88歳、米寿のお祝いは金色・黄色?!
-米寿の由来・各地のお祝い文化とは
数ある長寿のお祝いの中でも、還暦と同じくらい盛大に祝う地域の多い米寿。88歳は平均年齢を超えて「長生き」に入る境目でもありますし、米寿という言葉や、八八という数字も何となくおめでたい印象がありますよね。地域によっては縁起物として米寿の方から升掻き棒を頂くという風習もあります。そんな米寿の由来や、金色や黄色のちゃんちゃんこが贈られる理由、地域によって異なる米寿祝いの伝統などをご紹介します。
目次
米寿祝いの意味と紫色について
米寿(べいじゅ)の意味・由来とは
米寿は長寿を祝う年祝いの一つで、生誕88年を迎えたお祝いのこと。
米寿という呼び方はお米(稲)に関連した謂れがあるわけではなく、“米”という漢字を分解すると八十八になることが由来とされています。傘寿や白寿などと同じく、粋な言葉遊びも感じられる呼び名と言えますね。ただし88歳の年に長寿祝いをするようになったのは、米の字を崩すと八十八になるから決めたというわけではないそう。末広がりの形で縁起が良いと考え垂れていた“八”が二つ重なる数だからという見解のほうが有力視されています。
長寿のお祝いは60歳の還暦から行われますが、現代では70歳の古希あたりまでは長寿とかお年寄りと言うには違和感のあるもの。年寄り扱いしないで欲しいと思う方も珍しくはありませんし、血縁上の続柄を抜きにすればおじいちゃん・おばあちゃんと呼ぶには若々しい外見の方がほとんどではないでしょうか。
ですが現代日本での88歳というのは驚くほど長寿とは言えないものの、平均寿命を超えた年齢。お祝いする側も、お祝いされる側も、戸惑いなく長生きしてくれていることをお祝いしやすい年齢です。「これからも元気でいてね」「長生きしてね」と面と向かって言っても嫌味に取られる心配は少ないですし、実際に長生きの部類に入りますから気兼ねなくお祝いできるのではないでしょうか。日本で重要視されてきた“米”が付いているからか、八が重なるためか、地域によっては還暦以上に盛大にお祝いするところもありますよ。
米寿は88歳? 87歳?
米寿は“米”という字を分解すると八十八になることが由来とも言われるように「88歳になったことをお祝いする」行事であるというイメージがありますよね。しかし米寿が88歳と定められたのは昔。元々は数え年で88歳の時に行うお祝いだからと、満87歳の時点で米寿のお祝いをする場合もあります。
数え88歳で満87歳…何だかややこしいですが“数え年”というのは生まれた年を1歳としてカウントする方法です。大昔にはゼロという概念がなかったので、年齢だけではなく日数の数え方などでも「あれ?」となることがりますよね。ちなみに誕生日という感覚もなかったので、年齢を追加するタイミングは誕生日ではなくお正月でした。
対して現在一般的に使われているのは“満年齢”という、生まれた時を0歳としてカウントし、誕生日を基準にして年齢を増やしていく方法。なので昔ながらの「数え年で88歳」と年齢を合わせるために、満87歳の時にお祝いするという話になるわけです。と言っても数え年には馴染みがなくなりつつありますから、満88歳を迎えた時に米寿のお祝いをするという方も増えています。内輪でのお祝いで厳密な決まり事はありませんから、満87歳(数え年)~88歳の間の好きなタイミングで行って問題ありません。祝う方・祝われる方がしっくり来る方を選びんでください。
米寿はなぜ金? ちゃんちゃんこは黄色
長寿のお祝いには60歳の還暦から99歳の白寿まで、祝い色と呼ばれるテーマカラーのようなものがあります。地域によって違いもありますが、米寿のお祝いは金色もしくは黄色・金茶色。金茶色というのは“金色がかった明るい茶色”と表現されますが、感覚的にはオレンジがかった山吹色に近い色味とでも言いましょうか。古希のお祝いをされる方は金色や黄色・茶金などの色のちゃんちゃんこ+頭巾+座布団を用意されるというのが伝統的な形です。
長寿のお祝いには沢山の種類がありますが、
古希(70歳)・喜寿(77歳)と70代の年祝いは紫色系
傘寿(80歳)・米寿(88歳)など80代の年祝いは金・黄色系
と分かれています。米寿だけが金色もしくは黄色系統の色というわけではないんですね。
米寿など80代の年祝いに金色が使われるようになった理由は…というと、いくつかの説があります。一般的に紹介される事が多いのは米寿にちなんで、実りの季節を迎えた太陽があたって光り輝く稲の色=黄金色が選ばれたというもの。日本は古くから米を主食とするだけではなく、神聖なものとしても大切にしてきた歴史がありますから納得できますね。
