【30秒でわかる】カヌレのルーツ・発祥はどこ?
【30秒でわかる】カヌレの発祥はフランス・ボルドー?
外側はカリッ、中はもっちりとした食感で、ラムとバニラの風味が楽しめるカヌレ。日本で再ブレイクを果たし、洋菓子店からコンビニまで、至るところで見かけるお菓子の一つになっています。
カヌレ=フランス菓子・フランス発祥という印象も定着しています。カヌレはフランスの中でも、ボルドーにあるアノンシアード修道院の修道女が作ったという説が有力視されています。カヌレ・ド・ボルドー(Canelé de Bordeaux)もありますしね。
しかし、実のところフランスのどこにルーツがあるのかは断定されていません。考古学的な発掘調査が行われたものの、現在のような形の“カヌレ型”などは発見されていません。このため、ボルドーの修道院で作られていたカヌレのルーツとされるお菓子は、現在私達が思い浮かべるものとは全く別のお菓子だったのではないか、という説もある[1]のです。
カヌレのマメ知識・雑学
ボルドーでのカヌレ誕生エピソード
カヌレの発祥の地として有力視されるフランスのボルドー地方。
ボルドー発祥説では、アノンシアード修道院(Couvent des Annonciades)で作られていた canelas または cannelon と呼ばれる小さなケーキがカヌレのルーツとされています[1]。
カヌレの原材料は、小麦粉や卵黄・バター・バニラ・ラム酒と結構贅沢。
修道院でそんなリッチなお菓子を作っていたのか、と疑問に思うところですが、そこはボルドーという土地が関係しています。ボルドーワインなんて言葉も日常会話で登場するくらい、ボルドーはワインの一大産地。
当時からボルドーではワイン醸造が盛んで、ワインの透明度を上げるための清澄作業(コラージュ)に卵白を使っていました。卵白をしっかり撹拌したものをワインの中に入れることで、ワインのタンニンと結合させ沈殿させるというのが、ローマ時代から行われてきたコラージュの方法です。
ワインの清澄作業で必要なのは卵白だけ。
つまり、ワイン醸造が盛んだったボルドーでは、卵黄(黄身)がめちゃくちゃ余るという事態に。そこで、醸造業の方々は、余った卵黄を無駄にしないよう、貧しい方々や教会に寄付していたようです。アノンシアード修道院の修道女・シスター達は、この寄付された卵黄を使ってケーキを作ったと伝えられています。
砂糖やラム酒もボルドーならでは?
カヌレの原材料として使われている“砂糖”と“ラム酒”。これは、どちらもサトウキビが原料です。16世紀~17世紀頃のラム酒は、サトウキビの廃糖蜜を使った、砂糖精製の副産物として作られていました。
サトウキビはヨーロッパでは栽培に適さず、大航海時代までは高級品や薬のように扱われていた存在。太平洋南部やアメリカ大陸、カリブ海の島々などをヨーロッパ諸国が植民地化した際、大々的にサトウキビを生産させた「砂糖プランテーション」なんて言葉も世界史で出てきました。
カヌレに砂糖とラム酒が使われるのも、ボルドー発祥説を後押ししています。
ボルドーは世界遺産“月のボルドー”もあるように、交易都市として発展してきた地域。17世紀にフランスがカリブ海にある島々を植民地化すると、植民地で生産された砂糖などの中継貿易にも使われています。ボルドーでは、早い段から砂糖やラム酒などを入手しやすかったのです。
とは言え、ボルドーの修道院で作られていたケーキにはラム酒などは使われていませんでした。当時作られていたのは卵黄と小麦粉を混ぜた生地を、cannesと呼ばれる長い棒に巻いてラードで揚げたもの、という見解もあります[3]し、発掘調査でカヌレ型は発見されていない[2]ので、こうした材料は後から追加された可能性が高いです。
カヌレにはボルドー以外の発祥説もある
発掘調査でカヌレ型が発見されていないこと、文献などの記録も乏しいことから、カヌレはボルドー発祥であるとは断定されていません。有名であり有力視はされていますけれど、他にカヌレのルーツ・発祥地と目されている地域はあるわけです。
それが、ボルドーの近くにあるリモージュという地域。
リモージュにはカノーレ(Canole )と呼ばれている、小麦粉と卵黄が主原料のパンがあります。これは、細長い形の生地を2本合わせて捻った、ツイスト型のパンのようなものです。17世紀頃からボルドーでCanauléまたはCanauletと呼ばれて販売されていたのも、似たような形状のパン[1]。このため、リモージュの方が古くからカノーレがあった、カヌレのルーツであるという説もあります。
現在のような“カヌレ”誕生は20世紀
17世紀頃に存在していてカヌレ…のルーツとされる食べ物。ですが、カヌレ型と呼ばれる凹凸のある円柱形はしていませんし、原材料も素朴なもの。私達が思っている“カヌレ”とはかなり違っていて、パンもしくは揚げ菓子と言った方が良いような存在です。
17~18世紀頃にはこうしたパン菓子が食されてたこと・専門に作るカノーリエ(canauliers)という職人がいたことが分かっています。しかし、19世紀になると、卵黄を使ったパンタイプの“カヌレ”はボルドーから姿を消しています。
再びカヌレが登場するのは20世紀初頭、無名のパティシエが先祖から伝ったというレシピを再現したことがきっかけとされています。この方が生地にラム酒とバニラを加え、現在のカヌレ・ド・ボルドー(Canelé de Bordeaux)に近いレシピを作り上げたとされています[1]。
かなり偉大なことをしたのに“無名のパティシエ”で詳細不明なのは、当時フランス国内でカヌレはあまり注目されていなかったからかもしれません。カヌレは20世紀後半に急激に人気・知名度が高まったお菓子。ボルドーの名産品として多くのお店で作られるようになったのも、この時期です。
そう考えると、日本の第一次カヌレブームも、そこまで遅くなかったんですね。
CaneléとCanneléの違い
どちらもカタカナで書くと「カヌレ」で一緒ですが、スペルは以下の2つが使われています。以下のように、nが1つのものと、nnと2つになっているものとがあるのです。
- Canelé
- Cannelé
元々のカヌレのスペルはnが2つの“Cannelé ”。
nが1つだけの“Canelé”は1985年にボルドーのパン職人/菓子職人が集まり、伝統的なカヌレのレシピを守る『Confrérie du Canelé de Bordeaux』(ボルドーのカヌレ協会 )を設立したことで誕生しました。
彼らは、ボルドーの伝統的なレシピで作られたカヌレは、スペルから「n」を1つなくした“Canelé”にすると定め、“Canelé”表記をフランス国立工業所有権機関に団体商標・共同ブランドとして申請しています[2]。nが一つの“Canelé”は一種のブランドのようなものなのです。
ボルドーの伝統とは関係ないようなレシピ、例えば、塩カヌレなら「Cannelés salés」とか、チョコレートカヌレなら「Cannelés au chocolat」のように、nが2つの“Cannelé ”を使うのが正しいようです。ただし、日本やアメリカなどではそこまで厳密ではないです。
【参考サイト】
- [1]Tout savoir sur les cannelés
- [2]Canelés bordelais – Cuisine française
- [2]Brief History of Cannelés – & Some of the Best in Bordeaux
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