(岩田帯)の用意は?

帯祝いで身につける腹帯は、昔の習慣としては妊婦さんの実家(母親)が用意するものという認識が一般的でした。しかし現在は安産祈願を受けて授与品として頂ける場合などもあり、マストという事はありません。神社や産婦人科などで頂く・自分で購入するという方もいらっしゃいますし、夫の実家や妊娠を報告した友人などからプレゼントされる場合もあるでしょう。

帯祝いをする時(日)だけは岩田帯を使うけれど、普段は装着するのが楽な腹巻きタイプ・コルセットタイプの妊婦帯、マタニティガードルなどを使うという方も珍しくありません。締め付けられるような感覚が苦手だからと、腹帯を使用されない方もいらっしゃいます。ご自分で用意する場合はお好みのものを、人に贈りたいという場合であれば手持ちはあるのか・どういった形のものが欲しいのかをリサーチしてから贈った方が確実です。サプライズでプレゼントされるのも嬉しいですが、使わないものを頂いてしまって返礼をするとなると残念ですからね。

参考サイト:岩田帯とは帯祝い|日本文化いろは事典

実は岩田帯は岩田さんが作ったor岩田さんが身に付けた帯だと思っていました。私の周りの経産婦は「さらし」派はほとんどおらず、お腹が冷えないようにと緩めの腹巻きを付けている方が多かったです。昔と違って柔らかく伸縮する素材もあるので、ある程度のサポート力を求めるか、保温保湿力を求めるかは人によって違うのではないかなと。

インターネットで検索すると販売者のサイトが多いこともあり「岩田帯を巻くことは良いことだ」「医学的にも効果があると認められつつある」と紹介しているサイトがトップにズラズラっと出てきます。が、腹帯文化については本当に賛否両論。良くないという声もあることを忘れてはいけません。本当に大切なのは自分の体に合っているかどうか、ということ。皆付けているから絶対に必要だと盲信せず、自分の体調を第一に使用して下さい。