また、古希に紫色が使われるのは当時70歳というのが「古来稀なくらいに長寿」であったため、長生きされたことに対する敬意・労りの心をこめて最も高貴な色とされていた紫色を贈るようになったためと考えられています。このため70代よりも更に長生きしている80代で行われるお祝いには“紫色以上に格の高い色”を使用する必要があったという見解もあります。今も昔も金と言えばゴージャスな印象ですし、しかも大切なお米が実ったときと同じ色でもありますから、長生きした方に贈る色として相応しいと考えられたのではないでしょうか。
ちなみに昔は現在のように安価な染料が多くあった訳ではありませんから、布を金ピカにしようと思えば物凄いお金がかかるうえに重いものになってしまいます。そのため黄色や茶金色など、金色に近い色味が使われるようになったのではないかと思います。今はゴールドのちゃんちゃんこも売られていますが、数としては黄色系のちゃんちゃんこのほうが多いですよね。
地域によっては赤や紫も
全国的に見ると88歳のお祝いである米寿は金色、もしくは黄色~茶色の色を使ってお祝いするのが一般的とされています。ただし北海道や北陸・群馬県の一部地域では米寿に赤いちゃんちゃんこや赤頭巾を着けるところもあります。また東北では青色、中国地方では紫色の座布団を贈るという地域もあるようです。
米寿に限らず年祝(長寿のお祝い)にしろ、季節行事でも、各地域によって決まり事や特色があります。多数派に合わせなくてはいけないというモノではありませんし、お祝いされるのはお年を召された方=若者よりも伝統的な風習に馴染みのある方でもあります。祝われる方が納得できる形でお祝いするのが良いでしょう。
地域によっては“米”と関係するお祝いも
米寿は米の字を分解すると八十八になるから、88歳をお祝いするようになったわけではないという見解が有力ではありますが……そこはお米大国の日本のこと。米寿、88歳は米に通じる年齢であるとして、各地域で「お米」に関わる米寿のお祝い方法があります。
よく使われるのは枡と升掻(升掻き棒)。升掻き棒というのは、枡でお米を計る時に縁の高さに均等にならすために使う棒のこと。京都や熊本では88歳のお祝いとして升掻きを配る風習があるようですし、逆に愛知県では88歳になった方へのお祝い品として枡と升掻を贈るのだそう。そのほか栃木県では米寿を『はちぼこ祝い』と呼んで赤飯や餅を用意してお祝いする、東北では半紙に手形・名前・年齢(八十八)を書いたものを米びつに貼るなど、米寿のお祝いの仕方は地域によって様々。
こうした米寿のお祝い方法は、周囲の人が長寿をお祝いするために贈り物を用意するだけではなく、ご長寿にあやかれる様にか米寿の方から升掻き棒などを頂くというものが多く見られるのが特徴と言えるかもしれません。米寿(88歳)の方に切っていただくと縁起が良いということで「八十八の枡掻き」なんて言葉もあるくらいですしね。米寿の方が切ってくれた枡掻き棒を頂くと商売繁盛に繋がるんだとか。
沖縄県では米寿祝い=トーカチユーエー
沖縄県では米寿のことをトーカチ、もしくはトーカチユーエーと呼んでお祝いしています。
沖縄の方言でトーカチは升掻・ユーエーは祝宴やお祝いの意味。呼び名にも使われているように沖縄県でも88歳のお祝いには升掻がお祝いアイテムの一つとして使用されており、方法は薩摩から伝わったのではないかと言われています。
沖縄のトーカチユーエーは誕生日ではなく、旧暦8月8日に行うのがポピュラーだそう。また盥やザルなどにお米を盛り、赤い紙を張った升掻を三本さしたものを祝い飾りとして使用することが特徴。見た目はちょっとお正月の門松に似ています。枡やザルに盛るお米は一升枡8回+五合枡1回+一合枡3回ずつ=合計八升八合にして長寿への感謝を表現し、図り終わった枡をそれぞれ満たすことで「これからも長生きできるように」という願いをかけるそうです。
米寿にまつわる豆知識
米寿の歴史~日本で古希祝いをするのはいつから?~
中国では古い時代から決まった年齢に特別なお祝いをする文化がありました。日本にも奈良時代頃までには中国からその習慣が伝わり、年齢を人生の節目と捉えて特別なお祝いをする年祝いが取り入れられます。年祝の中でも特に長寿をお祝いすることを算賀(さんが)や賀の祝いと呼び、当時は40歳を老齢の入り口と捉えて50歳・60歳と十歳区切りでお祝いがなされるようになりました。
現代の感覚からすると40代は老年どころか中年と言っても怒られてしまいそうなくらいですが、古代は平均寿命が今よりも短かったと考えられます。結婚や出産も早かったので、40歳ともなれば家督を譲れるくらいには子どもは成長していて、孫も何人かいたでしょう。このため隠遁する年齢としても40歳位が目安だったそう。また40歳から10年区切りで長寿のお祝いが行われるようになったのは、孔子が『論語』の中で“四十にして惑はず、五十にして天命を知り、六十にして耳順…”と十年区切りに心境(?)の変化を述べたからという説もあります。
ともあれ、昔の文献には聖武天皇四十賀・白河院六十賀などの記述が見られることから、平安時代までは現在とは異なる形で年祝いが行われていたと考えられます。還暦や古希などの言葉はなく、十年区切りで“〇十賀”と称してお祝いをしていたんですね。この四十歳から始まる算賀が現在のように60歳以降の長寿のお祝いへと変化したのは室町時代頃ではないかと考えられています。
平安後期の白河天皇は70代まで長生きされていますし、鎌倉時代には四条貞子(藤原貞子)という女性が107歳を迎えるまで長生きしたとも伝えられています。彼らが特殊だったわけではなく、奈良~平安初期と比べると全体的に平均寿命も延びていたはず。そこで日本独自の長寿祝いとして70歳の古希をはじめ、同じ数字の重なる77歳の喜寿・88歳の米寿・99歳の白寿などが作られました。他の長寿祝いと同じく、米寿のお祝いが庶民にまで広がったのも江戸時代以降と推測されています。
ゾロ目の年齢が年祝いに加えられたのは、縁起が良いから選ばれた、同じ数字の重なりは縁起が悪いと捉えられたことで厄払いを兼ねて設定したと両説あります。節句が3月3日など月日の数字が重なった日に選ばれたのは、数が重なると縁起が悪い=邪気を寄せ付けないように厄払いをしようという考えが発端。ですが、時代と共に縁起の良い数が重なる=吉祥(幸先が良い)という考え方に変化していきます。77歳や88歳を特別視するようになった時代、どちらの見方が強かったかは分かりません。個人的には末広がりの八が重なって、米にも通じると縁起の良い印象がありますが。
米寿のお祝い・プレゼントはどうする?
米寿のお祝いは上記でもご紹介したように、地域によってお祝いの仕方も、米寿を迎えた方が身につけるお色についても違いがあります。地域のやり方が分かっている方・米寿を迎える方が伝統的な形を望むのであれば、その地域に伝わっているお祝い方法を実践するのが良いでしょう。
全国的に多数派&現代式と言えるのが、金もしくは黄色いちゃんちゃんこや頭巾・座布団をプレゼントして、家族や親戚が集まって皆でお食事をするという方法。個人差はありますが88歳になると体力的に辛い部分も出てきますから、お食事・宴会をするという家庭が多いのではないでしょうか。お元気な方であれば温泉に行く、旅行をプレゼントするという話も聞きますが、疲れて体調を崩してしまわないように注意して下さい。
ちゃんちゃんこや頭巾についてもマストではありませんから、着たくない・着るのが大変であるという場合は無くてもOK。若々しく見えるように綺麗な黄色いストールやセーターを贈ったり、黄色や金色の雑貨・日用品類をプレゼントすることも増えていますよ。米寿にちなんでお米に関連するものだったり、ギフトショップでは米寿のお祝いとして日本酒も多く取り扱われています。金色や黄色にこだわりすぎず、喜んで頂けるものを選ぶのがベストですよね。
プレゼント選びのポイントとしては、年齢を感じさせるもの・お葬式を連想させるものを避けることが一般的には推奨されています。ただし人によっては杖や老眼鏡ケースなどでも喜んでくれる方もいらっしゃいますし、菊の花が好き・お酒は飲めないからお茶が欲しいという方もいますよね。欲しいものや嫌がるものは人それぞれなので、マナーブックや一般論を過信せずにお祝いする相手をよく考えて選んで下さい。
お祝いをする日はお誕生日でも、お正月でも、ゴールデンウィークや敬老の日などでもOK。88歳の方となると子どもや孫・親戚が別のところに住んでいることも多いので、みなさんが集まりやすい日を設定してください。普段なかなか会えない人達が集まってお祝いするだけでも、十分に特別感は演出できますし、きっと喜んで頂けるのではないでしょうか。
参考サイト:なぜ還暦で赤い装束を着るのか?本当は怖い長寿の祝いの秘密と江戸話/日本全国お祝い津々浦々
何となく年祝いの中でも特に縁起がよいような気がする88歳の米寿。長寿のお祝いではありますし、高齢と言っても差し支えのない年齢ではありますが、若々しく元気でいて頂くために年齢は大プッシュしないのが吉かなと。穿った見方をすれば米寿の人に枡掻きを切ってもらうのとかも、88歳縁起良いねぇっていうアピールと、まだまだ必要とされているってことを意識してもらう意味があるんじゃないかと思ったり。
米寿のお祝いについて色々書きましたが、このくらいのお年になるとお祝いすることと同じくらい「お祝いが負担にならないか」を考えるべきだと思っています。お元気な方には怒られてしまうかもしれませんが、一度弱ってしまうと回復が大変ですし、途中で具合が悪くなってしまうと御本人も気にしますから。お祝いの仕方よりも、気にしているというのがバレないようにさり気なく気遣うのが一番難しいかも。
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